木走日記

場末の時事評論

[与太話]木走教授のトンデモ講義〜「カーナビ」の原理を考察の巻

kibashiri2005-07-21


 今日は与太話です。



●パソコンに魂吸われるパパ木走

 13日の荏原さんのところで朝日歌壇に載っている一首が紹介されていました。

パソコンに魂吸われる父よりも金魚の世話する父が好き

荏原仲信のブログ より
http://ebara.air-nifty.com/ebara/2005/07/post_b765.html

 この一首、イタクないですか(苦笑

 2児の父親でもある不肖・木走は、小学生の娘に「パパの恋人はパソコンね」と皮肉られるほど、四六時中パソコンの前に座っておりますので、この一首を読んだときには胸を抉られるようにアイタタタでありました。

 で、罪滅ぼしでもないのですが、先日ドライブがてら家族を連れてレストランに行ったのですが・・・



●お前はいったい誰の血を引いているんだ!〜車内で孤立するパパ木走

 以下車中での私と娘の会話です。

 「パパ、カーナビってどうして自分の場所がわかるの?」
 パパ木走「それはね、お空の上の衛星から電波を受信して自分の位置を算出しているんだよ。 GPSっていうんだ。」
 「へええ、衛星から誰か望遠鏡で覗いてくれてるんだ」
 「ちがうよ、衛星には人は乗っていないんだよ。(ヤレヤレ)」
 「だって、道路とかこんなに詳しくわかっちゃうんでしょ」
 「道路情報はここ(HD)の中にあらかじめ覚えてあるんだよ。地図情報システム(GIS)っていうんだよ」
 「・・・ じゃあここが赤くなっているのはなあに?」
 「あ、それはね、渋滞情報っていってね、混んでいる道を教えてくれているのだよ。」
 「やっぱり、お空の上から望遠鏡で見ている人がいるんだ」
 「・・・(バカか、お前は。誰の子だ? オレの子かヤレヤレ・・・)」
 「ママ、カーナビってすごいね、お空の上から覗いてくれてるんだってさ」
 ママ「そう、カナちゃんよかったね、勉強になったわねえ」
 「・・・(怒、 なにが勉強だ! アホかお前らは)」
 「(空を見上げながら)どこから見てるのかなあ?望遠鏡のおじさん」
 ママ「そうね、どこにいるのかしらねえ」
 「(ヤレヤレ) いいかい、カナコよくお聞き。お空の上には望遠鏡を覗いているおじさんなんていないんだよ。それに、渋滞情報はD−GPSといってFMで定期的に情報を流してくれているのであって、衛星は関係ないんだ。」
 「ちがうもん、おじさんがみてくれてるんだもん。(白けた顔で)パパってダッサーイ! ね、ママ」
 ママ「そうね、パパは夢がないわね、パソコンばっかりしてるとこういう人になってしまうのよ。カナコも気をつけないとね」
 「はーい」
 「・・・」

 ふう。

 論理的に物事を考えることができない人達との会話は本当に疲れますよね。
 娘よ、もっと、科学しなさい、科学を。



●木走教授のトンデモ講義〜「カーナビ」の原理を考察の巻

 そういうわけで、現代のカーナビシステムは、位置情報だけでなく渋滞情報も表示してくれてとても便利なのですがどのような原理で動作しているのか、今回は徹底的に考察してみましょう。
 GPSやGIS(地理情報システム)は、不肖・木走の本業専門分野でもありますので、お任せ下さいませ、解りやすくご説明いたしましょう。

 真面目にお話しても疲れますので、例によって、トンデモない木走教授に登場願いトンデモ講義の形ですすめてまいりましょう。

●木走教授のトンデモ講義〜「カーナビ」の原理を考察の巻

教授「はい、今日のメディアリテラシーの講義ですが、少し横道にそれて、最新テクノロジーである「カーナビシステム」とそれをささえる「GPS」「D−GPS」という技術について鋭く考察してきましょう」

学生「(ザワザワ)」

学生「教授! この授業毎回横道にそれてばっかりで一向にメディアリテラシー論が出てこない気がするのですが」

教授「静粛に! ゴホン、毎回何度同じことを言わせればいいのですか。いいですか、諸君、物事を検証するという行為には狭い学問的垣根はないのです。メディアをしっかりリテラシーするためには、いかなる疑問にも自らの脳味噌でしっかり理論的に考える癖を身につけなければなりません。空の上には望遠鏡を持ったおじさんなどいないのですよ!(昂揚してバンっと教壇をたたく)」

学生「シーン(何言ってるのかわからん・・・)」

教授「(満面の笑顔で)諸君。今回もいっさい難しい数式を排して講義していきますから、安心して下さいな。よろしいですね。」

学生「(シブシブ)は〜い」

ペンタゴンが開発したGlobal Positioning System

教授「さて、カーナビシステムですが、勿論自らの位置をほぼ正確に算出するGPSという技術を利用しているのですよね。このGPSというのはどのようなシステムなのでしょうか?」

学生「はい、詳しくは知りませんが、確かアメリカの軍事衛星を利用して、その電波を受信して位置を特定する技術のことだと本で読んだことがあります。」

教授「よろしい。GPSはGlobal Positioning System の略で全地球測位システムと呼ばれているモノです。このシステムは、1973年米国の国防総省ペンタゴンで開かれたブレーンストーミング会議から生まれたのです。GPSを構成するのは、宇宙に配置された24個の人工衛星ナビスターです。ナビスター衛星は大型の自動車ほどの大きさで、それぞれが12時間かけて地球の周りを周回しています。各衛星の軌道は、地上のどの地点でも常に四個以上の衛星の電波を受信できるように工夫されています。1978年に最初のナビスター衛星が打ち上げられて以来、総額120億ドルをかけて、1993年にシステムは本格稼働態勢に入りました。 当初、GPSは軍専用だったのですが、1988年から民間利用が許可されました。」

学生「ところで、その衛星をどう利用すると自分の位置がわかるのですか?」

教授「いい質問です。実はGPSの動作原理はとても単純なんですよ。それぞれのナビスター衛星は、絶えず地球に向けてデジタル電波信号を発信しています。この信号には、その衛星の位置情報と時刻情報が含まれていて、誤差は一秒の一〇億分の一以下という精密さなのです。 これは各衛星の時計には、原子時計が使われていて、標準時刻系(UTC)に正確に同期しているからなのです。」

学生「何故時刻情報を発信しているのですか?」

教授「はい、地上のGPS受信機は、ある衛星から受信した信号に含まれている発信時刻と自らが信号を受信した受信時刻との僅かな差を計算し、各衛星とのあいだの距離を逆算します。一個の衛星からの距離が解っても、自分の地上での位置はわかりませんが、3個の衛星からの距離が解れば、三角測量と同じ単純な計算で、その場所の経度、緯度、標高を正確に求めることができるわけです。実際には、誤差補正も含めて4個の衛星からの情報を計算に使用しています。」

学生「なるほど、時間差から距離を逆算して位置計算に利用しているのですね。」

教授「そうです。これによって、誤差10mの範囲で自分の位置を割り出せるようになりました。」

学生「え? 誤差10mのカーナビじゃ、道路からはみ出しちゃうじゃないですか。自分の家の車のカーナビはほとんど誤差が無いように感じられますけど」

●GPSの精度をグンとUPさせたD−GPSの登場

教授「残念ながら、私達の車に搭載されているようなGPS受信機ではそのぐらいが限界なのですよ。いろいろな技術的な問題があるのですが、たとえばGPS受信機側に正確な時計を持っていないことも誤差の原因のひとつです。原子時計はとても高価なモノですからね。 で、もっと精度をUPするために開発されたのがD−GPSです。」

学生「D−GPS?」

教授「Differential GPSのことです。位置の分かっている基準局が発信するFM放送の電波を利用して、GPSの計測結果の誤差を修正して精度を高める技術のことです。基準局でGPSによる測量を行い、実際の位置とGPSで算出された位置のずれをFM放送の地上波で送信することにより、GPS衛星からの信号により計測した結果を補正するのです。このD−GPSによっておおむね数m程度に誤差が軽減されるわけです。」

学生「ああ、だから今のカーナビにもFMアンテナが必要なんですね」

教授「トレビアーン。そのとおり。現在のカーナビはGPS受信機だけでなく、D−GPS用のFM受信機も搭載されているのです。でもそれだけじゃないのですよ。渋滞情報などの各種道路情報受信にもこのFM放送は利用されているのです。」

●FM放送で道路交通情報通信システム(VICS)も活用している

学生「カーナビに渋滞情報が表示されているのはとても便利なのですが、かねがねリアルタイムに表示されるのは不思議に思っていました。」 

教授「日本では道路交通情報通信システム(VICS)と呼ばれていますが、光ビーコン(主要幹線道路)、電波ビーコン(高速道路) 、FM多重放送(既設放送設備)の3つのメディアを媒体として、 渋滞情報や所要時間、事故・故障車及び工事規制情報、サービスエリア・パーキングエリアの満車・空車情報まできめ細かい道路交通情報が配信されているのです。これらのVICS情報を定期的に受信することによって、渋滞情報もほぼリアルタイムに表示されるというわけです。」

学生「カーナビって、すばらしい複合技術の結晶なのですね」

教授「そうです。ところで、山道や長いトンネルなどで一定時間GPS受信ができない場合でも現在のカーナビはほぼ正確に動作します。これは何故でしょうか?」

学生「??? どうしてなのですか?」

●長いトンネルでも自律航法システムで正確に動作

教授「はい、GPSの弱点はビルの影やトンネルの中ではGPS衛星の電波が受信できず、測位ができなくなることがあることです。現在のカーナビシステムでは自律航法システムが搭載されており、GPSが受信できなくても自分だけでもある程度位置をトレースできるようになっています。」

学生「自律航法システムって、どのような原理なのですか?」

教授「とっても簡単な二つの信号に頼っているシステムです。独自のジャイロセンサと、自動車から受け取る車速信号によります。
 ハンドルを切って進行方向を変えるとその角加速度がジャイロセンサで検出され、車の移動方向が相対的に認識できます。また車速信号により、車の相対移動距離がわかります。この2つの情報があれば、車の移動したコースをある程度トレースできるわけです。」
学生「ああ、長いトンネルを出たときなど、少しポジションがずれているときがあるのは、この自律航法システムの誤差なのですね」

教授「そうです。鋭いですな。まあ、いずれにしても現在のカーナビシステムは、GPS、D−GPS、道路交通情報通信システム(VICS)、そして自律航法システムと、現在の科学技術を総結集したすばらしいシステムなのですよ。もちろん、それらを統合して地図情報に反映しているGIS(地理情報システム)というソフトウエア技術が中核として搭載されているからこそ実現しているわけですがね。GISによる最短経路検索などとても便利ですよね。」

学生「うんうん(一同しきりに頷く)」

教授の携帯チャンチャカチャカチャカ、チャンチャンチャン♪♪笑点のテーマソングの着メロが急に鳴り出す)」

学生「ざわざわ、クスクス」

教授「(真っ赤な顔をして)い、いかん。奥さんに大根2本買ってくるように指示されていたのをすっかり忘れていた」

学生「(爆笑)」

教授「いかん、いかん、今日の授業はこれまで。いかん、いかん(ドタドタバタン)」

学生「やれやれ、教授の奥さんにはGPSは必要ないね(苦笑)」

学生「まったくだ、電話一本で用が足りるからね」

学生「これぞ完璧な他律航法システムだよな(爆笑)」

 今回はカーナビの原理を考察する与太話でした。

 お楽しみ頂けたでしょうか?





(木走まさみず)



<関連テキスト>
●木走教授のトンデモ講義〜「温度に上限はあるのか」を考察の巻
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050508/1115540077
●木走教授のトンデモ講義〜ホリエモン報道におけるメディアリテラシー
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050312
●木走教授のトンデモ講義〜「量子テレポーテーション」を考察の巻
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050614/1118722196