木走日記

場末の時事評論

町場の零細経営者が「みんなの党」が主張するインフレターゲットに好意的な理由

 「みんなの党」が主張するインフレターゲット政策についての賛否をめぐる議論がネットで盛んであります。

 リフレーションを支持するいわゆるリフレ派とアンチリフレ派の議論は経済学の専門用語飛び交うものが多く、マクロ経済学など学んだことのない一般人には難解な議論が多く、アンチリフレ派の学者が日本経済がデフレから脱却できないのは「流動性の罠」状態だからだなどと説明されても、はてなんのことやら「さっぱりわかりまへん罠(苦笑)」って感じでありましょうか。

 経営コンサルを生業としている不肖・木走は、中小零細企業経営者の立場を勝手に代弁することが多いですが、私のクライアント達も社会保障や税金問題にはみな強い関心を持っていますが、こと金融政策に関しては我関せずの人が多いのも現実です、当然ながら日銀の中長期的な金融政策など直接今月の売り上げに響くわけではありませんから、株や為替の相場には関心があっても、日々経営に汲々としている経営者達の関心が高くはないのもやむを得ないのです、せいぜい関わるとすれば長期借入金の金利ぐらいでしょうか。

 そうはいっても私の見るところ経営者全体の総意としては「みんなの党」の主張するところ、インフレターゲットなどのリフレ政策には好意的ですね、この20年続くデフレ状態にみなさん閉塞していますから。

 ところで以前もお話ししましたが私は実は若い頃(独立前の某IT企業エンジニア)から最近まで日本銀行システム開発のお手伝いをしておりましたので、普通の人よりも日本銀行という組織についてよく知っているという自負があります。

 そこで今回は難しいアカデミックな経済学理論を抜きにして(というか、したくてもその能力は私には無いです(汗))、日銀をちょっと知ってる一人の町場の経営者として、「みんなの党」が主張するインフレターゲット論について直感的な議論をしてみたいと思います。

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 さきほど中小零細経営者達は総じて「みんなの党」の主張するリフレ政策には好意的と述べましたが、ただリフレ論者達と隔たりがないわけじゃないのです、経営者達はこの20年の日本の経済不調デフレ状態の原因を、直感的には日本の実業に参加している企業・国民自身に問題があったことを感じています、つまり自分たち自身の問題であり、これを日銀の金融政策の失敗に求めたりはあまりしません、これは経営者の気質の問題でもありますからある意味で理屈ではありません、なんにつけ他力本願や他者責任論は経営者にはじゃまなんです、あまり好かれないと言う面もあるかも知れません。

 またよく理解してはいない人が多いこともあるのでしょうが、中央銀行の金融政策にリフレ派の言うところの物価を都合良く押し上げるほどの力があるとも信じてはいないようです、これも直感的な話です。

 まあ信じてはいませんが、それでデフレが終わるならばそうなるんだったらいいなあ、と好意的なわけです。

 日本銀行の金融政策の失敗がもたらしたのかは理屈では知りませんが、町場の経営者達はここ20年続いているデフレ経済の恐ろしい面は日々の経営で骨の髄まで理解しています、はやくデフレから脱却したいと切望しております。

 町場の零細企業では多くの企業が無借金経営など夢のまた夢で、設備投資や運転資金で銀行からお金を借りています。

 商品を一生懸命売ってその代金で賃金を払い借金を返済しているわけです。

 デフレで安くしかモノが売れなくなり売り上げが減ったら、賃金も削らなくてはなりませんし、借金も予定通り返済できなくなります。

 経営者にとってデフレ経済の最悪なのは、デフレで売り上げは減っても元利金返済の負担はまったく減らない、ここに尽きるのです。

 したがってデフレになると借金返済ができない企業が続出し倒産件数が増えるのです。

 倒産件数が増えると言うことは銀行の立場で言えば不良債権が増えることを意味します。

 倒産件数が増えれば失業者も増加します、また生き残った企業も相当の人経費削減策を講じてますのでデフレ不況のもとでは失業率が高止まりすることになります。

 もし日本銀行が金融政策でインフレターゲットを導入して物価を好ましい水準のインフレにすることが、「みんなの党」の主張通り、本当に可能であるならば、それはありがたいと半信半疑でも多くの経営者は好意的に捉えているのです。

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 さて、日銀に例えば2%のインフレターゲットを政府が求めるとすれば、現行の「中央銀行の政府からの独立性」を認めている日銀法を改定する必要があります。

 ここからは個人的な意見ですが、リフレ派反リフレ派の議論は置いておきまして、私はこの政府の日本銀行に関する「干渉」政策を支持します。

 永年日本銀行という組織をシステム開発を通じて見てきて、私はその組織が極めて官僚的で硬直していることを痛感していました。

 ワークフローをこのように改善すれば合理的なシステムが構築できると提案しても、現場の担当者がそれを理解してくれてもなかなか上層部が「うん」といってくれません、理由に「前例にない」という意味不明な理屈を何度聞いたことでしょう、新システムなんだもの、前例なんかあるわけないのに・・・

 日本銀行が株式会社であることを知らない人が多いようですが、その筆頭株主は日本政府であり50%を有しています。

 残りの50%ですが多くの個人出資者で構成されています。

 株式会社でありながら日本銀行という組織は官僚機構とまったく同様のヒエラルキー階層構造が成立しており、将来総裁や理事になるエリートキャリアはどこの局でどのくらいの経験を積むか、まさに官僚のそれと同様の出世コースが定まっています。

 みなさんご存知の通り日銀出身の総裁は副総裁経験者がなるのが慣例なのですが、その大半が東京大学法学部卒なのも官僚組織と酷似してますよね、中央銀行幹部に経済学部出身者ではなく法学部出身者が幅を利かせるのも先進国では日本ぐらいではないでしょうか。

 法学部出身者が幅を利かせるからかどうかは知りませんが、日本銀行という組織はきわめて官僚的でありさきほどの「前例主義」の偏重もそうですが硬直的に私には映っていましたし、私が親しくしてきた多くの現場の日銀マン達もプライベートではそのようなグチをもらしていました。

 もし「みんなの党」の主張が正しく日本銀行の金融政策がこれまで消極的であり問題があったとするならば、私はこのような日本銀行の硬直した官僚的体質に問題があるのではないかと考えます。 

 政府による干渉によりインフレターゲットという中期的な目的を持たせることにより、また日銀外部に専門家による委員会を常設して日銀の取る金融政策を厳しくチェックすることによって、日本銀行の体質が改善されるならば、私はこれに賛成なのであります。



(木走まさみず)