木走日記

場末の時事評論

木走教授のトンデモ講義〜「量子テレポーテーション」を考察の巻

 今日は与太話です。



●「量子もつれ」状態の転送に世界で初めて成功

 不肖・木走の敬愛する考古学者鮎川さんのブログから・・・

すげど!
 
光の粒で超高速演算、基幹技術に初成功、東大助教授ら
2005年 6月12日  ASAHI.COM
けた違いの超高速演算ができる「量子コンピューター」技術の根幹を支える、「量子もつれ」という状態を転送することに、古澤明・東京大助教授らが世界で初めて成功した。国際的に激化する開発競争の中で一歩先んじる成果だ。米物理学誌フィジカル・レビュー・レターズに発表した。
 量子もつれは、一つの粒子が持つ情報(状態)がわかると、その瞬間にもつれた関係にある別の粒子が持つ情報も決まるという関係にある。今のところ、量子もつれの状態の光子(光の粒)は、2個1組ずつしか効率よく作れない。
 古澤さんらは、もつれた光子を2組(4個)作った上で、うち1個の状態を「量子テレポーテーション」という転送技術で別の組の光子1個に、そっくり再現することに成功した。2組の量子もつれを結びつけたことを意味し、もともと関係がなかった離れた光子同士をもつれさせることを可能にした。
 この技術は、量子もつれを利用して高速計算を可能にする量子コンピューターの回路を、大規模に発展させるために欠かせない。古澤さんは「これからは、もっとたくさんの光子をもつれさせることもできる」と話している。
〈キーワード・量子コンピューター〉 現在のコンピューターと全く原理が異なり、電子や光子など極微の物質の世界で現れる、状態の重ね合わせという不思議な性質を利用する計算機。多くの情報を同時に表現することができ、粒子の数を増やすと計算能力が急激に上がる。実現すればスパコンで数千年かかる計算が数十秒でできるとされる。離れた粒子どうしを関連づける「量子もつれ」を制御することが開発のかぎを握ると考えられている。
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おっほん!
もちろん解ってるよね!
物理畑、元物理畑、物理専攻、物理専攻希望、元物理専攻希望の人。
あなたですよ!

おすえてけれ!!!



この調子でさ、常温核融合、できないかな?

世の中驚くことばかり!
http://blog.goo.ne.jp/melody777_001/e/8935f39b6bf7cc5a325e0a3878d8d2d2

 これはすごいことですね。朝日新聞によれば、古澤明・東京大助教授のグループが世界で初めて、人工的に「量子テレポーテーション」の再現に成功したということでありますが、いっきに夢の「量子コンピューター」実現に弾みがつくことでしょう。

 ん? 我らが鮎川先生が専門用語にお困りになっておられるようですね。しかたないなあ、よおし、今日は「量子テレポーテーション」について解りやすく考察しちゃいますか。

 例によって、トンデモない木走教授に登場願いトンデモ講義の形ですすめてまいりましょう。

 なお、不肖・木走は物理の専門家ではないので、内容の詳細の信憑性は保証の限りではありません。これは与太話であり、楽しんでいただければ幸いでございます。

●木走教授のトンデモ講義〜「量子テレポーテーション」を考察の巻

教授「はい、今日のメディアリテラシーの講義ですが、少し横道にそれて、最新テクノロジーである夢の「量子コンピューター」とそれをささえる「量子テレポーテーション」という技術について鋭く考察してきましょう」

学生「(ザワザワ)}

教授「ゴホン! 静粛にしなさあい。 以前にも話しましたが、物事を検証するという行為には狭い学問的垣根はないのです。メディアをしっかりリテラシーするためには、いかなる疑問にも自らの脳味噌でしっかり理論的に考える癖を身につけなければなりません。特にネットメディアを支えるコンピュータの最先端技術の概要を押さえておくことは、メディアをリテラシーするオーディエンス(聴衆)の、これからの死活的知識となるでしょう。だから、本日は「量子コンピューター」を徹底的に検証するのです!」

学生「(ザワザワ、とんでもない屁理屈だなあ)}

教授「(満面の笑顔で)大丈夫ですよ、諸君。今回もいっさい難しい数式を排して講義していきましょう。よろしいですね。」

学生「(シブシブ)は〜い」

●驚異的な性能向上を実現しているパソコンの基本素子

教授「さて、君たちが毎日使用しているパソコンですが、年々驚異的に性能が向上していますよね。その最大の理由はどこにあるのでしょう?」

学生「はい、技術が進歩して、その演算処理能力や演算処理速度が飛躍的に向上しているからです。パソコンの脳味噌にあたるCPUの能力向上が最大の理由だと思います。」

教授「たいへんよろしい。そうですね、CPU(中央処理装置)の性能が年々驚異的に向上しているのが最大の理由なのです。CPUはみなさんもご承知でしょうけれど、半導体集積回路と呼ばれている、手のひらにもチョコンと乗ってしまう小さなチップです。
 では、具体的にまいりましょう。どのような技術の向上で、CPUの処理速度は驚異的に向上しているのですか?」

学生「??? すみません、わかりません。」

教授「はい、それは驚異的に集積化技術が向上したことなのです。20年前、パソコンがようやく一般に普及し始めた頃、CPU内の基本素子の大きさは3マイクロメートル(1マイクロメートルは百万分の1メートル)の大きさでした。それが今では90ナノメートル(1ナノメートルは十億分の1メートル)と33分の1であります。つまり、同じ面積に詰め込むことのできるコンピュータ素子の数は、この20年でなんと1000倍以上増えたことになるのです。」

学生「すごいですねえ。これから将来もこの調子でどこまでも集積化は向上していくのでしょうか?」

教授「おお、鋭い質問ですぞ。問題はそこです。実は限界があります。現在の90ナノメートルは、原子の世界の単位で言うと900オングストローム(1オングストロームは百億分の1メートル)ですが、原子の寸法である2〜3オングストロームに近づいているのです。つまり、原子の寸法まで基本素子を微細化できるとしても、もう限界はすぐそこなのですよ。」

学生「そこで「量子コンピュータ」という夢の技術が考えられたのですね。」

教授「御意。すばらしい、トレビア〜ン! ところがただ微細化して速度を向上できるだけではなく「量子コンピュータ」は現状のコンピュータより桁違いに性能が向上することが期待されているのですよ。そのかぎをにぎる技術が「量子テレポーテーション」なのです。

学生「何ですか?「量子テレポーテーション」って?」

●「シュレーディンガーの猫」思考実験

教授「ここからは量子論のおさらいをしなければなりません。みなさんは量子論をどこまでご存知ですかな?」

学生「よくわかりませんけど、確かミクロの世界では、物質は「粒子」の性質と「波」の性質を併せ持つとかいう話と、物質がどこに存在するかは確率でしか示せないとかいう話を、高校の時習った記憶があります」

教授「よろしい。ここでは難しい数式は使わないで事実だけ押さえておきましょう。1910年代から20年代、光の本質をめぐって科学界で大論争が起こっていました。つまり光は「粒子」なのか「波」なのかですね。当時、相対性理論で脚光を浴びていたアインシュタインは光は粒子(光子と呼ばれます)であると主張していました。いくつかの物理現象が明らかに光が粒子であることを示していたからです。一方、オランダの物理学者ホイヘンスは、光の正体は波だと主張していました。それは、イギリスの物理学者ヤングが光の干渉という現象を発見したことで光が波であることを実証していたからです。」

学生「よくわからないのですが、光の干渉という現象がすなわち光が波であることを意味するのですか?」

教授「それはこういうことです。ヤングはスリット(窓)を2つ開けた板を通して、スクリーンに光がどのように投射されるのかを調べる実験をおこないました。すると驚くべきことにスクリーンには明るい部分と暗い部分が交互に並んだ干渉縞(かんしょうじま)ができたのです。この干渉は波に特有の現象であり、もし粒子ならば絶対起こらないモノだったのです。」

学生「それで光は波であるか粒子であるかの論争はどう決着したのですか?」

教授「いよいよ盛り上がってきましたね。この問題は、一人の天才物理学者が解決してくれたのです。1926年、「現代量子論の父」と呼ばれるオーストリアの物理学者シュレーディンガーは、物質のもつ波(物質波と呼びます)の伝わり方を計算する方程式、いわゆるシュレーディンガー方程式を発表したのです。この式の導くところは画期的なものでした。全ての物質は波としての性質と粒子としての性質を併せ持つこと、マクロの世界では波としての性質は極めて弱く無視できるが、ミクロの世界では波と粒子の性質が混在することが示されたのです。」

学生「物質は波の特性も粒子の特性も併せ持つのですね。」

教授「はい。ところが論争は収まらなかったのですよ。奇妙なことに、物質の波である物質波が干渉実験などの間接実験以外、どうしても直接実証できないのです。」

学生「どういうことですか?」

教授「さきほどの光の干渉実験でもそうですが、実際に光子ひとつひとつを観測しようとするとその瞬間、粒子として表れてしまうのです。 つまり人間が観測してない時は波として振る舞い、人間が観測した瞬間に粒子として観測されてしまうのです。」

学生「そんな馬鹿な・・・」

教授「はい、しかしシュレーディンガー方程式をドイツの物理学者ホルンが確率解釈と呼ばれる考え方で読み解いたのですが、その導かれる物質の姿はもっと厄介なモノでした。なんと物質が波である状態のときは、物質がどこに存在しているかはある確率でしか示されない、つまり物質波は位置を特定できないというものでした。」

学生「波の状態の時は位置がわからないのですか? そんなことってあるのかなあ」

教授「納得いかないのは当然ですね。この結論に当のシュレーディンガー自身猛反発をして、あの有名な「シュレーディンガーの猫」思考実験を掲げて大反論したのです。」

学生「箱の中の猫が死ぬのか生きるのかといった残酷な実験でしたっけ?」

教授「そうです。外からは内部の様子がまったくわからない鉄製の箱の中に生きた猫と放射性物質原子核崩壊発生装置を入れてふたをしておきます。1時間たった時猫は生きているか死んでいるのか、という思考実験です。
 1時間後にふたを開ければ猫が生きているのか死んでいるのかもちろんわかります。ところがシュレーディンガーがここで問題にした量子論の問題点は、箱を開ける前の猫の状態についてなのです。量子論によれば、原子核崩壊が起きたかどうかは誰も見ていないときは「まだ決定していない」と考えるのです。猫は「生きているとも言えるが死んでいるともいえる」、つまり両者がある確率で重なり合った状態であるということになります。」

学生「答えはどうなんですか?」

教授「興味深いことにこのパラドックスは未だどの物理学者も解決していないのですよ。ただ、量子論の考え方そのものを否定する学者は現在では皆無ですね。そもそもコンピュータの半導体素子自体が量子論のトンネル効果という現象を利用しているのですから、今日では世界中の学者が、物質波の存在とその位置が確率でしかわからない(不確定性原理といいます)ことを事実として受け止めています。」

●驚くべき「量子テレポーテーション」の実現

教授「いよいよ「量子テレポーテーション」の話になりますですよ。アインシュタイン量子論に懐疑的だったと言いましたが、皮肉なことに「量子テレポーテーション」の生みの親は、ある意味でアインシュタインなのですよ。」

学生「どういうことですか?」

教授「はい、量子論の「物質が波の状態の時はある確率でしかその存在位置を示すことはできない」ということに納得がいかないアインシュタインは他の2名の学者とともに有名な「EPRパラドックス」の思考実験を唱えました。少し装置を簡単にしてこの実験を説明いたしましょう。今外から全く内部を見ることができない箱の中に電子を一個だけ入れてふたを閉じます。さて電子は箱の左側にいるのでしょうか、右側にいるのでしょうか?」

学生「もうわかりましたよ。人間がふたを開けない限り、量子論によればある確率でしか電子の位置は示すことができないのですよね。つまり右にいるともいえるし左にいるとも言える状態であるということですね。」

教授「おおよい答えです。だいぶ慣れてきましたね。ふたを開けて観測すればその瞬間位置は確定するので左か右かどっちかわかりますが、量子論によればふたを閉じている限りは左右どちら側に電子があるかは決まっていないことになります。さて、アインシュタインの思考実験はここからです。今ふたを開けない状態のまま中央に仕切り板を落として箱を左右二つに切り分けます。そして片方の箱を地球から1光年離れた宇宙の彼方に持ち去ります。」

学生「ロケットでですか?」

教授「思考実験ですからね、この際手段は置いておきましょう。さて、地球にのこった片割れの箱を開けばその時、そこに電子が入っているのかいないのかは確認できますね。
ここで驚くべきことに1光年(光の速度でも1年掛かる遠い距離)はなれたもう一方の片割れの箱の中の状態も瞬時に確定してしまいます。
 つまり。地球に残った箱を開いたという情報が1光年の彼方の箱に瞬時に伝わり、向こうの箱の中の状態も確定させた、というわけです。
 この光よりも早い状態の伝達を「量子テレポーテーション」というのです。」

学生「ちょっと待って下さい。光より早い物質なんてこの世にないのではないのですか?」

教授「そうです。アインシュタインはこの思考実験を通じて、量子論が導く「量子テレポーテーション」などあるはずがないと、主張したのです。
 ところがですよ、みなさん。それから80年の歳月が流れた今日、新聞によれば、「量子テレポーテーション」が実験で実現されたというのですよ。」

学生「じゃあ、アインシュタインの思考実験が実際になされたのですね」

教授「1光年などという遠距離ではまだ実証されていませんでしょう。しかし、数光年か数センチメートルか距離の問題ではありません。

 光速を越える「量子テレポーテーション」の技術が実現したこと自体驚異的なことなのですよ。

 (目を閉じ、感動したおももちで)うーん、素晴らしきかな「量子テレポーテーション」」

学生「・・・」

教授「・・・」

学生「ところで教授、新聞報道によれば、実現できれば現在のコンピュータが数千年かかる計算が数十秒でできるとされているそうですが、具体的には「量子テレポーテーション」をどう制御して実現していくのですか?」

教授「そ、それは・・・(汗 (ばたばたと本を数冊めくりはじめる)

 僕の読んだ本には詳しくは書いてなかったけど・・・」

学生「やっぱし本の受け売りですねえ(爆笑 もう少しちゃんと調べてから授業してくださいよ。(苦笑 」

教授「(真っ赤な顔をして)今日の授業はここまで! (ドタドタバタン)」

学生「きばしり教授の授業だけど、だんだん暴走してきたね(笑」

学生「「量子テレポーテーション」並の暴走授業だね(爆笑」



(木走まさみず)

 お楽しみいただけたでしょうか?

 本日は「量子テレポーテーション」についての与太話でした。



(木走まさみず)

<参考文献>
量子コンピュータへの誘い 石井茂著       日経BP社
量子情報理論入門     林正人著       サイエンス社
量子のからみあう宇宙   アミールDアクゼル著 早川書房

<関連テキスト>
●木走教授のトンデモ講義〜「温度に上限はあるのか」を考察の巻
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050508/1115540077
●木走教授のトンデモ講義〜ホリエモン報道におけるメディアリテラシー
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050312