もし日本関連の船がピンポイントで狙われたと仮定した場合〜日の丸も掲げていないタンカーを日本関連と特定する能力はイランにあるのか?
中東のオマーン湾でタンカー2隻が攻撃を受けた問題です。
米政府は、イラン革命防衛隊(IRGC)がうち1隻の攻撃に関与したことを示すとする低画質の映像を公開します。
船体についているマークは、攻撃を受けた日本のタンカー「コクカ・カレイジャス(Kokuka Courageous)」と見られ、「イラン巡視船の乗組員が不発の吸着型機雷を船腹から除去する様子を捉えたもの」と米政府は説明しています。
(関連記事)
タンカー攻撃、「機雷除去するイラン軍」の映像 米が公開
2019年6月15日 8:18
https://www.afpbb.com/articles/-/3230111
これを受け米の同盟国である英国政府は、「われわれ自身による情報評価は、攻撃の責任がほぼ確実にイランにあるという結論を導くものだ。直近の一連の攻撃は、イランによる不安定化行動のパターンの上に成り立っており、地域に重大な危険を及ぼす」との外務省声明を公開します。
(関連記事)
タンカー攻撃、イランの責任は「ほぼ確実」 英外相
2019年6月15日 11:44
https://www.afpbb.com/articles/-/3230131
この米英政府の動きの中で日本のタンカー運航会社「国華産業」の堅田社長が記者会見をします。
会見で攻撃は「機雷ではない」と明言します。
(関連記事)
タンカー運航会社の社長、攻撃は「機雷ではない」
2019/06/14 21:37
https://www.yomiuri.co.jp/national/20190614-OYT1T50272/
同社によると、攻撃は2度ありました。
最初は日本時間13日正午ごろ、砲弾のようなものが右舷後部に着弾。外板を貫いて機関室に到達しました。艦橋では船員が後方も含めて監視していたといいいますが、不審船の接近などの事前情報は把握されていなかったといいます。衝撃による火花が発電機の燃料に着火したとみられ、機関室内で火災が発生しました。
乗船していたのはフィリピン人21人。互いの無事を確認した後、備え付けられた消火設備を動かして火を消し止め、船の損傷状況などを調べていました。
約3時間後、2度目の攻撃がありました。砲弾のようなものが右舷中央部の外板を貫通。同社が確認した映像では、円形の穴が外板に開いていました。艦橋にいた船員は何かが飛来する様子を目撃しましたが、何者が撃ったかは不明といいます。
2度の攻撃はいずれも1発ずつとみられます。水面より上に着弾したことから、同社は魚雷や機雷ではないとみています。米軍は、不発だった機雷をイラン側が取り外しているとする映像を公開していますが、だが機雷が取り付けられていた可能性について同社の堅田豊社長は「運航する船体に機雷を取り付けるのは普通に考えると難しい」と疑問視しています。
さてこの日本人オーナーの会見は、具体的かつ詳細であり乗組員の目撃証言もあり、米政府のイランによる「機雷」攻撃との説明と矛盾する内容であり、海外でも大きく報道されています。
インデペンデント紙は、「トランプ政権はオマーン湾の攻撃について「誤った」情報を提供している。日本のタンカーオーナーが指摘する」と速報しています。
Trump administration providing ‘false’ information about Gulf of Oman attack, says Japanese tanker owner
Chief executive of Japanese company operating Kokuka Courageous says 'flying objects' were cause of damage to vessel
https://www.independent.co.uk/news/world/americas/us-politics/trump-oman-gulf-tanker-attack-oil-japan-kokuka-courageous-strait-hormuz-a8958916.html?utm_medium=Social&utm_source=Facebook&fbclid=IwAR3dW2_vwVe3XKiMeMX64XEMmiVbNa7ERoeThe9sl11MFOHX3WEddLcHFKw#Echobox=1560522324
ワシントン・ポスト紙も「日本のオーナー(の説明)は、タンカーがいかに攻撃されたか、米国の説明と矛盾している」と速報します。
Japanese ship owner contradicts U.S. account of how tanker was attacked
By Simon Denyer and Carol Morello June 14 at 1:20 PM
https://www.washingtonpost.com/world/japanese-ship-owner-contradicts-us-account-of-how-tanker-was-attacked/2019/06/14/7ea347d0-8eba-11e9-b6f4-033356502dce_story.html?fbclid=IwAR3Ogr45l0MK9AU7oTRc_8EKV3KH5aSYqU16esd2ofTxDT1CutRDbi0UV_E&noredirect=on&utm_term=.cc8a7752a71a
さて整理します。
米中央軍が公開した映像には、国華産業運航のタンカーにイランの革命防衛隊の小型船が横付けし、不発だった「リムペット・マイン」(磁石などで船体に吸着させる爆弾)を外そうとしている――とする様子が映っています。
ただ、映像は白黒で鮮明ではなく、何をしているかは判然としません。米紙ニューヨーク・タイムズによると、米海軍のP8哨戒機が上空から撮影したものといいます。
トランプ大統領は14日、米FOXニュースに電話で出演し、「イランがやった。小型船(の映像)を見れば分かるだろ」と語りました。さらにリムペット・マインを取り除いたとの説明に関し、「証拠を残したくなかったのだ。やったのは彼らだ」と強調しています。
だがしかしこれらの米国の説明は、日本人オーナーの説明(現場の船員たちの目撃情報含む)と一見矛盾しています、攻撃は機雷ではなく何らかの飛翔体であった可能性が高いのです。
イランのザリフ外相は自国の関与を否定する根拠として「安倍晋三首相と(最高指導者)ハメネイ師による友好的な会談の最中に起きた」ことを挙げ、「不審」な出来事と指摘し続けています。米軍は「イラン革命防衛隊の小型船の活動」をイランが関与した根拠の一つとしていますが、米軍の主張通りであれば、ハメネイ師直属の軍事組織である革命防衛隊が、その最高指導者が「緊張緩和」を模索する首脳会談に臨んでいる日に、あえて水を差す行為に出た――ということになるわけです。
イランのメヘル通信は「緊張激化で誰が利益を得るのか」との視点の記事を配信。緊張状態が続けばサウジが米国製武器を大量に購入し続けると指摘し、武器を売りたい米国などの関与を示唆しています。
ここから個人ブログの推測です。
私はもし「日本」企業所有のタンカーをそれと知ってピンポイントに狙ったのだとすれば、この事件はアメリカもしくはその同盟国が関与していると推測いたします。
国旗も掲揚していないタンカー(日に数百隻が航行している海峡においてです)の情報を、イランの革命防衛隊は船舶の通信を傍受したり、船舶の位置情報を公開するサイト「マリントラフィック」をチェックしたりしていることは十分に考えられます。
だがしかし船の詳細な属性情報はイラン側で掌握できるすべはないと考えます、つまり「コクカ・カレイジャス(Kokuka Courageous)」が実質日本企業がタンカーオーナーであることをイランが攻撃時に得ていることは極めて困難であると考えられます。
「コクカ・カレイジャス(Kokuka Courageous)」が日本が関係するタンカーであることを承知した上でそれを攻撃することを可能するには、極めて高度の軍事(民間含む)情報データベースシステムが必要です、例えばエシュロンです。
エシュロン(Echelon)は、アメリカ合衆国を中心に構築された軍事目的の通信傍受(シギント)システムで、参加している国は、アメリカ合衆国、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドであり、英米同盟(UKUSA、ウークサ。United Kingdom & United States of America)とも呼ばれるアングロサクソン諸国とされています。
UKUSAは、1948年にアメリカとイギリスとの間でUKUSA協定が結ばれたことに始まり、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドは2次メンバーとして後に参加しました。アメリカ以外はイギリス連邦国家であります。
中東におけるエシュロン情報は、アメリカを介して同盟国イスラエルに流されているとの話はかねてより噂されておりました。
以上、もし日本のタンカーと承知したうえでのピンポイント攻撃ならば、その正確な情報把握はイランの関与よりも、アメリカないしはその同盟国の関与が、強く疑われると考えます。
もちろん日本のタンカーと承知していないランダムな攻撃でたまたま被弾したとするならば、イランの関与も可能性は否定できないと思います。
しかしです。
総じてアメリカ側とイラン側がこの局面でどちらがタンカーを攻撃してメリットがあるのか考えるとき、アメリカもしくはイスラエル含むその同盟国、さらにはイランと敵対するサウジアラビアなど「Bリーグ」諸国のほうが、アメリカにイランと戦争させその国力を弱めることにメリットを持っていることは自明であります。
さらに、アメリカに関しては、ベトナム戦争開戦時のトンキン湾事件、イラク戦争開戦時の大量破壊兵器保持情報、など過去「嘘の情報」を根拠に戦争を始めた「前科」があります。
あくまでも個人ブログの推測です。
現時点でイランもしくはそのシンパの攻撃と決めつけるのは尚早だと考えます。
米軍およびそのアングロサクソン同盟国(+イスラエル)の情報処理能力と、イラン軍のそれの大きな差を考えても、ここは結論を急ぐべきではありません。
日本の安倍首相がイランの最高指導者ハメネイ師と「緊張緩和」を模索する首脳会談に臨んでいるその日に、あえてピンポイントで日本のタンカーを攻撃し、最高指導者ハメネイ師の顔に泥を塗る・・・
そんな高度なことができる軍事組織は限られます。
ハメネイ師直属の軍事組織である革命防衛隊(ないしはその支配下のグループ)に、その動機も、ピンポイントで特定の日時で日本関連のタンカーを個別判別して瞬時に攻撃する能力もあるとは思えません。
(木走まさみず)