木走日記

場末の時事評論

韓国には言わせておけばいい、飛べ、日本のイプシロン!〜潜在的な意味で日本の安全保障上のカードにもなり得るすばらしい技術

 実に不愉快な、28日付け韓国の朝鮮日報記事タイトルであります。

「ロケット打ち上げの革命」イプシロン、ピクリともせず
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/08/28/2013082800573.html

 記事より抜粋。

27日午後1時45分、鹿児島・内之浦宇宙空間観測所の発射台周辺では、全国から集まった見学者1万人が見守っていた。しかし、打ち上げ時間が過ぎてもイプシロンはピクリともしなかった。打ち上げの様子を中継していたテレビ局のアナウンサーは「動きませんね」と当惑、見学者たちもため息をついた。

 ・・・

 さて今回は当ブログの総力をあげて、この「イプシロン」の打ち上げについて、徹底的にアツク取り上げましょう。

 どうか最後までお付き合いくださいませ。

 たいへん残念ながら新型ロケット「イプシロン」の打ち上げが中止になりました、27日付け産経新聞記事から。

新型ロケット「イプシロン」打ち上げ中止 姿勢異常が原因、19秒前に検知
2013.8.27 14:48 [宇宙]

 新型ロケット「イプシロン」初号機が27日、鹿児島県肝付(きもつき)町の宇宙航空研究開発機構JAXA内之浦宇宙空間観測所で発射態勢に入ったが、午後1時45分の予定時刻を過ぎても打ち上がらず、同日の打ち上げは中止された。

 JAXAによると、打ち上げの19秒前に異常が検知され、コンピューターがカウントダウンを停止した。機体の姿勢異常が原因としている。機体は発射台に設置されたままの状態になっている。

 この日は早朝から機体や地上設備の点検作業を進め、異常がないことを確認して最終カウントダウンを始めていた。今後の予定は明らかになっていない。

 イプシロンは3段式の小型ロケットで全長約24メートル。JAXAが約200億円で開発した。低コストと効率性が特徴で、H2Aの固体ロケットブースターやM5の技術を転用して開発費を抑える一方、IT(情報技術)の活用で打ち上げの管制業務を簡素化していた。

http://sankei.jp.msn.com/science/news/130827/scn13082714480003-n1.htm

 日本独自の固体燃料ロケット最新モデルの「イプシロン」の打ち上げが中止されました、たいへん残念ですがロケット本体にはまったく異常は見られません、あくまでも打ち上げの「中止」であり、しっかりと原因究明とハード・ソフト両面のメンテナンスと検証の後に、再度打ち上げにチャレンジされることでしょう、関係者はあせらずにじっくりと対処していただきたいです、我々一般市民もせく気持ちをあえて押さえてここはゆっくりと打ち上げ成功の吉報を待つことにしましょう。

 個人的な話で恐縮ですが、私は、現在の宇宙航空研究開発機構JAXA)の前身組織のひとつである宇宙開発事業団(NASDA)の時代に、ロケットの制御系ソフトウエア開発の一部に参画した経験があり、個人的にはそれ以来日本のロケット開発には強い関心を持っております。

 今回のイプシロンは、実に7年ぶりに甦る日本独自の技術を搭載した固体ロケットであります。

 日本は7年前、その打ち上げコストのバカ高さから固体ロケットM−V(ミューファイブ)を廃止しました。

 以降、日本のロケット打ち上げは大型液体燃料ロケットH−2系に特化いたしました、予算も集中しその甲斐もありH−2系ロケットは打ち上げ連続成功を続けています、日本のロケット技術の国際的評価も極めて高くなったことは、読者のみなさんもよくご存知のことだと思います。

 繰り返しますが、今回の「イプシロン」の打ち上げは日本にとって実に7年ぶりの固体燃料ロケットの打ち上げなのであります。

 7年前、当時の固体ロケットであるM5ロケットの開発打ち切りの際、我が国が誇る固体ロケット技術をどうにか継承してほしい、当ブログでは「M5ロケットを「負け組」にするな」と悲痛(?)な訴えをエントリーにしています。

 お時間のある読者はどうかご一読あれ。

2006-09-25■[科学]M5ロケットを「負け組」にするな〜地味な研究を「負け組」に追いやらない政策こそ求められる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060925/1159168520

 ・・・

 少し説明をさせてください。

 ロケットには固体燃料ロケットと液体燃料ロケットの2種類があります。

 日本ではまず固体燃料ロケットが開発されます、東京大学の故糸川英夫博士が1955年に行われたペンシル・ロケットの発射実験にはじまり、1970年に固体燃料を用いたL−4Sロケットによって、日本初の人工衛星おおすみ」を軌道に送ってきました。

 1997年から運用を開始したM−Vは、糸川ロケットの集大成と言えるロケットでした、日本初の火星探査機「のぞみ」(1998年打ち上げ、2003年に火星到達を断念)や、ご存知でしょう小惑星探査機「はやぶさ」(2003年打ち上げ、2005年に小惑星イトカワを探査し、2010年にサンプルを地球に持ち帰ることに成功)などを打ち上げてきたのです。

 全段固体燃料で、太陽系空間に探査機を打ち上げたのは、世界でも日本だけです、M−Vと、その先代のM-3SIIロケットの2機種のみであります。

 さて現在のJAXA宇宙航空研究開発機構)は、03年に文部省と科学技術庁が統合され文部科学省になったのを契機に、旧文部省管轄のISAS(宇宙科学研究所)と旧科学技術庁管轄のNASDA(宇宙開発事業団)、NAL(航空宇宙技術研究所)等が統合され誕生した日本の宇宙開発を担う独立法人であります。

 で、固定燃料かつ純国産技術にこだわり続けたこのM5ロケットは、旧文部省管轄のISAS(宇宙科学研究所)の流れを汲むモノで、旧科学技術庁管轄のNASDA(宇宙開発事業団)が取り組んできたのが液体燃料かつ積極的に海外技術を移植してきた大型の主力ロケットH2Aであります、言わば2本立てで日本のロケット技術を支えてきたわけです。

 ・・・

 M5ロケットは日本独自の技術で開発されてきた固体燃料ロケットとしては世界最大の中型ロケットでありまして、その性能は世界が認めるモノだったのであります。

 が、いかんせん「打ち上げ費用が約80億円」と重量当たり費用がアメリカやソ連などに比し倍近くかかるわけでして、「割高」というよりは「バカ高い」のでありました。

 費用面でまったく国際競争力がないのですから、7年前のJAXA宇宙航空研究開発機構)としてもM5打ち切りはやむを得ない選択だったのでしょう。

 そして今、打ち上げ費用30億(目標値)という驚異的な費用圧縮と、ロケットに人工知能搭載という最新の日本のIT技術を結集してここに7年の歳月を経て「イプシロン」、日本独自の固体ロケットが甦るのです。
 
 イプシロンではロケット自らが人工知能により不具合の有無をチェック可能です、これは簡単に言えばロケット内のチェックすべき総数数万の各パーツをLAN(ローカルエリアネットワーク)化して掌握し人工知能により正確な自己判断を行うという、ロケット技術としては世界初の最先端の試みであります。

 今回の打ち上げ中止もこのコンピュータの判断により19秒前に打ち上げを中止したわけですが、これは初号機の場合厳しすぎるほどチェックレベルを高めるのが普通ですので、その意味では「イプシロン」が搭載しているセーフティ機能の健全さを示す結果でもあるわけです。

 ・・・

 そもそも核兵器を持たない日本の固体ロケット技術の開発は、国際比較して予算面で非常に不利でありました。

 その当りの説明を7年前の当ブログエントリーから抜粋してご紹介。

●いかにも貧弱なJAXAの年予算には一切触れず国際競争力を求める日本メディア

 そもそもアメリカ、ロシア、中国、イギリスなどの日本以外の諸外国のロケット開発は、いうまでもなく軍事利用と密接に結びついております。

 全備重量139トンというM5ロケットの大きさは、同じ三段式固体燃料ロケットを採用したアメリカ空軍の最新のICBMであるLGM-118ピースキーパー(88.5トン)やロシアのSLBMであるR−39(90トン)をしのぎ、世界最大級の固体燃料ロケットとなっています。

 しかし、日本のM5ロケットは膨大な軍事予算で大量生産できる諸外国のミサイルやロケットとは異なり、一機一機が衛星・探査機に合わせて組み立てられた特注品であり、積荷にあわせた仕様に調整することができますが、その分大量生産による部品の共有化や低価格化も図れなく高値であることが弱点であるわけです。

 つまり、ロケット開発に携わる各国の開発現場の中で、日本はコスト面で二つの意味で極めて不利な立場に立たされているのです。

 1:日本の宇宙開発は平和利用に限られているので軍事予算とは別に予算化されるためにライバル国に比し慢性的に予算不足にある。

 2:日本の宇宙開発は兵器としての量産が計れないために実射データや不具合データ検出の機会が圧倒的に他国に比し少なく、かつ量産効果による部品の調達価格の低額化が困難である。

 誤解のないようにあえて付記しておきますが、ここで何も日本の宇宙開発も軍事利用に門戸を開いて予算を厚くしろと単純な主張を展開しようというのではもちろんありません。

 そうではなく、平和利用に限定して努力してきた日本のロケット技術に対して、その不利な立場を承知の上で、国際競争力を求めながら、M5ロケットを打ち切りつつ既存の固定燃料技術を継承せよ、と無理難題を押しつけるならば、諸外国にも開発力でまけないような最低限の予算は確保すべきであるのです。

 ・・・

 さて上記説明でも理解いただけるように、実は固定燃料ロケットのノウハウはそのまますぐに、軍事利用すなわちICBM(大陸間弾道弾)に転用可能です。

 すなわち、日本独自技術の固体燃料ロケット「イプシロン」の打ち上げに成功すれば、それは実は我が国にとって極めて重要な安全保障の「カード」になり得るのです。

 最新のIT技術を搭載しかつ打ち上げコストも抑えた「イプシロン」の打ち上げには、単純な経済的試算では計上できない眼に見えない国益が掛かっているのです。

 冒頭で紹介した不愉快な韓国・朝鮮日報の記事ですが、実は彼らも「イプシロン」に実装されている日本の技術が自分達が一朝一夕にとてもマネができないシロモノであることを記事後半で認めています。

 イプシロンは日本の技術力を総結集して作られた最新型ロケット。大陸間弾道ミサイルICBM)と同じ固体燃料ロケットということで兵器転用も可能だ。イプシロンの打ち上げ費用は従来のロケットの半分程度だという。約100人で担当していた管制業務も10人以下でできる。管制装置はパソコンが2台あれば十分で、打ち上げ準備期間は45日から1週間へと短縮された。

 日本ではこれより前に固体燃料ロケットモデル「M5」を開発していたが、打ち上げ費用が75億円に達するなどコストが掛かり過ぎるという理由で、最初の打ち上げから9年目の2006年に開発事業を中止している。

 韓国中央日報の26日付けコラムでも「大陸間弾道ミサイルICBM)に転換されるイプシロンロケットの導入」を「脅威」と位置づけて論評しています。

【コラム】日本の再武装、韓国の核をそそのかす

(前略)

最近、日本が露骨な軍国主義の動きを見せるにつれ、韓国と中国が激しく反発している。それでも「集団的自衛権」行使を合憲に変えようとする安倍晋三首相の立場は一貫している。日本の再武装も次々と実現する勢いだ。防御中心の戦略では不必要な海兵隊創設ニュースが出てきた。最先端MV22垂直離着陸機、大陸間弾道ミサイルICBM)に転換されるイプシロンロケットの導入の話も聞こえる。誰が何と言おうと、隣接国としては軍事的な脅威にしか見えない。

(後略)

http://japanese.joins.com/article/420/175420.html?servcode=100§code=140&cloc=jp|main|ranking

 ・・・

 まとめです。

 我が国のイプシロン打ち上げはあくまでも平和利用が目的です。
 そして他国の追随を許さない最先端の制御技術が試されようとしています。
 日本にとってこの独自技術の確立は今後多方面に好影響を及ぼすことが期待できます。
 さらに日本にとって、潜在的な意味で安全保障上のカードにもなり得るのです。
 ロケットの自国開発すらままならない韓国のメディアには好きに言わせておけばいいでしょう。

 打ち上げ成功のときを楽しみに、じっくりと待ちましょう。



(木走まさみず)