木走日記

場末の時事評論

エコな燃料電池車とエコじゃない水素ステーション

 27日付け日経新聞記事から。

水素ステーション市街地OK 燃料電池車普及促す
政府、立地規制を緩和
2012/5/27 2:03

 政府は次世代エコカーの本命である燃料電池車の燃料を供給する水素ステーションの整備に乗り出す。6月中に立地規制を緩和し、2015年までに100カ所の設置を目指している民間の計画を補助金などで支援する。燃料電池車開発に本腰を入れる米独韓との競争で後れを取らないように実用化を後押しし、エコカー分野での日本の技術の優位性を保つ狙いだ。

(後略)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2601G_W2A520C1MM8000/

 うむ、政府は燃料電池車の燃料を供給する水素ステーションを2015年までに100カ所の設置を目指す方針をたてました。

 6月中に、水素ステーションの立地規制を緩め、高圧ガス保安法を省令改正し、住宅地やオフィスビルが集まる地域で立地できるように改め、また消防法も政令改正し、ガソリンスタンド運営会社が自社スタンドの隣に水素ステーションを建てることも認める方針です。

 経済産業省によると、水素ステーションの建設費は1件6億円かかり、同7000万〜1億円のガソリンスタンドに比べ民間事業者の負担は重いので、そこで同省は水素ステーションに使う鋼材や資材について、安全性を見極めたうえで規制を緩和、さらに官民で水素の圧縮機や貯蔵タンクに使うバルブなど部品ごとの規格を統一し、コストを減らし、建設費を2億円程度に抑える目標です。
 次世代エコカーの本命である燃料電池車は、水素と空気中の酸素を反応させて電気を起こしモーターを回します、排ガスも水(水蒸気)のみで二酸化炭素などの有機ガスは出ない極めてエコな発電方式で、なおかつ、電気自動車などに比べ、充填時間の短さ、走行距離の長さが強みと期待されているわけです。

 で、燃料電池車が普及するためのインフラ設備として水素ガスを供給する水素ステーションの設置促進策が各国で競うようにとられ始めているということです。

 今回はこの燃料電池車と水素ステーションについて、わかりやすくまとめてみたいと思います。

 まず自動車に搭載される燃料電池ですがPEFC(polymer electrolyte fuel cell)、固体高分子形燃料電池という方式が採用されています。

■図1:固体高分子形燃料電池の構造と原理

 燃料タンクから送られてきた水素ガスは燃料極(負極)でH2 → 2H+ + 2e-の反応によって水素イオンH+(プルトン)と電子e-に分解されます。

 この後、プロトン電解質膜(固体高分子膜)内を、電子は導線内を通って、空気極へと移動します。

 ここで燃料極には白金触媒あるいは白金合金触媒を付けたカーボンブラック担体が使われますが、水素ガスに炭素(実際には一酸化炭素などの炭化物)が含まれていると白金が腐食されてしまい極が劣化してしまいます。

 そこで燃料電池車の燃料となる水素ガスは極めて純度の高いものが要求されるのです。

 さて空気極(正極)では、電解質膜から来たプロトンと、導線から来た電子が空気中の酸素と反応して、4H+ + O2 + 4e- → 2H2Oの反応により水が生成されます。

 このように固体高分子形燃料電池では、電気エネルギーと熱エネルギーが生成され、排気物としては水(水蒸気)のみであるという素晴らしいエコエンジンなのであります。

 で、水素ステーションですが、ガソリン車のガソリンスタンドと同様、設置は高速道路や街中を想定していますが、水素ガスの精製設備を持ったフル設備のものと水素ガスの精製能力は無く備蓄と供給のみのものに分かれますが、ここではフル設備のもので
説明いたします。

■図2:水素ステーションの主な設備とガスの流れ

 現在のところ水素ガスを作る元の燃料には石油などの有機物が使われています。

 前述しましたが、燃料電池に使う水素ガスは高い純度が求められますので、改質部と水素精製部で純度の高い水素ガスを精製してホルダに送り込む際、大量の二酸化炭素が排出されます。

 結局、現在の燃料電池車は環境にエコですが、その燃料を作る水素ステーションまで考えると、CO2垂れ流しという、残念なサイクルで成り立っているわけです。

 あと、水素ガスは福島第一事故を持ち出すまでも無く、すさまじい爆発力を持つ危険なガスであり、その取り扱いは十分に注意しなければなりません。

 燃料電池車普及まで、実に多くの課題を解決しなければならないのですが、将来、例えば水素ガスを生成するのに有機物は使わないで太陽光発電を電源として水の電気分解で作るようにすれば、燃料電池のサイクルからCO2の排出がなくなります。

 今後の取り組み如何によっては十分に期待できる技術と思います。



(木走まさみず)