木走日記

場末の時事評論

破壊者ホリエモンが投じた一石〜悪しき秩序は守られたか

●フジテレビのTOB成立〜悪しき秩序は守られた

 本日、フジテレビのTOBが買い付け後の所有割合が36.47%に達し成立した。

 各社報道によれば、フジの現在の持ち株(発行済み株式総数の12.39%)のほか、主幹事証券でTOB代理人大和証券SMBC(同8.0%)、サンケイビル(2.37%)、産経新聞社(同0.23%)などの“身内”のほか、取引関係がある東芝講談社電通東京電力関西電力、三共など多数の法人株主が7日までにTOBに応募したことが明らかになった。フジ・サンケイグループとの良好な関係を維持することが最終的な自社利益につながるとの判断だと思われる。

 一方、トヨタ自動車東京ガスアサヒビール日本郵船などはTOBに応募せず、継続保有または市場売却を選んだようだ。市場価格がTOB価格(5950円)を大幅に上回ったままで応募すれば、株主への説明が難しくなり、株主代表訴訟のリスクもある事からの判断であろう。

 おそらく苦渋の選択であったのは宝酒造グループで、持ち株の半分をTOB参加、半分を市場売却とした。理由はノーコメントである。

 堀江氏が既存秩序の破壊者ならば、TOB協力会社はそれぞれの思惑にもとづき、今回の『破壊者』の攻撃から、フジサンケイグループの『既得権益』を守る側についたわけである。

 いずれにしよ、悪しき秩序は守られ破壊者ホリエモンは窮地に立たされたのである。


●興味深い各法人株主の動向

 フジテレビによると、TOBに応じた株主数は285、応募株数は789万6354万株、買い付けに必要な資金は469億8300万円になる、という。

 株主個々の複雑な思惑が絡みつつ決断した結果ではあろうが、TOBに応募した主要株主を大別すれば、商売上選択肢が無かったと思われる電通など直取引業者を除けば、『身内』である産経新聞などのフジサンケイグループ会社と、『広告主(取引先)』である東芝や各電力会社等に分けられる。そして、主要法人株主の多くが『広告主(取引先)』系であり、割合は公表されていないがおそらくその大半が今回フジテレビの意向に応えてTOBに応募したものと推定できる。

 ここに、免許事業制度というぬるま湯に浸かりきった放送業界の根深い問題点があるといえる。誰もが感じることは、極めて日本的な馴れ合い関係、正に持ちつ持たれつの相互依存関係のあうんの呼吸の中でことは進行したのではないのか、という疑念である。

 その根拠として、今回TOBに応募せず中立性を保持することを決断した法人側にどのような企業が属していたかを分析してみればよい。

 トヨタ自動車アサヒビール日本郵船ともに、業界ガリバーもしくはシェア一位の立場にあり、フジサンケイグループごときに依存しなくともびくりともしない業態にある法人ばかりである。地域独占形態の公益会社である東京ガスしかりである。

 ここで興味深いのは、東京ガス同様同じく地域独占形態の公益会社であるはずの東京電力関西電力の動向である。同じ公益会社である東京ガスが、自社事業の公共性を鑑み、TOBに参画しないという良識を示したのに対し、原発関連問題を抱えている電力会社は既存メディアを守る側に立ったわけである。 胡散臭い話である。



●「責任のある放送」や「正確な報道」はどう担保されるのか?

 3日に発表された『ニッポン放送社員声明』において、ライブドアの経営参画に反対し、「責任のある放送や正確な報道についても理解しているとは到底思えません」と堀江氏を批判していたニッポン放送社員一同も、ほっと一安心といったところだろう。

 だがしかし、現段階であるいはこれからの将来において、より本質的に重要な問題は、今回のTOB成立によりフジサンケイグループの「責任のある放送」や「正確な報道」はどう担保されるのか、ということである。

 今回の騒動がフジサンケイグループの勝利に終わったとしても、フジサンケイグループは、声明を実践すべく「責任のある放送」や「正確な報道」に努める重い責任を負ったのであり、堀江氏に対して浴びせた批判が自らに厳しく跳ね返ることを自覚せねばなるまい。

 ダブルスタンダードは許されないのである。


ホリエモンが投じた一石〜悪しき秩序への本格的批判の序章

 今回は破壊から守られた旧態依然とした秩序だが、破壊者ホリエモンのおかげで、その秩序の胡散臭さに世論はようやく気付きつつあるのである。

 破壊者ホリエモンが投じた一石は一旦決着をみるかもしれない。が、今回照らし出された既存メディアの悪しき体質と秩序、また既得権益を守ろうとする周章狼狽ぶりに対する世論の猜疑心はそう簡単には消えないのである。

 ホリエモンが投じた一石の波紋は、本格的な既存マスメディア批判という形になって、むしろこれから世論各層に冷たく静かにかつ深く遠くまで広がっていくのではないだろうか。

 
(木走まさみず)

 ・テキスト修正履歴:2005.03.09 00:15 言葉足らずであったため、文末17行を推敲の上、加筆修正しました。

<木走よりお知らせ>

当テキストを元原稿としてインターネット新聞JANJANにて記事が掲載されました。

『波紋 ホリエモンが投じた一石とは(木走まさみず)』

http://www.janjan.jp/media/0503/0503094438/1.php


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