木走日記

場末の時事評論

田原総一朗氏の河野太郎外相批判について反論する〜現状の日本は立場上同盟国アメリカの核戦略を支持するほかない

 トランプ米政権は2日、今後5〜10年間の米国の核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR)」を発表いたしました。

 核攻撃への抑止と反撃に限らず、通常兵器への反撃にも核の使用を排除しない方針を打ち出し、爆発力を抑えた核兵器の開発方針も明記、「核なき世界」をめざして核の役割を減らそうとしたオバマ前政権の方針から転換し、核兵器の役割を広げる方針を明確に打ち出しました。

 新しい指針では、新たな核開発を進めることもうたったおり、短期的には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)で使う爆発力を抑えた新たな核兵器の開発を検討、長期的には、海洋発射型の核巡航ミサイルを新規に開発する方針も盛り込んでいます。

(関連記事)

米、通常兵器に核で反撃 核戦略指針発表 選択肢排除せず 新型開発明記
2018/2/3付日本経済新聞 夕刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO26506200T00C18A2MM0000/

 「米国はこの10年間で核の保有数や役割を減らした。他の核保有国は備蓄を増やし、他国を脅かす新兵器を開発した」。トランプ大統領は2日の声明で、中ロや北朝鮮を念頭に批判しています。

 対して、ロシア外務省は3日、NPRについて「対決的、反ロシア的な内容に失望した」「自衛のため必要な措置は取らざるを得ない」との声明を発表、強く反発、米ロの核軍縮を進める新戦略兵器削減条約(新START)は21年に失効しますが、その延長の可否はまったく見通せなくなりました。

 米国の敵視政策を警戒する北朝鮮も強く反発、3日、国営メディアの「わが民族同士」の論評で「米国の不純な企図と干渉策動が続く限り、朝鮮半島の平和と安全が脅かされている」と米国を批判しました。

(関連記事)

核新戦略 米に危機感 中ロ・北朝鮮を非難、抑止力拡大で軍縮遠のく
2018/2/4付日本経済新聞 朝刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO26512660T00C18A2EA2000/

 これに対し、アメリカ同盟国日本では河野太郎外相がトランプ政権の核指針「高く評価」いたします。

 3日付け毎日新聞記事から。

河野外相
トランプ政権の核指針「高く評価」

毎日新聞2018年2月3日 11時10分(最終更新 2月3日 13時33分)

 河野太郎外相は3日、核兵器の役割を拡大させるトランプ米政権の新たな核戦略指針「核態勢見直し(NPR)」に関し「わが国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にした。高く評価する」との談話を発表した。

 談話では「北朝鮮の核・ミサイル開発の進展で安全保障環境が急速に悪化している」と指摘。米国と危機意識を共有するとした上で「日米同盟の抑止力を強化していく」と表明した。

 同時に「安全保障上の脅威に適切に対処しながら、核軍縮の推進に向けて引き続き米国と緊密に協力する」とも言及した。(共同)

https://mainichi.jp/articles/20180203/k00/00e/010/228000c

 うむ、「わが国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にした。高く評価する」と全面的に支持している点もさることながら、米声明から時を置かずの積極的支持表明は、国際的に異彩を放ちました。

 さて、翌4日に国内リベラル勢力は、一斉にこのトランプ米政権の新たな核政策(NPR)と、あわせてそれを「高く評価」した河野太郎大臣を表明を、それぞれ批判いたします。

 4日付けの新聞社説は、保守派の読売、産経、日経などが沈黙する中、リベラル派の朝日、毎日、地方紙では北海道新聞などが、社説に取り上げます。

朝日新聞社説】
米国の核戦略 歴史に逆行する愚行
https://www.asahi.com/articles/DA3S13345084.html?ref=editorial_backnumber
毎日新聞社説】
トランプ政権の「核態勢見直し」 新たな軍拡競争を恐れる
https://mainichi.jp/articles/20180204/ddm/005/070/026000c
北海道新聞社説】
米の核見直し 廃絶の願いに逆行する
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/161530?rct=c_editorial

毎日新聞社説】と【北海道新聞社説】は、それぞれ名指しで河野太郎外相発言を批判しています。

毎日新聞社説】
 河野太郎外相は今回のNPRについて、日本など同盟国に対する拡大抑止(核の傘)への関与を明確にしたと評価した。北朝鮮核武装を許さないとする強い態度表明も日本政府にとって好ましいものだろう。

 とはいえ、核を除けば軍事弱小国に過ぎない北朝鮮に対し、米国は核戦略を転換せずとも対応できよう。むしろNPRによって中露との対立が強まれば、北朝鮮問題をめぐる国際連携にとって重大な障害となりかねないことを自覚すべきである。

北海道新聞社説】
 一方、河野太郎外相は、米国の核抑止力が強化されるとしてNPRを「高く評価する」との談話を発表した。

 政府は、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任してきたのではなかったか。

 核兵器の役割を拡大させる方針を後押しすることが日本の果たすべき役割ではあるまい。

 「戦争被爆国として、米国の方針に追随しないよう求める」(田上富久長崎市長)という被爆地の声に耳を傾ける必要がある。

 ジャーナリストの田原総一朗氏は、4日、都内で開かれた民進党の党大会で来賓としてあいさつし、河野太郎外相を、「みっともない対米追従。恥さらしだ」と、痛罵いたします。

 4日付け日刊スポーツ記事から。

田原総一朗氏が河野外相を強く批判「恥さらしだ」
[2018年2月4日15時50分]

 ジャーナリスト田原総一朗氏(83)は4日、都内で開かれた民進党の党大会で来賓としてあいさつし、トランプ米大統領オバマ前政権の「核なき世界」の方針を転換する核戦略指針を出したことに対し、評価する姿勢を示した河野太郎外相を、「みっともない対米追従。恥さらしだ」と、強く批判した。

 その上で、「安倍さんは時の米国大統領に何でも賛成する。こんな情けないことでいいのか」と指摘。「安倍首相は、1強他弱が続きすぎて、神経が緩みきっている」とも述べ、安倍政権に対する厳しいコメントを並べた。

 民進党にも苦言を呈し、「(前身の)民主党民進党も、仲間内の批判をするのが好きだ。蓮舫さんが代表を辞める1カ月くらい前に食事をしたが、蓮舫批判がすごいと言っていた」と述べ、「敵は自民党だ」として“内輪もめ”をやめるよう、進言した。

(後略)

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201802040000466.html

 ・・・

 さて、河野太郎外相を痛烈に批判する新聞社説並びに田原総一朗氏であります。

 これらの批判意見に共通するのは、「みっともない対米追従。恥さらしだ」(田原氏発言)と日本政府の対米追従を批判はしますが、では日本としていかにしてここ20年で東アジアにおいて台頭する中国・ロシア・北朝鮮の核を含む戦力拡大に対して、どのように具体的に対峙すべきなのか、安全保障政策の代案が示されていないことです。

 今回のNPRは高まる脅威への米国の危機感を鮮明にしています。

 北朝鮮はあからさまに核使用の意思を示して米国を脅しています。

 米国防総省は、ロシアが大陸間の海中を進んで米沿岸部を攻撃できる核魚雷を開発中との見解を公式に示し、全廃するはずの中距離核ミサイルの開発をロシアが秘密裏に進めている実態も公表しています。

 中国は16年の軍事費で2位、米国の3分の1ですが、90年比で約10倍に増やし、軍事大国になり、あと十数年で米国と肩を並べるとの予測もあります。

 また弾道ミサイルに複数の核弾頭を載せ、いくつかの都市を同時に攻撃する多弾頭弾も持つとされますが、その核戦力は弾頭数も含めて正確な詳細は公表されていません。

 このような状況の中で、核政策(NPR)の変換を表明した米政府に対して、日本が積極支持をすることのいったいどこが「みっともない対米追従。恥さらし」なのでしょうか。

 専守防衛非核三原則を堅持している日本は、戦後一貫して、その持てる戦力は防衛すなわち「楯(たて)」に徹し、攻撃的な戦力「矛(ほこ)」は同盟国アメリカに任せる、もちろん核戦力は放棄、アメリカの核の傘の下で、ときに「安保タダ乗り」と国際的な批判を浴びつつも、まがりなりにも戦後73年、一回も他国と武力衝突することなく、経済的繁栄を成してきたわけです。
 現在の日本の立場は、「安全保障上の脅威に適切に対処しながら、核軍縮の推進に向けて引き続き米国と緊密に協力する」(河野外相)、これ以外にいかなる具体的な安全保障政策を取りうるのでしょうか。
 アメリカの核の庇護にある限り現状の日本はその安全保障上の立場上、同盟国アメリカの核戦略を支持していくしかありません。
 田原氏は「みっともない対米追従をするな」と河野外相を痛罵しますが、ここで日本がアメリカの核戦略に追従せず、それに逆らって独自の核戦略をとれとでも、言うのでしょうか。

 それこそ田原氏が、専守防衛放棄、非核三原則放棄、日本独自の核武装を持つとする議論ならば別です。

 ならば「みっともない対米追従。恥さらしだ」と河野外相を痛罵するのも理解します。

 しかし田原氏の持論は違いますでしょう、憲法改正にたいしてすら消極派でありますでしょう。

 田原総一朗氏の河野太郎外相強烈批判は、ジャーナリストとして具体的代案のない極めて無責任な論だと思います。



(木走まさみず)