木走日記

場末の時事評論

最適化すすむホリエモンVS捨て身の焦土作戦


●フジの戦術の先手を打ちだしたホリエモン

 まずはこのニュースから。

ライブドア、資産売却しないよう要請

 ライブドアが、ニッポン放送亀渕昭信社長(63)ら全役員あてに、同放送が保有するフジテレビやポニーキャニオンの株式など重要な資産を売却せず、保有し続けることを求める文書を送付したことが13日、分かった。買収企業が入り込む前に重要な資産や事業を売却し、企業価値を低下させ、買収の意義を失わせる「クラウンジュエル」という防衛策を使わないよう、経営陣をけん制する目的とみられる。

 文書は、東京地裁が同放送の新株予約権発行を差し止める決定を出した翌日の12日に、堀江貴文社長(32)名で発送された。ライブドアは同放送株を現在約45・5%握り、過半数を目指してさらに買い増している。法廷闘争で苦境に陥ったフジサンケイグループは同放送を“空箱化”するクラウンジュエルを使う公算が大きくなっている。

 ライブドア側は、仮にフジ側が同手法を使った場合、筆頭株主として同放送の役員を相手に株主代表訴訟を起こすことも視野に入れており、文書発行はその布石ともみられる。
2005年03月14日10時02分 日刊スポーツ

 この「クラウンジュエル」は、別名「焦土作戦」とも呼ばれる、買収を仕掛けられた防衛側としては、捨て身の作戦であります。株主を無視した日本の風土にはいかにも馴染みにくいワイルドな戦術でありますが、もはや、風土になじむなじまないという悠長なことはいってられないのでしょう。フジサンケイ側の気勢を制するかたちで堀江氏側が先手を打ったと読めます。

 この報道のコア部分は、ニッポン放送の脆弱な利益体質にあります。利益の大半が本業以外の子会社関連(ポニーキャニオン他)に依存しているため、もし、フジサンケイ側がその気になって同放送を“空箱化”した場合、その効果は大きいのです。

●フジの苦悶〜実は限られている対抗策

 堀江氏に対抗するようにフジサンケイグループの動きも慌ただしくなってきました。

ニッポン放送株争奪:
ポニーキャニオン株売却の検討も−−対ライブドア焦土作戦
 フジテレビジョン日枝久会長は14日朝、ニッポン放送ライブドアの傘下に入った場合、同放送が保有する子会社のポニーキャニオン株をフジに売却することを、フジサンケイグループとして検討していることを明らかにした。同放送の亀渕昭信社長も「ポニーの価値がなくなってしまうのなら、今のうちにフジに買ってもらえないか検討している」と述べた。同放送の企業価値を引き下げることで、買収メリットを失わせる「焦土作戦」の一環だが、ライブドア側の反発は必至だ。

 日枝会長は記者団に「グループとしてクラウンジュエルなどの対抗策をしなければいけないのかなあ、と話し合っている」と語った。

 クラウンジュエルとは「王冠についている宝石」の意味で、企業にとって大きな価値がある資産を指すM&A(企業の合併・買収)の用語。これを売却して買収者に対抗する防衛策が焦土作戦の一つとされる。

 ニッポン放送ポニーキャニオンの株式を56%保有。ポニーは04年3月期の売上高が約600億円で、ニッポン放送本体の2倍。同放送は、ライブドアに支配権を奪われると、ポニーはフジサンケイグループ各社との取引が中止され「破たんを免れない」と主張している。

 ただ、ニッポン放送企業価値を引き下げる行為は、株主代表訴訟を起こされるリスクもある。ライブドアニッポン放送の役員に対し、ポニー株を売却しないよう求める文書を送っている。【ニッポン放送株問題取材班】

毎日新聞 2005年3月14日 東京夕刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2005/03/14/20050314org00m300107000c.html

 フジサンケイグループのこの動きは、株主代表訴訟を起こされるリスクをあえて侵してでもグループ防衛を計ろうとするものですが、TOB成立の際、時価より安い応募をして協力した法人株主の立場を踏まえているとはいえません。また、中立的立場でTOB参加を見送りにしたトヨタアサヒビール東京ガス等の中立派法人株主の反感を買う恐れも十二分にあるわけで、現段階でどこまで本気で検討しているのかは、今後の動勢を慎重に見ながら判断したいと思います。

 今確実に言えることは、実はフジサンケイグループ側には、この騒動の事実上主導権を握ったライブドアサイドの動向を封じる有効な対抗策が、現時点では、きわめて限られているのではないのかということです。

 各種アンケートによる世論の動向を見ても、堀江氏支持がフジサンケイグループ支持よりも、のきなみ10ポイント前後上回っており、また海外の報道においても、極めて堀江氏側に好意的論調が多いことは、日枝久会長自身よく承知していることと思います。

 堀江氏と話し合うような歩み寄りともとれる発言をしたり、「クラウンジュエル」などと洒落た言葉でごまかしていますが「焦土作戦」という日本ではお目に掛かったことのない劇薬投入を匂わしたり、ここに来ての日枝久会長の発言のぶれは、彼らの打つ手が極めて少ないことへのいらだちと焦りに起因していると、木走は考えています。

●『最適化された秩序破壊者』の面目躍如

 それに対して、地裁裁定でがぜん有利になったライブドアの堀江氏のここ二、三日の言動・行動が実に興味深いのです。

 ブログ『大いなる夢』さんが、『丸くなったね、ホリエモン』(http://blog.goo.ne.jp/ecotaka/e/6527f4d69727772529d4ee6b60112512)で、最近のホリエモンが丸くなったと感心されています。

 読者のみなさんも感じられたと思いますが、地裁判断に勝った余裕でしょうか、確かに発言の内容、言葉の選び方も、以前に比べて紳士的になったようでした。

 堀江氏は丸くなりました。木走は、堀江氏は「最適化された秩序破壊者」と認識しておりました。rice_shower氏も指摘されていたように、わずか600万の資本を数年で2000億にまで増やした男です。状況を見て、自らを最適化し、かつ状況をも主体的に最適化してしまう策士です。

 今回も彼が自らの立ち位置をどう最適化し、世論を巻き込み最適化された環境を構築できるかどうかは、木走的にはひとつの見所でありました。

 丸くなったホリエモンがこの騒動を通じてまたひとつ進化を遂げ、大マスメディア相手に世論誘導に勝利するとするならば、これはとても驚きのことです。


関連テキスト

ホリエモン考〜最適化された秩序破壊者
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050302
ホリエモンの元部下の話
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050223
フジサンケイグループダブルスタンダード
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050304
●進化を忘れた放送業界
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050305
ホリエモンは『不死身』ではなく『破壊者』だと思います
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050307
●破壊者ホリエモンが投じた一石〜悪しき秩序は守られたか
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050308
●蟷螂(とうろう)が斧(おの)を取りて隆車(りゆうしや)に向かう〜今こそ撤収の時
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050311
●木走教授のトンデモ講義〜ホリエモン報道におけるメディアリテラシー
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050312
●今こそ、勝利の凱歌をあげよ〜秩序を破壊したホリエモン
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050324