木走日記

場末の時事評論

日経社説はデフレ不況下の元金負担の恐ろしさを正しく認識していない

 14日付け日経新聞社説には考えさせられました。

企業の“倒産先延ばし”は長く続かない
2010/10/14付
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE3E4E1E0E4E4E3E2E3E6E3E2E0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

 社説は冒頭から「景気実感が厳しさを増しているのに、企業倒産は低い水準にある」ことを「素直に喜べない」としています。

 景気実感が厳しさを増しているのに、企業倒産は低い水準にある。

 民間調査会社の東京商工リサーチによれば、2010年度上半期(4〜9月)の全国の倒産件数は6555件と前年同期に比べ15.2%減った。上半期の倒産件数が7000件を下回ったのは4年ぶりだ。同業の帝国データバンクの集計では、倒産件数が前月までに13カ月続けて前年同月を下回った。

 6月から改正貸金業法が完全施行され、消費者金融がお金を貸しにくくなった。中小事業主の資金繰りが苦しくなると懸念されたが、倒産の増加にはまだ至っていないようだ。

 倒産が少ない舞台裏には、からくりがあり、素直に喜べない。

 からくりの一つは亀井前金融担当相の肝いりでつくられた「中小企業金融円滑化法」だと指摘します。

 1つは、亀井静香前金融担当相の肝いりでつくられた「中小企業金融円滑化法」だ。企業が借りているお金の期限が来て返済猶予を求めた場合、銀行はそれに応じる努力をせよと定めた。昨年12月の施行から今年6月末までに、同法に基づく猶予は累計で39万738件、13兆3959億円に達した。

 自見庄三郎金融担当相は13日の衆院予算委員会で、円滑化法について来年3月の期限延長も視野に入れ取り扱いを検討する考えを述べた。

 しかし、円滑化法を利用している企業の倒産は9月末までに30件発生した。地方の建設業や小売業を中心に返済猶予を2度、3度と繰りかえしてもなお、銀行との間で事業計画の練り直しが進まない例が増えた。

 展望のない企業の経営破綻のリスクを銀行が過度に抱え込めば、金融システムが再び不安定になりかねない。円滑化法は延長しないのが筋。もし延長を議論するなら、借り手の実態をきちんと調べるべきだ。

 続いてもう一つのからくりは信用保証協会の「景気対応緊急保証」にあると指摘します。

 倒産が少ないもう1つの理由は、信用保証協会の「景気対応緊急保証」だ。赤字の中小企業でも借り入れの保証を受けやすくしている。利用額は先週末現在で22兆円にのぼる。だが利用企業の倒産は1〜9月に前年同期よりも2割近く増えた。

 政府は補正予算案に信用保証の拡充を盛り込むが、保証供与の効果が薄れつつあるほか、財政負担を伴う。放置すれば倒産するような企業については、こうした政策でいつまでも延命させるのは無理だ。

 倒産を抑えるには、第一に金融・財政政策で短期的な需要の落ち込みを最小限に抑えること。第二に内需分野での規制緩和など成長戦略を早く実行し、企業、特に海外展開をしにくいような中小企業が仕事を確保できるようにする必要がある。企業の業種転換を促す政策も大事だ。

 「展望のない企業の経営破綻のリスクを銀行が過度に抱え込めば、金融システムが再び不安定になりかねない」

 「放置すれば倒産するような企業については、こうした政策でいつまでも延命させるのは無理」

 日経社説はこう力説しますが、確かに「中小企業金融円滑化法」や「景気対応緊急保証」の利用による、借り手側のモラルハザードの問題や再建展望のないダメ会社の無駄な延命の問題などが一部で取り上げられています。

 本来なら淘汰されるべきゾンビ企業の延命は結果的に日本経済を活性化することにはならないことは正論ではありましょう。

 しかしながらこの社説の景気が厳しいのに企業倒産が少ないことは不満であるとの論調は、不景気なんだから企業はもっと倒産すべきであるとも聞こえます、これは新自由主義的競争原理信者の主張と同じで、この長期に渡るデフレ不況下の中小零細企業の実態を正しく捉えているとは思えません。

 中小零細企業の多くは無借金経営など夢のまた夢であり、大多数の企業は金融機関からの長期借り入れで運転資金等を手当しています。


 デフレ不況下で多くの企業が売り上げを減らしています、しかしその中で経費を切りつめるだけ切りつめて凌いでいますが、月々に返済する利子と元本は減りません、これが大きな財務を圧迫している要因なのです。


 私が経営コンサルしています企業の多くも、決算は黒字でも借入金返済負担がのしかかりキャッシュフローが行き詰まりつつあるのです。

 それらの企業は、日経社説がいうところの「展望のない企業」ではないのです、不況下で売り上げを落としつつも健全に努力して黒字を出している多くの企業が、長期のデフレで借入金返済負担が相対的に増大してキャッシュフローに問題を抱えてしまっている、日本経済固有の構造的要因が背景にあります。

 「中小企業金融円滑化法」の猶予は累計40万件、13兆円を超える規模で実施されています。

 私のクライアント企業にもこの法を利用して金融機関のコンサルティングを受けつつ返済のリスケジュールをし計画を立て経営改善に取り組んでいる企業があります。

 日経社説は触れていませんが、この法のもとに作成された金融検査マニュアルにおいては、金融機関によるコンサルティング機能の十分な発揮を柱とする「金融円滑化編」を新たに設けています、つまり金融機関がそのもてる知識とノウハウを借り手である中小・零細企業に開示して、両者一体となって経営改善に取り組むことが目的です。

 多くの中小企業がこの法により金融機関の知恵を借りて経営合理化に成功しつつあります。

 「中小企業金融円滑化法」が少なからずの企業の再生に役立っており、結果として、地域経済の回復、雇用環境の維持に貢献している側面があることはもっと強調されてよいでしょう。

 実際に私のクライアント企業では、金融機関の指導の元でその再建計画は経営陣には過酷とも思える経費節減策を求められています。

 役員報酬は半減、事務所も賃料節約のためいままでの半分ほどの小さな場所に移転、できうる経費節減策はほとんどすべて取らされました。


 しっかりとした事業計画を立てその上で借入金返済額の猶予期間を設けています。

 そもそも返済猶予は金融機関のコンサルを受け実現可能な再建計画を立てることが可能な企業のみ受けることができる制度です、つまり再生可能な企業のみが対象となります。

 ・・・

 日経社説は「企業の“倒産先延ばし”は長く続かない」と「円滑化法について来年3月の期限延長」を反対していますが、私はこの法が緊急避難的制度でありこれを常態化すべきではない点では同意しますが、中小零細企業の厳しい現況から、今しばらくの延長を強く望みます。

 不況ならば企業倒産は増えて当然という日経の主張する企業淘汰論は危険です。

 この法が打ちきられれば、多くの健全な零細企業までも黒字倒産が続出する恐れがあるからです。

 デフレ不況下の元金負担の恐ろしさを日経社説は正しく認識していません。



(木走まさみず)