木走日記

場末の時事評論

木走教授のトンデモ講義〜社説から見るホリエモン報道考察

 くしくも今日の全国紙五紙の新聞社説は、すべて昨日の『東京地裁仮処分』の話であります。なにか、特にここ数日日本中この話題でもちきりなわけでして、特に恥の上塗りなのは、NHKのはしゃぎぶりでして、そのしつこい報道ぶりは、「おいおいこの前まで矢面にたたされてたくせに、人のこと騒いでる場合じゃないでしょ」と苦笑せざるをえません。
 それはさておき、五紙の新聞社説の内容についてメディアリテラシー論的に分析してみましょう。まずは、それぞれの社説のURLから。

●産経:仮処分決定 違和感残る企業価値判断
http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm
●読売:[『新株』差し止め]「泥沼回避に試される両者の対応」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050311ig90.htm
●朝日:ニッポン放送――株主無視が裁かれた
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
●毎日:ライブドア仮処分 やはり会社は株主のものだ
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/shasetsu/
●日経:買収防衛、「過剰」と「正当」分かつ基準
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20050311MS3M1100V11032005.html

 じっくり読み比べて見ると、各社説に共通する、重要なある視点からの考察の欠落を読み取ることができます。今日は、趣向を変えて架空授業形式でテキストをまとめてみました。(木走は工学系学校で週に一回、教鞭をとっております。)

 木走教授のトンデモ講義〜社説から見るホリエモン報道考察
教授「はい、今日のメディアリテラシーの講義は、各新聞の社説から見るホリエモン報道について考察しましょう。まずは、社説を読み比べて各紙はどう『東京地裁仮処分』を評価していますか?」
学生「そうですね。産経は否定派、朝日・毎日は肯定派、読売・日経は中間派というところだと思いました」

教授「よろしい。見出しだけからもそのスタンスが読みとれますが、特にかわいそうなのは、産経の『違和感残る』という表現に身内としての往生際の悪さを見て取れますね。それでは、各紙のスタンスの違いをそれぞれの社説はどう自社の説を説明していますか? 順番にまとめてみて下さい。」

学生「えーと、まず、産経は、『新株予約権発行に焦点をしぼった決定には違和感を覚えざるを得ない。堀江氏がニッポン放送支配の意図を公表したのは、東証時間外取引で同社株を大量取得し、三分の一を超える筆頭株主となってからだ。フジテレビによるニッポン放送株の公開買い付け(TOB)の最中である。支配権を争うなら、堀江氏も対抗TOBを宣言すればよいのだが、それはしなかった。ニッポン放送新株予約権発行も、堀江氏側の「奇策」がなければ出てこない策だったのだ。』と弁明しています。ニッポン放送新株予約権発行だけを取り上げているのはおかしいと言いたいようです。」

教授「はい。自分たちの違法性を棚に上げて、先に悪いことをしたのは僕らじゃないって因縁をつけていますね。このような幼稚な論法を二重規範ダブルスタンダード)といいます。『あとだしじゃんけん』しといてだだこねる子供と似てますね。では、つづけて下さい。」

学生「次は、朝日ですが、まず朝日は、『株主の利益を考え、公正さや透明性を求める商法の理念を踏まえた決定として、重く受け止めたい。争点は、現在の総株数の1・4倍にあたる4720万株もの予約権の発行計画の是非だった。株式や予約権を出して事業資金を集めるのは、上場企業にとっては当然の権利だ。とはいえ、それが大株主に躍り出たライブドアの締め出しをねらったものとなれば話は違う。』と、株主の利益を考えると当然の裁定であるとしています。あと、教授がおっしゃていた『後出しじゃんけん』という言葉をそのまま使用して『後出しじゃんけんのような予約権の発行が認められたら、誰も企業の買収に手が出せなくなる。』とも指摘しています。

教授「そうですね。株主利益中心に考えたら今回の裁定は当然であるとしているわけですね。フジサンケイグループサンゴ礁記事ねつ造の朝日にだけは言われたくないかもしれませんけれどね。なるほど、つぎに毎日はどうですか?」

学生「やはり、朝日と同様、会社は株主のものという論調です。ただ、『今回の騒動は、証券市場の規制緩和が進む一方で、M&A(企業の合併・買収)法制の整備が遅れた結果でもある。時間外取引以外にもライブドアの行動には問題が指摘されている。何度も株式を分割して高株価を誘い、膨らんだ時価総額を背景に株式交換で企業を買収していく手法などだ。』と、朝日よりはっきりとライブドア側の手法の問題点も指摘しています。」

教授「すばらしい。要点をよくしぼっておりグッドな解答です。特に毎日の社説でポイントなのは、社説の結語『フジサンケイグループは、創業一族の鹿内家の支配から脱するため、ニッポン放送の株式を上場させて発行株数を増やした。そうして市場を利用しながら、上場に伴う買収のリスクは否定するというのは、やはり虫が良すぎる。』です。ここ、試験出しますから赤ペンでマークしておいてください。ここはフジサンケイグループが一番突かれたくないところですから。」

学生「先生、質問です。フジサンケイグループはなんでこの話を突かれたくないんですか?」

教授「いまのフジテレビ会長が、まあ民放連の会長でもあるお偉い人ですが、鹿内家を追い出した張本人なんです。当時、鹿内家の株比率を無害化するまで下げるために、上場したり増資したり、ありとあらゆる策を講じたんですね。 ですからそこんとこ突かれちゃうととっても困るんです。これを『目くそ鼻くそを嗤う』といいます。よろしいですか。では、つぎをつづけてください。つぎは中立派の読売と日経ですね。」

学生「はい、まず読売ですが『差し止めは予想された判断だ』としてます。『両陣営が互いにニッポン放送を支配できないまま争えば、経営が機能不全に陥る恐れがある。電波メディアの公共性までもが損なわれる事態は、回避しなければならない。両者の対応が問われる』として、両者に対応責任があるとしています。ただ、『時間外取引ライブドアが株を大量取得した行為は、証券取引法に抵触する疑いも指摘されている。』とライブドアの手法も批判しています。」

教授「ますます冴えてきましたね。読売は一連のこの騒動で、そのスタンスがいつも産経には甘いようですね。これは興味深いところです。ところで、『時間外取引』でライブドアを批判しているところ、はいここも赤ペンでマークしなさい。試験出るかもですよ。諸君は生まれてませんが、その昔読売巨人軍に強引に選手を入団させるために、いわゆる野球契約上の『空白の一日』を突いて強硬に入団させた『江川事件』がありました。これ読売グループが『時間外取引』の元祖ですから。残念」

学生「先生。これも一種のダブルスタンダードですよね。」

教授「するどいですね。二重規範は日本のマスメディアの得意技なんですよ。では、最後に日経はどうですか」

学生「一番中立性の高い論調だな、と感じました。地裁は『ニッポン放送の対抗策は“過剰防衛”との判断』をしたことを冷静に論じています。で、やはり『株主利益を優先せよ』という原則論は述べていますが、あとは経済紙らしくいっぱい専門用語が.出てきてます。ポイズンピル(毒薬条項)とか、黄金株とか、コーポレートガバナンス企業統治)とか出てきて、何が言いたいのか後半は良く理解できませんでした。スミマセン。」

教授「謝らなくていいですよ。大丈夫、たいしたこと書かれてません。(爆笑)日経の社説の悪い癖で、専門用語に踊らされているんですよ。諸君もこういう論文を書いてはいけません。悪文のいい例です。
 さて、五紙の社説を読み比べてみました。最後に分析してみての感想を話してみて下さい。」

学生「はい。勉強になりました。でも、株主利益とかM&Aとか、賛成反対の立場は違いますが、似たような、株式取得の視点の社説ばかりのようでした。もう少し、メディア論とかに発展した議論もあってもよかったのではと思いました。」

教授「そうです。いい感想です。よいですか。先生、すこしだけ真面目に話しますね。まず、今日的なメディア論としての側面が全紙ともすっぽり抜け落ちています。たとえばライブドアが属するネットメディアに代表されるニューメディアと既存マスメディアの衝突という側面からの考察がないのです。どの社説にインターネットという言葉がありましたか?全くないですね。これは堀江氏が確たるメディア論を唱えていないということも遠因としてあるのでしょうが、社説を論説するおじさん達の脳味噌の中身の問題なのです。ではなぜ全ての社説で今日的なメディア論としての考察がされていないのか?それは、免許事業制度というぬるま湯にどっぷり浸かっている放送業界だけでなく、記者クラブなどという体制に組み込まれた仲良しクラブを形成し悪しき秩序に守られている新聞業界などに長く生息しているので、物事の本質を見抜く感性が退化してしまっているのです。日本の真の悲劇はこのような体たらくな既存メディアに一次ソースを牛耳られていることなのです。」

学生メディアリテラシー論でいうと全部の社説が失格なのですか?」

教授「そうです。新聞だけ読んでる人達はかわいそうですね。諸君もあらゆるメディアの情報には疑いを持ってかかりましょうね。」



・テキスト修正履歴:2005.03.12 20:15 言葉足らずであったため、文中の一部を推敲の上、加筆修正しました。


(木走まさみず)

長文失礼しました。

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