木走日記

場末の時事評論

"Pax Anti Sinica"の薦め〜アジアを赤く染めないために

 28日付けの朝鮮日報記事が興味深いです。

変容する中国外交:19世紀の被害意識捨てられぬ中国
朝鮮日報朝鮮日報日本語版
http://www.chosunonline.com/news/20101228000042

 うむ最近の中国の近隣諸国へ対する攻撃的対応は、「中国は19世紀半ばから20世紀初めにかけ、西側列強や日本に踏みにじられ、自尊心を傷つけられたため、被害意識を持つようになった」ためであり、「中国の外交政策はまだ過去の被害意識に基づいており、自分たちの問題を直視することに極端な拒否反応を見せ」ているという分析記事なのであります。

 で、この記事で特に私が注目したのが以下の分析部分。

 中国が周辺国に覇権外交を繰り広げると、韓国、日本、東南アジアの国々は中国から過去の日本帝国主義を連想する。イ・ジョンス先任研究委員は「近代日本は西側に感じた被害意識を隣国に対する膨張主義に変化させた。中国は日本帝国主義の過ちを繰り返してはならない」と述べた。

 中国が示す一連の周辺国への覇権外交は、過去の「日本帝国主義」を連想させるという、峨山政策研究院のイ・ジョンス先任研究委員の発言ですが、その発言内容の評価は後ほどとして、私が注目したいのはまったく同様な発言をアメリカ政府の元高官も最近発言している点です。

 26日付け日経新聞紙面記事「アジアは赤く染まるか」において、発言内容を含めて記事の当該部分をご紹介

 「中国が今やっていることは、第二次大戦中に日本がアジアで日本主導の大東亜共栄圏をつくろうとしたこととそっくりだ。彼らは中国版の大東亜共栄圏をつくろうとしている」。アジア情勢に通じた米政府の元高官は真顔でこう話す。
 例えばワシントンでささやかれている悲観的な筋書きのひとつはこうだ。
 中国のミサイルや空軍力の増強によって、在日米軍がより深刻な危険にさらされる。そんなとき、沖縄で米軍機の墜落事件が起き、反米感情に火がつく。米議会では在アジア米軍の縮小論が広がり、一部撤収が始まる。その空白を埋めるように、アジアは「中国圏」に染まっていく。

 26日付け日経新聞紙面2面「アジアは赤く染まるか」記事より抜粋

 うむ、「中国が今やっていることは、第二次大戦中に日本がアジアで日本主導の大東亜共栄圏をつくろうとしたこととそっくり」と真顔で発言する米政府元高官なのですが、かたや過去の「日本帝国主義」(韓国)、かたや「大東亜共栄圏」(米国)と使用している言葉こそ違いますが、両氏が主張したいことは明快ですね、今中国が行っていることはかつての日本帝国主義が唱えた大東亜共栄圏とそっくりであり、ようするにアジアを「中国圏」にしようという覇権主義そのものであると。

 ・・・

 「パックス・シニカ」(Pax Sinica)というラテン語の歴史用語があります。

 「パックス・シニカ」とは中国の覇権により維持された中国国内と近隣諸国の平和状態を指し、唐の時代にその全盛期を迎えています。

 中国こそ文明の中心であるという「中華思想」のもとで漢民族は周辺のさまざまな民族を吸収し一大帝国を築きます。さらに後進的な近隣諸国に対しては「朝貢」を要求し、中国の属国であることを認めさせています。

 さて過去の歴史用語であった「パックス・シニカ」でありますが、どうもこの21世紀の現在に、中国経済の急成長とともに急速な軍備強化を伴い復活しつつあるようです。

 一方。世界でソ連崩壊後のアメリカ一極体制いわゆる「パックス・アメリカーナ」がリーマンショック以来の世界不況によりその力の衰退が明白になりつつあります。

 アメリカの衰退で生じる力の空白を突いて中国がその勢力圏を膨張させる、東アジアにおいて「パックス・シニカ」、中国による覇権が復活しようとしてるとの分析は、興味深いです。

 我々日本は衰退していくが価値観は共有できる「パックス・アメリカーナ」と最後まで迎合するのか、あるいは危険で粗暴だが勢いのあるこの21世紀に復活した「パックス・シニカ」に迎合するのか、2者択一を迫られているとも言えましょう。

 たしかに同盟国アメリカの衰退は特に経済力において顕著であります。

 またアフガン・イラクで米軍は疲弊仕切っており、新たに東アジアで軍事衝突が起こるとき、その対処能力には疑問を持つ専門家も多いのが現状です。

 このような視点で考察する限り、日本はアメリカだけでなく、インド・オーストラリア・東南アジア諸国等の日本と同じ海洋諸国であり民主主義という価値観も共有でき、なおかつ対中国で利益を共有する地域諸国と力を合わせて「パックス・アメリカーナ」の衰退によるこの東アジア地域の力の空白をカバーする、それが新たなる「パックス・シニカ」東アジアの「中国圏」化を阻止する唯一の方策であろうと思います。

 つまり「パックス・シニカ」中国の覇権主義に対抗するには、アメリカとの日米同盟を要(かなめ)とした反中国諸国同盟による対抗勢力の構築、いわば「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきです。

 「パックス・アンチ・シニカ」の概念は、これまでの「パックス・ブリタニカ」(大英帝国)や「パックス・ロマーナ」(ローマ帝国)などに代表される一国による覇権というよりも、冷戦時代に表現された「パクス・ルッソ=アメリカーナ(Pax Russo-Americana )」(ロシアとアメリカ)と同様、複数国による平和維持になります。

 もちろんこのような反中国的名称で勢力結集を図ることは外交的には愚策でしょうから、現実には中国のいらぬ警戒心を煽らぬように構築されるべきでしょうことは言うまでもありません。

 21世紀に復活した中国によるむき出しの覇権主義、新たなる「パックス・シニカ」に、どう対峙するのか、日本政府は今歴史的決断を求められているのであります。

 私は、アジアを赤く染めないために、日本は静かに冷静に「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきだと考えています。



(木走まさみず)