米商務省貿易統計(通関ベース)速報値検証〜トランプ大統領が関税を高くしても米貿易赤字が拡大する理由
米商務省が6日発表した2018年の貿易統計(通関ベース)は、モノの赤字が前年比10.4%増の8787億200万ドルとなり過去最大を更新しました。トランプ大統領は赤字削減へ中国など各国・地域の製品に追加関税を課しましたが、堅調な米景気が輸入を押し上げたかたちです。
また国・地域別の貿易赤字は全体の半分弱を占める対中国が4192億ドルと11.6%増え、2年連続で過去最大となりました。対日本は676億ドルで1.8%減で4位。
看板公約が不発となったトランプ氏は貿易相手国に赤字縮小を迫り続けそうです。
(関連記事)
18年米貿易赤字は過去最大 対中も最高更新 対日赤字は減少、国別4位に
https://www.sankei.com/economy/news/190306/ecn1903060039-n1.html
この米商務省がリリースした統計情報を検証しておきましょう。
さて米商務省の統計分析局は"U.S. Bureau of Economic Analysis (BEA)"であります、今回の貿易統計もBEAが発表したものです。
BEAの公式サイトはこちら。
そして今回の貿易統計のデータはこちらから無料でダウンロードできます。
https://www.bea.gov/data/intl-trade-investment/international-trade-goods-and-services
いつも感心するのですがBEAのこのサイトは非常に使い勝手がよろしいです。
さてダウンロードしたデータより、対米黒字の大きい上位10ヵ国のデータを抽出してみました。
■表1:18年米貿易赤字上位10ヵ国
国名 金額(単位百万ドル) China -419,162.0 Mexico -81,517.4 Germany -68,250.3 Japan -67,629.5 Ireland -46,782.2 Vietnam -39,528.3 Italy -31,569.0 Malaysia -26,519.2 India -21,287.4 Canada -19,753.5 Thailand -19,312.1 Others -37,391.5 ※米商務省発表貿易統計データより『木走日記』が作成
毎回名前が取り上げられるのが、中国、メキシコ、ドイツ、日本までの上位4ヶ国なのでありますが、円グラフで見てみましょう。
■図1:18年米貿易赤字上位10ヵ国
※米商務省発表貿易統計データより『木走日記』が作成
ご覧のとおり、上位4ヵ国だけで米貿易赤字の73%を占めているわけです。
中でも中国の48%です。
前年と比べて11.6%増加し過去最大の4191億6200万ドルです。
トランプ氏は19年2月末の記者会見で「関税で貿易赤字は減ってきている」と自身の通商政策の正当性を主張していました。
だが実態は正反対で、大統領在任2年間で同氏が重視するモノの貿易赤字は約1400億ドル膨らんでいます。
あれだけ乱暴な通商政策を乱発したにもかかわらずです。
18年3月以降に日本やEUなどを対象に鉄鋼とアルミニウムに関税を上乗せしました。
中国には貿易戦争を仕掛け、7月から9月にかけて計2500億ドル分に制裁関税を発動しました。
それでも貿易赤字が過去最大に膨らんだ理由は、当然ですが米国も相手国・地域(中国やEU)から報復関税を受け、農産品や自動車の輸出が振るわなかったからです。
正直言ってモノに関税を掛け合う貿易戦争では競争力のない商品から淘汰されていきます。
逆に競争力があれば関税を跳ね返せます、実際アメリカでは日本の鉄鋼アルミ製品多くの用途に使用しています。しかも代替するものがあまりない高水準高品位商品が多いので、18年には品目別に、関税上乗せから除外せざるを得ませんでした。
(関連記事)
鉄鋼・アルミ
米追加関税 日本などの42品目を適用除外
https://mainichi.jp/articles/20180621/k00/00e/020/244000c
結局のところ、実はモノの米中貿易戦争では、アメリカのモノ(=輸出品)の競争力の無さが浮き彫りになりつつあるようです。
主要輸出品のひとつ、大豆や牛肉などの農産物は品質は国際的に平準化していますから、結局は価格勝負になり関税アップが直撃、大きく輸出を落としています。
またアメリカの自動車も関税UP直撃、輸出をさげています。
ただでさえ質やサービスがよろしくないのにそこで値段が上がれば誰が買いますかという話です。
正直言ってアメリカのモノに国際競争力がないのです。
トランプ氏がこの統計結果に苛立ち、今後、さらなる関税アップを日本を含めた各国に要求してくる可能性があります。
しかし関税をいくら上げても米貿易赤字はそうそう減じることはありえませんでしょう。
貿易においては、関税ではなく扱うモノの品質こそが一番重要な要素なのではないでしょうか。
(木走まさみず)