木走日記

場末の時事評論

民主党「文化大革命」の生贄(いけにえ)にされそうな科学技術予算

民主党の「文化大革命」(仙谷大臣)こと「事業仕分け」は日本の科学技術力を停滞させるのか

 13日付け毎日新聞記事から。

仙谷行政刷新相:「仕分け後、政治判断」−−毎日フォーラムシンポで

 毎日新聞の政策情報誌「毎日フォーラム−日本の選択」のシンポジウム「政治は変わったか〜民主政権の課題と自民再生への展望」が12日、東京都内で開かれた。

 仙谷由人行政刷新担当相は、「事業仕分け」について「予算編成プロセスのかなりの部分が見えることで、政治の文化大革命が始まった」と意義を強調。そのうえで「見直し、縮減との結論が出た項目でも、予算を付けなければならないことも出てくる」と述べ、最終的には仕分け結果の当否を政治判断する考えを示した。自民党石破茂政調会長は「スピーディーだが、乱暴だ」と指摘し、拙速な議論にならないよう求めた。

 飯尾潤政策研究大学院大副学長らも加わり、約400人が参加した。【坂口裕彦】

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20091113ddm002010039000c.html

 連日の報道で一部から「これじゃ公開人民裁判じゃないのか」と批判されている仙谷由人行政刷新担当相率いる行政刷新会議の「事業仕分け」ですが、仙谷氏自ら「政治の文化大革命」とあり得ない(苦笑)比喩を使ったんではしょうがありませんなあ。

 本家の中国の「文革」では後に、江青張春橋姚文元王洪文の「四人組」が糾弾されることになるわけですが、民主党の「事業仕分け」が「文化大革命」だとするならば、さしづめ蓮舫さんあたりが江青女氏にあたるということになるのでしょうか。

 蓮舫さんのあの詰問調質問は、月夜の夜ばかりじゃないから気を付けてね、と確かに老婆心ながら心配(苦笑)になります。 

 冗談はさておき、で、世間の注目を浴びてるこの「事業仕分け」でありますが、ここへ来て科学技術開発の予算に踏み込み始めまして、また一段と世論巻き込んでの騒動となってまいりましたネ。

 13日付け朝日新聞記事から。

次世代スパコン「予算削減」 事業仕分け3日目

2009年11月13日13時23分

 来年度予算要求の無駄を洗い出す行政刷新会議の「事業仕分け」は13日、3日目の作業に入った。文部科学省所管の「次世代スーパーコンピューター」の技術開発(概算要求額約270億円)は、財政難などを理由に予算総額の削減を求めた。地方交付税については、仕組みが複雑で非効率な予算執行があるとして「制度の抜本的な見直しを行う」と結論づけた。

 独立行政法人理化学研究所が開発を進める次世代スパコンは、世界最高レベルの演算性能を目標に12年度の完成を目指し、神戸市のポートアイランドで建屋の建設が始まっている。これまで、今年度分を含めて計545億円の国費を投入。完成すれば、大気や海流など地球レベルの気候変動の予測や、地震による災害シミュレーションなどの研究のほか、ナノテクノロジー分野での産業利用などが見込まれる。

 だが、仕分け人は「国民の目線で言うと世界一にこだわる必要があるのか」などと指摘。研究所側は「サイエンスには費用対効果がなじまないものがある」と反論したが、来年度予算の計上を見送るなどの予算削減が必要とした。

(後略)

http://www.asahi.com/politics/update/1113/TKY200911130175.html

 17日付け朝日新聞記事から。

民共同開発のGXロケットは「廃止」 事業仕分け

2009年11月17日11時33分

 来年度予算要求の無駄を洗い出す行政刷新会議の「事業仕分け」は5日目の17日、文部科学省の所管で官民共同開発を目指す中型ロケット「GX」(概算要求額58億円)について、来年度の予算計上を見送り、事業を「廃止」するよう求めた。液化天然ガス(LNG)を使った新型エンジンの開発に見通しが立たず、今後も巨額の国費を投入して開発を続けることは「不適切」と判断した。

 GXは気象衛星通信衛星などを打ち上げるためのロケットで、宇宙航空研究開発機構JAXA)が03年に開発に着手。来年度はLNGエンジンの開発費用として、58億円を要求している。エンジン開発にはこれまでに、民間出費分を含めて約700億円を投入。450億円で開発できるという当初の見込みから大きく膨らんでいる。完成させるには「約800億〜1400億円の追加投入が必要」とされている。

 GXロケットの開発については、会計検査院も「開発費の見通しが明確でない。不適切だ」などとしてJAXAに見直しを要求。財務省は「国産ロケットの主力はH2シリーズであり、開発を中止しても日本のロケット政策に影響はない」としていた。

 国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運んだ日本初の無人宇宙船「HTV」については、事業の必要性は認めたがコスト削減の余地はあるとして、予算を10%程度、削減するよう求めた。

 また、厚生労働省所管で社会福祉施設や医療施設整備を支援する独立行政法人福祉医療機構について、非効率な運営形態を見直した上で、基金約2800億円を国庫に返納するよう結論づけた。

http://www.asahi.com/politics/update/1117/TKY200911170244.html

 うーむ、文部科学省所管の「次世代スーパーコンピューター」の技術開発も、官民共同開発を目指す中型ロケット「GX」も予算計上見送りですか、理由は「国民の目線で言うと世界一にこだわる必要があるのか」(仕分け人)と「開発費の見通しが明確でない。不適切だ」(会計検査院)あたりだそうですが、これでは「科学立国ニッポン」はどうなるんでしょうとの懸念が一部から当然出るでしょうね。


 本家の文化大革命が中国の社会資本を10年停滞させたのと同様、民主党のこの「文化大革命」(仙谷大臣)こと「事業仕分け」により、日本の科学技術力が長期に渡り停滞してしまいかねない、と。

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●「次世代スパコン 戦略なき開発凍結に異議」〜お怒りの産経社説をプチ修正

 案の定と言いますか、産経新聞は17日付け社説にて、スパコンの開発凍結方針を批判しております。

【主張】次世代スパコン 戦略なき開発凍結に異議
2009.11.17 03:11

 政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)が来年度予算の概算要求をめぐる「事業仕分け」で、官民共同の次世代スーパーコンピュータースパコン)開発計画を事実上凍結した。
 予算の無駄を省くことは必要だが、スパコンは自動車や航空機の設計のほか、地球温暖化の予測、生命科学研究など幅広い分野で使われる。日本の国際競争力を左右する事業であり、科学技術の中核的な基盤だ。日本が今後、世界で存在感を発揮するためにも継続して開発を続ける必要がある。科学技術の総合戦略もなしに凍結するのは極めて疑問だ。
 次世代スパコン文部科学省傘下の独立行政法人理化学研究所が中心となり、民間と共同で毎秒1京(けい)(1兆の1万倍)回という世界最高速の計算速度を目指して開発を進め、来年度に約267億円を要求していた。
 ただ、今年5月には民間から参加していたNECと日立製作所が自社の業績悪化を理由に撤退した。このため、理化学研究所は残った富士通と設計を変更したうえで平成22年度の一部稼働、24年度の完成を予定していた。
 今回の事業仕分けでは「世界一でなくてもよい」などと指摘され、それが凍結の理由になったという。金メダルを目指して必死に競争しなければ、違う色のメダルさえ獲得することはできない。世界一の競い合いに初めから脱落しているようでは、日本の将来について暗澹(あんたん)とした思いを抱かざるを得ない。
 世界のスパコンランキングによれば、現在の日本最速であるNEC製の「地球シミュレータ」が22位にとどまっている。同機で7年前には世界1位の記録を打ち立てたが、今はIBMやクレイなど米国勢が上位を占めている。次世代スパコンにはこれらを追撃する役割が期待されていた。
 NECの撤退に伴い、当初目指していた複合演算システムの実現は難しくなった。多数のコンピューターを連携させるほうが効率的だとの指摘もある。
 だが、本来なら次世代スパコン開発などを含めた国家戦略は、菅直人副総理が所管する国家戦略室が基本構想を示し、そのうえで各事業の適否を判断すべきだ。まして菅氏は科学技術政策担当相を兼務する立場だ。戦略のないまま進められる事業仕分けは危うい。国家戦略の欠落が問題なのだ。

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/091117/stt0911170312003-n1.htm

 この社説のポイントはここ。

 金メダルを目指して必死に競争しなければ、違う色のメダルさえ獲得することはできない。世界一の競い合いに初めから脱落しているようでは、日本の将来について暗澹(あんたん)とした思いを抱かざるを得ない。

 「金メダルを目指して必死に競争しなければ、違う色のメダルさえ獲得することはできない」とは、名言であります。

 その通りであります。

 社説の結語。

 戦略のないまま進められる事業仕分けは危うい。国家戦略の欠落が問題なのだ。

 民主党の「事業仕分け」中でも科学技術予算に国家戦略が欠落しているのは同意するものであります。

 で、老婆心ながら産経社説に残念な間違いを指摘しておきますと、

 世界のスパコンランキングによれば、現在の日本最速であるNEC製の「地球シミュレータ」が22位にとどまっている。

 と、かつては7年前には世界1位の記録を打ち立てた日本製スパコンが現在では世界22位まで墜ちてしまったという記述ですが、最新の報道によれば、日本はすでに上位30位から脱落しておりますので、訂正したほうがよろしいかもです。

 17日付け日経新聞紙面記事から。

スパコンランキング、新興国が躍進 日本勢は後退

 米国の大学などがスーパーコンピューターの性能を集計する「TOP500プロジェクト」は16日、スパコンの最新ランキングを発表した。中国やロシア、インドの躍進が目立つ一方、日本のスパコンはトップ30のランク外に転落した。
 中国・国防科学技術大学が自作したスパコンが5位に入った。石油探索や大型航空機の設計などに用いるという。ピーク性能と比べた実行性能の比率が著しく低い点が指摘されているが、国を挙げての開発が進んでいる。
 このほかロシアT―プラットフォームズが開発しモスクワ大に納入したスパコンが12位に入った。(03:36)

http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20091116AT1D1609U16112009.html

 ネットでは記述がカットされていますが同一記事を紙面で読みますと、NEC製の「地球シミュレータ」ですが従来の22位から31位に墜ちていることが確認できます。 

 民主党の「事業仕分け」にお怒りの産経社説ですが、プチっと修正しておきます。

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●本気で外国に対抗する技術を身につけようとするならば予算凍結どころか逆に適切な予算に増額すべき

 で、この中型ロケットとスパコンの開発凍結問題でありますが、ズバリ私の見立てでは、民主党に個別の科学技術予算の金額の正否を正しく判断する眼力があるのかは知りませんが、この2つの事案に関しては少なくとも短期的には凍結は妥当であると評価します。

 まず中型ロケット「GX」ですが、「エンジン開発にはこれまでに、民間出費分を含めて約700億円を投入。450億円で開発できるという当初の見込みから大きく膨らんでいる。完成させるには「約800億〜1400億円の追加投入が必要」とされている。」(朝日新聞記事)にあるとおり、もうこの段階でアウトです。

 現時点で技術的にはエンジンの完成のめどは立っていなかったし、その後の採算ベースの試算は全くされてもいません、つまり応用技術開発事業としては金が掛かりすぎていて、そもそもその後の利用計画が採算ベースでは赤字必至のトンデモ事業だったわけでありまして、民間なら当に中止されているべき悪性プロジェクトなのであります。
 
 今回の開発凍結で実はJAXAの担当者もほっとしているのではないでしょうか。

 またスパコンのほうですが、実はこちらも「ただ、今年5月には民間から参加していたNECと日立製作所が自社の業績悪化を理由に撤退した。このため、理化学研究所は残った富士通と設計を変更したうえで平成22年度の一部稼働、24年度の完成を予定していた。」(産経社説)、事実上破綻プロジェクトであります。

 かつて世界一の早さを誇った「地球シミュレータ」を制作したNECが撤退を決めた5月の段階で、当初計画は破綻、「理化学研究所は残った富士通と設計を変更」しましたが、実現可能性を危ぶむ声は当の富士通内部からもあがっているのが実状でした。

 こちらも残念ながら現体制では続行するよりも短期的には一端凍結するほうが妥当だと判断いたします。

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 民主党はこの国の科学技術開発の国家戦略を早急に打ち出すべきです。

 そもそも、スパコンもロケットもその歴史は世界的には軍事利用と切っても切れない関係にあることは読者のみなさんもよくご承知のことでしょう。

 例えば、上述した最新の日経記事によれば、世界トップ12のスパコンは、ほぼ米国が独占状態で10プロジェクト、5位に中国、12位にロシアがそれぞれ軍事利用を意識した国家プロジェクトとしてひとつづつ躍進をして食い込んだわけです。

 日経記事は「新興国」と牧歌的な言い回しですが、独走状態の米国を筆頭に、この躍進した中国、ロシア、あとインドですが、私から言わせればすべて軍事利用を目的とした「核保有国」ばかりです。

 米国におけるスパコン開発は、まず国防高等研究計画局とエネルギー省国家核安全保障局が、核兵器維持管理のためのシミュレーションや高信頼性代替核弾頭など各種兵器の開発設計、作戦シミュレーションなど軍事利用を目的として開発され、その後で参加した開発ベンダーに培われた技術が、民間用スーパーコンピュータとして商品化され、生命科学金融工学、コンピュータグラフィックスなど広範な分野で使用される、というステップを踏みます。

 中国、ロシア、インドの今後の開発もほぼ同様であることは間違いないでしょう。

 つまり、何がいいたいかといえば、スパコンもロケットも他国は膨大な軍事予算を投入して開発してきた歴史があり、そこから派生的に民生用商品が誕生するというからくりを有しておるのに対し、我が日本は建前上、軍事利用とは切り離してスパコンもロケットも民生用商品開発からスタートするという大いなるハンディキャップを有しておるのであります。

 悲しいかな、そうなると他国ではありえない政治的圧力が逆に掛かります、商業ベースではほぼ破綻していた中型ロケット「GX」開発をひっぱっていたのも、将来の軍事利用のための自民党国防族からの圧力があったからとの噂も耐えないのであります。

 中型ロケットもスパコンも本気で外国に対抗する技術を身につけようとするならば、軍事予算を転用できない日本は予算凍結どころか逆に他国に対抗しうるように適切な予算に増額すべきなのです。

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 民主党政権が正しく将来の国家戦略を有していて、ポリシーをもってこれらの科学技術分野の予算を削っているとは、到底思えませんが、現在の中途半端な中型ロケット開発とスパコン開発を予算凍結したこと自体は妥当だと評価します。

 いずれにせよ、宇宙開発分野と先端IT技術分野、その他の分野も含めて、民主党政権は技術立国日本の将来像をどう描こうとしているのか。根本的な国家戦略を打ち立てることが必要です。

 今のような一律の予算減額では、国家戦略としての科学技術開発予算の「選択と集中」がまったく見えてきません。

 このままでは民主党文化大革命」の生贄(いけにえ)にされそうな科学技術予算なのであります。

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(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[科学]M5ロケットを「負け組」にするな〜地味な研究を「負け組」に追いやらない政策こそ求められる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060925