木走日記

場末の時事評論

プルトニウム検出:プルサーマル営業運転中であった3号炉の危険性

 枝野幸男官房長官は29日午前の記者会見で、福島第一原子力発電所の敷地内で採取した土壌からプルトニウムが検出されたことについて、高濃度の汚染水と合わせて「燃料棒が一定程度溶融したことを裏付けている」と述べ、原子炉の核燃料が損傷して漏れ出しているとの認識を示しました。

プルトニウム検出「燃料棒溶融裏付けている」枝野長官
2011年3月29日11時34分
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103290146.html

 枝野氏は「大変深刻な事態だ。周辺への影響をいかに収束させるかに全力を挙げている」と表明しましたが、これは確かに深刻な事態であり、敷地内の土壌から毒性の強い放射性物質プルトニウムが検出された事実は、「放射性物質が漏れないようにする(原発に)あるべき五重の壁が破れたことを示す。憂うべき事態だ」(原子力安全・保安院の西山英彦審議官)、つまりかねがね東電が喧伝していた原子力発電の安全装置「五重の壁」がことごとく破られその「神話」が崩れ去ったことを意味するわけです。

 まさに「大変深刻な事態」(枝野幸男官房長官)だと言えます。

 原子炉からプルトニウムが漏れたとすると、注目しなければならないのが3号炉です。

 プルトニウムが漏れた元は明らかにはなっていませんが、現時点では特定は難しいのであり、1号炉から4号炉まで、原子炉だけでなく使用済み核燃料プールまで疑う必要があります、あるいは複数の箇所から漏れている可能性も否定できませんが、特に3号炉を注視すべきなのは、この3号炉だけが昨年の10月よりプルサーマル運転、つまり通常の格燃料にMOX燃料という使用済み核燃料から再利用した燃料を混合して使用してきたからであります。

 原子力発電は大量の使用済み格燃料を発生させますが、その使用済み格燃料は実はすべて燃焼しつくしてはなく再処理すれば再利用可能なプルトニウムやウランが含まれています、それを再処理工場でプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料に加工したものがMOX燃料と呼ばれているものです。

 福島第1原発3号機で現在使われているMOX燃料は1999年にフランスから運ばれたフランスの核燃料会社アレバが加工したものです。

 MOX燃料は、ウラン新燃料に比べ放射能が高い(特に中性子が著しく高い)ため、燃料の製造については遠隔操作化を行い、作業員の不要な被曝に十分配慮して行う必要があるため、その技術があるフランスの会社に製造委託した経緯があります。

 今回のようなプルトニウムが漏れるという重大事故が発生した場合、MOX燃料が疑われる理由は、ウラン中にプルトニウムを混ぜることにより、燃料の融点が下がり、これにより燃料が溶けやすくなる点、また熱伝導度等が、通常のウラン燃料よりも低下するので、これにより燃料温度が高くなりやすくなる点です。

 つまりMOX燃料を使用していない他の炉よりも3号炉はプルトニウム漏れ発生源としての可能性が高いためです。

 繰り返しますが現段階でプルトニウムが漏れた炉を3号炉と特定する根拠は全くありませんが、もし3号炉が炉心溶融しているとしたらMOX燃料も含まれているわけで極めて深刻な事態と申せましょう。

 29日付け共同通信電子版速報記事から。

仏、専門家派遣を決定 福島原発事故で東電要請 

 【パリ共同】フランス97 件公共ラジオによると、同国のベッソン産業・エネルギー・デジタル経済担当相は28日、福島第1原発事故に関連した東京電力の要請を受けてフランスの核燃料会社アレバが専門家2人を日本に派遣すると述べた。
 同担当相は、日本側の要請が放射性物質に汚染された水の対策だったことを明らかにした上で、2人の専門家は現在フランス97 件原子力庁に出向中の職員で、水に蓄えられた放射性物質の除去の専門家だと述べた。
 担当相はまた「日本側から要請があれば、支援が必要な他の分野でも専門家を派遣する用意がある」と表明。一方で「福島第1原発の状況は、正確な把握が難しい」と日本側の説明に苦言を呈した上で、状況掌握に経験を積んだフランスの専門家が役割を果たすだろうとも語った。
 アレバは日本の電力会社の委託でプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料の加工を請け負っており、福島第1原発3号機で現在使われているMOX燃料は1999年にフランスから運ばれた。(2011年03月29日 共同通信

http://www.47news.jp/47topics/e/202927.php

 「東京電力の要請を受けてフランスの核燃料会社アレバが専門家2人を日本に派遣する」と報じる共同通信記事ですが、この報道に対して東京電力は例によって明確な回答を控えています。 

東電、仏社・原子力庁に支援要請との報道「事実確認中」
2011/3/29 12:31

 東京電力は29日、同社がフランス電力公社(EDF)や仏原子力のアレバなど仏企業や仏原子力庁に対し支援を要請したとの報道に関し「事実を確認中」と述べ、明確な回答を控えた。〔日経QUICKニュース〕

http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C9381949EE0EBE2E5828DE0EBE2E1E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2

 最悪のケースですが、3号炉が“統制不能”になりつつありフランスにMOX燃料専門家の派遣を要請したとすれば、ことは重大だと思われます。

 私が3号炉に危惧するのは、次の気になる報道もあるからです。

 28日付け時事通信記事から。

マニュアル見ながら放水=訓練なしで特殊車両使用−川崎市消防局

 深刻な状況が続く福島第1原発福島県大熊町双葉町)で、3号機への放水を終えた川崎市消防局の緊急消防援助隊隊長らが28日、記者会見し、防護服の足に貼り付けたマニュアルを見ながら放水したことなどを明らかにした。
 同隊の富岡隆統括部隊長(59)や小林英木副隊長(54)らの説明によると、放水の際、東京消防庁の屈折放水塔車を使用したが、事前に訓練ができなかったため、マニュアルを見ながらのぶっつけ本番だったという。
 小林副隊長らは「隊員には(放射線は)見えないものではなく、線量計で分かるものだと教育した。隊員は冷静にミッションを遂行した。誇りに思う」と胸を張った。
 一方、放水前日の24日午後6時、3号機近くで毎時1000ミリシーベルト放射線量を測定したことにも言及。放射線量は放射線源からの距離に反比例することから、14日の水素爆発で原子炉建屋が吹き飛んだ3号機西側約20メートル地点のがれきの中にあるとみられるという。(2011/03/28-21:01)

http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2011032800928

 特に「放水前日の24日午後6時、3号機近くで毎時1000ミリシーベルト放射線量を測定したことにも言及。放射線量は放射線源からの距離に反比例することから、14日の水素爆発で原子炉建屋が吹き飛んだ3号機西側約20メートル地点のがれきの中にあるとみられる」とありますが、放射線源が「3号機西側約20メートル地点のがれきの中」という記述が事実だとすれば、MOX燃料を含んだ炉心から燃料が漏れ、原子炉建屋が吹き飛んだ爆発時に何らかの放射線源が20メートルも飛ばされた可能性があるということです。

 ・・・

 ここに12年前の技術レポートがあります。

日本の原子力発電所で重大事故が起きる可能性にMOX燃料の使用が与える影響
エドウィン・S・ライマン (PhD)
核管理研究所(NCI)科学部長
1999年10月
http://kakujoho.net/mox/mox99Lyman.html

 このレポートでエドウィン・S・ライマン教授は、まるで今日の事態を予見していたかのようにこう指摘しています。

 少し長いですが当該部分を引用。

 MOXの使用に伴って増大する危険の大きさからいって、県や国の規制当局はどうしてこの計画を正当化できるのだろうかと問わざるを得ない。その答えは、原子力産業会議が発行しているAtoms in Japanという雑誌の中に見いだすことができる。『通産省科学技術庁、福島でのMOX使用を説明』という記事はつぎのように述べている。

MOX使用に関する公の会合に出席した市民が、『MOXを燃やす炉での事故は、通常の炉での事故の4倍悪いものになるというのは本当ですか』と聞いた。返答は、事故が大規模の被害を招くのは、燃料が発電所の外に放出された場合だけだ、というものだった。MOXのペレットは焼結されているから、粉状になってサイトの外に運ばれていくというのは、実質的にあり得ない。だから、事故の際のMOX燃料の安全性は、ウラン燃料の場合と同じと考えられる。」

 この返答こそが、MOXの使用を計画している電力会社は、プルトニウムのサイト外への放出に至る事故の影響について評価する必要はないと判断した原子力安全委員会の間違った論理を要約しているといえる。この論理を使えば、日本の当局にとって都合のいいことに、MOX装荷の炉心にある通常の炉心よりずっと多量のアクチニドに関連した深刻な安全性問題を、無視することができるのである。上述の通り、MOX燃料は、低濃縮ウラン燃料と同じく、炉心損傷を伴う重大事故の際には、細かなエアゾールの形で拡散しうるのである。米国で研究されているメカニズムの一つは、高圧溶融噴出(HPME)で、これは、炉心溶融発生の後、原子炉容器が高圧で破損するというものである。このような事態となると、炉心が破片の形で格納容器の内部に噴出し、その結果、格納容器の温度が急激に上がり、封じ込め機能が失われ、放射性物質の放出が生じる可能性がある。

 MOXの使用はまた、重大事故の発生の確率を大きくする可能性もある。たとえば、冷却材喪失事故や発電所停電などの事象がある。これらは、米国の加圧水炉では、初期段階での封じ込め機能の損失のリスクをもたらす最大の要因と考えられている。これらの事象が炉の損傷にまで発展する確率は、炉心の緊急冷却が始まるまでに燃料棒の被覆管がどれだけ損傷しているかによるところが大きい。MOX燃料の熱電導率は、低濃縮ウランの場合よりも約10%小さくなっている。一方、MOX燃料の中心線の温度は、50%高くなっている。このため、MOX燃料の燃料棒に蓄えられている熱は、低濃縮燃料の場合よりも大きい。MOX燃料の中央線の温度と蓄えられたエネルギーとが低濃縮ウラン燃料よりも大きいため、冷却材喪失事故の初期段階における燃料棒の被覆管の温度の上昇と、被覆管の酸化率が、低濃縮ウラン燃料よりも大きくなる可能性があり(4)、冷却材喪失事故の影響の緩和のためにNRCが設けている規定を満足させることはMOX炉心の方が難しくなるかもしれない。

 MOX燃料を使用したときの危険性を問われた電力会社は「事故が大規模の被害を招くのは、燃料が発電所の外に放出された場合だけだ、というものだった。MOXのペレットは焼結されているから、粉状になってサイトの外に運ばれていくというのは、実質的にあり得ない。だから、事故の際のMOX燃料の安全性は、ウラン燃料の場合と同じと考えられる。」、つまり「MOX燃料の安全性は、ウラン燃料の場合と同じ」と答えています。

 「プルトニウムのサイト外への放出に至る事故の影響について評価する必要はないと判断した原子力安全委員会の間違った論理を要約している」と教授は指摘していますが、今回すでにプルトニウムが漏れているわけですからこれが3号炉由来ならば深刻な事態です。

 また教授は「MOXの使用はまた、重大事故の発生の確率を大きくする可能性もある。たとえば、冷却材喪失事故や発電所停電などの事象がある。これらは、米国の加圧水炉では、初期段階での封じ込め機能の損失のリスクをもたらす最大の要因と考えられている。これらの事象が炉の損傷にまで発展する確率は、炉心の緊急冷却が始まるまでに燃料棒の被覆管がどれだけ損傷しているかによるところが大きい。」と指摘しています。

 今回はまさに起きてはいけない「冷却材喪失事故や発電所停電などの事象」が起こっているのであり、「初期段階での封じ込め機能の損失のリスク」、これも「五重の壁が破れたことを示す憂うべき事態だ」(原子力安全・保安院審議官)の発言のとおり現実のものになってしまいました。

 エドウィン・S・ライマン教授はこのレポートをこう結んでいます。

日本の規制担当者にとって、日本の原子力発電所が米国のものよりリスクが相当低いと考えるのはばかげている。したがって、日本は、軽水炉MOX燃料を装荷し始めるというその計画を再検討しなければならない。米国の例にならって、重大な封じ込め機能喪失事故が──他の国におけると同じく──日本でも起こりうるという事実を受け入れ、その文脈においてMOX燃料の使用のリスクを評価すべきである。このような評価を厳密かつ正直に行えば、日本の当局は、MOX使用に伴うリスクの増大は、日本人にとって受け入れることのできない重荷であり、将来の日本の原子力産業の焦点は、通常の低濃縮ウランを使った既存の原子力発電所の安全な運転におくべきだ、との結論に至らざるを得ないだろう。

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 繰り返しますが現段階でプルトニウムが漏れた炉を3号炉と特定する根拠はありません。

 ですが、もし3号炉が炉心溶融しているとしたらMOX燃料も含まれているわけでフランスに専門家派遣を要請したのは正しい判断でしょう。

 3号炉がプルサーマル営業運転中であった事実、つまり事故の際より危険があるMOX燃料が使用されていた事実は、もっと報道で強調されていいでしょう。

 はっきりしていることは事態がここにいたった以上、政府・東電はすべての情報を迅速に開示し、フランスやアメリカや世界中の専門家の知恵と技術を活用すべく躊躇なく協力を仰ぐべきです。

 フランス政府・企業への要請すら「事実確認中」とはぐらかすような態度はもはや必要ないのです。

 東京電力および日本政府は事の重大さを正しく認識すべきです。



(木走まさみず)