木走日記

場末の時事評論

朝日新聞っていったいどこの国のメディアなのか?〜日本より中国にウエイトをおく朝日新聞社説のユニークな視点

 さて米大統領オバマ氏再選を受けて8日付け各紙社説は一斉に取り上げています。

【朝日社説】オバマ米大統領再選―理念を開花させる4年に
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】米大統領選 続投オバマ氏を待つ財政の崖
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20121107-OYT1T01603.htm
【毎日社説】オバマ大統領再選 チェンジの約束実現を
http://mainichi.jp/opinion/news/20121108k0000m070161000c2.html
【産経社説】オバマ氏再選 中国抑止の戦略貫徹を 「強い米国」が世界に必要だ
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121108/amr12110803350002-n1.htm
【日経社説】日米が手を携え世界の安定支えよ
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO48188270Y2A101C1EA1000/

 社説の内容を読み比べてみるとあるキーワードで分析を試みてみると大変顕著な傾向が見出されて興味深いのです。

 そこで今回はこのアメリカ大統領選の結果を論じる5大新聞社の社説をメディアリテラシーしてみたいと思います。

 ・・・

 さて、各紙社説に現出している単語を国に関わるキーワードの出現頻度で分析してみます。

 「日本」、「日米」、「米国」、「中国」の出現頻度は以下のとおりです。

■表1:各紙社説におけるキーワード出現頻度(「日本」「日米」「米国」「中国」)

新聞 日本 日米 米国 中国
朝日 1 0 10 3
読売 3 1 7 2
毎日 4 2 16 3
産経 7 5 6 6
日経 7 7 9 3

■図1:各紙社説におけるキーワード出現頻度(「日本」「日米」「米国」「中国」)

 米国の大統領選なのでほぼ各紙とも「米国」の出現頻度が高いのですが、例外が産経で「日本」のほうが多く登場していることが分かります。

 また「日本」および「日米」ふたつのキーワードに絞り頻度を見ますと各紙の論調の傾向がより顕著になります。

■表2:各紙社説におけるキーワード出現頻度(「日本」「日米」)

新聞 日本 日米
朝日 1 0 1
読売 3 1 4
毎日 4 2 6
産経 7 5 12
日経 7 7 14

■図2:各紙社説におけるキーワード出現頻度(「日本」「日米」)

 頻度14回の日経や産経(12回)に比較し、読売(4回)、朝日(1回)の少なさが目立ちますが、中でも朝日の少なさは突出しています、「日本」は1回だけ、「日米」にいたっては0回です、「中国」が3回現出しているのにです。

 さて、頻度最多の日経社説の内容をトレースしておきましょう。

 社説は、「グローバル化市場経済の果実を取り込むために米国と日本が協力していくべき」と説いていきます。

 今年はロシアやフランスで大統領選があった。中国や韓国でも新しい指導者が生まれる。もはや1国で世界を動かせる時代ではない。日本も米国と手を携え、世界への貢献の一翼を担いたい。

 ・・・

 世界経済の減速感が強まれば、保護主義や通貨安競争の土壌が生まれやすくなる。そんな内向きの圧力を抑え、グローバル化市場経済の果実を取り込むために米国と日本が協力していくべきだ。

 社説の結びは「日米同盟強化が不可欠」との小見出しで、「オバマ氏が打ち出したアジア重視の外交方針は2期目も維持される見込み」だが、「在日米軍の抑止力におんぶにだっこという甘えを、日本は捨てた方がよい」とし、「日本にできることはたくさんある」と結んでいます。

日米同盟強化が不可欠

 日本にとっての関心事は経済だけではない。中国の海洋進出や金正恩政権の基盤が不確かな北朝鮮の動向など、日本の安全保障は大きな脅威にさらされている。これに対応するには日米同盟という盾が必要なのは言をまたない。

 オバマ氏が打ち出したアジア重視の外交方針は2期目も維持される見込みだ。ただ、財政難で国防費の大幅削減を余儀なくされるのは確実である。在日米軍の抑止力におんぶにだっこという甘えを、日本は捨てた方がよい。

 米軍と自衛隊が補い合い、隙を見せない態勢を築くことが重要だ。沖縄の普天間基地移設を巡る日米の行き違いを解消し、安定した関係に戻す努力が欠かせない。

 日米が一体となって世界のために何ができるか。共通の目標を持つことも同盟強化に資する。紛争地域での自衛隊の平和維持活動の枠を広げたり、発信元が不明なサイバー攻撃を防いだりするグローバル協力など、日本にできることはたくさんある。

 中国の今後の動向によっては、日米安保の再定義なども政治日程にのぼってくるだろう。日本が環太平洋経済連携協定(TPP)に参加すれば、経済的な利益があるのみならず、米国がアジアで存在感を発揮するのを側面支援できるという安保上の利益もある。

 さて一方の朝日社説ですが、分析したとおり日本や日米関係に関する記述はほとんどありません。

 逆に社説の結びでは「■対中関係どう築く」の小見出しで日本ではなく中国に関する論説で埋まっています。

■対中関係どう築く

 財政的な制約もあり、世界に軍事力を振り向ける余力が少なくなるなか、米国が外交・安全保障でどういう役割を果たすのかも問われている。

 4年前、アフガニスタンイラクの二つの戦争で、米国の威信は大きく傷ついていた。

 そこに、オバマ氏は全く違う米国の姿を示した。

 「核なき世界」を唱え、米国とイスラム世界の新たな関係を求める力強い言葉に、世界は喝采を送った。

 だが、いずれも道半ばだ。

 中東は「アラブの春」後の秩序作りで揺れている。内戦状態のシリアでは多数の死者が出て、暴力がやむ気配はない。イラン核問題も緊迫している。

 紛争の拡大を防ぎつつ、どう解決に導くのか。国際社会をまとめる指導力も試されている。

 アジア太平洋重視を打ち出しているオバマ政権にとって、習近平(シーチンピン)・新体制の中国とどう向き合うかは最大の2国間問題だ。

 経済面の相互依存が増すなか、実利的な関係を進めると見られるが、大国化した中国が周辺国と摩擦を起こす場面が増え、米国は警戒を強めている。

 尖閣諸島をめぐって中国との緊張が続く日本としても、オバマ政権の対中政策を見極め、連携を深める必要がある。

 外交、内政両面で、理念を開花させることができるか。オバマ政権の真価が問われる4年間になる。

 唯一の「日本」への記述は「尖閣諸島をめぐって中国との緊張が続く日本としても、オバマ政権の対中政策を見極め、連携を深める必要がある」の一行だけです。

 中国に対しては「アジア太平洋重視を打ち出しているオバマ政権にとって、習近平(シーチンピン)・新体制の中国とどう向き合うかは最大の2国間問題」とまで言い切っています。

 ・・・

 まとめです。

 新聞社説とは、単なる事実報道記事でも解説記事でもなく、一般には新聞社としての立場・意見の表明・主張をする論説であり、よって執筆者署名はありません。

 従って読者が社説に期待するのは、ある事象に対する「事実や解説」というよりは、その事象に対するひとつの「考え方」や「意見」を求めるのが一般的です、その主張に賛同するにしろ反発するにしろです。

 例えば同盟国アメリカの大統領選の結果を社説で取り上げるのならば、もちろん米国は世界最強の軍隊を有し堕ちてきたとはいえ世界最大の経済規模を誇る大国でありますから、これからの経済対策など米国内の内政諸問題と国際経済への影響、米国の国防予算削減と国際的な軍事外交政策まで、多面的な視点での論説は必要でしょう。

 ただ、米国の選挙結果を自国のメディアが社説で取り上げるとすれば、今後の対米関係への影響など自国との関わりの部分を論説することは必須であり、自国への影響に関心を持つ自国の読者のニーズに応えることは必要でしょう。

 その点で今回の朝日社説は外交面では、日本や日米関係にほとんど触れず米中関係ばかり重視して記述しており、日本のメディアとしてはとてもユニークな視座だと言えましょう。

 こうして同じ事象を論じている各紙社説を読み比べて見ると、それぞれがその事象の先の何に関心を持っているのか、それが透けて見えて興味深いです。

 しかし、朝日新聞はいったいどこの国のメディアなんでしょうか。

 

(木走まさみず)