木走日記

場末の時事評論

中小零細事業主が日銀当座預金マイナス金利導入(安倍氏)を支持するだろう理由

 28日付け日本経済新聞朝刊紙面17ページの経済コラム「大機小機」において、「マイナス金利という選択肢」と題して、自民党安倍晋三総裁のデフレ脱却に向けた日銀当座預金へのゼロ金利やマイナス金利の導入を求める大胆な発言が取り上げられていました(ネットでは非公開のようです)。

 経済紙である日経がコラムとはいえ経済学者に大不評の安倍さんの提案を肯定的に取り上げているのは興味深かったです。

 私自身、零細のITコンサル業会社を経営しているのですが、ときどき中小零細企業事業主を対象にしたセミナーの講師をさせていただいています関係で、中小零細業の経営者のみなさんとお話しする機会は多いです。

 28日もたまたま経営者の皆さんとの会合があったので、私はこのコラム記事を取り上げて会合の最後にみなさんの意見を伺ってみました。

 日本経済や政治の話題になりますと、町場の経営者の話は、知り合いの工場経営者が銀行の貸し渋りにあい自殺したなどといった生々しい話題が必ずといっていいほど出ますので、まあ経済学者や政治家などに対しては非常に批判的なのが常になります。

 「経済学者の予想など当たったためしがないじゃないか」

 「経済学者がよくわからん難しい数式でどんな予測を出したって、明日何が起こるかすらわからない。地震学者の地震予知と同レベルじゃないか」

 失われた20年とも表現される長期デフレの中で事業存続にもがく中小零細経営者にとって、ことほど左様に経済学者の評判は悪いのです。

 「日銀がどんなに金を流しても資金需要がないから金は動かないとか言っている学者がいるが、現実を見てない空論だ。内部留保を蓄えている一部大企業の話ですべてを語ってほしくないね、我々多くの中小零細には逼迫するほどの資金需要が潜在している。ただ、銀行は我々には貸し渋るんだ、リスクを恐れているから」

 「それはそうだろう、あまった金は銀行は日銀に預金する、100%安全でなおかつ0.1%の利子がつくからね、このご時勢で国債2年物と同じぐらいの利子がつくんだ、だれがリスクを犯して企業に貸し出すもんか」

 「そうだな、それで40兆の金が流通しないで無駄に眠っているんだ」

 「その意味で自民党の安倍さんの日銀預金マイナス金利案はいいんじゃないか」

 経済学者と同様にいやそれ以上に悪者にされるのは銀行です。

 中小零細企業家にとって銀行は「晴れたときに傘を借りてくれと言うのに、肝心の雨の時には貸してくれない」(景気がいいときは金を借りてくれと頼みに来るが景気が悪いと頼んでも金を貸してくれないの意味)「悪徳業者」扱いです。

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 中小零細事業主の視点からすると、経済学者や評論家から批判に晒されている安倍氏の金融緩和政策は意外なほど好評を博しています。

 経済学者の言うような過去の常識にとらわれていては、失われた20年をもたらした深刻なデフレからの脱却は到底不可能であることを、彼らは直感で感じているからでしょう。

 日銀当座預金をマイナス金利にする政策案も好評のようでした。

 月々の資金繰りに苦しんでいる中小零細企業主からすれば、市中銀行が日銀当座預金に40兆も預け入れ、その利ザヤ(0.1%とはいえ400億です)を得ているということは、中央銀行から銀行はノンリスクで補助金をもらっているに等しいと映ります。

 本来資金が必要な自分達に貸し出すべき金が中央銀行に眠っていると考えているのです。

 つまり銀行が健全な資金の循環を止めているのは、リスクを取らないで利ザヤが稼げる手段があるからだと彼らは考えるのです。

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 建設国債の全額買いオペについても日銀は、財政規律を破綻させ通貨の信認を傷つけ、円の暴落や金利の急上昇を招きかねず、ハイパーインフレに結びつくと説いています。

 また安倍総裁の出した日銀当座預金へのマイナス金利の導入は、銀行がコストをカバーするための貸出金利上乗せにつながるとの指摘もあります。

 しかし私自身も経験していることですが、この国の銀行の中小零細企業に対するリスク評価は超がつくほど保守的であり、多くの経営者は資金融資を受ける際、連帯保証人となることを要求され、返済が滞れば資産没収になりそれでも足らなければ自己破産します、先ほどの工場経営者の例のように少なからずの経営者が自殺に追い込まれます、絶望してではなく保険金で家族の生活を守るためです。

 日本の企業の9割は中小零細企業であり、労働者の8割がそこに就労しています。

 ここを活性化させなければ日本経済の復興は成しえません。

 日銀預金がマイナス金利となれば、そのお金が流動化することは間違いないでしょう。

 経済学者の言うような過去の常識だけでは何も変わらないことはこの20年が証明しています。

 日々実体経済の現場でもがいている事業主たちは、学者が机上で唱えている難しい数式理論は理解できないかもしれませんが、学者は決して有さない貴重な経験値を持っています、まさに人生を賭けた重大な経営決断に迫られ苦渋してきた経験です。

 彼らは、何事も過去の常識にとらわれていては変革はできないことを、経験から直感的に理解します。

 以上サンプルとしては小さすぎますが私が接した経営者達の反応から、多くの中小零細企業や自営業者は安倍総裁の日銀預金マイナス金利政策を支持をするだろうと私は予想しています。



(木走まさみず)