木走日記

場末の時事評論

日本の原発はIAEAに直接チェックしてもらおう〜原子力安全・保安院も原子力安全委員会も存在価値はない

 あらゆる人工システムというものは時が経つにつれて物理的変化もしくは化学的変化により品質や性能が損なわれてしまいます、いわゆる経年劣化であります。

 例えば自動車もいろいろなパーツからできていますが、それぞれ異なる要因で経年劣化していきます、ゴムでできているパーツならば空気と接触することによる主として化学的要因である酸化により粘性が落ちてひびが入ったり破損したりしますし、金属でできているパーツならば部位によっては物理的要因である磨耗により経年劣化してしまったり、そのために日本では2年に一度定期的に専門の人間による検査である「車検」が制度化しているわけです。

 原子力発電という複雑で巨大なプラントでは、電気事業法に基づき、約13ヶ月に1回原子炉を止めて定期検査を行っています。

 定期検査は、発電所の設備を健全な状態に維持し、トラブルの未然防止や発電所の 安全運転を図ることを目的として行うもので、重要な設備を中心として国の約70項目にもわたる検査を受けているほか、健全性の確認・・・主要な設備が正常に機能するか否か、また分解検査や漏洩検査によって設備に機能が維持されているかどうか点検、機能維持・・・燃料など消耗品を交換し、補修など劣化に対する処置を行い、異常は早期に発見し、必要な処置を行う、信頼性の向上・・・ほかの発電所で発生した事故や故障の類似個所を点検し、必要に応じて処置を施す。また、設備・機器の交換の必要が生じたときには新品に取り替えます。

 日本の原子力安全について業者に対して直接安全規制するのは経済産業省原子力安全・保安院であります、定期検査の検査項目の設定や検査自体のチェックも原子力安全・保安院の大切な役割です。

 日本の場合、規制行政庁から独立した原子力安全委員会がさらにそれをチェックする多層的体制となっています。

 原子力安全委員会が専門的・中立的な立場から、規制行政庁を監視、監査する、ダブルにチェックしているわけです。

 原子力発電の定期検査では国が定めた厳しいチェックをし、経年劣化した設備・機器は補修し、必要ならば交換し新品に取り替えるわけですが、絶対取り替えることができない部位があります、原子力発電という複雑で巨大なプラントの心臓部である原子炉本体であります。

 日本原子力発電のサイトによれば、原子炉圧力容器に使用されている鋼材は原子炉運転中に高速中性子の照射を受けて硬く脆くなり、破壊に対する抵抗力が徐々に低下していく(「中性子照射脆化」と呼ぶ)ことが知られています。

原子炉圧力容器鋼材の中性子照射脆化について
http://www.japc.co.jp/jouhoukoukai/hozen_content_01.html

 この中性子照射脆化の程度を把握するため、原子炉圧力容器鋼材から切り出した「監視試験片」を予め炉心の近くに装荷しておき、定期的に取出して試験を行っています。

 この試験で重要な目安になるのが脆性遷移温度(NDT:Nil-Ductile Transition Temperature)であります。

 バラの花でも−30℃の冷温ではバリバリ割れてしまいますが、金属もある温度まで低下するとバリバリ割れてしまいます、その温度を脆性遷移温度といいます。

 一般の鋼の場合、脆性遷移温度はだいたい−20℃前後ですが、長年高速中性子の照射を受けていくと経年劣化し、この脆性遷移温度がどんどん高くなっていきます、すなわち硬く脆くなる尺度として「監視試験片」の脆性遷移温度を計測することで原子炉圧力容器の経年劣化による硬さ・脆さの目安とすることができます。

 日本原子力発電のサイトによれば、「監視試験片」をシャルピー衝撃試験(ハンマーで打撃して破断に要したエネルギーを測定する試験)により脆性遷移温度を求めています。

http://www.japc.co.jp/jouhoukoukai/images/hozen04.pdf
 たとえば、敦賀発電所1号機(BWR)では、原子炉圧力容器の母材の脆性遷移温度は、初期値の−20℃から第六回の監視試験では51℃まで高くなっています。

http://www.japc.co.jp/jouhoukoukai/images/hozen03.pdf

 この原子炉圧力容器の脆性遷移温度が高くなる、つまり経年劣化すると問題になるのは。通常運転時よりも非常時です。

 つまり、地震や故障など、何らかの原因で通常の冷却機能が停止し、緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動して、原子炉圧力容器が急冷されると、その際に圧力容器が破壊されてしまう危険性があるわけです。

 今週号の週刊現代(7月2日号)で東京大学井野名誉教授が玄海原発1号機の危険性を指摘しています。

「九州・玄海原発は爆発する」
http://kodansha.cplaza.ne.jp/wgendai/

 記事によれば玄海原発1号機の脆性遷移温度がなんと98℃という水の沸点にせまる高温を示しているというのです。

 記事より井野教授の発言部分を抜粋。

 玄海原発1号機の場合、この温度が、なんと「98度」になっているのです。
 ガラスのコップに熱湯を注ぐと、割れてしまいますよね。これはコップの内側と外側の温度差によって生じる力に、ガラスが耐えられなくなるからです。
 原子炉の場合は、これと逆になります。高温の原子炉の中に、緊急冷却のために水を入れる。すると、それによって圧力容器が破壊されてしまう。「脆性遷移温度」が高いということは、その際、より早い段階で容器が壊れる危険性が出てくる、割れやすい、ということになります。
 ちなみに九州電力が公表している玄海原発1号機の脆性遷移温度は、76年が35度、80年が37度、93年が56度でした。ところが最新の09年の調査で、それが一気に98度へと跳ね上がりました。
 なぜこれほど急激に上昇したのか原因は不明です。ただ、圧力容器の鋼材に銅などの不純物が混ざっていると、老朽化が早く進み、この温度が高くなることがわかっています。以前は関西電力美浜原発1号機の脆性遷移温度が最も高かった(81度)のですが、ここの圧力容器には銅成分が少なからず含まれています。
 玄海原発の場合、単純には説明のつかないところがありますが、どうも鋼材そのものが均一な材質ではない、という仮説が成り立ちそうです。つまり、圧力容器自体が一種の不良品だった可能性も捨て切れません。」

 井野教授はもうひとつ重大な指摘をしています。

「呆れたことに、原子力安全・保安院は、玄海原発1号機の異様に高い脆性遷移温度のことを、昨年12月に私たち「原発老朽化問題研究会」が指摘するまで、把握していませんでした。
 九州電力はこの情報を保安院に伝えておらず、保安院も電力会社に問い合わせる義務がないので知らなかったと言うのです。福島第一原発の事故で、原子力の管理・監視態勢がまったく機能しなかったことが問題になっていますが、ここでも同じことが起きている。」

 原子力発電プラントの心臓部ともいえる原子炉の経年劣化試験の結果数値を、それも異常値といえる結果を、原子力安全・保安院は井野教授たちの指摘を受けるまで知らなかったというのです。

 つまり原子炉の経年劣化試験は報告義務のある重要な検査項目には入っていなかったということでしょうか。

 だとすればあまりにも杜撰であり、運転開始(1975年)から36年も経過している原発に対しての検査としてはザルといってもいいでしょう。

 あらゆるシステムは経年劣化します。

 したがって寿命があるのです。

 原発も例外ではないです。

 原子炉の経年劣化の状況を把握していなかった原子力安全・保安院なのであります。

 原子炉の設計寿命は40年でありますが、日本では今回事故を起こした福島第一原発など寿命が尽きているのに、電力会社の要望で20年延長運転などが認められてきました(その結果、今回の事故です)。

 延長運転の安全性をチェックしてそれを許可したのも原子力安全・保安院であります。

 科学的な検査が漏れている以上、これ以上延長運転を認めるわけにはいきません。

 それだけでなく、運転30年以上の原発はすべてその経年劣化状況を再検査すべきです。

 同じ「原子力村」の中でなあなあの検査を繰り返しても意味がありません。

 22日付けの朝日新聞がいい提案をしています。

IAEA会合―原発安全の監視役に
http://www.asahi.com/paper/editorial20110622.html

 社説の後半部分。

 こうしたなかで、天野之弥(ゆきや)事務局長は、IAEAの国際専門家チームが、世界中の原発の安全評価に乗り出す考えを明らかにした。たとえば無作為に選んだ1割の原発について、原発の運転だけではなく、緊急時の対策から規制のあり方まで調べあげようという構想だ。

 この構想には、二つの面から期待できる。

 まず、一律の基準をつくるだけでなく、原発ごとに調べることに意義がある。原発の安全では、立地点にどんな災害リスクがあり、周辺にどれだけ多くの人々が住んでいるかといった自然、社会条件も考えなくてはならないからだ。これは今回、思い知らされたことでもある。

 さらに、日本のように「原子力村」が根を張る国では、外の目が評価に欠かせない。

 気になるのは、この構想に立地国がどこまで協力するかだ。同意を得たうえで進めるというが、原子力は国家技術の性格があるため、すんなり受け入れない国もあるかもしれない。

 日本が送り込んだ事務局長の提案だ。まずは、日本政府がこの国際チームを率先して受け入れたらどうだろうか。

 IAEAの国際専門家チームを受け入れて日本のすべての原発を厳しくチェックしてもらう、これはいいアイディアだと思います。

 そうすれば、原子力安全・保安院原子力安全委員会も必要ないです。

 チェックがダダ漏れで2重チェック機能などまったく働いていない、現状でも存在価値はないのですから。

 日本の原発IAEAに直接検査してもらいましょう。



(木走まさみず)