木走日記

場末の時事評論

新型コロナウイルス対策と日本人の被統治能力・ガバナビリティ【governability】の関係

ここへきての感染者数減少の驚異的ペースをグラフで確認しましょう。

東京都で1日の感染者数が276人となり、300人下回るのは去年12月7日以来
2ヶ月ぶりのことです。

(関連記事)
東京都 新型コロナ 276人感染 300人下回るのは去年12月7日以来
2021年2月8日 15時31分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210208/k10012855361000.html

NHK公開データより全国の感染者数の推移を確認します。

■日本国内の感染者数
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※NHK公開データより『木走日記』作成
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

ここ一ヶ月、緊急事態宣言(1月8日〜2月7日)のもと、驚くべきペースで感染者数が減少していることが確認できます。

赤いグラフの七日平均数が顕著ですが、ピークの6442人(1月11日)から直近の2229人(2月7日)へと、半減どころか、三分の一近くに減少しています。

この結果はもちろん喜ばしいことなのですが、「驚異的」と感じてしまうのは、もしこの驚くべきペースでの感染者数の減少が、1月8日に発出した緊急事態宣言の効果に起因するのだとしたら、日本という国はやはりすごい国民性を有しているのだなあと思うわけです。

欧米に比べて何の罰則規定もない、ゆるい「要請」に過ぎないあのゆるゆるの宣言で、ここまで国をあげて宣言に従い、感染者を減少させる、これはすごいことだと思うのです。

本件は医学的には科学的エビデンスでもって語るべきなのでしょう。

今回はしかし医学的エビデンスから離れて当ブログが強く感じるところをエントリーしたいと考えます(もっとも、素人の私は現時点で正確なエビデンスを示す情報も能力も有していません)。

・・・

本当に日本人は真面目で健気です。

各人が、一生懸命、マスク、手洗い、3密予防、自分のできる感染予防策につとめています。

コロナ禍で、真冬なのに車窓を開けつつ、全員がマスクをして通勤する電車車内の風景、街を歩く人々もほぼ全員がマスクを着用しています。

私はこれらの光景を目にするに、どうしても10年前の3.11のときの日本人の振る舞いを思い出してしまいます。

震災当初、被災地東北で、そして計画停電で大混乱の首都圏で、日本人は実によく秩序を守り他者をいたわり冷静な対応をしておりました、暴動や略奪もない、この日本人の非常事態のときもいささかも動じない我慢強さ・冷静さ・マナーの良さは、当時、世界から賞賛されておりました。

当時のアメリカからは、「多くのアメリカ市民は、自国なら間違いなく暴動や略奪が起こる悲惨な無秩序の大災害の中で、多くの死者を出した被災地でけなげにも礼儀正しく振る舞う被災した日本人を、信じられないと驚きを持って受け止めているようだ、日本人の高潔なスピリットに対して尊敬の念がメディアに溢れている」と伝えられています。

震災当初、日本人大衆の被統治能力・ガバナビリティ【governability】の高さに世界は驚嘆し讃辞を惜しみませんでした。

日本人のガバナビリティ(=統治される能力)が国際的に高いのはかねてから指摘されてきたことですが、3.11でこれが証明され、TV報道あるいはネットにより世界中に「日本人はすごい」という認識が広まりました。

ガバナビリティは日本ではよく指導力とか組織力とかの間違った意味で誤用されることが多いのですが、その正確な意味は「ガバナンスされる能力」、支配される能力という意味になります。

悪く言えば「従順さ」といってもいいでしょう、しかしこの英語の本来の意味はもっと積極的で肯定的なニュアンスを持っています。

よく海外では、戦後のドイツ復興と日本復興において、「同じ占領軍に支配され国土が廃墟の中でそれぞれ奇跡の経済復興を遂げたのは、ドイツ人と日本人がガバナビリティが極めて高かったからだ」というような評論を見受けます。

この場合、ガバナビリティの使われ方は「従順」のような消極的意味では必ずしも無く、両国民は占領軍に支配される能力が高くその力を源泉に復興を遂げたのだという肯定的な意味合いがあるわけです。

国という単位ではなく会社、あるいはチームといった小規模のグループにおいても組織構成員のガバナビリティは組織の命運を握るほど重要な要素となります。

私はよく経営者セミナーの講師などでガバナビリティの話をするとき例に出す話があるのですが、世界ヨットレースに出場するほどのレベルのヨットチームの構成員のガバナビリティの高さです。

ヨットチームを構成する構成員(クルー)は練習のときからそれぞれの持ち場で最高のパフォーマンスを出せるように自身の能力の向上に努めますが、と同時にリーダー(キャプテン)の指示を以下に忠実に実現するべく全神経を集中して命令を実践することをトレーニングいたします。

ちょっとした風向きの変化などでリーダーは迅速に自分のヨットが一番有利になるような操舵をしなければなりません、それに対して構成員は自分の持ち場の範囲で最高のパフォーマンスで応えることで、チームの勝利という共通の目的に向かってまい進する訳です。

チームの勝利という自分にとって(利己的な)最高の報酬を得るために、リーダー(キャプテン)の指示を忠実に(利他的に)実現していくわけです。

ガバナビリティの真髄は、組織の構成員として、自分を守るための行為(利己的)を追求すると、なによりも組織の秩序を守る行為(利他的)に行き着くことです。

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日本人がマスクを付けるのは、もちろん感染者からの飛沫を防ぎ感染することを予防するため(利己的)でもありますが、自分自身が加害者(感染者)として他者に飛沫を飛ばしてしまうことを防止する(利他的)、実は後者の意識が高いと言われています。

このような国民性・ガバナビリティの高さが、罰則規定のないゆるゆるの非常事態宣言に、みなが協力し、国として感染者数を大幅に減少させるという全体の果実を得ることに成功している原動力なのではないでしょうか。

もちろん医学的エビデンスはない私見ではあります。

読者のみなさんはいかがお考えでしょうか。



(木走まさみず)