木走日記

場末の時事評論

反日デモで違法行為を黙認する「党治」国家の限界

 18日付け朝日新聞紙面記事から。

中国で反日デモ飛び火 若者ら1万人 日系店襲撃情報も
2010年10月17日20時39分
  
 【綿陽(中国四川省)=林望】中国四川省成都などで起きた大規模な反日デモは17日、同省北部の綿陽に飛び火し、住民の目撃情報によると、1万人以上の若者らが「日本商品排除」などを叫びながら、市中心部を練り歩いた。パナソニックの販売店や日系飲食店のガラスが割られ、日本車が襲撃された。

 中国当局は17日、デモ再発を防ごうと成都や北京などの日本関係施設に対して厳戒態勢を敷いた。しかし、若者らはインターネットや携帯電話で呼びかけ合い、警備の比較的少ない内陸部の地方都市で再びデモを起こした。

 北京の日本大使館によると、16日にデモがあった河南省鄭州で22日から予定されていた交流行事「ジャパンウイーク」は17日に中国側から延期の連絡があった。修復に向かっていた日中交流にも影響が及び始めた。

 中国外務省の馬朝旭報道局長はこれに先立つ17日未明、「一部の群衆が日本の誤った言動に対して義憤を表明することは理解できる」との談話を発表。一方で「非理性的、違法な行為には賛成しない」と暴力行為には反対する考えを示した。

http://www.asahi.com/international/update/1017/TKY201010170105.html

 「パナソニックの販売店や日系飲食店のガラスが割られ、日本車が襲撃された」そうであります。

 対して中国外務省の報道局長は「一部の群衆が日本の誤った言動に対して義憤を表明することは理解できる」とする一方で「非理性的、違法な行為には賛成しない」と暴力行為には反対する考えを示したそうです。

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 今回もそうですが、中国の反日デモでいつも残念に思うのは、日系企業襲撃などの違法行為に対して中国政府が「法治」を放棄しているとしか思えない、無作為なことです。

 中国で「法」の持つ重みについて、考えてみたいです。

 まず民間の話。

 中国でビジネスをしている人には常識だと思いますが、中国のビジネスでは賄賂とキックバックがなかば常識といってもよいぐらい社会的に認知されています、日本の感覚だとお中元・お歳暮と同じぐらいの感覚と言ったら少し言い過ぎかも知れませんが、まあ罪の意識は極めて薄いのであります。

 私のクライアントは中国で工場を持っています。

 総経理(社長)以下幹部数名は日本人ですが、その他の社員はすべて現地採用でした。

 工場ですから当然製品を製造するために現地で原料を仕入れするわけですが、今からお話しするのは数年前の失敗談です。

 当時購買担当者は中国人だったそうですが、原料を仕入れする相手も中国の代理店でした、金額が大きいので1社に絞らずいつも仕入れのときは、複数の社に見積もらせてその中から適正な価格の1社を選択するのは日本人の部長が決済していたそうです。

 キックバックなど中国の悪しき慣習が付け込む隙のないよう日本式仕入れ方法を導入していたわけです。

 あるとき総経理(社長)がやはり日系企業の同業者と会食、たまたま仕入れ情報を交換したとき、同じ原料を同業者に比べて一割ほど割高に仕入れていることがわかったそうです。

 詳しく情報を押さえて驚いたことには、原料によってはその同業者と同じ中国の代理店から同時期に仕入れていたにもかかわらず、価格が一割ほど高いことが判明しました。

 代理店の中国人責任者を呼び出し問いつめると、案の定不正行為が発覚したのです。

 クライアントの購買担当者が複数の代理店に均等に約一割のキックバックを要求していたのです。

 しかも不正が日本人幹部に分からないように、談合まがいの価格設定を3社に事前に知らせ、順番に売り上げが立つように操作までしていました。

 総経理(社長)はすぐに不正の証拠を突きつけて中国人購買担当者を解雇しました。

 後日、総経理(社長)は情報を教えてくれた日系企業の同業者と会食してお礼とともにことの顛末を報告したところ、その同業者は、念のために、自分の社の購買担当者を調査したそうです。

 結果はその会社の購買担当者もキックバックをもらっていました。

 つまり、私のクライアントは購買担当者の不正行為により高く仕入れていたわけですが、仕入れ値が高いと情報を提供してくれていた日系企業のほうも、適正価格ではなかったのです、購買担当者の不正行為により高く仕入れていたわけです。

 一連の流れの中でその業界では日系企業には中国国内市場よりも原料を高く売る慣習が背景にあることが判明したのだそうです。

 中国にももちろん守るべき商法がありますが、賄賂(ワイロ)とキックバックは中国人の商取引ではまず発生していると疑ったほうがよいわけで、そこに遵法意識がほとんど存在していないのも事実のようです。

 「法」の持つ重みは無いといったら言い過ぎですが、いかに「法」の目をかいくぐるかの知恵比べには熱心ですが、「法」を守る者は正直の前に「馬鹿」が付く者という扱いになります。

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 中国政府の話に戻りましょう。

 中国人が「法」を軽視すること、これは戦後中国共産党一党独裁のもと、「法」が人々の生活を守ってくれたことが一度もない、つまり法治国家としての歴史が中国には事実上なかったことが大きい理由かもしれません。

 ノーベル賞受賞のニュースが遮断され画面が真っ黒になったそうですが、現在の中国政府の振る舞いもまさに「法治」国家というよりは、共産党による統治つまり「党治」国家と言うのがふさわしいのでしょう。

 今回の尖閣諸島問題でも、中国政府は船長解放を日本に強く要求してきましたが、一部で指摘されているように当初、中国政府は日本の司法制度に無知であった可能性があります。

 つまり中国同様、日本も政府の意思で「法」はどうにでもねじ曲げられるとふんでいた節があるわけです。

 余談ながらしかし我々日本も中国を批判しづらいのは、民主党政権は中国の圧力に屈し「法治」国家を放棄し超法規的に船長を解放してしまいました点です、民主党政権の超法規的施策は「党治国家」中国と実に親和する性質のものです。

 いずれにせよ中国が反日デモの違法行為を「法治」できないことは、ある意味で自明なことであります。 

 「党」が治める国において「法」の持つ重みは極めて軽いということでありましょう。



(木走まさみず)