木走日記

場末の時事評論

IMF4.8兆円出資と貿易赤字4.4兆円〜デフレ脱却には内需主導しか選択肢がないのに・・・

 経済関連で気になる記事をふたつ取り上げます。

 17日産経記事から

IMF資金増強で日本が600億ドル支援 安住財務相が表明
2012.4.17 11:55

 安住淳財務相は17日の閣議後の記者会見で、国際通貨基金IMF)が欧州債務危機の拡大を防ぐために検討している資金基盤の増強策について、日本政府として600億ドル(約4兆8000億円)の支援を行うことを明らかにした。IMFの第2位の出資国として危機防止に貢献する姿勢を打ち出す。

 安住財務相は「欧州債務問題は楽観できる状況ではない。(資金増強は)確実に危機の終息につなげるために重要だ」と強調。日本が各国に先行して発表することで「合意に向けた流れを作る。相当の国がこれに合せて拠出を表明してくれるのは間違いない」とした。

 19日からの20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議で正式表明する。具体的には、外貨準備を管理する外国為替資金特別会計(外為特会)の保有資産を活用し、IMFに600億ドルまで貸し付ける融資枠を設定する。

(後略)

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120417/fnc12041711560004-n1.htm

 続いて19日付け朝日記事から。

3月の貿易統計、赤字転落 11年度は貿易赤字過去最大

 財務省が19日に発表した3月の貿易統計(速報)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支はマイナス826億円で、2カ月ぶりに赤字になった。これで2011年度の貿易収支は計4兆4101億円の赤字となり、過去最大だった。

 年度ベースの貿易収支が赤字になったのは、リーマン・ショックがあった08年度(7648億円の赤字)以来3年ぶり。赤字幅は、第2次石油危機の79年度の赤字3兆1278億円を上回った。

 昨年3月に起きた東京電力福島第一原発の事故後、各地の原発が停止し、火力発電を増やすために燃料の液化天然ガス(LNG)の輸入が大幅に増えたためだ。その一方、輸出が減り、赤字の増加に拍車をかけた。輸出の減少は、東日本大震災で自動車や家電製品などの生産が軒並み止まったことや、政府債務(借金)危機が深まった欧州や中国向けが落ち込んだことが響いた。

(後略)

http://www.asahi.com/business/update/0419/TKY201204190118.html

 日本が欧州債務問題に貢献するためにIMFにポンと4.8兆円出資を決めたニュースと、2011年度の日本の貿易収支は計4.4兆円の赤字となり、過去最大となったニュースであります。

 この2つのニュースは私から言わせれば鏡の表と裏のような関係です。

 つまりこれまで輸出産業優先であった日本政府の経済政策が、IMF出資のニュースでは見事に国内復興より今だ優先されていることの現れであり、しかし過去最大の貿易収支の赤字は、実は輸出産業に頼る時代から新たに内需主導の経済成長に転換する時期の到来を予感させているのです。

 日本経済はデフレ脱却のためにもそろそろ輸出産業依存から脱却し、内需主導の経済成長路線を取らなければならないと思います。

 震災復興政策をテコに内需を刺激し個人消費を活性化させるべきです。

 そのためには国内市場に可能な限りどんどんお金を投入すべきです。

 デフレ下の今すべきは消費税を上げて市場を萎縮させ国内経済をますます冷やし庶民の生活を圧迫させることではなく、復興支援策をてこに内需を活性化させ国民所得の底上げと中小零細企業の売り上げ増につなげるべきです、パイそのものを大きくして、結果税収もアップさせることです。

 平成23年間の貿易収支をまとめました。
 
■表1:貿易収支の推移(平成元年〜平成23年)

輸出 輸入 貿易収支(単位:千円)
1989 37822534626 28978572581 8843962045
1990 41456939674 33855207638 7601732036
1991 42359892974 31900153522 10459739452
1992 43012281444 29527419360 13484862084
1993 40202448725 26826357239 13376091486
1994 40497552697 28104327343 12393225354
1995 41530895121 31548753881 9982141240
1996 44731311206 37993421106 6737890100
1997 50937991859 40956182573 9981809286
1998 50645003938 36653647183 13991356755
1999 47547556241 35268008063 12279548178
2000 51654197760 40938422968 10715774792
2001 48979244311 42415533002 6563711309
2002 52108955735 42227505945 9881449790
2003 54548350172 44362023352 10186326820
2004 61169979094 49216636346 11953342748
2005 65656544157 56949392181 8707151976
2006 75246173392 67344293072 7901880320
2007 83931437612 73135920427 10795517185
2008 81018087607 78954749926 2063337681
2009 54170614088 51499377779 2671236309
2010 67399626696 60764956840 6634669856
2011 65546474948 68111187178 -2564712230

■図1:貿易収支の推移(平成元年〜平成23年)

 確かに平成になって昨年(23年)初めて貿易赤字となっています。

 一方、貿易外収支はどうでしょうか。

■表2:貿易外収支の推移(平成元年〜平成23年)

サービス収支 所得収支 経常移転収支 貿易外収支(単位:億円)
元年 -50713 31773 -4354 -23294
2年 -61899 32874 -6768 -35793
3年 -56311 34990 -16150 -37471
4年 -55709 45125 -4833 -15417
5年 -47803 45329 -5651 -8125
6年 -48976 41307 -6225 -13894
7年 -53898 41573 -7253 -19578
8年 -65312 58133 -9775 -16954
9年 -63299 70371 -10713 -3641
10年 -62227 71442 -11463 -2248
11年 -59133 65741 -13869 -7261
12年 -49421 65052 -10596 5035
13年 -51893 84007 -9604 22510
14年 -50813 82665 -5958 25894
15年 -36215 82812 -8697 37900
16年 -37061 92731 -8509 47161
17年 -26418 114200 -8157 79625
18年 -21183 138111 -12429 104499
19年 -24971 164670 -13581 126118
20年 -21379 161234 -13515 126340
21年 -19132 127742 -11635 96975
22年 -14143 124149 -10917 99089
23年 -17616 140384 -11096 111672

■図2:貿易外収支の推移(平成元年〜平成23年)

 サービス収支、経常移転収支(外国への無償援助など)、は恒常的に赤字ですが、所得収支(海外子会社からの配当など)は23年は14兆円の黒字であり、貿易外収支は11兆の黒字となっています。

 結果、日本の経常収支は23年も黒字でありました。
■表3:経常収支の推移(平成元年〜平成23年)

経常収支 貿易収支 貿易外収支(単位:億円)
元年 87113 110412 -23299
2年 64736 100529 -35793
3年 91757 129231 -37474
4年 142349 157764 -15415
5年 146690 154816 -8126
6年 133425 147322 -13897
7年 103862 123445 -19583
8年 71532 88486 -16954
9年 117339 120979 -3640
10年 155278 157526 -2248
11年 130522 137783 -7261
12年 128755 123719 5036
13年 106523 84013 22510
14年 141397 115503 25894
15年 157668 119768 37900
16年 186184 139022 47162
17年 182973 103348 79625
18年 199141 94643 104498
19年 249341 123223 126118
20年 166618 40278 126340
21年 137356 40381 96975
22年 178879 79789 99090
23年 95507 -16165 111672

■図3:経常収支の推移(平成元年〜平成23年)

 平成23年間の推移を見てみると、日本は貿易収支が黒字で貿易外収支が赤字の時代から、貿易収支も貿易外収支も黒字の時代を経て、現在貿易収支は赤字で貿易外収支が黒字の時代へと移行しつつあるのだと思います。

 これは貿易収支に頼らず所得収支で経常黒字になる、これは見方を変えれば日本経済が成熟してきた証ともいえましょう。

 貿易収支はこれからは大幅黒字は期待できないでしょう。

 企業の海外進出は進行している限り、輸出額は減少し続け、工場の海外進出で海外関連会社や子会社が増え続ける限り、所得収支が貿易収支の代わりにこの国の経常収支を支えていくことでしょう。

 ここは内需主導で経済活性化をはかるべきです。

 ならばこそ、4.8兆円の欧州への出資金があるのならば、復興支援策など国内経済活性化のために投入してもらいたかったです。

 アメリカは1ドルも出資しないと宣言、一方中国もダンマリを決め込んで後出しジャンケンの見込みの中、世界に先駆けて600億ドルの支援を表明した日本でありますが、足元の経済状況を考えれば、なんとも納得しがたいのであります。

 デフレ経済のもと、震災復興しなければならないのに、外国にはポンと4.8兆も出資して、自国民には消費税増税で応えてくれる、民主党政権なのであります。



(木走まさみず)