経済学者や政治家やマスメディアはデフレの真の痛みを自覚できてない
21日付け日経新聞記事から。
成長と財政両立しデフレ脱却目指す 国家戦略会議
2011/11/21 20:37政府の国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)は21日、12月にまとめる「日本再生の基本戦略」の本格検討に入った。経済成長と財政健全化を両立し、今後2年間でデフレ脱却を目指す方向で論点を整理した。
首相は会議で「中長期の国家戦略を考えたとき、欧州の危機を無視できない」と強調。「成長と財政再建の両立を図る。整合性がなくてはならない」と語った。
古川元久経済財政・国家戦略相は日本再生の基本戦略に盛り込む論点整理案を示し、了承を得た。マクロ経済運営の最大の課題を「デフレ克服」と位置付け、「復興特需の増加が見込める今後2年間」に政府・日銀一体で政策を総動員していく方針を明記。消費増税を含む税と社会保障の一体改革は「着実に取り組む」と重点を置いた。
「自由貿易の推進が極めて重要」とも指摘。成長政策を通じ、幅広い層の人々が成長の果実を享受できる「分厚い中間層の復活」を目指す方針も記した。
次回は12年度予算案の7000億円の特別枠「日本再生重点化措置」に入れるべき項目を議論。タイの洪水対策への日本の支援策も戦略会議で策定することになった。
政府の国家戦略会議が、マクロ経済運営の最大の課題を「デフレ克服」と位置付け、「復興特需の増加が見込める今後2年間」に政府・日銀一体で政策を総動員していく方針を明記しました。
また、消費増税を含む税と社会保障の一体改革は「着実に取り組む」と重点を置きました。
さらにTPP参加を意識したのでしょう、「自由貿易の推進が極めて重要」とも指摘しています。
なんだかなあ、「デフレ克服」は「最大の課題」であり、消費税増税も「着実に取り込む」と重点を置き、「自由貿易推進」も「極めて重要」だとしていますが、何やら政策のごった煮というかちゃんこ鍋状態なのですが、プライオリティがどこにあるのか、大変分かりづらい内容になってしまっています。
これらすべてを同時にこなす政治力が民主党政権にあるとは思えません、消費税増税にしろTPP参加にしろしっかりと議論するのはけっこうですが、政府が全力で今実行すべきは、大震災の復興事業を予算面でしっかり支えそれを内需拡大のテコとして、あわせて、デフレ対策、超円高対策に全力を上げ、この国の経済成長を輸出依存型ではなく内需拡大型の成長に変えることです。
デフレのもとでは、輸出依存型の成長ではそれが仮にGDP成長にいくら寄与したとしても、国民には還元されないことは前回のいざなぎ越え景気(2002年から5年9ヶ月続いたとされる好景気)の間に、大企業は過去最高益を挙げたにもかかわらず労働者平均所得は下がり続けたことからも統計的に証明されています。
貿易で得られた利益はすべて多国籍大企業にプールされ、そこではこれまた空前の内部留保金が膨らんでいるのです、国内には還元されていません。
デフレ下でTPPにより交易を活性化しても多国籍大企業に受益が集中するだけです。
まずデフレを止め、日本経済を内需型経済成長路線にしなければなりません。
TPPも増税もその後(あと)です。
私は中小企業や零細企業のITコンサル業をしていますが、経営者達の現場の苦悩を、いったい経済学者や政治家やマスメディアの何人が理解しているでしょうか。
日本経済は中小零細企業が支えているのです、この国の労働者の8割の雇用を支えているのが中小零細業です、ここを活性化しないで日本経済の復興はないのです。
デフレがいかに深刻な経済的病(やまい)なのか。
中小零細企業を守る立場からデフレの説明を試みます。
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デフレ、デフレーションはズバリ「モノの価値が下がり続けること」であります。
したがってデフレが続く世の中では消費が冷え込みます。
簡単な話、現在10000円で購入できるモノが、来月になれば1割引きの9000円で購入できるならば多くの消費者は購入を手控えるでしょう。
せっかくモノを買ってもその商品価値が値下がり続けるならば、多くの人・企業は必要以上のモノを購入することは手控えるはずです。
つまりデフレが続くとモノを購入したり投資したりするよりも何もしないでお金を持っているほうが賢いのです。
これを「経済合理性」といいます。
「モノの価値が下がり続けること」、これを言い換えれば「カネの価値が上がり続けること」と同値です。
したがって、あなたがカネをいっぱい所有しているお金持ちであるならばデフレは天国です。
ただ持っているだけであなたの購買力はどんどん増えて行きます。
もしあなたがカネを持っていない、逆に借金しかない貧乏人か零細企業ならばデフレは地獄です。
あなたはカネは持ってませんが借金(マイナスのカネ)を持っていますから、ほっておくとその重みは年々増え続けます。
デフレですからあなたの所得は伸びません、へたすると減少を続けます、でも月々の返済は待ってくれません。
これが庶民からみたデフレの正体です。
デフレは多くの庶民や中小零細企業にとって地獄なのです。
私のクライアント企業の実話をお話しましょう。
その企業も多くの中小零細企業のご多分にもれず運転資金を銀行から借り受けています。
しかしデフレ不況下、売り上げは下がる一方で、役員報酬を50%カットしたり人員整理をしてリストラしたり、本社事務所を家賃の低い所に移転したり経費節減に努めましたがそれも限界、借金の毎月の支払い負担に耐えることができず、ついに銀行に頼み1年間のリスケ(借金返済繰り延べ)をして、利息だけ払い元金の払いを止めてもらっています。
デフレの真の恐ろしさは、借金をしている庶民や零細企業に対してその牙を向けるところです。
これはこのデフレ不況の中、収入が不安定なのに住宅ローンを抱えているたくさんの善良な庶民にとっても同様なことがいえましょう。
収入は減るのに毎月の元利払いは変わらず、重くのしかかってくるのです。
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今、TPP参加や消費税増税の話がメディアを賑わせていますが、本来そんなことよりも日本経済を考えるならば、デフレ対策や超円高対策にプライオリティを置くべきなのですが、今の年率1%〜2%のデフレが続くことに「心地よい」人たちが日本のエスタブリッシュメントすなわち政策決定層にたくさんいますので、彼ら、財務省官僚や経団連それにマスメディア、そして悲しいかな民主党政権内でも、デフレ対策よりも、TPP参加や消費税増税に熱心なわけです。
今、経団連などの大企業は史上空前の内部留保金をセッセと溜め込んでいます。
デフレですからそのカネを国内に投資などしないで持っているほうが「経済合理性」があるからです。
ですからどんなにTPP参加して貿易量が増え経団連などの大企業が利益を得て日本のGDPが上昇しても、デフレである限り、そのカネは国内に還元されることはないのです。
論より証拠、2002年から5年9ヶ月続いた「いざなぎ越え景気」のとき、大企業は空前の利益を得ましたが、デフレ下のこの好景気、我々庶民にはまったく還元されませんでした、その期間も日本の労働者の平均所得は下がり続けたのです。
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いっぽうインフレになれば「モノの価値が上がり続けること」になりますから、「カネの価値が下がり続けること」と同値ですから、お金をいっぱい持っているお金持ちや大企業にはインフレは困りモノです。
カネをただもっているだけではどんどんその価値が下がってしまうからです。
インフレになるとお金持ちはモノに投資するようになります。
モノの価値が上がり続けるのですから、下がり続けるカネを上がり続けるモノに早めに変えたほうが得なわけです。
これも「経済合理性」といいます。
インフレになれば同じ理由で大企業も内部留保金を減らしてモノに投資するようになります。
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デフレ対策と円高対策は同根です。
一般論としてある通貨(カネ)の価値を下げるのは簡単で、お札をバンバン刷って市場にばら撒けばいいのです。
事実、自国通貨を下げたいアメリカもヨーロッパもバンバンお札を刷っています。
これを金融緩和といいます。
と同時に輸出産業主導ではなく内需主導の経済成長戦略をとれば、国内に多くのカネが流通するようになります。
震災復興策をテコに政府が需要を喚起しその予算はバンバン長期国債を発行し借金して、必要ならばその長期国債を日本銀行がドンドン買い取ればいいのです。
デフレがとまれば、円の価値は下がりますので「円高」も止まり、ゆるやかにインフレがはじまります。
インフレが始まれば、つまりカネの価値が下がり始めれば、お金持ちや大企業は投資に熱心になります。
ただカネを持っているだけではドンドン損をしてしまうからです。
こうして最初は政府による復興需要をきっかけにした内需拡大がうまく軌道に乗れば、カネが回り始めるはずです。
大切なことは政府がリーダーシップを取り長期国債を発行し大型予算を投入し復興事業を興し、国内に通貨を大量に流通させることです、それをテコにして内需拡大型の成長に持っていくことです。
デフレの元ではいくらTPPに参加したってカネは国内には回らないことは必至です。
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「借金しかない貧乏人と零細企業にとってデフレは地獄」なことを金持ちはわかりません。
経済の現場を知らない経済学者や政治家やマスメディアはデフレの真の痛みを自覚できていないのです。
(木走まさみず)