はれのひ倒産社長会見に愚考する〜BtoC企業の倒産は経営者の矜持不足が悲劇を招く
今回は9年前のリーマンショック不況時の話からおつきあいください。
2008年9月29日にアメリカ合衆国下院が緊急経済安定化法案を一旦否決したのを機に、ニューヨーク証券取引市場のダウ平均株価は史上最大の777ドルの暴落を記録します。
金融危機はヨーロッパを中心に各国に連鎖的に広がり、さらに10月6日から10日まではまさに暗黒の一週間とも呼べる株価の暴落が発生し、世界規模の金融危機がやってまいります。
日本でも日経平均株価が暴落したほか、生命保険会社の大和生命保険が破綻しました、リーマンショックに伴う世界金融危機が始まりました。
当時、私は零細IT業を営みつつ、複数の企業の経営コンサルもさせていただいておりましたが、クライアント企業の倒産をブログで取り上げさせていただきました。
9年前の元旦の無念のエントリーであります。
2009-01-04 不況の中倒産するまで雇用を維持し続ける中小零細企業の矜持
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20090104
「経営危機に陥ってしまったクライアント」への対応で大晦日まで働きついに正月に寝込んでしまったことを報告しています。
折からの不況で、私のクライアントの一社が倒産に追い込まれ、その他にも資金繰りに行き詰まり経営危機に陥ってしまったクライアントのフォローアップなどで年末の31日までいろいろな雑事に追われてしまいました。
仕事とはいえ人様の会社のコンサルをしつつ自らの会社の経営もこなさなければならないので、本来なら積み残した仕事をこなすべく正月返上で業務をしなければいけない状況なのですが、正直、今回は精神的にも疲れてしまって正月三日間は完全に休養日とさせていただきました。
ふう。
仕事ですから、弱音を吐くわけにはいかないのですが、独立以来、こんなにも精神的に苦痛でしかし忙しい年末は私にとっては初めてのことでした。
倒産した町工場の経営者のご夫妻のことを取り上げています、ご夫妻は自己破産されるわけですが、「不況の中雇用を維持し続けるのは、人が物つくりの中心である零細業においては立派な施策」であると。
●不況の中雇用を維持し続けるのは、人が物つくりの中心である零細業においては立派な施策
先月倒産した私のクライアントの話をご紹介しましょう。
目の前で夫(社長)が自己破産手続きの書類にサインするのを気丈にも夫の肩に手を添えて見守る奥さんの姿、5号認定(年末の特別融資枠)の希望申請枠が審査が通らず半減され、資金繰りに窮し越年を断念、倒産を選択したこのご夫妻は、自己資産のすべてを失い、自己破産されました。
日本の場合、信用力のない中小零細企業が資金を金融機関から借りる場合、金融機関は例外なく代表取締役個人の連帯保証を求めますから、会社が倒産や解散する場合、日本の多くの事業主は連帯保証人として財産が没収され、多くの場合それでも足らないので自己破産の道しか残されていないのです。
ご夫妻には中学生と小学生の二人のお子さんがおられますが、企業家として立派だと思えたのは廃業の際、わずかに残っていた自己資金を全て、これから年の瀬だというのに職を失う、最後まで雇用し続けていた6人の従業員達にあてがったことでした。
一人当たりとしてはわずかな金額ですが、愛する家族よりも、愛する従業員を優先させる、起業家としての最後のけじめなのでしょう。
同じく家庭と会社を持つ立場として、この社長の悲壮なしかし立派な行動に私は深い感銘を覚えました。
また職を失った6人の従業員の人々も、誰一人この社長夫妻を恨むこともなく、最後には給与は半分にまで減らされていましたが、限界まで雇用し続けたご夫妻に感謝の言葉を繰り返していました。
大企業が振りかざす一般の経営論からすれば、不況の中、雇用を維持し続けるのは愚策となりましょうが、人が物つくりの中心である零細業においては、これは立派な施策なのであります。
そして、これぞ、実業者としての矜持(きょうじ)というものでありましょう。
このエントリーで私が特に強調したかった点は、上記文中のこの事実です。
日本の場合、信用力のない中小零細企業が資金を金融機関から借りる場合、金融機関は例外なく代表取締役個人の連帯保証を求めますから、会社が倒産や解散する場合、日本の多くの事業主は連帯保証人として財産が没収され、多くの場合それでも足らないので自己破産の道しか残されていないのです。
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500社以上の多くの個人事業主や中小零細企業とお仕事をさせていただきましたが、多くの倒産や自己破産とも関わらせていただきました。
そんな私のつたない経験から、倒産する経営者にも矜持というものがあるという話をしたいのです。
周回遅れの感がありますが、この謝罪会見です。
はれのひ社長会見
渦巻く怒りの声「補償の足がかりを」
https://mainichi.jp/articles/20180127/k00/00m/040/099000c
BtoC企業の倒産は、このように多数の消費者(コンシューマー)を巻き込んでしまう点でBtoB企業のケースより社会問題に成りがちです。
ましてや今回は成人式の晴れ着に関わる「若者の夢を踏みにじった行為」であります、金額の大小に関わらず世間にはこの経営者に対し怒りが渦巻いているのであります。
この社長の対応をよりによって成人の日まで倒産を隠すなんて詐欺まがいだ、しかもそのあとで何日間か身を隠すなんて責任放棄の卑怯者だという、厳しい批判があることは当然のことでしょう。
さてまず冷たく表現させていただきますが、この程度の負債額の中小企業の倒産はそれこそこの日本では毎年毎年ごろごろ発生しています、おそらくBtoB企業だったならつまり被害者が一般市民ではなく法人ばかりだったなら、ここまでテレビ報道されることもなかったでしょう。
そしてこの倒産を「計画倒産」であるとか「詐欺行為」ではないのかとの指摘もありますが、長年中小企業の経営をコンサルしたものとして私は、この社長は「計画」や「詐欺」を働くほどの頭脳犯ではないだろうと確信をもって推測しています。
なぜなら報道された事実から私から判断する限り、今回のはれのひ倒産は、経営者としての矜持のないひどすぎる「経営」の結果であり、そこには何かをたくらんだというよりもゴウゴウと音を立てている滝つぼのせまる川でなすすべもなく滝つぼに落ちてしまった愚かな「いかだ乗り」の姿が浮かんでくるだけなのです。
誤解のないように話しをすすめますが、私はこの経営者を擁護するつもりはさらさらありません。
彼に経営者としての矜持があれば、最後の最後まで関わる弱者に対して強くそれを守る行動をすべきだったと思います。
何社か企業の倒産を見守ってきましたが、会社をたたむかどうか判断するのにいくつかのターニングポイントがあります。
法人として消費税・法人税の滞納が始まったとき。
従業員の社会保険の会社負担分の滞納が始まったとき。
従業員の給与支払いが滞り始めたとき。
お客様への納品、支払いが滞り始めたとき。
そして金融機関への返済が滞り始めたときであります。
私はコンサルをしていて、ひとつの重要なポイントは「従業員の給与支払いが滞り始めたとき」だと考えていました。
大切な従業員の給与が払えないぐらいなら会社をたたむ、これはひとつの立派な考えであります。
はれのひは給与支払い遅延も発生していましたし、お客様(消費者)にも迷惑を掛ける形での最悪の倒産形態だと思われます。
法的にはともかく、もうどうしようもない倒産しかないと判断した場合、経営者に矜持があれば、関わる利害関係者の中で、残された資金を弱者(個人や零細企業や社員)救済に当て、強者つまり大企業、金融機関、政府(税金)への支払いを後回し、ときに放棄します。
もちろんどこを遅延しても悪いことなのですが、苦労した経営者なら一人でも迷惑を掛ける弱者を減らして倒産するよう最後まで努力するものだからです。
50万円を払わなくても国や銀行は痛くもないですが、個人や零細ならばへたすると死活問題になります、矜持があれば経営者はたとえ倒産する瞬間でもそのことを強く考えるはずです。
はれのひは倒産する決断が遅すぎたのだともいえるでしょう。
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もちろん事態をここまで悪化させてしまったのは全ての責任は経営者にあります。
ただし彼が経営者として犯罪者的悪意があったわけではないのもおそらく事実なのです。
はれのひの倒産は社長に経営者としての矜持が不足していた点がとても悲劇的なのでした。
いずれにしても彼のしでかした負債は個人で弁償できる額ではないわけで、彼は家族を巻き込んで自己破産することになるでしょう。
そして多くの何の罪のない若いコンシューマー達が被害を受けてしまいました。
BtoC企業の倒産は経営者の矜持不足が悲劇を招く典型的な事例だと思われます。
(木走まさみず)