木走日記

場末の時事評論

過去最大の経常赤字1兆5890億円(1月)の要因分析

 10日付け日経新聞電子版速報記事から。

1月の経常赤字は1兆5890億円 過去最大

2014/3/10 11:34日本経済新聞 電子版

 財務省が10日発表した1月の国際収支速報によると、日本が海外とのモノやサービス、配当など総合的な取引でどれだけ稼いだかを表す経常収支は1兆5890億円の赤字になった。比較可能な1985年以降、1カ月間の赤字では過去最大で、赤字が4カ月続くのも初めてとなる。アベノミクスによる円安の進行で輸入価格が膨らむ一方、輸出が伸び悩んで貿易赤字が続いており、経常赤字と財政赤字との「双子の赤字」を懸念する声も出ている。

横浜港のふ頭に積み置かれているコンテナ。2013年の貿易赤字は過去最大を更新した=共同
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横浜港のふ頭に積み置かれているコンテナ。2013年の貿易赤字は過去最大を更新した=共同
 経常赤字はこれまで最大だった2013年12月の6386億円の約2.5倍に拡大した。冬場の需要期で液化天然ガス(LNG)や原油の輸入が増え、4月の消費増税を控えた駆け込みも響いた。企業は資材や原料の調達を前倒ししており「自動車部品や住宅関連の資材で駆け込み輸入が目立つ」(みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミスト)という。

 輸出から輸入を差し引いた貿易収支は2兆3454億円の赤字と前年同月比で1兆384億円拡大した。貿易赤字も96年以降で最大となった。特に輸入額は7兆8620億円と1兆8286億円増えた。

(後略)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF10008_Q4A310C1MM0000/?dg=1

 うむ、財務省が10日発表した1月の国際収支速報で、今年一月の経常収支は1兆5890億円の赤字に1カ月間の赤字では過去最大で、赤字が4カ月続くのも初めてということであります。

 深刻なのは赤字が続いていた貿易収支ではなく総合的な収支である経常収支の赤字が単月では過去最大の1兆5890億円に膨らんだことです。

 そもそも経常収支は4要素で構成されています。

経常収支[ current account ]

経常勘定ともいう。国際収支のうちモノやサービスの経常取引による収支。(1)モノの輸入と輸出のバランスを表す「貿易収支」、(2)サービス取引を表す「サービス収支」、(3)対外直接投資や証券投資の収益を表す「所得収支」、(4)政府開発援助(ODA)のうちの医薬品など対価を求めない移転を表す「経常移転収支」――の4つで構成される。

 財務省の統計資料では(1)と(2)をまとめて「貿易・サービス収支」、(3)を「第一次所得収支」、(4)を「第二次所得収支」として統計をとっています。

 つまり経常収支は以下の式となります。

「経常収支」=「貿易・サービス収支」+「第一次所得収支」+「第二次所得収支」

 財務省の以下の公式サイトで今回発表分も含めた統計資料がエクセル形式で公開されています。

財務省
国際収支の推移
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm

 公開されている統計資料より今回発表の過去最大の単月赤字について検証していきましょう。

 まず過去18年間の経常収支の推移を表でまとめておきます。

■表1:経常収支の推移(単位:兆円)

経常収支 貿易・サービス収支 第一次所得収支 第二次所得収支
平成8年 74943 23174 61544 -9775
平成9年 115700 57680 68733 -10713
平成10年 149981 95299 66146 -11463
平成11年 129734 78650 64953 -13869
平成12年 140616 74298 76914 -10596
平成13年 104524 32120 82009 -9604
平成14年 136837 64690 78105 -5958
平成15年 161254 83553 86398 -8697
平成16年 196941 101961 103488 -8509
平成17年 187277 76930 118503 -8157
平成18年 203307 73460 142277 -12429
平成19年 249490 98253 164818 -13581
平成20年 148786 18899 143402 -13515
平成21年 135925 21249 126312 -11635
平成22年 190903 65646 136173 -10917
平成23年 101333 -33781 146210 -11096
平成24年 46817 -83041 141304 -11445
平成25年 33061 -122349 165318 -9908

 ご覧のとおり日本の経常収支の黒字は平成19年の24兆9490億円をピークに下がり始め、特に貿易・サービス収支が赤字に転落した平成23年からは黒字額の縮小が顕著であり、平成25年には3兆3061億円にまで縮小しております。

 推移が見やすいようにグラフ化してみます。

■図1:経常収支の推移(単位:兆円)

 ご覧のとおり、貿易赤字が足を引っ張る形でここ3年経常収支が急速に悪化していることが見て取れます。

 これは福島第一原発事故による原発の稼働停止に伴う燃料の輸入増が影響しているものと思われますが、それでも過去18年通年では経常収支黒字が続いていたわけで、今回発表の1月単月とはいえ、過去最大の経常赤字1兆5890億円が計上されたことは、文字通り過去に見ない桁外れたショッキングな数値であると申せましょう。

 とはいえ、1月単月ですから、ここはさらに過去18年間の1月単月データの推移を分析して検証を深めていきましょう。

■表2:1月度の経常収支の推移(単位:兆円)

経常収支 貿易・サービス収支 第一次所得収支 第二次所得収支
平成8年1月 342 -3099 4133 -692
平成9年1月 1307 -2941 5102 -855
平成10年1月 4661 204 5321 -864
平成11年1月 7293 4119 3997 -823
平成12年1月 7115 2451 5469 -804
平成13年1月 2722 -4276 7569 -570
平成14年1月 6245 -824 6908 161
平成15年1月 4666 -1739 6999 -594
平成16年1月 11535 3110 8479 -54
平成17年1月 8294 -178 9205 -732
平成18年1月 7855 -2976 11500 -669
平成19年1月 12159 -1352 14242 -730
平成20年1月 11132 -1803 13979 -1044
平成21年1月 -2219 -10572 9023 -671
平成22年1月 9996 108 10336 -448
平成23年1月 6361 -4753 11821 -707
平成24年1月 -4585 -15107 11474 -952
平成25年1月 -3484 -16458 12310 664
平成26年1月 -15890 -28128 13374 -1136

 ご覧のとおり、実は一月単月では平成21年、平成24年、平成25年、と経常収支赤字に陥落しており、それぞれの年が通年では黒字を確保していることから、1月は季節的に赤字傾向にあるということはいえそうです。

 グラフ化してみます。

■図2:1月度の経常収支の推移(単位:兆円)

 ・・・

 まとめです。

 なぜ今年1月の経常赤字が1兆5890億円と過去最大になったのでしょうか。

 まず、例年1月が国際収支状況で経常赤字になりやすい傾向にある季節的要因を挙げてみます。

・中国の春節旧正月)前にアジア向けの輸出が減るため、1月末の春節を控えて現地工場が休暇に入り、中国や周辺国への部品などの輸出が減り貿易収支が悪化する

・冬場の需要期で液化天然ガス(LNG)や原油の輸入が増える

 さらに今年特有の要因を挙げてみます

・消費増税前の駆け込み需要で現地生産した電子部品などの輸入が増えたこと

アベノミクスによる円安の進行で輸入価格が膨らんだこと

 さらにここ数年の構造的要因を挙げてみます。

原発の稼働停止に伴う燃料の輸入増

・生産・部品調達の現地化による国内生産の空洞化

 ・・・

 おそらく中国の春節旧正月)休暇の影響を受ける一月という季節的要因、消費税増税アベノミクスなどの今年特有の要因、原発の稼働停止や国内生産の空洞化などのここ数年の構造的要因が、複合的に重なり合って過去最大の経常赤字になってしまったものと推測されます。

 このエントリーが読者の参考になれば幸いです。



(木走まさみず)