木走日記

場末の時事評論

普天間問題「米国は過剰反応であり民主党の政策見直しは当然である」〜英ファイナンシャルタイムス社説

 12日付けのFT(英ファイナンシャルタイムス)の社説が、日本の民主党を擁護しアメリカの姿勢を批判しております。

Okinawa outcry
Published: November 11 2009 20:09 | Last updated: November 11 2009 20:09
http://www.ft.com/cms/s/0/91c5b446-cef9-11de-8a4b-00144feabdc0.html

 すでに有料記事扱いなので原文引用は避けますが、大変興味深い論説でありながら、日本のメディアではまだ扱われていないようなので日本語訳して読者のみなさまにご紹介しておきます。

Okinawa outcry(沖縄の叫び)

 日本新政府による沖縄南の米海兵隊ヘリコプター基地の移転先見直しの決定は、日米同盟において危険な亀裂を生じさせた。ロバート・ゲイツ米国防長官は、彼がこの遅滞に関してレクチャーしたとき、前任者によってなされた契約は守られなければならないと新政府に発言して、先月、日本当事者を怒らせた。国務省高官はどうもさらに踏み込んだ立場をとったようだ、ワシントンポストには、米国のアジアで最も問題の多い2国関係は、現在においては中国ではなく日本であると言っている。ナンセンスだ。

 公正にもジェフ・バーダー国家安全保障会議東アジア関係専務理事は、その匿名の意見は愚かしいと言った。 しかしながら、日米同盟を「より平等に」すべしとする選挙公約に基づく民主党の決定は、米国政府を明らかに驚愕させるものだった。
特に、米国国防総省は、普天間ヘリコプター基地を移転するという、いまだ実行されていない1996年の契約を、再交渉しなければならないという見通しであることに落胆している。

 米国は過剰反応している、金曜日に来日するバラク・オバマ大統領は大筋を認めるほうがいいだろう。 半世紀に渡って事実上継続してきた保守の自由民主党から政権を奪った新しい日本の政府が、徹底的な政策見直しを行うべきであるのは、まったく当然だからだ。

 あまり依存しない対米関係を構築するという野心は、実際に歓迎されるべきことだ。 米政府の旧態のままの対日交渉関係者は、自民党はたくさん約束したが少ししか要求した米国軍事作戦のサポート方法を実現してこなかったことを忘れているように思える。

 また、すべての事前合意はきわめて神聖であるというゲイツ氏の主張は正当なものではない。 ほんの数カ月前に、オバマ政権は、ポーランドチェコ共和国ミサイル防衛基地設置というブッシュ時代の計画を中止したばかりだ。

 確かに、前の取引を作るのに何年も費やした軍事戦略家にとって、普天間基地移転を見直しする民主党の決定は煩わしいことだ。 しかし、このことが戦後太平洋における安全保障に最も重要で有り続けた日米同盟の基盤をがたがたと揺さぶるという話は滑稽である。 とても短絡的であり、新政府を追い込むことによって、米国政府はまさに避けようとしている結果を生みかねない危険がありえる。いま少しの時間を掛けて思慮し民主党は実行可能な妥協に達することだろう。 オバマ氏はまさにそれをするための余裕を日本政府に与えるために、彼の外交テクニックを駆使するべきなのだ。

(要訳:木走まさみず)

 「米国のアジアで最も問題の多い2国関係は、現在においては中国ではなく日本である」との発言を「ナンセンス」と決めつけ、「米国は過剰反応している」と批判しております。

 「半世紀に渡って事実上継続してきた保守の自由民主党から政権を奪った新しい日本の政府が、徹底的な政策見直しを行うべきであるのは、まったく当然」なことなのであり、むしろ「あまり依存しない対米関係を構築するという野心は、実際に歓迎されるべきこと」なのだとまで主張します。

 実際自民党時代には「たくさん約束したが少ししか要求した米国軍事作戦のサポート方法を実現してこなかった」事実を米国側は忘れているのではないかと皮肉ります。

 「すべての事前合意はきわめて神聖であるというゲイツ氏の主張」も、「ほんの数カ月前に、オバマ政権は、ポーランドチェコ共和国ミサイル防衛基地設置というブッシュ時代の計画を中止したばかり」じゃないかと反論します。

 結論として、「普天間基地移転を見直し」することが「日米同盟の基盤をがたがたと揺さぶるという話は滑稽」であり、「とても短絡的」だと完全否定した上で、民主党政権を追い込むのではなく、そうではなく民主党が実行可能な妥協に達するように、オバマ氏は「余裕を日本政府に与えるために、彼の外交テクニックを駆使するべき」であると結んでいます。

 ・・・

 戦後こと安全保障政策に置いては一貫して盲目的に米国追従政策を貫いてきた鉄のアングロサクソン米英同盟を誇るイギリスの、なかでも影響力あるメディアから、普天間問題で、別に米国のいうことなんて聞かなくていいんだとほぼ完璧な熱烈支持の主張を受けた鳩山政権ですが、鳩山さんもさすがに照れてしまうのではないでしょうか、と思うばかりの論説であります。

 ただ、このFT社説から透けて見えるのは、「たくさん約束したが少ししか要求した米国軍事作戦のサポート方法を実現してこなかった」今までの自民党政権批判と、民主党の「あまり依存しない対米関係を構築するという野心は、実際に歓迎されるべきこと」であるとの主張から、安全保障面で今後日本にもっと自立的に負担を負わせようという意図から民主党の「より平等」な日米同盟関係という公約を逆に利用するべきという筋書きであります。

 欧米の一部の安全保障関係者がかねてより主張していた日本の安全保障負担はその経済規模からみて国際貢献の面で少なすぎるという論がこの社説の背景にあることは、私たち日本人としては留意しておくべきでしょう。



(木走まさみず)