木走日記

場末の時事評論

普天間問題を手遅れにした鳩山首相の問題解決能力の欠如

 22日付け琉球新報記事から。

地元不同意なら交渉せず 米政府、普天間移設で日本に伝達 
2010年3月22日
 【ワシントン共同】米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)移設問題をめぐり、米政府が「地元同意がない移設先の代案が出ても交渉できない」との考えを日本側に伝えていることが21日、分かった。日米関係筋が明らかにした。
 鳩山政権が最終提案として調整する複数の案はいずれも沖縄県側が反対姿勢を示しており、米側には同飛行場の継続使用で対応するしかないとの見方が広がっている。
 28日にも訪米する岡田克也外相がクリントン国務長官やゲーツ国防長官との会談で移設先を正式に提案した場合、米側は地元同意の重要性を伝え、交渉入りを拒む見通し。普天間飛行場の現状維持が続けば、在沖縄海兵隊8千人のグアム移転も棚上げされる可能性が濃厚で、「5月決着」を目指す鳩山政権は苦しい立場に追い込まれそうだ。
 米政府は2006年に日米合意したキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)への現行計画が「最善の道」と一貫して主張。一方で、首相が5月決着を決めた昨年12月以降、代案に関する条件を、(1)受け入れる地元側の同意(2)連立政権内の合意(3)海兵隊の一体運用の確保―とする対処方針を決めた。特に地元同意を交渉入りの条件として重視している。
(共同通信)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-159592-storytopic-53.html

 うーむ、この共同通信配信記事ですが、米政府は代案に関する条件を3つ日本側に伝えていることが日米関係筋より明らかにされたそうであります。

 3つの条件とは

(1)受け入れる地元側の同意
(2)連立政権内の合意
(3)海兵隊の一体運用の確保

 極めて厳しい条件ですね。

 「(1)受け入れる地元側の同意」だけでも、そんな場所、現在の所沖縄だけではなく日本列島見回してもありません。

 「(2)連立政権内の合意」も社民党がいるかぎり極めて厳しいですよね。

 これは事実上、米政府の鳩山政権に対する最後通知、太平洋戦争勃発のきっかけになったハルノートと同じですな、これ以上日本政府と話す必要はないと一気にハードルを高めてきたわけです、要するに米政府は「普天間飛行場の現状維持」やむなしと判断したと言うことです。

 ハル・ノートは、何とか日米戦争を避けようと日米交渉において日本側の当事者野村吉三郎駐米大使と来栖三郎特命大使が提示した日本側の最終打開案(乙案)に対する、アメリカ側の当事者であったコーデル・ハル国務長官が用意したアメリカ側から提示された交渉案でありました。

 その内容は、日本が日露戦争以降に東アジアで築いた権益と領土、軍事同盟の全てを直ちに放棄することを求め、具体的には日本の仏印(フランス領インドシナ)からの即時撤兵、日本の中国からの即時撤兵と海外租界と関連権益を含む治外法権の放棄が含まれていました。

 これは当時の日本政府としては到底のめる条件ではなく、日本側はこれを米国の最後通牒であると解釈、これ以降、日本は裏で対米開戦の準備しつつ、表では交渉を継続するという政策のもと、結果的には12月8日の真珠湾奇襲、太平洋戦争勃発に至るわけです。

 当時のアメリカはヨーロッパで破竹の勢いで勝ち続けるナチスドイツに対し、劣勢の同盟国イギリスに物資支援するにとどめ、しかもイギリス本国に物資を運ぶ貨物船はナチス潜水艦Uボートによって甚大な被害が発生していました、それでも軍隊を送ることはできずにいました、ヨーロッパの戦線に参戦はしていませんでした、当時米国国民には根強い戦争回避のムードが漂っていたからです。

 ご承知のように日本の真珠湾奇襲は米国市民の厭戦ムードを一変させ、米国大統領をして第二次世界大戦に米国を参戦させる絶好の機会を結果的に与えることになります。

 その意味でハルノートは米国による米国参戦のためにわざと日本を煽った陰謀だったという論も根強く語られています。

 陰謀論はさておき、この共同通信が伝える米政府の3つの条件が事実だとすれば、これは極めて厳しいハードルであり、米政府が事実上この問題でこれ以上鳩山政権と議論するつもりはなく、普天間飛行場の現状維持もやむなし、と判断していることを示すモノでこれは大変重い制約が突きつけられたと言えましょう。

 ・・・

 さて一方我らが鳩山政権ですが、22日付け毎日新聞電子版記事から。

普天間移設:鳩山首相、米に理解求めていく考えを強調

 鳩山由紀夫首相は21日、米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設問題での今後の米国との交渉について「(米国は)現行案がベストだと思っておられるだろうが、それだけにはとらわれない幅広い考え方を米国も持ち合わせていただけると思っている」と述べた。政府がまとめる新しい移設先案への理解を求めていく考えを強調した。東京都内で記者団に語った。

 連立を組む社民党福島瑞穂党首(消費者・少子化担当相)は同日、横浜市内で記者団に「『沖縄県民の負担軽減』という与党3党合意を実現すべく、すべての大臣が頑張ることを期待している。今の内閣は力を振り絞り、県内(移設)でない道を探るべきだ」と語った。【山田夢留、西田進一郎】
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100322k0000m010023000c.html

 「(米国は)現行案がベストだと思っておられるだろうが、それだけにはとらわれない幅広い考え方を米国も持ち合わせていただけると思っている」(鳩山首相
「『沖縄県民の負担軽減』という与党3党合意を実現すべく、すべての大臣が頑張ることを期待している。今の内閣は力を振り絞り、県内(移設)でない道を探るべきだ」(社民党福島瑞穂党首)
 ふう。

 なんだかな、ことがここに及んでも「それだけにはとらわれない幅広い考え方を米国も持ち合わせていただけると思っている」(鳩山首相)、その具体的根拠はどこにあるのでしょうか。

 このままだと最悪の「普天間飛行場の現状維持」と言う事態が待ち受けているのに、それは「『沖縄県民の負担軽減』という与党3党合意実現すべく」がんばるとおっしゃっている社民党福島瑞穂党首にとっても、『沖縄県民の負担』も現状維持という真逆の結果になりかねないことを、鳩山首相率いる鳩山政権はどう考えているのでしょうか。

 ・・・

 リーダーの条件はいろいろありますが、私がリーダーに必要な能力のうち、特に今の時代に必須だと考えているひとつが問題解決能力であります。

 リーダーは今組織が抱えている、あるいはこれから起ころうとしている問題を、まず正しく分析できなければなりません。

 問題を正しく分析できなければ、その問題を正しく解決する方法論を見つけだすことなど不可能だからです。

 通常問題を正しく分析する作業は、かなり苦痛を伴うモノです。

 それはそれまでの組織が抱えていた欠陥、あるいはスタッフが犯してきた過ち、リーダー自身の過去の指示ミスも例外ではなく、厳しく洗い出す作業を意味するからです。

 しかしこの分析作業をしっかりすれば有効な問題解決手段もおのずと見えてきますから、ここを手を抜くわけにはいけないのであります。

 リーダーは、自身も含めて組織の問題分析を冷徹にかつ徹底して行い、その上で問題解決策を講じなければなりません。

 問題を正しく分析しそして問題を正しく解決する、この流れの中でリーダにさらに求められるのは、迅速な決断力・リーダーシップであります。

 発生する問題の性質によってはまさに時間との戦いを要する、つまり早期に解決しないと取り返しのつかない大問題になるケースでは、何よりもリーダーの決断力が問われます。

 企業の不正発覚した場合が事例としては時間との戦いを要するケースにあたりましょう。

 商品に不備がありリコールに発展した場合、リーダーは問題を正しく分析しそして問題を正しく解決することが当然求められますが、ここでは何よりもリーダーの決断力が問われます。

 迅速に謝罪を行い徹底した情報開示(どのような不具合がありそれはなぜ発生したのか)を行い、善処する策(該当商品をどう回収するのかまた再発防止にどう取り組むのか)を速やかに公表しなければなりません。

 さて今説明したように、リーダーに求められる問題解決能力は、問題を正しく分析する能力、問題を正しく解決する能力、それらを迅速に行う決断力、この3点が重要なのであります。

 しかしどんなにこの3つの能力が長けていても次の能力がなければリーダー失格となります。

 それは問題発見能力です。

 ある事象に含まれるリスクを正しく見落とさないで発見し、それを問題とみなすことができるか、問題だとすればどこまで深刻な事態が想定されるか、つまり問題を正しく発見しそれの重大度を直感できるか、その能力こそ、リーダーに求められる問題解決能力の中でも一番重要だといえましょう。

 なぜならば、どんなに問題を分析する能力があっても、そしてそれを正しく解決する能力があっても、またそれらを迅速に行う決断力があっても、そもそもそれを問題だと発見する能力がなければ宝の持ち腐れであるからです。

 大阪の老舗店で不祥事が発覚した際、記者会見で従業員の責任に転嫁した経営者がいましたが、あのケースはまさにリーダーの問題発見能力の欠落による醜態だといえましょう。

 リーダーが起こっている問題の重大度を完全に勘違いしてしまった場合、当然ながら正しく分析もできないししたがって正しい解決策など見出せなくなるわけです。

 まとめますと、今日のリーダー求められる必須の能力のひとつに問題解決能力があります。

 問題解決能力は、問題発見能力、問題分析能力、問題解決能力、それらを迅速に行う決断力、と4つに細分化できます。

 どれも重要な能力ですが中でも問題発見能力は最も重要な能力です。

 起こっている事象を、問題であると理解できないリーダーや問題の重大度を判断できないリーダーは、それ以降の工程において致命的な判断ミスを起こしてしまう可能性が大きいからです。

 ・・・

 さて普天間問題に戻りますが、我らが鳩山首相に今日のリーダーに必須であるべき問題解決能力はあるのでしょうか。

 私は実は4つの問題解決能力のすべてで鳩山さんは落第点なのではないかと考えています。

 1.この問題の重大度を正しく認識していない(問題発見能力の欠如)

 2.この問題を正しく分析できていない(問題分析能力の欠如)
 
 3.この問題を正しく解決できていない(問題解決能力の欠如)

 4.それらを迅速に行うリーダーシップが全く示されていない(決断力の欠如)

 事態がここまで来るともはや手遅れですが、優秀なリーダーだったらこの普天間問題をどう解決したかふたつのケースで私なりに考えてみます。

 昨年のウチに大きな方針を決断しておくことが重要でした。

■ケース1:選挙公約の通り県外移転・海外移転する場合。

 沖縄県民との約束を守るため、県外移転・海外移転を全力で追求すると宣言します。

 あわせて前自民党政権が取り交わした米政府との約束を破棄することを国民と米国に公表します。

 公表の際米国には外交慣習に従い応分の謝罪の意を示します。

 米国への謝罪には鳩山氏自身が米国に自ら出向き、その真摯な姿勢を示します。

 県外移転なら受け入れ先自治体に特別交付金特級のメリットを与えるなどあらゆる施策を検討します、またグアムなどの海外移転ならば、米側にやはり破格のメリットを与える施策を検討します。

 県内移転にはいっさい目もくれず、最後までぶれずに追求します。

 首尾一貫して行動します、たとえ移転先がなかなか確定できなくとも、国民の支持は保たれることでしょう。

■ケース2:選挙公約に反し現行案でいく場合。

 政権を取り移転先を考慮したが現行案しか現実的解決策はなかったと、明確に沖縄県民との約束を破棄することを宣言し、県民・国民に謝罪します。

 謝罪には鳩山氏自身が沖縄に自ら出向き、その真摯な姿勢を示します。

 あわせて前自民党政権が取り交わした米政府との約束を守ることを国民と米国に公表します。

 沖縄県や受け入れ先自治体に特別交付金特級のメリットを与えるなどあらゆる施策を検討します。

 その他の県外移転にはいっさい目もくれず、最後までぶれずに追求します。(社民党が脱落してもです)

 首尾一貫して行動します、たとえ沖縄県民が反対し続けたとしても、国民の支持は保たれることでしょう。

 ・・・

 もし鳩山さんがケース1を取るならば、同盟国アメリカに対して毅然とした謝罪と状況説明と善後策を昨年のウチに決断して行うべきでした。

 「民衆主義にのっとり有権者と約束したことを履行するため貴国との約束を破棄します」と真摯にしかし毅然として表明すべきでした。

 必要なら謝罪も含めてです。

 もし鳩山さんが逆にケース2を取るならば、沖縄県民に対して毅然とした謝罪と状況説明と善後策を昨年のウチに決断して行うべきでした。

 「民衆主義に反し県民との約束を反故します、。同盟国アメリカとの約束を優先します」と真摯にしかし毅然として表明すべきでした。

 もちろん真摯な謝罪の意を県民・国民に示します。

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 いずれにせよもはや手遅れでしょう。

 今回は、普天間問題と鳩山首相を反面教師として、リーダーの持つ問題解決能力を考察してみました。



(木走まさみず)