木走日記

場末の時事評論

アメリカ民主党敗北が日本の民主党崩壊のトリガーになる可能性

 予想されたこととはいえ、アメリカの中間選挙で与党・民主党連邦議会下院で60議席以上を失い、少数派に転落する歴史的大敗を喫しました。

 2年前、初の黒人大統領としてのオバマ氏登場時の熱情(パッショ)は冷め切っており、当時のブームによる民主党初当選30人は今回多数が敗退している模様です、おそらく一桁しか生き残れないのではないでしょうか。

 オバマ民主党の敗因は経済政策に対する有権者の不満と反発であります。

 雇用情勢は悪化したままで、失業率は9%台後半で高止まりしていますし、景気回復が進まないため税収は伸びず、オバマ大統領の「大きな政府」路線をすすめるために、財政赤字は2年続けて1兆ドルの大台を超えています。

 これでアメリカ議会も下院が共和党多数となり「ねじれ」議会となったわけですが、まあ大局的に見ればアメリカ大統領の最初の中間選挙では与党が議席を減らすのが常であり、「ねじれ」議会もアメリカにとっては珍しいことではないわけです。

 前回の民主党・大統領であったクリントン氏も94年の中間選挙で下院で52議席減という大敗を喫しましたが、96年の大統領選では再選を見事にはたしています。

 最近の例外は2002年のブッシュ前大統領だけなんですね、この年の中間選挙でブッシュ共和党は上下院とも勝利しましたが、これは前年に同時多発テロが起きており、アメリカ世論が尋常な空気ではない中で行われた選挙でありました。

 いずれにせよ共和党議席を増やした議会の発言力が増すことは必定であります、共和党多数の下院といかに折り合いを付けるか、オバマ大統領の手腕がまさに試されることになりましょう。

 共和党躍進の原動力は「小さい政府」を目指す伝統保守草の根運動ティーパーティー(茶会)」の盛り上がりが指摘されていますが、今後オバマ大統領は政策を調整せざるを得ません。

 オバマ大統領の目指す「大きい政府」政策は、おそらく緊縮財政を主張する共和党議会と折り合いを付けるのは至難なことです、オバマ政権は当分内政重視の対応を余儀なくされることが予想されます、それがアメリカの外交・安全保障政策にどう影響を与えるのか、同盟国日本としても一番気になるところです。

 今回のアメリカの中間選挙におけるオバマ民主党大敗は、今後日本にどのような影響を及ぼす可能性があるか、日本のメディアの論説も踏まえて検討してみたいと思います。

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 オバマ民主党大敗を受けて4日の主要紙はすべて社説で取り上げています。

【朝日社説】米中間選挙―世界への責任を忘れずに
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】米中間選挙 困難増すオバマ氏の議会対策
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20101103-OYT1T00751.htm
【毎日社説】米中間選挙 オバマ改革の継続を
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20101104k0000m070101000c.html
【産経社説】米中間選挙 敗北越え日米同盟強化を
http://sankei.jp.msn.com/world/america/101104/amr1011040333001-n1.htm
【日経社説】逆風強まる米政権とアジア安定で連携を
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE3E5E7E5E6E5E3E2E2E6E3E3E0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

 当ブログでは今回のように揃い踏みをするトピックがあると各紙の社説の読み比べをよくするわけですが、今回は社説のタイトルと結びが各紙の思いがとても単純に表出していて興味深いですね、各タイトルと社説の結語を見ていきましょう。

【朝日社説】米中間選挙―世界への責任を忘れずに

 世界は多極化しているが、今も米国が一番大きな極であり、米国にはそれにふさわしい責任がある。

 議会も大統領も、これ以上の内向き志向に陥ってはならない。グローバル化時代にふさわしい国際感覚を持って議論を重ね、米国の持つ問題解決能力を十分に発揮する政治を望みたい。

 朝日社説ですが、オバマ政権はこの敗北により内向き志向にならずに世界のことも忘れないでほしいというお願いモード全開(苦笑)であります。

【読売社説】米中間選挙 困難増すオバマ氏の議会対策

 米議会では今後、財政緊縮派が勢いを増す。オバマ政権は追加の景気刺激策を実行する際に、強い抵抗にさらされよう。米国の景気対策に手詰まり感が強まれば、世界経済にも影響が及ぶ。

 共和党は、医療保険改革法について撤廃あるいは大幅修正を主張している。排出量取引を盛り込む地球温暖化対策法案にも反対だ。核実験全面禁止条約(CTBT)は無論、米露の核軍縮条約の批准にも難色を示す可能性がある。

 オバマ大統領は、政策遂行のため、議会を説得する強い指導力を発揮しなければならない。

 読売社説でありますが、経済政策に力点を置いています、米国の景気対策に手詰まり感が強まることを危惧し、オバマ大統領に議会を説得する強い指導力を求めております。

【毎日社説】米中間選挙 オバマ改革の継続を

 上下両院の「ねじれ」は米国ではさほど珍しくないが、大統領と議会の摩擦は強まるだろう。しかし、米国が取り組むべき問題は世界に山積している。くれぐれも党派対立で機能不全に陥らぬよう望みたい。日本も中国、ロシアとの領土的摩擦を含めて厳しい状況にある。「同盟重視」の共和党の伸長で対日要求が強まる可能性もあろうが、新しい米議会と協調しながら良好な日米関係を築いていきたい。

 毎日社説ですが、「「同盟重視」の共和党の伸長で対日要求が強まる可能性もあろう」という分析が興味深いですね、普天間基地問題を意識していると思われます。

【産経社説】米中間選挙 敗北越え日米同盟強化を

 ソウルの20カ国・地域(G20)首脳会議や横浜のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などでは、強固な日米同盟関係を軸として臨む態勢づくりが求められる。その点で、共和党には同盟重視や毅然(きぜん)とした対中政策を求める意見が根強い。オバマ氏が議会の協力を確保する努力をすれば、超党派で外交を支える追い風に変えることも不可能ではない。
 一方、同盟の結束強化に向け、日本はもっと努力すべきだ。菅直人政権は尖閣諸島北方領土で中露の外交攻勢の挟み撃ちに陥っている情勢だ。同盟関係をいかに立て直すか。オバマ氏訪日前に外交・安保政策を反省し、再構築することが急務である。

 産経社説ですがこれも興味深いことに、毎日社説とは逆に「共和党には同盟重視や毅然(きぜん)とした対中政策を求める意見が根強い」と、共和党の同盟重視をこちらは肯定的に評価しています。

【日経社説】逆風強まる米政権とアジア安定で連携を

 今回の選挙結果は日米の懸案である米軍普天間基地問題にも新たな影を落としかねない。米議会では普天間移設の遅れへの不満から、それとセットになる沖縄の米海兵隊のグアム移転予算を切り込む動きがくすぶる。普天間問題が米議会の争点になるのを防ぐためにも、菅政権は問題解決を急がなければならない。

 最後に日経社説ですが、ピンポイントで普天間基地問題が今後クローズアップされることを危惧しています。

 総じてですが今回の敗北でオバマ政権が内向き志向になり外交や安全保障に力が入らなくなることを不安視しています。

 また共和党の同盟重視は対中国を意識してでしょう、保守産経社説は歓迎ムードですが、毎日などは対日要求が強まることもあわせて懸念しています。

 そして具体的な対日要求として日経は普天間基地問題を結びで取り上げています。

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 各メディアの社説を参考に、私見を付加してみたいと思います。

 産経の指摘とおり、対中国という意味では日本に取り、伝統的に同盟国重視である共和党伸張は、好ましい点でありましょう。

 今回の尖閣諸島漁船衝突事件やレアアースをめぐる中国の対応は、アメリカをして中国不信感を深めました。

 この選挙結果の前からすでにオバマ政権は対中国外交政策を従来の「相互理解」から「包囲」に変更し始めています。

 尖閣北方領土で一連のアメリカ政府高官による日本支持の公式表明もその一環と見做せます。

 今後共和党多数の議会との融和策のためにオバマ政権は、意見の一致を見やすい外向政策で今以上に中国に対し強い態度で臨んでいくことでしょう。

 今回の選挙でも共和党は、オバマ政権の「大きい政府」政策批判に中国を巧みに絡めていました、いわく、

 「オバマ政権が何百億ドルも景気対策にカネを落としても、結局中国の工場が活況になって中国経済が成長しただけで、アメリカ国内では失業率も高いままで一向に景気が回復してないじゃないか。オバマのしたことはアメリカではなく中国にカネをくれただけだ」と。

 共和党の伸張によりアメリカはより同盟国重視の姿勢を強めることでしょう、これは日本に取り良き影響となります。

 しかし、と同時に日経社説が指摘するとおり、ここで普天間基地問題が否応無くクローズアップされることになります。

 共和党は同盟国重視でありなおかつ「小さい政府」つまり緊縮財政論者が多いのです。

 米議会では普天間移設の遅れへの不満から、沖縄の米海兵隊のグアム移転予算を切り込む動きがくすぶってきました。

 もしこの問題を日本政府がこれまでのように解決できず、時が過ぎるに放置したままであるならば、共和党多数の議会はたちまち同盟国日本への批判が渦巻くことになるでしょう。

 中国、ロシアと領土的脅威にうろたえている菅政権にとって、同盟国アメリカから批判を受ければ、それこそ進退きわまる、のっぴきならない事態に追い込まれてしまいかねません。

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 アメリカ民主党敗北は日本国にとっては対中国外交という意味で良い影響が見込まれます。

 アメリカが今まで以上に同盟国日本を重視し中国に対しては強い態度を示すことが予想されるからです。

 ただし普天間基地問題が否応無くクローズアップされることになります。

 米議会の予算化のスケジュールを考えると、菅政権にはもう結論を引き延ばす時間は少ししかありません。

 対応を間違えれば菅政権にとりのっぴきならない事態を招くことでしょうが、今までの民主党政権のこの問題に対する紆余曲折を考えるとはたして菅政権にこの問題の解決能力があるとは、誰も思えません。

 つまり、アメリカの民主党敗北が実は日本の民主党崩壊のトリガー(きっかけ)になる可能性があるのです。
 


(木走まさみず)