木走日記

場末の時事評論

民主党政権がもたらす最大最悪の国際的後遺症〜「日本政府は信用できない」

 今回の東日本大震災福島原発事故において、その事後処理のまずさもあり国際的にもっとも信用を落としたのは日本国政府であります。

 横浜港運協会の藤木幸夫会長が、日本国政府がいかに海外からまったく信用されていないか、興味深いエピソードを話しています。

 22日付けJBPRESS記事から。

外国から信用されない日本政府。無政府状態より悪い

 横浜の港では現在、コンテナのすべてを1個ずつ放射線量測定しています。船は55カ国に向けて出ていくわけですが、「放射能の問題はありません」とはっきりと明言するために我々は独自に測定しているのです。

 測定を専門家に依頼すると費用がとても高いため、港で働く人たちに資格を取ってもらいました。講習を受け約300人が資格を取得しました。

 とはいえ我々は民間ですから、国によっては「民間の証明では信用できない」と言われるかもしれないので、日本政府の証明書を出すことにした。政府も、我々が測定したものについて政府の証明書を出すことを承諾しました。

 ところが、フランスやドイツ、ベルギー、デンマークの船会社が何と言ったか。「日本政府の証明書は要らない、信用できない」と。「横浜の港の人が測ったのならばそれでOKだ」と言うんです。

 普通は逆でしょう。「民間は信用できない」となるはずです。我々としてはそこまで言ってもらって、うれしいんだか、悲しいんだか・・・。

 要は日本政府に信用がないということです。外国から認められていない。これは無政府状態よりも悪い状態、マイナスです。いまの政府はない方がいい。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/15982?page=3

 うむ、外国の船会社から「日本政府の証明書は要らない、信用できない」と一蹴された日本国政府の証明書なのであります。

 後手後手を踏む対応の遅れや不誠実な情報公開などで、すっかり地に落ちた感のある日本国政府の信用なのですが、確かに震災や原発事故の対応の不始末で評判を下げているわけですが、そもそも震災前から民主党政権に国際的信用があったかどうかははなはだ疑問です、たとえば米国のベーダー前国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は、「東日本大震災の影響はあったにしても、日本政府がここまで弱体化したのは政治によるものだ」と喝破しています。

 24日付け東京新聞記事から(リンク切れしています)。

菅氏退陣なら訪米見直し 前ホワイトハウス高官

【ワシントン共同】米ホワイトハウスで4月までオバマ政権のアジア政策を取り仕切ったジェフリー・ベーダー前国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は23日、共同通信と単独会見し、菅直人首相が8月までに退陣した場合、9月前半に予定されている日本の首相のワシントン訪問は仕切り直しになるとの見通しを示した。

オバマ大統領は5月の日米首脳会談で9月前半の首相訪米を招請。ベーダー氏は、菅首相を招いたものとの認識を示し「招待状は譲り渡し不可だ。米大統領の時間は、米政府にとって最も重要な商品の一つだ」と強調、首相が交代すれば日程は見直されると説明した。

ベーダー氏は、菅首相が続投へ強い意欲を見せ日本の政局が迷走していることに「政策を着実に遂行できる強い日本政府を米国は望んでいる」と懸念。「東日本大震災の影響はあったにしても、日本政府がここまで弱体化したのは政治によるものだ」と指摘した。

最近まで米国の対日政策に直接関わっていた高官がこうした苦言を呈するのは珍しい。政局での消耗は日本の国際的影響力を弱めると警告。
ほぼ1年で首相が交代している現状にも言及し「継続性が重要」と訴えた。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011062401000788.html

 この前ホワイトハウス高官の話にはいかに民主党政権の信用がないかが理解できます、そしてそれは大震災の前からであると彼は指摘しているわけです。

 震災直前までの民主党政権の1年半の足跡を簡単に振り返って見ましょう。

 民主党政権が現オバマ米政府から信用されていないのは、鳩山前政権が普天間基地移設問題について日米合意事項を無視して以来のことです、思い出してください、鳩山前首相の昨年1月の演説から。

 普天間基地移設問題については、米国との同盟関係を基軸として、わが国、そしてアジアの平和を確保しながら、沖縄に暮らす方々の長年にわたる大変なご負担を少しでも軽くしていくためにどのような解決策が最善か、沖縄基地問題検討委員会で精力的に議論し、政府として本年五月末までに具体的な移設先を決定することといたします。

第174回国会における鳩山内閣総理大臣施政方針演説
http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/statement/201001/29siseihousin.html

 昨年「五月末までに具体的な移設先を決定する」と言い切り、オバマ大統領に「トラストミー」と言い「腹案がある」としながら、結果この公約は守られずそれから一月後には退陣しております。

 鳩山前首相のした国際公約や国際的提起はほかに二つあります、ひとつは二〇二〇年に、温室効果ガスを一九九〇年比で二十五パーセント削減するとの目標を掲げたことです、やっかいなことにこのときの演説は世界各国で高く評価されましたが、今となっては日本がこの公約をいつ放棄するのか、時間の問題とされています。

 また鳩山前首相は、就任当初の所信表明演説で、東アジア共同体構想を大々的に提唱しましたが、これもアジア各国からは実現性も含めてほぼ無視され、米国の民主党政権への不信感をより強めただけで終わっています。

 鳩山政権を引き継いだ菅民主党政権ではどうか。

 就任直後の参院選で、菅首相は唐突に消費税10%への引上げを打ち出します。

 また、新成長戦略実現会議(議長・菅首相)の初会合では、菅首相は、出席した全閣僚に対し、企業の国際競争力を高めるため、主要国に比べて高い法人税の実効税率の引き下げについて、年末までに結論を出すように指示いたします。

 これらは民主党が標榜し、それまで国民が期待していた国民生活重視の政策からと大きく矛盾するものです。

 首相自身この半年前の1月21日、副総理兼財務相として衆院予算委で、増大する社会保障費を賄うための消費税増税について「逆立ちしても鼻血も出ないほど、完全に無駄をなくしたと言えるまで来たとき、必要であれば措置をとる」と述べ、無駄削減を徹底した上で検討する考えを示していたのにです。

 選挙期間中不人気を意識してか早くも迷走をはじめ、年収200万か300万か400万か、かれの頭の中でも良くわかっていないらしい一定額の所得以下の国民には消費税を全額還付するといい始めますが後の祭り、ご存知のとおり、民主党は大敗いたします。

 今年一月の所信表明演説で、菅総理はこれまた唐突に、「平成の開国」、「最小不幸社会の実現」、そして「不条理をただす政治」の3つの方針を打ち出します。

 「平成の開国」では環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加の判断を今年六月末までに方針を固めるとしました。

 また「最小不幸社会の実現」ではやはり今年6月までに社会保障改革の全体像と消費税を含めた税制抜本改革の基本方針を示すとしました。

 税制抜本改革の基本方針の案はなんとかとりまとめたものの具体的日程は骨抜きであり、TPP交渉にいたっては先送りとなったまま、今現在議論さえされていません。

 鳩山政権、菅政権と続いた民主党政権のもとで、「日本政府」は数々の公約や提起を国内外に対してしてまいりました。

 ・2020年までに温室効果ガス25%削減(鳩)
 ・東アジア共同体構想(鳩)
 ・普天間基地移設先は最低でも「県外」(鳩)
 ・消費税10%引き上げ(菅)
 ・法人税実効税率引き下げ(菅)
 ・環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加(菅)
 ・自然エネルギーを2020年に20%に引き上げる(菅)

 これらの看板政策の中で実現された政策はあるのか、私の見たところ実行されたのは皮肉なことに法人税実効税率引き下げぐらいのものです。

 民主党政権はここ2年、実現できもしない政策を唐突にぶち上げ国内外に表明し、その後撤回したりうやむやにすることを繰り返してきました。

 そして思いつきというかそれまでの政党としての公約と矛盾する内容も少なからずあります。

 できもしないことを大声で自慢し、その実現性を問われても責任ある回答を用意していない、こんなことを繰り返している人間がいたならば周囲から信用されることはないでしょう、誰もその人間の発言を真に受けなくなり、その人間はしまいには無視されることになるでしょう。

 この2年間の民主党政権のしてきたことはまさにそういうことです。

 「日本国政府」の信用を国の内外で失墜させてきたのです。

 国内はまだいい、日本国政府民主党政権の等式が成立しますので、国民の意識下では民主党の信用失墜にリンクしています。

 問題は海外です。

 間違いなく信用失墜したのは民主党政権ではなく「日本国政府」であるからです。

 例えばスペインの首相の名前がサパテロであり所属する政党が社会労働党(PSOE)であり2004年3月から7年も首相にあることなど、日本ではよほどの国際通でなければ誰も知らないように、世界では「民主党政権」ではなく「日本の政府」としか認識がないのであり、「日本国政府」の信用が正に失墜してきたわけです。

 人間でも国でも同様ですが、信用を得るには長い時間が必要ですがそれを失うのはあっという間です。

 そして一度失った信用を再び得ることは至難の業であります。

 その意味で「日本国政府」の信用失墜問題は、福島の放射能汚染問題と似ています。

 どちらも目には見えませんが確実に汚染(信用失墜)は広がりを見せておりその除染(信用回復)には長い時間が必要であります。

 目には見えませんがこの問題はこの2年の民主党政権がもたらす影響の中で、国際的には最大最悪の後遺症となるかも知れません。



(木走まさみず)