木走日記

場末の時事評論

「不当な国籍条項見直せ」(朝日社説)〜国籍条項廃止で発生する諸問題に対する危機感が希薄なグループが存在する

働き者で知られるアリに我々は思わず共感します。

だが、生態を観察すると、働きアリの7割はボーッとしており、1割は一生働かないことが分かってきました。

しかも、働かないアリがいるからこそ組織は存続できるという事実が、最新の生物学者の研究結果からわかってきました。

・・・

アリやミツバチのように女王を中心に巣を作りたくさんの個体が集団で生活する社会性昆虫がおります。

アリの集団(コロニー)には、女王アリのもとにたくさんのワーカー(働きアリ)がおりますが、彼(彼女)らはすべて女王アリの娘であるのが一般的です(中には複数の女王が併存している例外もあります)。

ワーカーの仕事は、・女王の世話、・卵や幼虫の世話、・巣のメンテナンス、・食料収集、など多岐に渡りますが、興味深いのは簡単な条件反射しかできない知能の彼らのコロニーが実に見事に分業されており、また敵の侵入や大雨などの非常時にも、集団として実に秩序だって正しく行動することです。

最近の研究でわかったことは、ワーカーの刺激に対する個体差が、社会性昆虫が集団行動を制御する仕組みを構成しているという事実です。

実は平時には働きアリの過半数は巣の中で仕事らしい仕事を何もしないでじっとしていたりうろうろしているだけです。

実はこの働かないワーカーに意義があったのです。

今外で食料収集中のアリがセミのなきがらを発見したとします。

これはアリにとって天からの贈り物、大変ありがたい食料です、しかし早く巣に持ち帰らないと他のコロニーや他種の生物に横取りされてしまいます。

もちろん一人では当然運べませんから、発見したワーカーは地面に道しるべになるフェロモンを付けながら巣に急ぎ帰り、巣にいる他のワーカー達に大量の食料があることを知らせます(実際には刺激を与えます)。

このときこの刺激に対しての個体差(反応閾値(はんのういきち)=「仕事に対する腰の軽さの個体差」といいます)があり、刺激を受けたすべてのワーカーが反応するわけではなく、何割かのワーカーだけが食料(セミ)のもとに行くことになります。

こうして複数のアリでセミを運ぶことになりますが、数がまだ足りなくてセミを動かせない場合、何匹かが巣に戻りまた巣の中にいる仲間に刺激を与えて数を増やしていきます。

こうしてやがてセミを運べる十分な数になり食料を巣に持ち帰ることができるのです。

ここで興味深いのはこの大忙しの最中にも、巣の中でじっとしている働かないワーカーが存在することです。

彼(彼女)は、「食料が発見された」という刺激に対して反応閾値が高い個体で、その刺激で働こうとする反射が起こりにくいと考えられています。

この個体差こそアリがコロニーを高度に分業して維持するために大切な役割を持っているのです。

ワーカーの仕事は食料収集以外にも、・女王の世話、・卵や幼虫の世話、・巣のメンテナンス、などたくさんあります。

大量の食料が発見された情報を得たからといって女王の世話や卵や幼虫の世話を放棄してしまったら、巣の維持は不可能になります。

あるワーカーは幼虫が出す「もっとエサをくれ」といった刺激に極めて敏感でその他の刺激に対しては反応閾値が高くほとんど反応しないために、卵や幼虫の世話「係り」に結果としてなっていると考えられています。

こうして平時には働きアリの過半数は巣の中で仕事らしい仕事を何もしないでじっとして待機しているのです。

彼(彼女)らは大量のえさが発見されたときに仕事をし出す個体もいれば、大雨が降ってきて巣の出入り口を閉じるときに活躍する個体もいれば、さまざまなタイミングと刺激により働き出すことに備えているともいえましょう。

ワーカー個々によってある刺激に対する反応閾値に著しく個体差がある、これが社会性昆虫が集団行動を制御する仕組みを理解するためには欠かせない概念であり、これを「反応閾値モデル」(仮説)と生物学者は呼んでいます。

(参考文献)

働かないアリに意義がある (中経の文庫) Kindle
長谷川 英祐 (著)
https://www.amazon.co.jp/%E5%83%8D%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%84%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%81%AB%E6%84%8F%E7%BE%A9%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B-%E4%B8%AD%E7%B5%8C%E3%81%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D-%E8%8B%B1%E7%A5%90-ebook/dp/B01HHLWYBC

「個」と「社会」の関係を考察する上で、「反応閾値モデル」は実に多くの示唆に富んでいるといえましょう。

個々が高度な知能を有する人間社会とほぼ刺激に対する反射行動のみの知能を有するアリ社会を単純比較することは無論できませんが、我々人間社会でもこの個体による反応閾値の差というのが顕著な事例があると思われるからです。

例えばこの国の国籍条項問題。

外務公務員や公職政治家などは法律で明白に国籍条項が規定されています。

それ以外の公務員に関しても「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするものと解すべきである」とする内閣法制局の見解(「当然の法理」)が示されており、公務員は日本国籍を必要することは当然の法理となっております。

政治家や公務員だけではありません、サッカー日本代表やオリンピック日本代表も日本国籍が前提となっています、オリンピック憲章では「競技者の国籍」が明記されています。

46.競技者の国籍*
1- オリンピック競技大会に出場する競技者は、その競技者の参加登録をおこなうNOCの国の国民でなければならない。

オリンピック憲章 Olympic Charter 1996年版 (財)日本オリンピック委員会 より
https://www.joc.or.jp/olympism/charter/chapter5/45_46.html

これら明文化されている、もしくは暗黙(「当然の法理」のように)の国籍条項について、ことごとくその「閉鎖性」に反対を唱えているグループがおります。

メディアでは朝日新聞がその代表格です。

26日付け朝日新聞社説は日本相撲協会の「国籍条項」に噛み付きます。

白鵬と協会 不当な国籍条項見直せ
https://www.asahi.com/articles/DA3S13993008.html

白鵬の三本締めに「たしかに褒められる話ではない」としたうえで社説は論点を国籍条項にすり替えます。

白鵬をめぐって協会が真に考え、対処しなければいけない問題は別にある。

 日本国籍を持つ者でないと親方になれないという、時代遅れで理不尽な規定である。

朝日にとって国籍条項は「時代遅れで理不尽な規定」なわけです。

実は朝日新聞は、多くの個体(国民)がコロニー(国家)の危機と感知した刺激をまったく感じていない、危機感が希薄なグループに属しているのだと思います。

外国人移住者が増え続けている日本で一部の国籍条項を外してしまうと多くの問題が発生するという危機感は、私たち社会構成員である国民に、強い刺激を与えています、この問題で多くの個体の反応閾値を乗り越え反応を起こしている、そう思えます。

生物学的に解釈すれば、多くの個体が、国籍条項を支持しているのはこの問題を社会(コロニー)存続に関わる重大な問題と捉えているのだと思います。

しかし、多くの個体が感知しているこの刺激に対して無反応でいる個体ももちろんコロニーには存在してしかるべきです。

多くの個体がコロニーの危機と感知した刺激を彼らは感じていません、朝日新聞がまさにそうです。

国籍条項は「時代遅れで理不尽な規定」だから廃止せよ、の一点張りです。

公務員から国技まで、危機を感知していないから彼らの口からは呑気な話ばかりでてきます。

彼らはアリ社会で言えば、大きな刺激がもたらされても巣の中でまったく動かないワーカー(働きアリ)と同列なのでしょう、社会性を持つ人間集団においても、反応閾値が極めて高い集団が存在するということです。

「反応閾値が極めて高い」、これすなわち鈍感と言います。



(木走まさみず)