木走日記

場末の時事評論

進化を忘れた放送業界

 少し話題が、ホリエモンに偏りすぎていたので、まあ彼も放送業界の諸氏からすれば招かざる新人類なのでしょうが、インドネシアで発見された新種の原人のニュースから。

小さい脳でも能力は高い? インドネシアで発見のヒト

 インドネシアで骨が見つかり、約1万8000年前まで生存したとみられる身長約1メートルの人類「ホモ・フロレシエンシス」の脳の形を分析した結果、全体的な特徴は原人に近いが、独創的な活動などに必要な部分は、もっと大柄な原人より発達していたことがわかった。脳が大きくなるにつれて能力も高まったという、進化の通説が見直しを迫られそうだ。米、豪、インドネシアの研究チームが3日付の米科学誌サイエンス電子版で発表した。

 チームは同国フローレス島の洞穴で見つかった頭骨をCTスキャンにかけ、中に納まっていた脳の立体的な形を推定。それを現代人や、より原始的な原人、猿人、チンパンジーやゴリラといった類人猿の脳と比べた。

 フロレシエンシスの脳容積は417立方センチで、推定体重に対する比率は類人猿なみに小さかった。ただし、横から見た脳の形が比較的ぺしゃんこである点などは、原人に近かった。統合的な認知能力や意欲と深く関係がある脳の前面は、原人や猿人に比べて、突き出るような形で非常に発達していた。記憶などに重要な脳の側面も広がっていた。

 約1万8000年前までフロレシエンシスが生きていたとみられることから、一部の研究者は「現代人の亜種か、病気で脳や体が小さくなった現代人ではないか」と指摘していた。脳の形が現代人と大きく異なることが明らかになり、骨からだけでなく脳の形からも原人に近い新種であることが確認された。

(03/04 19:55) 朝日新聞

 これはもしかすると世紀の大発見かもしれません。なにが大発見かと申しますと、約1万8000年前といえば、これまでの学説では地球上には、私達ホモサピエンス以外のホモ属は全て絶滅したと考えられていたからです。

 上の記事だけでは説明不足ですので、興味を持たれた読者のために、この件で私の知る範囲で補足説明をさせていただきます。

ホモ・フロレシエンシス〜独自進化した小型原人

 この新種の原人は、成人でも慎重が1メートルほどです。しかも、繰り返しになりますが、地球上の人類が現代人と同じホモ・サピエンスだけになっていたと考えられてきた1万8000年前まで生きていたのです。人類学の常識を覆すこの大発見は、昨年10月28日発行の英科学誌「ネイチャー」に発表されました。

 「フローレス原人」(学名=ホモ・フロレシエンシス)と名付けられた小型原人の化石は、オーストラリアとインドネシアなどの協同チームが一昨年9月、フローレス島西部のリアンブアと呼ばれる鍾乳洞の1万8000年前の地層から発掘しました。
 見つかった部分は、ほぼ完全な頭部と骨盤、脚の一部などで、身長は約1メートル。骨盤の形状などから成人の女性と推定されています。頭骨はグレープフルーツ大で、脳容積は記事にもあるとおり410立方センチメートル。標準的な原人の脳(850立方センチメートル)の半分以下、現代人の四分の一ほどしかなかったのです。
 骨盤や脚の形状は二足歩行していたことを示しており、猿人並みの小さな脳にもかかわらず、打製石器を使っていたことも確認されています。
 研究チームによると、フローレス原人は、3万8000年前から1万8000年前の間は確実に生息していたといいいます。これまでは、約2万8000年前にヨーロッパのネアンデルタール人が滅んだ後は、地球上の人類は新人(ホモ・サピエンス)だけになったと考えられていたのでした。
 フローレス原人の小型化について研究チームは、約200万年前にアフリカから東南アジアに進出した原人(ホモ・エレクトス)の一部が、数十万年前にフローレス島に流れ着いた後、孤立した熱帯雨林の島で隔離状態となり、当初は標準的な体格(身長150−180センチメートル)だった原人が、次第に小さな体へ進化したと考えています。
 フローレス島は、生物種の境界線として知られる「ウオーレス線」の東に位置し、動物達が独自の進化を遂げました。原始的な化石象のステゴドン類の小型種や、今と同じ大きさのコモドオオトカゲなど特殊化した種が多いのです。フローレス原人も島の環境に適応するために数十万年かけて小型化したと考えられるわけです。
 フローレス原人の生息時期は、ジャワ原人の生息期やホモ・サピエンスニューギニアに住み始めた時期と重なる可能性もあり、地球上に進化段階の異なる多様な人類が生きていた時期があったことを示唆しているのです。


産経新聞 2004.10.24の記事を参考に (木走まさみず))

●孤島で『生きている化石』が多く生き残っている理由

 今回の発見は、科学的には実に興味深いもので、孤島で『生きている化石』が多く生き残っている理由をさらに人類・ホモ属にまで拡大して実証可能となる大発見なのです。

 現代進化論的立場で少しお話しすると、例えば日本の例でいいますと、『イリオモテヤマネコ』や『ヤンバルクイナ』などのような原始的形態を今に残している種の発見はほとんど孤島においてであります。

 これはある意味当然でありまして、適者生存の大原則である自然淘汰の世界で考えて見れば、強力な捕食者のいない小さな島であれば、進化しなくても生存できる可能性が大きいわけです。

 逆に言えば、オーストラリア大陸有袋類の多くの種が、フクロオオカミに代表されるようにここ数百年の間に絶滅したように、より優勢な種が到来すれば保護無くしては、間違いなく絶滅する運命にあるわけです。

 このあたりの話は、動物学者の今泉忠明氏の著作物にくわしいですが、私の愛読書でもある講談社新書の『進化を忘れた動物達』などは、とてもおもしろい本であります。

●『生きている化石』的存在〜進化を忘れた放送業界

 孤島のように免許事業制度に守られてぬるま湯に使っている放送事業業界をホモ・フロレシエンシス的存在にたとえるのは、いささか乱暴な話ではありましょう。

 しかし、競争が無い世界で外界との接触を大海により守られながら長い間生存することが可能だった『ホモ・フロレシエンシス』は何故1万8000年前まで生存できたのか、またなぜ1万8000年前に絶滅したのか、を考察すると、いろいろ考えさせられます。
 ここからはあくまで木走の推測でありますが、おそらくはより優勢なホモ・サピエンスと出会うことが無かったから生き残れたのであり、まさに絶滅した理由もホモ・サピエンスと出会ってしまったからなのでありましょう。

 淘汰による適者生存の法則から取り残された存在は、なにも『ホモ・フロレシエンシス』だけではないようです。

関連テキスト

ホリエモン考〜最適化された秩序破壊者
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050302
ホリエモンの元部下の話
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050223
フジサンケイグループダブルスタンダード
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050304
ホリエモンは『不死身』ではなく『破壊者』だと思います
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050307
●破壊者ホリエモンが投じた一石〜悪しき秩序は守られたか
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050308
●蟷螂(とうろう)が斧(おの)を取りて隆車(りゆうしや)に向かう〜今こそ撤収の時
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050311
●木走教授のトンデモ講義〜ホリエモン報道におけるメディアリテラシー
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050312
●最適化すすむホリエモンVS捨て身の焦土作戦
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050314
●今こそ、勝利の凱歌をあげよ〜秩序を破壊したホリエモン
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050324