木走日記

場末の時事評論

目くそ鼻くそを嗤うとはこのこと〜フジサンケイグループがホリエモン強制捜査で大はしゃぎ

kibashiri2006-01-17


 なんか、今日の産経新聞紙面は「お祭り騒ぎ」なのであります。



ホリエモン強制捜査で大はしゃぎする産経新聞

 フジサンケイグループとしては、ホリエモンに司直のメスが入ったことが、本当に嬉しくて嬉しくてたまらんのでしょうねえ。(苦笑)

 今日の産経新聞紙面を見たら、もうびっくりでございます。

 なんと、1面から2面、3面(+社説)までと社会面ほとんどがライブドア関連記事で埋め尽くされているのでありますよ。

ライブドア強制捜査 証取法違反容疑 不正に株価つり上げ
http://www.sankei.co.jp/news/morning/17iti001.htm
地検特捜部 堀江氏の責任追及へ 幹部承認は不可欠
http://www.sankei.co.jp/news/morning/17iti002.htm
錬金術師の虚実】(上)策に溺れたIT企業 ルール無視 マネーゲーム演出
http://www.sankei.co.jp/news/morning/17iti003.htm
■【主張】ライブドア捜索 “灰色手法”排除の端緒に
http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm
ライブドア強制捜査 ヒルズ族騒然、激震 堀江氏、素直に協力
http://www.sankei.co.jp/news/morning/17na1003.htm

 こりゃもう『お祭り騒ぎ』なのであります。

 ・・・

 まあ「出る杭は打たれる」ということでしょうか、あるいは「奢れるモノは久しからず」ということでしょうか、ライブドア堀江社長の強引な手法はかねがね多くの批判を招いてはきましたが、遂に強制捜査となったわけであります。

 免許事業制度で守られてきたぬるま湯放送事業業界にどっぷり浸かってあぐらをかいてきた既存マスメディアに、おそらく歴史上初めてたてをついた「新聞を殺す」男、IT業界の風雲児、ホリエモンこと堀江氏なのであります。

 ホリエモンに襲われてあやうく乗っ取られそうになったフジサンケイグループにしてみれば、まあホリエモン強制捜査の報を聞いて、『お祭り騒ぎ』をするのも、わからなくもないのであります。

 ・・・

 しかし、産経新聞よ、ちょっとはしゃぎすぎじゃないですかね。



ライブドアは制度の不備を突いていた“灰色手法”だと非難する産経社説

 今日の産経社説から・・・

■【主張】ライブドア捜索 “灰色手法”排除の端緒に

 東京地検特捜部がライブドア本社や堀江貴文・同社社長宅などを証券取引法違反容疑で家宅捜索した。企業買収にからんで事実と異なる発表を行ったという「風説の流布」である。

 堀江氏は、一昨年のプロ野球参入騒動、昨年のニッポン放送株買い占め、衆院選立候補など話題を振りまき続けている。その経営手法はM&A(企業の合併・買収)を繰り返して業容を拡大するものだ。

 その過程でライブドアは制度の不備を突いていた。

 時間外取引ニッポン放送株を大量に買い付けた際、市場外取引での経営権の移動を伴うような株式取得を禁じた証取法違反ではないかとの疑問が呈された。

 また、株式交換による企業買収や、買収資金の調達を容易にするためには、自社の株価を高値で維持しておく必要がある。同社は株式分割を繰り返して、一年間で株式数を一万倍にしている。株式分割すれば、単位株価が安くなって投資家は買いやすくなり、相対的に株価は上昇し、時価総額も増えるからだ。

 時間外取引は「証券取引所内での取引」であり、適法とされた。大量分割も違反行為ではない。しかし、既存株主と分割後に割高な株を買わざるを得ない投資家の間に不公平が生じるなどの問題も指摘された。ライブドアのような大幅な株式分割だと、こうした傾向は顕著になるのは間違いない。

 これらの手法に、その後一定の歯止めがかけられたのは、“堀江流”が「クロではないが灰色」「株式市場の健全な発展にはそぐわない」と判断されたからにほかならない。

 証取法はじめ、市場ルールに不備が多いのは確かだ。そこを突いた取引が頻発した場合、いたちごっこのように、穴をふさぐのもやむを得ない。

 米国では証券取引委員会(SEC)と捜査当局が協力し、「灰色手法」に積極的にメスを入れ、「クロかシロか」の判断を司法的に下すことで市場から排除する例がある。

 今回の強制捜査は、虚偽発表という証取法違反の摘発だが、より幅広く、市場に横行する「灰色手法」に、司法の観点から明確な線を引く端緒になることを期待したい。

平成18(2006)年1月17日[火]
http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm

 うーむ、ライブドアのとってきた手法は、違法とまではいえないが制度の不備を突いていた“灰色手法”だと非難する産経社説なのであります。

 今回の強制捜査は、虚偽発表という証取法違反の摘発だが、より幅広く、市場に横行する「灰色手法」に、司法の観点から明確な線を引く端緒になることを期待したい。

 「市場に横行する「灰色手法」に、司法の観点から明確な線を引く端緒になることを期待したい。」とは全く異論のないところでありますし「“堀江流”が「クロではないが灰色」「株式市場の健全な発展にはそぐわない」と判断された」のもその通りではありましょう。

 ・・・

 しかしです。

 フジサンケイ現経営陣は健忘症なのでしょうか。

 かつて「クロではないが灰色」の、そして決して「株式市場の健全な発展にはそぐわない」強引な手法で、あなた方が鹿内家からあらゆる手だてを講じてフジサンケイグループの経営権を奪取し乗っ取って、その手法が業界で冷ややかにひんしゅくを買ったのはお忘れなんでしょうか。



●そもそも鹿内家追放のクーデタを指揮したのが日枝会長を筆頭とするフジサンケイグループ現経営陣じゃないのか

 もともと、フジサンケイグループの歴史はお家騒動の歴史というか、グループ内覇権の争奪戦を繰り返してきたということであります。

 創業者はかつて財界四天王といわれた水野成夫氏でありますが、そのあと覇権を確立したのは、鹿内家三代(信隆氏、春雄氏、宏明氏)でありました。

 鹿内家がその覇権を確固たるものにするために知恵をしぼって案出したのが、小さなニッポン放送をグループの中核に置き、これにグループ各社の株を持たせて、一種の持株会社にすることでした。鹿内家はそのニッポン放送の支配的株主となることでグループ全体を支配するという二重権力構造方式をとったのです。

 そして鹿内家で不幸が相次ぎ、信隆→春雄→宏明と代が変わる間に、この構造あるがために、ニッポン放送の株が遺産相続の形で鹿内ファミリーの中で受け継がれ、それが即フジ産経グループ全体の最高権力者交代になるという図式を構築されていたのです。

 しかし、春雄氏が急死したあと、何の心の準備もなく指導的立場(フジ産経グループ議長)についた宏明氏には、それにふさわしい指導性がなかったわけです。

 そこでついに社員のクーデタによってグループ外に追われるという事件が1992年に起きました。

 その鹿内家追放のクーデタを指揮したのが日枝会長を筆頭とするフジサンケイグループ現経営陣なのであります。

 その後、鹿内家側とクーデタを起こした社員グループ側が、ニッポン放送の支配権をめぐって壮絶な争いを何年も続けたのです。

 社員グループ側(日枝会長側)は、その抗争に終止符を打つために、手段を選びませんでした。

 ニッポン放送株を電撃的に上場して、かつ矢継ぎ早に大幅増資を敢行して、鹿内家の持株の支配力を強奪してしまいます。

 その際は、意図的な情報漏れやインサイダー情報が乱れ飛び、もう“灰色手法”というより”まだら狼手法”というか”白黒パンダ手法”というかしっちゃかめっちゃかな醜い争いを公の場で展開したのでした。(苦笑)

 現経営陣のとった手口はもちろん違法ではありませんでしたが、決して「クロではないが灰色」の、そして「株式市場の健全な発展にはそぐわない」やり口として、当時も少なからぬ業界関係者からひんしゅくを買っていたのであります。

 このあたりの事情は以下の本がくわしいのでした。

メディアの支配者 上
中川 一徳 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062124521/503-9038127-5751159#product-details

 その書評から・・・

歴史は繰り返される。
日枝久会長率いるフジテレビは、堀江貴文マネーゲームによって危うく乗っ取られかけた。フジサンケイグループが内包していた経営上の「弱み」を、巧みに衝かれたのだ。

フジサンケイの支配者は、創立者鹿内信隆、二代目・鹿内春雄、そして娘婿・宏明の鹿内家三代と入れ替わったのち、日枝が謀議を巡らしクーデターによってそれを追い出した。日枝は、新たな支配者として君臨した。

しかし鹿内一族は、グループ支配のカギとなるニッポン放送株を容易に手放そうとはしなかった。「乗っ取り屋」日枝は、鹿内家の影響力を排除するため株式の上場に走ったが、それが自らを地位を危うくすることになるとは想像もしていなかった――。

15年に及ぶ信じがたいほどの取材量によって、フジサンケイグループの暗部を余すところなく明らかにする。
鹿内家の内部文書、多くのフジテレビ、ニッポン放送産経新聞社員の証言によって、知られざるメディアの裏面がはじめて説き起こされる。
戦中・戦後の混乱を生き抜き、梟のように奸智に長けた創始者・信隆。
プリンスとして育てられ、数々の結婚、離婚を繰り返し、現在のフジテレビの基礎を作った夭折の天才・春雄。
エリート銀行マンから春雄の死によって唐突に後継者に指名され、奮闘むなしく日枝に追い落とされた娘婿・宏明。
そして巧みな根回しと戦略によって現在のグループを率いる日枝久

「支配者」たちの歴史は、そのままこの特異なメディアグループの歴史でもある。

 つまり、「乗っ取り屋」日枝会長がかつて自ら考案した手法そっくりな手口で、今回はライブドア堀江氏に急襲されただけの話なのであります。

 ・・・

 社説まで使ってホリエモンの“灰色手法”を批判し紙面を堀江氏強制捜査関連で埋め尽くし「お祭り騒ぎ」の産経新聞なのですが、フジサンケイグループの汚れた権力闘争の歴史を紐解けば、これはこれでちょっとばかり恥ずかしくはないですかね。

 フジサンケイグループ現経営陣にホリエモンの“灰色手法”を批判する資格などないのです。

 目くそ鼻くそを嗤うとはこのことであります。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
ホリエモン考〜最適化された秩序破壊者
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050302
ホリエモンの元部下の話
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050223
フジサンケイグループダブルスタンダード
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050304
●進化を忘れた放送業界
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050305
ホリエモンは『不死身』ではなく『破壊者』だと思います
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050307
●破壊者ホリエモンが投じた一石〜悪しき秩序は守られたか
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050308
●蟷螂(とうろう)が斧(おの)を取りて隆車(りゆうしや)に向かう〜今こそ撤収の時
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050311
●木走教授のトンデモ講義〜ホリエモン報道におけるメディアリテラシー
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050312
●胡散臭いぞ!東京電力
●最適化すすむホリエモンVS捨て身の焦土作戦
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050314