フォルクスワーゲンはどんな不正をしたのかそしてなぜ不正をしたのかを考察する
今回はフォルクスワーゲンの不正問題について取り上げたいです。
当ブログは工学系なので解りやすい説明を試みたいと考えます。
※なおエントリー中の図はすべて当ブログが作図したものです。
●ディーゼルエンジンの仕組みを知る
さて、まずはディーゼルエンジンの動作する原理を簡単に図解します。
■図1:ディーゼルエンジンのモデル図
ディーゼルエンジンは、燃料を燃やす熱エネルギーを動力にして、シリンダ内のピストンを上下動させる運動エネルギーに変換、さらに連接棒によりクランクシャフトを回転させる運動エネルギーに変換させるものです。
基本的な流れは、吸気バルブを開放して空気を吸引(1:吸気)、吸引した空気を圧縮(2:圧縮)、噴射ノズルより燃料を噴射し自然発火(3:燃焼)、排気バルブを開放してガスを排出(4:排気)します。
一連の動作でピストンは2往復、つまりシャフトは2回転しますので、2サイクルディーゼルエンジンと呼ばれます(4サイクルなどもあります)。
少し細かく図解します。
ガソリンエンジンではこの段階で空気に燃料が混入される(混合気)のですが、ディーゼルエンジンでは空気だけを吸引します。
ですので細かい話ですが、吸引するために必要な力ですが、混合気を吸引するガソリンエンジンよりも、空気だけを吸引するディーゼルエンジンの方が小さな力で吸引できます。
さてここでも、ガソリンエンジンは「混合気」を圧縮し、ディーゼルエンジンは「空気」を圧縮する、この違いによりガソリンエンジンは、空気だけ圧縮するディーゼルエンジンと比べて強く圧縮できません。
圧縮しすぎると混合気が勝手に燃えてしまうのです。
この強く圧縮できないことによって、ここでも、ガソリンエンジンの効率<ディーゼルエンジンの効率となります。
エンジンの効率は理論上、強く圧縮するほど高いため上のような効率の関係になります。
圧縮して高温になった空気に軽油を直接噴射します、すると燃料は自然発火します。
ガソリンエンジンはスパークプラグで点火し混合気を燃焼させなければなりません。
言うまでもなくこの「燃焼」工程がピストンを上下動させる、すなわちシャフトを回転させるエネルギーを与える、最も大事なステップです。
原理的には、他の工程はこの「燃焼」で得た運動エネルギーを保持してその慣性力でピストンを上下動させているわけです。
この排気の中に、問題となっている窒素酸化物(NOx)やPM(粒子状物質)という大気汚染物質が含まれています。
さて2サイクルディーゼルエンジンの作動する工程をまとめておきますと、こんな感じです。
■図6:ディーゼルエンジンの作動工程
さてここまで説明してきたとおり、エンジンの構造や方式の違いから、ディーゼルエンジンは空気を高い比率で圧縮して燃焼を行うため熱効率が良く、燃費性能がガソリンエンジンより2〜3割高いわけです。
半面、ガソリンエンジンに比較して、窒素酸化物(NOx)やPM(粒子状物質)という大気汚染物質が発生しやすいデメリットがあるわけですね。
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●ディーゼルエンジンの排ガス対策
ディーゼルエンジンの排ガス対策ですがいくつかあります。
まず噴射ノズルです、現在では燃料を電子制御で高圧噴射する装置が備えられています。
高圧で噴射するほど燃料がよく燃え、排ガス中のPM(すす)が減少する効果があります。
次に排ガスの一部をエンジンに戻す再循環装置(EGR)が使われています。
これにより、純粋に空気だけ圧縮するよりも燃焼温度が下がってしまうのですが、逆に燃焼温度が低いと排ガス中のNOxの発生が減らせるのです。
しかし、エンジン内部の工夫だけでは技術的に大変難しい問題があります。
エンジンの燃焼効率を上げればPMは減少するのですがNOxが増えてしまい、逆に燃焼効率を落とせばNOxは減少しますがPMが増えてしまうのです、NOxとPMを同時に減少させる技術は大きな課題となっています。
そこで、ディーゼルエンジン内部で上記のような排ガス対策を施した上で、最後に排ガスの後処理をします。
後処理部分ではNOxを還元する触媒装置と、PMを取り除くフィルターを付けるのです。
ディーゼルエンジンの排出ガス後処理技術も、NOx吸蔵触媒、尿素SCR、酸化触媒、DPFなどいろいろな技術が確立していますが、排出処理稼働中には燃費が悪化する、フィルターの交換や溶媒の補給などが必要など、それぞれの技術でデメリットも抱えているのが現状です。
(参考資料)
独立行政法人 交通安全環境研究所
排ガス後処理技術の効果、評価、課題
http://www.ntsel.go.jp/kouenkai/h17/17-02.pdf
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●フォルクスワーゲンはなぜ不正をしたのか
今回はPMとNOxの2つの大気汚染物質のうち、NOxの排出を低く見せるための不正でした。
VW(フォルクスワーゲン)は、おそらくエンジン内部の排ガスの一部をエンジンに戻す再循環装置(EGR)を止めていたと推測できます。
繰り返しますが、エンジンの燃焼効率を上げればPMは減少するのですがNOxが増えてしまい、逆に燃焼効率を落とせばNOxは減少しますがPMが増えてしまうのです、NOxとPMを同時に減少させる技術は大きな課題となっています。
おそらくVWは再循環装置(EGR)を止めてエンジンの燃焼効率を優先させたのだと思われます。
また一部報道による路上走行の時は基準値の40倍近くのNOxが排出されていたことが事実だとすれば、排ガス後処理技術の触媒による浄化装置も止めていた可能性は大きいと思われます。
これらによってエンジンの燃焼効率は上がり車の燃費、耐久性も向上します。
ただひとつだけ誤解ないようにしたいのは、一時的にEGRや排ガス後処理を無効化することは、エンジン始動時や冷温時など必要最小限の場合だけではありますが認められている技術であります。
いずれにしてもVWは規制をクリアする技術を備えていたわけです。
そのうえで排ガス試験の時だけ浄化システムを働かせ、それ以外の時は無効化するという不正は、悪質極まりないと言えましょう。
この問題、VWは組織ぐるみで不正を行っていたのか、どれだけのVW技術陣が不正に関わっていたのか、不正はこれだけなのか発覚していない不正はないのか、VWの今後の報告が待たれます。
最後に今回の問題はVW一社に留まらず、自動車産業そのものに世界中の市民からその信頼を根本から疑われている深刻な事態であることは、日本のメーカーもキモに銘じるべきでしょう。
(木走まさみず)