木走日記

場末の時事評論

企業への公的支援は、雇用維持を担保するべき〜日経社説にあえて反論する

 28日付け日経新聞社説から。

社説1 企業への公的支援は公正かつ透明に(1/28)

 政府は、金融危機で資金調達が難しくなった企業を公的資金で救済する新たな支援制度を設ける。急激に収益が悪化し、一時的に自己資本が大きく欠損した事業会社を対象に、民間金融機関の機能を政府が補って経営破綻を回避する狙いがある。

 平時ならば破綻しないはずの企業を危機対策として助けるのは、政府の重要な仕事である。企業の有力な資金調達手段だった社債コマーシャルペーパーの市場が機能不全に陥り、銀行の融資能力も低下している以上、政府が資金面で支援の枠組みを作るのは理にかなっている。

 ただし注文もある。支援の判断と手続きは、公正かつ透明でなければならない。特定の企業や業界に利する援助は許されない。政治家による利益誘導や、官僚の裁量で支援の対象や規模が決まらないよう制度設計には細心の注意が必要だ。

 新制度は経済産業省が中心となって細部を検討している。今のところ枠組みの中で中心的な役割を担うのは政府系の二つの金融機関だ。

 まず自己資本が少なくなった企業に対し、昨年秋に特殊会社として再スタートした日本政策投資銀行が出資する。投資先企業の倒産などで出資元本に損失が生じた場合に、同じく特殊会社の日本政策金融公庫が国の財政資金を得て、損失の一部を肩代わりする。

 いわば救済目的の出資に対し部分的に公的な信用保証をつける仕組みだ。出資により企業の資本内容が改善し信用度が高まれば、金融機関からの融資も受けやすくなる理屈だ。

 焦点となるのは、政策投資銀が出資を決める基準である。現行の産業活力再生特別措置法産業再生法)に基づき、経産相が事業計画を認定した企業を対象とし、政策投資銀も独自に判断するという建前だが、今回の政策の目的は「企業再生」ではなく「危機回避」である。

 その目的のためには、現行法より厳格な基準を設けるべきだ。経営の努力不足で構造的に不採算となった企業を、いたずらに延命する手段にしてはならない。

 保護主義的な政策にしないためには、内外無差別の原則を貫く必要もある。日本国内で事業展開する企業であれば、日本企業も外国資本の企業も同等に扱うべきだ。

 経産省は、政策投資銀だけでなく民間の金融機関も参加できる枠組みを検討している。民間銀行も救済出資の判断に加われば、さらに公平性は高まるはずだ。リスク負担能力が低下している銀行を枠組みにどう取り込むかが課題となろう。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20090127AS1K2700627012009.html

 金融危機で資金調達が難しくなった企業を公的資金で救済する新たな支援制度を政府が決定したことを受けてのこの社説でありますが、「百年に一度」という不況下で、「平時ならば破綻しないはずの企業を危機対策として助けるのは、政府の重要な仕事」なのは同意するものであります。

 アメリカのビッグ3支援を始め主要各国も自国主要産業になりふりかまわず救済策として公的資金を緊急投入している現在、日本政府としてもこの三月期末を意識して具体策を緊急にまとめたわけです。

 ただ、このような動きは、アメリカのビッグ3のように時代のニーズをとらえていない競争力の無い旧態依然とした本来ならば淘汰もしくは改善されるべき企業を安易な企業救済が競争条件をゆがませ、また保護主義を招く懸念も強くありますので、この日経社説が論じるとおり、今回の政策の目的は「企業再生」ではなくあくまで期間を限定した「危機回避」とするべきです。

 「保護主義的な政策にしないためには、内外無差別の原則を貫く必要もある。日本国内で事業展開する企業であれば、日本企業も外国資本の企業も同等に扱うべきだ」のは当然として、やはりポイントは政府がどの企業を救済してどの企業を救済しないのか、日本政策投資銀行や日本政策金融公庫などの政策投資銀が出資を決める基準であります。

 日経社説は「現行の産業活力再生特別措置法産業再生法)に基づき、経産相が事業計画を認定した企業を対象とし、政策投資銀も独自に判断するという建前」だが、「現行法より厳格な基準を設けるべきだ。経営の努力不足で構造的に不採算となった企業を、いたずらに延命する手段にしてはならない」と主張します。

 ここが問題です。

 税金を投入するのですから、企業への公的支援は公正かつ透明にすべきなのは当然ですが、この日経の「現行法より厳格な基準を設けるべき」という主張には、それだけでは素直には同意できません。

 もし政府が現行法より厳格な基準を設け、企業により厳しい事業計画を求めることだけが一人歩きしたならば、この新たな制度が工場閉鎖や非正規社員や正社員の解雇の動きに「お墨付き」を与えることに成りかねません。

 政府による税金投入という企業救済策が、現状の厳しい雇用環境にさらなる駄目押し的な企業の労働分配率低減策を促すとしたら、不況対策としてはあまりにも愚策となりましょう。

 政府案もそれを論じているこの日経社説も、日増しに深刻化している日本の雇用問題を無視して、そこに歯止めになる防衛策を講じることなく、安易な企業救済に走ろうとしていることは、良し悪し以前に、きわめて効率の悪い税金の無駄遣いが発生することになりましょう。

 かたや何兆円も掛けて雇用対策を施策しておいて、かたや何兆円も掛けて企業救済を施策し結果として国内工場の閉鎖や新たな失業者を生む呼び水となってしまっては、意味が無いでしょう。

 「100年に一度」の緊急政策であるならば、公金による企業救済は逼迫している国内雇用問題に配慮したモノでなければならないと思います。

 具体的には、フランス政府が取っているように、公金を投入する大企業には、「国内工場の維持」を担保させ、結果として雇用維持と幅広い裾野を持っているであろう関連する中小供給業者の救済を前提とするべきです。

 21日付け記事から。

仏政府、自動車業界を追加支援へ−最大60億ユーロ、工場維持が条件

  1月20日ブルームバーグ):フランス政府は20日、仏自動車メーカーのプジョーシトロエングループ(PSA)とルノーへの追加支援を表明した。両社が国内工場の維持を約束する見返りとしての救済額は60億ユーロ(約 7017億円)に達する可能性がある。

  フィヨン首相はパリでの会議で「自動車メーカーに対する政府の支援は大規模なものになる」と発言。総額50億から60億ユーロに達する支援の代償として、政府はフランス国内での生産継続に向けた「模範的なコミットメント」の表明と供給業者の救済を望むと述べた。

  2008年の欧州での自動車販売台数は過去15年で最大の落ち込みを記録した。フランス政府はすでに13億2000万ユーロを超える支援策を実施。2週間以内に追加支援策を発表する予定だ。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90003017&sid=aecoKqP4QrOY&refer=jp_japan

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 日経社説にあえて反論いたします。

 大企業への公的支援は単に「現行法より厳格な基準を設けるべき」と企業のいっそうの合理化を促すだけでは、この「100年に一度」の「危機回避」策としては、深刻化する国内雇用問題に火に油を注ぐ愚策になりかねません。

 企業への公的支援は、内需を守るべく、雇用維持や関連する中小供給業者の救済を担保するべきです。



(木走まさみず)