木走日記

場末の時事評論

再生エネ法案はただの経産省焼け太り「悪法」である〜「費用負担調整機関」ってなんだ?

 経産省主導の、再生エネ法案(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案)がいよいよ国会で今週から修正協議を本格化することになり、早ければ月内成立を目指すとされています。

 本法律案は、経産省のサイトに寄れば、「エネルギー安定供給の確保、地球温暖化問題への対応、環境関連産業の育成等の観点から重要な再生可能エネルギーの利用拡大を図るため、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を導入するため」のものであります。

電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案について
http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003.html

 菅総理大臣自ら退陣の条件の1つに挙げているほど執着する再生可能エネルギー買い取り法案でありますが、上記経産省サイトの要綱や条文を精読すると、この再生エネ法案は、既存電力会社の地域独占体制を維持することが前提となっております。

 経産省主導のこの再生エネ法案では、買取対象の発電事業者からまずその地域の電気事業者が買取費用の支払いをしますが、そのお金は「費用負担調整機関」なる新たな団体から交付されることになっています。

 逆に需要家からサーチャージはその地域の電気事業者に回収されますが、このお金も「費用負担調整機関」なる新たな団体に一旦納付されることになっています。

 この法案の基本的スキームを図示すると以下のとおりです。

 なぜ「費用負担調整機関」なる団体をからませるかといえば、経産省の説明によればサーチャージ負担を全国平等にするためだそうです。

 上図で説明を試みますと、左側の電気事業者Aの地域では「電力需要家」は少なく「買取対象発電事業」が大きいために、このままでは需要家一人当たりのサーチャージ負担が大きくなり、逆に右側の電気事業者Bの地域では「電力需要家」は大きく「買取対象発電事業」が小さいために、需要家一人当たりのサーチャージ負担が小さくなり、このままでは地域による負担金が不平等になってしまいます。

 そこで「費用負担調整機関」なる団体にすべてのサーチャージを一旦納付したうえで調整して各発電事業者に交付することとしたわけです。

 このややこしいカラクリには2つの狙いがあると私は穿っております。

 ひとつは現在の電気事業法の悪しき温存、すなわち電力自由化封じのために既存電力会社10社による地域独占体制を保持することです。

 この法案の基本スキームは前提として地域独占の電力事業者有りきなのです。

 もうひとつは経産省の電気事業における権益拡大、すなわち経産省管轄の法人「費用負担調整機関」の新設にあります。

 法案の条文第十七条には、「費用負担調整機関」とは「一般社団法人、一般財団法人その他政令で定める法人であって、次項に規定する業務(以下「調整業務」という。)に関し次に掲げる基準に適合すると認められるもの」と定義されています。

第四章費用負担調整機関
(費用負担調整機関の指定等)
第十七条
経済産業大臣は、一般社団法人、一般財団法人その他政令で定める法人であって、次項に規定する業務(以下「調整業務」という。)に関し次に掲げる基準に適合すると認められるものを、その申請により、全国を通じて一個に限り、費用負担調整機関(以下「調整機関」という。)として指定することができる。
一調整業務を適確に実施するに足りる経理的及び技術的な基礎を有するものであること。
二役員又は職員の構成が、調整業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。
三調整業務以外の業務を行っている場合には、その業務を行うことによって調整業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。
四第二十七条第一項の規定により指定を取り消され、その取消しの日から二年を経過しない者でないこと。
五役員のうちに次のいずれかに該当する者がないこと。
禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
ロこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反したことにより罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003-5.pdf

 なんのことはない経産省管轄の巨大法人の誕生を意味しているわけです。

 つまりこの法案は、電力会社の地域独占体制は温存され、「再生可能エネルギーの利用拡大」の美名のもとで、逆に経産省の権益が拡大するというただの経産省焼け太り「悪法」であることが理解できます。

 現在の電力10社による地域独占体制をやめて発送電分離し、発電部門は自由化、送電部門は統合化し公社化、そのうえで今回の再生エネ法案スキームを構築すれば、「費用負担調整機関」というよくわからない経産省外郭法人など必要なくなります。

 公社化された電力会社の送電部門が直接、発電会社と電力需要家とやり取りすればいいだけです。

 電力会社の地域独占を廃止し発電事業を自由化、併せて送電事業を統合公社化すれば、再生エネ法案のスキームもずっとすっきりした合理的なものになるはずです。

 今の再生エネ法案は、電力会社の地域独占体制を温存、あわせて「費用負担調整機関」なるなぞの法人による経産省の権益拡大、電力自由化とはおよそ真逆の悪法であります。

 これではただの経産省焼け太り「悪法」であります。



(木走まさみず)