木走日記

場末の時事評論

土星の巨大六角形は非線形非平衡パターン形成の一種であるという推測

kibashiri2007-04-02




NASA:謎の巨大六角形画像公開 「カッシーニ」撮影〜毎日新聞記事

 29日付けの毎日新聞記事より。

NASA:謎の巨大六角形画像公開 「カッシーニ」撮影

米欧共同無人探査機「カッシーニ」が06年10月に赤外線で撮影した、土星の北極上空にある六角形の渦状構造=NASA提供 【ワシントン和田浩明】米航空宇宙局(NASA)は27日、米欧共同無人探査機「カッシーニ」が撮影した、土星の北極上空を覆う六角形の渦状構造の画像を公開した。80年に米探査機「ボイジャー」が発見したもので地球4個分の大きさだが、26年後の現在も残っている。NASAは地球の極地方で形成される低気圧の一種に似たものと推測しているが、六つの辺が安定的に維持されている理由は分かっていない。

 NASAによると、渦は昨年10月30日にカッシーニに搭載された赤外線分光計で約130万キロの距離から撮影された。幅約2万5000キロ。垂直方向は100キロほど大気内に伸び、反時計回りに回転している。土星の北極地方は15年続く夜のさなかだが、約2年後に可視光での観測が可能になるとみられている。

毎日新聞 2007年3月29日 11時05分 (最終更新時間 3月29日 12時59分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20070329k0000e040029000c.html

 うーん、これは不思議な現象ですね。

 写真でもおわかりいただけると思いますが、これは巨大なほぼ正六角形なのでありますが、「幅約2万5000キロ。垂直方向は100キロほど大気内に伸び、反時計回りに回転している」というとんでもない大きさであり、「80年に米探査機「ボイジャー」が発見したもので地球4個分の大きさ」なのだそうであります。

 うーん、おそらく有史以来人類の発見した最も大きな六角形構造物でしょう。

 しかし不思議なのは、その大きさもさることながら、80年に米探査機「ボイジャー」が発見して以来、反時計回りに回転していながら、26年後の現在も残っていて、形状が変化していないということですね。

 UFO研究家の矢追さんとか月刊『ムー』当たりが飛びつきそうなネタではありますね。

 このような巨大な六角形構造物はとても自然に発生するわけはないと常識的には考えてしまいますし、実は土星の北極には宇宙人の秘密基地があるとか、あるいは、土星の北極の大気の下には、古代土星人の巨大遺跡が眠っていて、その遺跡の影響で上層の大気に六角形が描かれているのだ、といった珍説がこれから真密やかに一部のオカルトマニア達によって囁かれることでしょう。

 ・・・

 謎の巨大六角形であるのはその通りでありまして、記事にもあるとおり「土星の北極地方は15年続く夜のさなかだが、約2年後に可視光での観測が可能になる」そうですから、ここは可視光での詳細の観測も含めて分析が待たれるわけですが、少し先走って今回はこの土星の巨大六角形の謎を科学的に考えてみることにしましょう。

 もちろん私は工学系出身ではありますが、物理学の専門家でも土星の専門家(?)でもないことをあらかじめお断りしておきます。



●自然は六角形が意外とお好きな事実〜六角形という形状には驚くほどの特殊性はない

 まずは、六角形という形状自体は人工的なものである必要はないという基本的事実から押さえておきましょう。

 人工的でない六角形の構造物としては、有名なところでは蜂の巣があります。

ハニカム構造

蜂の巣(巣板)ハニカム構造(Honeycomb こうぞう)とは、六角形を並べる形で作られた構造のことである。ハニカムとは英語で「蜂の巣」という意味であり、多くの蜂の巣がこのような形をしていることから名付けられた。

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%8B%E3%82%AB%E3%83%A0%E6%A7%8B%E9%80%A0

 小学校や中学校で図工の時間で、画用紙の上を同一の形を隙間なく敷き詰める幾何学的切り絵遊びなどをした経験の方もいらっしゃいましょうが、一般に、同一の形を隙間なく敷き詰められる単純形としては、正三角形・正四角形・正六角形の3つだけであり、その他の正多角形や円では必ず隙間ができてしまうわけです。

 そして正三角形や正四角形を敷き詰めた構造は、実は縦方向、あるいは斜め方向といった各辺と水平方向の圧力に極めて弱い構造になってしまっていて簡単にずれてしまうのに比し、正六角形の作る構造、いわいるハニカム構造はあらゆる角度からの圧力にも強くたいへん丈夫な構造であり、作る際に必要となる材料が最も少なくなることも知られています。

 ハチの巣や昆虫の目、亀の甲羅のような、生物に関わる構造でも、六角形はポピュラーな存在であると言えましょう。

 また生物とは関わりのない無機質の現象の中にも、例えば、玄武岩の柱状節理などに見られるように、ある程度の量のマグマがゆっくりと一様に冷却された時に入る亀裂の形状とかが、主として力学的要因によりハニカム構造になることが知られています。

 今回の土星の巨大六角形はどうも単独でありハニカム構造ではないようですが、自然界では単独で六角形構造を生成する現象もいろいろ知られていますね。

 一番身近な例では、雪の結晶構造は全て六角形を基本としているわけです。

 雪の結晶構造は全て六角形を基本としているその科学的理由は、水分子に特有の水素結合の角度が120度であるということにあります。

2−3 水素結合について

  水素結合は、酸素やチッソなどの原子と水素原子を含む有機化合物の場合によくみられる。水素が、酸素やチッソの結合していない電子の雲に近づいていき、あたかも結合しているかのごとく、分子の運動を止めるような働きをする。通常の結合よりもかなり弱いが、分子が集まる(凝集と言う)には十分な力を持っている。こうして水分子は分子そのものは小さいが次々にくっついて、次第に巨大な集団となっていく。こうして水素結合をした水分子の構造をみると、あたかも3つの水素原子が一つの酸素原子に結合したかのごとくつながっており、このような分子では3つの水素原子が等価になることにより、より安定化する。つまり、3つの水素は一つの平面にそれぞれ120゜の角度の広がりで位置するようになる。

雪の結晶のなぞ より抜粋引用
http://www1.odn.ne.jp/kentaurus/snow.htm

 つまり水分子が冷えて雪として結晶化する際にこの水分子の水素結合の角度120度が決め手となって、各内角が120度である正六角形の形状をとることが一番安定するわけですね。

 後は各頂点に次々と水分子が結合していきあの美しい形状もとりどりの雪の結晶へと成長していくのです。

 ・・・

 蜂の巣のようなたくさんの六角形が敷き詰められたハニカム構造であれ、雪の結晶であれ、マクロな力学的な力によっても、あるいは分子間力や電気力を含めた分子レベルのミクロな力によっても、安定した形状として、自然は六角形を選択することは、それほど驚くほどの特殊性はないのであります。

 自然は六角形が意外とお好きなようです。



木星に次ぐ巨大なガス状惑星である土星

 ところで雪の結晶のようなミクロな世界で六角形形状が生成されるのはそれほど不思議ではないというのはまだ理解できますが、今回のこの土星の巨大六角形のような地球4個分の大きさというとほうもない構造まで不思議ではないと説明することができるのでしょうか。

 もちろん、この土星の巨大六角形を、蜂の巣のハニカム構造を説明するときの単純な力学的推測や雪の結晶を説明するときの分子レベルの化学反応系での説明では難しいと思われます。

 少し専門的になりますが、おそらく今回の現象は、非線形非平衡パターン形成の一種であり、レイリー・ベルナール対流に代表される流体力学系で議論されるべき現象であると推測しています。

 レイリー・ベルナール対流に代表される流体力学系については、後述しますが、その前になぜこの土星の巨大六角形が「流体力学」で議論されるべきかを押さえておきます。

 みなさま良く承知のとおり、土星木星同様巨大なガス状惑星である事実から、この土星の巨大六角形は、何らかの理由によりその大気の表層で出現している現象であり、結晶構造でも化学反応でもなく、大気という気体の振る舞いを扱う流体力学で議論するのがもっとも科学的妥当性があるかろうからであります。

 まずは土星の大気について、基本的データ・諸元を押さえておきましょう。

惑星を知ろう...[ 土 星 ]

 太陽から6番目の惑星。木星に次ぐ巨大なガス状惑星である。直径は地球の9.4倍、質量は95倍あるが、密度は水の0.7倍に過ぎない。太陽系で密度の最も低い惑星で、巨大な海洋があれば浮くであろう。

 表面は木星と同じで、大部分が水素とヘリウムでできている。中心部には岩石の核があり、これを包む高圧の水素が金属の振舞いをしており、その上を液体水素が覆っている。

 土星の大気の厚さは1000kmで、その半分は濃い大気の層である。この大気の頭頂部の雲の層が、観測される表面の模様を作っている。通常土星の雲の模様にはあまり特徴はないが、30年周期で大白斑が発生する。

 ボイジャー1号と2号の観測により、この模様は木星の大赤斑同様、複雑な環状気流であることがわかった。土星の内部では重いヘリウムが滴となって下に沈み、その摩擦で太陽から受けるよりはるかに多量の熱を発している。

日本惑星協会ホームページ より抜粋
http://www.planetary.or.jp/saturn.html

 ここで重要なポイントは、土星の大気は厚さは1000kmで、大部分が水素とヘリウムで構成されていて、複雑な環状気流が発生している事実であります。

 簡単に説明すると、即席ラーメンを煮ているお鍋を思い出していただければよろしいかと思います。

 お鍋でお湯を沸かすとやがて鍋の中で環状気流が発生するのが、鍋の中の麺の動きでよくわかりますよね。

 加熱されている底の方から麺は冷えている表層にお湯とともに上昇気流にのって持ち上がります。

 そして表層で行き場を失ったお湯と麺は鍋の縁(ふち)にまで水平移動して今度は上から下へ下降気流に乗って下がっていきます。

 一般に液体でも気体でも下層部と上層部の温度差があると、この複雑な環状気流が発生いたします。

 土星の大気でも、下層では「土星の内部では重いヘリウムが滴となって下に沈み、その摩擦で太陽から受けるよりはるかに多量の熱を発し」ていると考えられており、表層の温度−180℃とはかなりの差があり、複雑な環状気流が発生しているのです。

 さらに日本惑星協会ホームページより詳細を押さえておきましょう。

 まず土星の大気は複雑な層を形成していると考えられています。

【大気の構造(厚さ1000km)】

透明な大気の下層
水とアンモニアの雲
氷の雲
透明な大気層
水硫化アンモニウムの氷の雲
アンモニアの氷の雲
雲の層の最上層部

 上層ほど温度は下がり最上層の雲の温度は−180℃という冷たさであります。

【雲の最上層の温度】
−180℃

 この複雑な環状気流によって土星表面では30年周期で大白斑が発生していることもわかりました。

【大白斑】
 1980年及び1981年の探査機ボイジャー1号と2号の観測により、大白斑は木星と同じ複雑な環状気流であることがわかった。 この現象は30年に一度の周期で発生している。

 土星の環状気流がどんなに激しいモノか、なんと赤道地帯の風速は毎時1800kmに達するそうです。

土星の風】
 土星は非常に風の強い惑星の一つで、赤道地帯の風速は毎時1800kmに達する。

 つまり土星では、厚さ1000kmの水素とヘリウムで構成されている大気が、鍋の中で煮立っているお湯のごとく、赤道地帯の風速は毎時1800kmに達するという、猛烈な勢いで複雑な環状気流をおこしているのであります。

 そして今回の土星の巨大六角形は、そのような複雑な環状気流をおこしている土星大気の中で、反時計回りに回転していながら、最初の発見から26年後の現在も残っていて、驚くべきことに六角形の形状がほとんど変化していないというのであります。



理論武装1:創発(そうはつ、emergence)〜部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること

 ではいよいよ「非線形非平衡パターン形成におけるレイリー・ベルナール対流に代表される流体力学系」の議論に入る前に、基本的な複雑系科学用語を理論武装しておきましょう。

 それは創発(そうはつ)・emergence(エマージェンス)という用語であります。

創発

シロアリの塚は自然界での創発の例である。創発(そうはつ、emergence)とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。

この世界の大半のモノ・生物等は多層の階層構造を含んでいるものであり、その階層構造体においては、仮に(既に古くなった)決定論的かつ機械論的な世界観を許したとしても、下層の要素とその振る舞いの記述をしただけでは、上層の挙動は実際上予測困難だということ。下層にはもともとなかった性質が、上層に現れることがあるということ。あるいは下層にない性質が、上層の"実装"状態や、マクロ的な相互作用でも現れうる、ということ。
ましてや、現在では決定論量子力学によって既に否定されており、つまり微視的に非決定的な事象が絶えず発生していることも認めそれを加味するならば、上層の挙動やシステム全体としての挙動は、下層の要素の情報だけによって得られるものを、さらに大きく超えているということになる。

創発」は主に複雑系の理論において用いられる用語であるが、非常に多岐にわたる分野でも使用されており、時として拡大解釈されることもある。

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』 より抜粋
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%B5%E7%99%BA

 創発(そうはつ、emergence)とは、つまり、多層の階層構造を含んでいる系において、下層にはもともとなかった性質が、上層に現れることがあるという現象であります。

 このような創発(そうはつ、emergence)的現象は自然界のあちこちで確認することができますが、創発はときにシロアリの塚のようなおもいもかけない空間不均一な見事なパターンをもたらします。

 ・・・

 ときに自然界では個々の単純な現象が極めて複雑な結果をもたらす、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される場合があることを押さえておきましょう。



理論武装2:「散逸構造」〜非平衡開放系に自己組織化された秩序

 もうひとつだけ科学的用語の説明を我慢して下さい。

 部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れる「創発」という不思議な現象ですが、起こる原動力は実は「散逸構造」にあります。

 「散逸構造」とはどのような概念なのでしょうか?

 ・・・

 みなさまは「エントロピー増大の法則」をご存じでしょうか。

 例えば「乱雑さ」ととらえてもよろしいですが、自然は絶えず「乱雑さ」を求めているということであります。

 例えばお風呂の中にバスクリンの粉をひとふり入れます。

 やがてバスクリンはお湯の中に拡散して溶けていきます。

 この変化は「不可逆的」でありバスクリンがお湯の中を拡散していくことを誰も止めることはできません。

 一度お湯に溶けてしまったバスクリンを元の粉に戻すことは誰も不可能なのです。

 つまり自然とは「乱雑さ」を増す方向性のみ性質として持っている、これを「エントロピー増大の法則」といいます。

 ところがところが生命においては、例えば美しい熱帯魚の体表模様などのような空間不均一なパターンが、普遍的に存在しています。

 これは色素分子が高濃度で存在している部分と、低濃度で存在している部分とが、空間周期的に存在していることを意味します。

 これを自己組織化と呼びますが、なぜ、このようにエントロピーが自発的に減少しているように見える現象が、生命においては起こるのでしょうか?

 それを説明できるのが、「散逸構造」という概念です。

 ここから話が専門的になりますので専門的部分は引用の形にしておきます。

この化学反応、物質拡散、及び熱伝導といった不可逆な過程を、散逸過程と呼びます。孤立系においては外部環境とのエネルギー及び物質の交換がないためdeS = 0であり、孤立系内で発生した空間的な濃度ゆらぎは、化学反応、物質拡散、及び熱伝導といった散逸過程により崩壊され、系は不可逆に平衡状態へと到達します。その際に、不可逆過程によるエントロピー生成速度diS/dtはその不可逆過程の進行する速度に関連し、平衡状態に到達した時点で0となります。

一方、開放系においては外部環境とのエネルギー及び物質の交換があるため、定常状態において、不可逆過程によるエントロピー生成速度は最小値となりますが、0とはなりません。そして、定常状態の近傍においては、孤立系においてと同様に散逸過程はゆらぎを不可逆に崩壊させて、diS / dtが最小値となる定常状態へと系を到達させますが、自触媒過程が機能する場合、ゆらぎが成長して平衡から遠く離れた状態へと系が転移することも可能となります。この空間的な濃度ゆらぎが成長した状態は、熱帯魚、キリン、シマウマの体表模様などのような空間不均一なパターンをもたらし、ΔS < 0の転移ですので、自己組織化と言えます。ただし、このΔS < 0の転移が起こる際も、そしてこの自己組織化された構造が維持される際においても、系内においては常に化学反応、物質拡散、及び熱伝導といった不可逆な散逸過程が機能し続けなければならず、また、これら散逸過程が機能するのに必要なエネルギー及び物質が外部環境から供給され続ける必要も有ります。したがって、このような非平衡開放系に自己組織化された秩序を「散逸構造」と呼び、それが形成されて、また維持される際にはdiS/dtは常に正となっており、エントロピー増大則である熱力学第二法則には反してはいないのです。

[2] 散逸構造とは より抜粋
http://www.applc.keio.ac.jp/~asakura/asakura_j/dissipative.html

 つまり、「自触媒過程が機能する場合、ゆらぎが成長して平衡から遠く離れた状態へと系が転移することも可能」なのであり、このような非平衡開放系に自己組織化された秩序を「散逸構造」と呼びます。

 熱帯魚の美しい複雑な模様だけでなく、例えば人それぞれまったく模様が違う私たちの指の指紋の紋様、これはまさに生命という「散逸構造」による多彩な現象のひとつの例なのであります。

 そして・・・

 

土星の巨大六角形は非線形非平衡パターン形成の一種であるという推測

 ときに自然現象は、人間の手の指紋の紋様のように複雑な動的パターン(らせん波)を自己組織化しながら生成していきます。

 ベロウソフ-ジャボチンスキー反応に代表される化学反応系や、レイリー・ベルナール対流に代表される流体力学系、あるいは粘菌変形体などが有名です。

 参考までに以下のPDFファイルの8頁目に写真が載っております。

知能機械システム構成論http://www.kimura.is.uec.ac.jp/faculties/int-mach-design/06/PPT-PDF/int-mach-design1.pdf#search='%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%AF%BE%E6%B5%81'

 さて、レイリー・ベルナール対流ですが、複雑な環状気流をおこしている気体・液体において、非平衡開放系に自己組織化された秩序すなわち「散逸構造」による多彩な紋様が生じる現象をいいます。

 もちろん上記写真でも確認いただけますが、レイリー・ベルナール対流で発生する複雑な動的パターンは通常「らせん波」であり直線で構成される六角形のような形状はとりません。

 しかし、これらの実験系では,制御パラメータを増大して行くと,複雑な分岐現象やいくつもの非平衡場が絡んで起こると思われる多彩な現象にしばしば遭遇するのであります。

 つまり、らせん状の模様が条件が整えればn角形の形状になって出現することがあり得るのです。

 例えば「愛知教育大学のページ」では、たいへん興味深い「大気の大規模な波の実験」が公開されています。

3.大気の大規模な波の実験

§3 回転水槽を作る
 実験装置では回転、同心円、回転軸方向の温度差という3つの条件が再現される必要があります。東京大学木村龍治教授(現在は放送大学)は、レコードプレーヤーのターンテーブルの上に洗い桶を載せて簡単な装置を作っておられますが、ここでは別の方法として「ろくろ」を使う方法を提案します。愛知県は焼き物の町・瀬戸を擁していますので、ろくろを入手できるお店には困りません。電動式のろくろも販売されていますが回転数を自在に変化させる必要があるので、ここでは手回しのろくろを使うことにし、回転の方は別途電動モーターによって駆動します。回転式のろくろは1万円ほどで手に入ります(写真1)。
 次に同心円状の構造を作るために、ろくろに乗せる容器を用意します。ここでは、家庭用品ショップで底の平らな鍋とステンレス容器(大、小)を買ってきて使います(写真2)。流れの様子が目に見えるようにするために水に浮かべる銀粉(アルミ粉)も必要です。中心を共有するように容器群をろくろの上に乗せて適当な深さに水を入れればればこれで模型の「大気」が出来上がりです(写真3)。同心円状の隔壁で隔てられた3つの部屋のうち、一番外側に40℃程度のお湯、一番内側には氷水、そして中央の部屋には常温の水道水を入れます。もちろん外側が亜熱帯、内側が寒帯(北極)を表し、中央の水道水がわれわれの中緯度の大気を表します。このようにして中緯度の大気の動きを調べるのがこの実験の目的です。調べる対象となる部分の流体(この場合は真ん中の部屋の水)を「作業流体」と呼ぶことがあります。作業流体の表面の動きが目に見えるようにするために少量のアルミ粉を浮かべます(写真4)。この場合特に注意の必要な点は、すべての容器の中心がろくろの回転の中心にきちんと位置するように乗せることです。
 実験装置を組み立てる上での最大の難関はモーターです。これは自作が難しいので既製品を購入するほかありませんが、1回転の時間を1秒〜30秒と広範囲で変化させることができてしかも安定に回る(ある程度トルクがある)モーターを探すとなると、多少出費が必要になってしまいます。ここではオリエンタルモーター社製のブラシレスモーター(KBL-5120GDA2)を使用しました。これは商用電源を使い、付属の制御ボックスで回転の方向や速度を制御します。このモーターは114000円と少々高価でしたが、近々製造中止とのことで、後継機(BX5120A-5)がこれよりずっと安価に提供されています。このモーターにプーリーをつけて固定し、別に固定した手回しろくろにビニールひもでベルトを作って回すようにしました(写真5)。制御部も含めた駆動系の全景を写真6に示します。 

http://www.senior.aichi-edu.ac.jp/mtahira/Jikken/jikken.htm

 この実験では地球の北極圏を中心として、「大気の大規模な波の実験」をろくろを使っておこなっているのですが、注目していただきたいのは、以下の写真であります。

(写真7) 軸対称流−1
(写真8) 軸対称流−2
(写真9) 波数4の波
(写真10) 波数3の波
(写真11) 波数5の波
(写真12) 波数6の波
http://www.senior.aichi-edu.ac.jp/mtahira/Jikken/jikken.htm

 これらは地球を北極上空からみたものに擬似的に対応します。

 つまりレイリー・ベルナール対流のような非線形非平衡パターン形成では、諸条件により形成されるパターンがいかようにも変化しうることが、この実験から示唆されます。

 ・・・

 今回の土星の巨大六角形は、レイリー・ベルナール対流に代表される流体力学系などで議論されるべき非線形非平衡パターン形成の一種であると思います。

 80年に米探査機「ボイジャー」が発見して以来、反時計回りに回転していながら、26年後の現在も残っていて、形状が変化していないということは、この自己組織化された構造が維持される際においても、系内においては常に化学反応、物質拡散、及び熱伝導といった不可逆な散逸過程が機能し続けなければならず、また、これら散逸過程が機能するのに必要なエネルギー及び物質が外部環境から供給され続ける必要も有ります。

 そしてそのエネルギー源こそが、下層では「土星の内部では重いヘリウムが滴となって下に沈み、その摩擦で太陽から受けるよりはるかに多量の熱を発し」ていると考えられており、表層の温度−180℃とはかなりの差があり、複雑な環状気流が発生している土星の大気の激しい動きなのでありましょう。

 ・・・

 今回の土星の巨大六角形に関していろいろ考察してみましたが、もちろん、ここに記したことは一素人の推測に過ぎません。

 その原理も含めて 謎の巨大六角形であるのはその通りでありまして、記事にもあるとおり「土星の北極地方は15年続く夜のさなかだが、約2年後に可視光での観測が可能になる」そうですから、ここは可視光での詳細の観測も含めて分析が待たれるわけです。

 ただ宇宙人の秘密基地であると考えるよりもは、私は非線形非平衡パターン形成の一種であると考える方が理にかなっていると思うのであります。



(木走まさみず)



※なにぶんにも素人の推測ですので、技術的内容でご意見・ご指摘・ご批判があれば幸いです。
 適時テキストを修正させていただきます。