木走日記

場末の時事評論

安倍批判に執着するその異様さが浮き彫りになる【朝日社説】〜米イラン緊張で社説5紙読み比べ

社説読み比べです。

中東の緊張が高まっています。米トランプ政権がイランの革命防衛隊司令官を隣国イラクの首都バグダッドで殺害しました。対してイランは報復を宣言し、軍事衝突の危険が増しています。

これを受けて各紙社説が一斉に取り上げています。

【朝日社説】米イラン緊迫 報復の連鎖を避けよ
https://www.asahi.com/articles/DA3S14316528.html?iref=editorial_backnumber
【読売社説】米イラン緊張 強硬策の応酬に歯止めかけよ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20200106-OYT1T50249/
【毎日社説】米のイラン司令官殺害 湾岸危機あおる身勝手さ
https://mainichi.jp/articles/20200107/ddm/005/070/061000c
【産経社説】米イラン緊迫 大規模紛争を封じ込めよ
https://www.sankei.com/column/news/200107/clm2001070002-n1.html
【日経社説】中東での報復の応酬回避に全力あげよ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54072830W0A100C2SHF000/

まず、各紙のアメリカ・トランプ政権との距離感が見事に出ています、反米の色彩の強い論説から並べると、【毎日社説】>【朝日社説】>【日経社説】>【読売社説】>【産経社説】となります。

【毎日社説】は、「なにより問題は、トランプ氏の短絡的ともみえる意思決定」と断罪します。

【毎日社説】
 トランプ政権は「差し迫った脅威への自衛手段」と攻撃の正当性を強調する。だが、脅威の詳細を明らかにしていない。米議会から法的根拠への疑問が出るのは当然だろう。

 今回の攻撃にイラクは「主権侵害」と反発し、議会は米軍撤退を求めた。イラクの承諾なしに武力行使したなら国際法違反の疑いが生じる。

 なにより問題は、トランプ氏の短絡的ともみえる意思決定だ。

【朝日社説】も「この人物が米軍の最高司令官を務めている危うさを改めて痛感」とトランプ氏を強烈に批判します。

【朝日社説】
 空爆の現場はイランの隣国イラクの首都で、イラク首相は「主権の侵害だ」と反発している。米軍は、脅威に対応するため3500人を中東に増派するというが、反米感情をあおっているのは米国自身である。

 秋に大統領選を控えるトランプ氏は、自らの弾劾(だんがい)から国民の関心をそらす狙いではないか、との見方もある。真相がどうあれ、この人物が米軍の最高司令官を務めている危うさを改めて痛感せざるをえない。

一方、【日経社説】は「バグダッドの米国大使館が受けるデモや攻撃などの背後にいるとみられてきたのが、殺害された司令官」と米国の判断に理解を示しつつ、とはいえ「危うい選択だと言わざるを得ない」と危惧を示します。

【日経社説】
イランはイラクレバノン、イエメンなどで、同じイスラムシーア派武装勢力を通じて影響力を広げている。そうした工作活動の責任者で、バグダッドの米国大使館が受けるデモや攻撃などの背後にいるとみられてきたのが、殺害された司令官である。

とはいえ、軍事組織幹部の殺害によるイランの反発を米国がどこまで予見し、対応を覚悟したうえでの判断だったのか。危うい選択だと言わざるを得ない。

同様に【読売社説】も、英仏が米国との連帯を表明した事実にふれ米国の行動に理解を示しつつ、しかし大統領選をにらんで「国民に「強い大統領」をアピールする狙いを優先したのなら批判は免れまい」と危惧を示します。

【読売社説】
トランプ米大統領は、自らが殺害作戦を指示したとし、司令官は「テロの首謀者」だとして正当性を強調した。ジョンソン英首相は「彼の死を悼むことはない」と同調し、マクロン仏大統領も米国との連帯を表明した。

 問題は、司令官殺害がイランやイラク反米感情を煽あおり、情勢悪化を招くリスクを、トランプ氏がどこまで認識していたかだ。11月に大統領選を控え、国民に「強い大統領」をアピールする狙いを優先したのなら批判は免れまい。

最後に【産経社説】は「米国にすれば、国民の安全を守るためのやむを得ない措置として司令官の殺害に踏み切った」と理解を示し、「トランプ米政権が今回、米国を脅かす行為をもはや容赦しないという姿勢を明確にした」のだとその行動を肯定いたします。

 昨年暮れにはイラク駐留米軍武装組織の攻撃を受け、米国人軍属も死亡した。米国にすれば、国民の安全を守るためのやむを得ない措置として司令官の殺害に踏み切ったのだろう。

 見逃してはならないのは、トランプ米政権が今回、米国を脅かす行為をもはや容赦しないという姿勢を明確にしたことである。

ご覧のとおり、トランプ政権に対して【毎日】【朝日】は批判、【日経】【読売】は危惧、【産経】は無批判です、綺麗に各紙のスタンスが出ていますね。

さて、このような国際問題を社説で取り上げるときに、日本のメディア社説には、「テンプレート」と言いますか「ひな形」「決められた様式」があります。

社説の結語に日本はどうすべきかに軽く触れて、各紙の論説を結ぶことです。

そして興味深いのは、この社説の結びでは、各紙の日本・安倍政権との距離感が見事に出るのです、親安倍の色彩の強い論説から並べると、【産経社説】>【日経社説】>【読売社説】>【毎日社説】>【朝日社説】となります。

【産経社説】は「米国、イランの双方と強いつながりを持つ日本が担うべき役割は大きい。仲介役として積極的に関わっていくべき」と、安倍外交を支持します。

【産経社説】
 英国とフランス、ドイツの3首脳はイランに合意の順守と暴力行為の停止を求める共同声明を出した。米国、イランの双方と強いつながりを持つ日本が担うべき役割は大きい。仲介役として積極的に関わっていくべきだ。

【日経社説】も安倍晋三首相は年頭記者会見に触れながら「衝突の回避へ両国の橋渡し役となる努力が今こそ、求められている」と安倍外交を支持いたします。

安倍晋三首相は年頭記者会見で「すべての関係者に外交努力を尽くすことを求める。地域の緊張緩和と情勢の安定化のために、これからも日本ならではの外交を粘り強く展開する」と述べた。

日本は米国、イランともに良好な関係にある。衝突の回避へ両国の橋渡し役となる努力が今こそ、求められている。

二紙に比べて【読売社説】は消極的です、「日本を含む全ての関係国が重大さを認識し、事態収拾に努めるべき」と仲介役からは一歩引いています。

【読売社説】
中東の混乱は原油高を招き、世界経済に悪影響を及ぼす。日本を含む全ての関係国が重大さを認識し、事態収拾に努めるべきだ。

対して【毎日社説】は、「護衛艦を予定通り派遣する」より、「双方に自制を促す努力こそ最優先にすべきではないか」と、やんわり安倍外交に否定的な見識を示します。

【毎日社説】
 日本は中東で情報収集する護衛艦を予定通り派遣するという。緊張緩和に向けて双方に自制を促す努力こそ最優先にすべきではないか。

さて最後に【朝日社説】です。

いかなるときも安倍政権批判を忘れない朝日新聞なのですが、今回も【朝日社説】だけは、社説全文で「日本」という国名が一回も出現しません、代わりに社説の結びで「安倍政権」「安倍首相」と名指しで批判します。
「安倍政権は先月に国会論議もしないまま決めた」「反米勢力からは米軍と一体と見なされても不思議ではない」と批判した上で、安倍首相には「国民に正面から説明する義務がある」のだと、義務を課します。

【朝日社説】
 その中東近海に自衛隊を派遣することを、安倍政権は先月に国会論議もしないまま決めた。米主導の「有志連合」には加わらないとはいうものの、反米勢力からは米軍と一体と見なされても不思議ではない。

 外交の常識では予測できないトランプ氏のふるまいに、ただ追随するリスクは明らかだ。安倍首相は中東情勢の緊迫をめぐる見解を示したうえで、何のために自衛隊を派遣し、どんな危険を伴うのかを、国民に正面から説明する義務がある。

おかしなことです。

朝日新聞は 中東近海に自衛隊を派遣することを「反米勢力からは米軍と一体と見なされても不思議ではない」と決めつけます。

しかしながら先月20日、安倍晋三首相はイランのロウハニ大統領と首相官邸で会談、首相が中東への自衛隊派遣計画について説明したのに対し、ロウハニ師は「自らのイニシアチブにより、航行の安全確保に貢献する日本の意図を理解し、透明性を持ってイランに説明していることを評価する」と明言しています。

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イラン大統領自衛隊派遣に理解示す 安倍首相、核合意停止に懸念
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019122000781&g=pol

「反米勢力」のコアであるイラン大統領から「日本の意図を理解し、透明性を持ってイランに説明していることを評価する」と全面的な支持を得ているのです。

朝日社説は、安倍首相なりにしっかり根回ししてイランの理解を得る努力をしてきたことを、一切触れていません。

米イラン緊張も安倍批判に繋げる朝日新聞なのでした。

こうして社説を読み比べてみると、【朝日社説】が如何に安倍批判に執着しているか、その異様さが浮き彫りになります。



(木走まさみず)