木走日記

場末の時事評論

「対米追従外交」と批判されぬために安倍政権が絶対に譲ってはいけない一線

来年の米大統領選をにらめば、農業分野ではトランプ大統領は引きたくても後に引けない状況なのです。

トランプ大統領は来日直前の24日、160億ドル(約1兆7500億円)規模の農家支援策を発表しています。

中国との貿易摩擦で中国市場への米国農家の穀物輸出が滞り、なおかつ牛肉輸出などで上得意だった日本市場で、TPPの米国脱退により米農産物だけが高関税となっています。

TPPの締結によって、加盟国から日本への農産品の関税が引き下げられ、豪州やニュージーランド、カナダなどからの牛肉の輸入が増えた一方で、TPP加盟を拒否した米国産の牛肉には38.5%という関税が据え置かれて輸入量が激減しています。

さらに、日本は欧州連合(EU)との経済連携協定を締結した結果欧州産の豚肉の関税が引き下げられ、その結果日本への輸入量は54%増加した一方で米国産豚肉は14%減ることとなりました。

来年の大統領選で再選を目指すトランプ大統領にとって、テキサス州フロリダ州などの肉牛生産州は失うことのできない大票田であり、米国食肉団体もトランプ政権に日本に対する関税引き下げ圧力を強めるよう要望しています。

(関連記事)

トランプ政権、160億ドルの農家支援策を発表
https://jp.wsj.com/articles/SB11726211992450084831804585321340868848102
By Josh Zumbrun
2019 年 5 月 24 日 03:14 JST

さて注目の日米首脳会談です。

首脳会談の冒頭、トランプ氏は日米貿易交渉について「おそらく8月に両国にとって素晴らしいことが発表されると思う」と語りました。

ツイッターには「大きな数字を期待するのは7月の選挙の後だ」と投稿します。

またトランプ氏は記者会見で、環太平洋経済連携協定(TPP)に「米国は縛られていない」と明言しました。

特に農業分野でTPP合意を上回る市場開放を、日本に迫ってくるのは必至かと思われます。

だがしかし、待っていただきたいのです。

米国が対日輸出で不利を強いられているのは自らのTPP離脱の結果です。

それなのにTPP各国より有利になるようでは本末転倒であり、日本の国際的な信頼に関わることになります。

TPPから離脱した米国が、参加国より有利な条件を得ては筋が通りません。TPPと同水準の合意にとどめるべきです。

良好な日米関係を保つためにもここは明確にすべきであります。

もしも、日本が妥協して、先行するTPPや対欧州連合(EU経済連携協定よりも、米国の税率を低く有利に設定するとすれば、TPP加盟国やEU諸国から日本の国際的信用は完全に失墜してしまうでしょう。

それだけではなく、中国含め国際世論から安倍政権の外交はただの「対米追従外交」であるとの批判が巻き起こることでしょう。

すでに朝日新聞などは社説でこたびの安倍外交を「対米追従」と決めつけて批判しています。

もてなし外交の限界 対米追従より価値の基軸を
https://www.asahi.com/articles/DA3S14032331.html?iref=editorial_backnumber

しかし相変わらず上から目線の論調です。

「いま日本外交がすべきこと」を3つ列挙して政権に指示を出しています、朝日新聞は何様なのでしょうか?

首相が自負する日米の「揺るぎない絆」を礎に、国際社会の平和と安定のために、いま日本外交がすべきことは何か。

 第一に、米国が間違った方向に向かわないよう、トランプ氏に直言すること。

 第二に、経済も安全保障も、ルールに基づく多国間の協力を重んじること。

 第三に、自由と民主主義、基本的人権、法の支配といった価値を基軸にすること。

 トランプ氏に擦り寄るだけでは、国際社会における日本の責任は果たせない。

「トランプ氏に擦り寄るだけでは、国際社会における日本の責任は果たせない」、そんなことは朝日新聞に言われなくても、安倍政権側もよく理解しているはずです。

ここからの正念場は、まずは農業分野です。

TPPから離脱した米国が、TPP参加国より有利な条件を得てはなりません。

安倍政権、この一線は絶対に譲ってはなりません。



(木走まさみず)