木走日記

場末の時事評論

想定濃度の144倍!?〜汚染水浄化システムがわずか5時間で停止した極めて深刻な事態

 18日付け朝日新聞記事から。

汚染水浄化装置5時間で停止 吸着装置の交換基準に到達
2011年6月18日12時22分

 東京電力は18日、福島第一原子力発電所にたまっている高濃度の放射能汚染水を浄化する装置の運転を停止したと発表した。同日未明に放射性セシウムを吸着させる装置が、想定より早く基準の放射線量に達したためだという。17日夜の本格稼働からわずか5時間での停止。原因は不明で復旧のめどは立っていない。浄化した水を再び原子炉に戻し、燃料を安定冷却する「循環注水冷却」に18日に入る予定だったが、開始できなくなったという。

 この装置は、セシウムを吸着する鉱物のゼオライトを入れた円筒形のカートリッジ(直径90センチ、高さ2.3メートル)が並んでいる。この間をパイプでつなぎ汚染水を通していく仕組み。計測装置で基準の毎時4ミリシーベルト放射線量が上がるとカートリッジを交換する予定にしていた。吸着装置は米キュリオン社製で、交換基準は作業員が高線量の被曝(ひばく)をしないために設けられている。

 東電によると、18日午前0時54分ごろ、稼働させた2系統のうちの1系統で、油などを除去する入り口側の部分で、放射線量の計測値が毎時4.7ミリシーベルトになった。残りの系統も3.9ミリシーベルトを示したという。この部分の交換は、1カ月に1回の想定で、これほど短時間で基準を超えることは考えにくいという。

 東電福島事務所は「原因が判断できないので止めた」と説明している。現時点で水漏れなど異常は見られないが、原因を突き止めないと、運転再開はできない。

http://www.asahi.com/national/update/0618/TKY201106180141.html

 うむ、頼みの綱である高濃度の放射能汚染水を浄化する装置が稼動5時間で停止してしまいました。

 停止の理由は放射性セシウムを吸着させる装置がカートリッジを交換する目安の毎時4ミリシーベルト放射線量を越えてしまったためとあります。

 このカートリッジの交換は予定では月に1回程度とされていましたから、東電福島事務所は「原因が判断できないので止めた」と説明していますが、いつ原因が明らかになるのか、そして再開できるのか、まったく予断を許さない状況になっている模様です。

 ・・・

 福島第一原発の現状を整理しておきます。

 1号機から4号機を冷やすために毎日500トンの冷却水を使っていますが、ご存知のとおり原子炉はメルトダウンしており、一部メルトスルーの可能性も否定できず、冷却水はダダ漏れの状態で、高い濃度の放射能汚染水として原子炉建屋やタービン建屋の地下にたまっており、現在約11万トンと推定されています。

 これからも冷やし続けるためには毎日500トンの冷却水を注入し続けなければなりませんが、もはや建屋地下の許容量はいっぱいに近くこのままでは今月末には汚染水が海にあふれ出しかねない状況なのであります。

 そこで地下に溜まっている汚染水を浄化し冷却水として再使用する循環型の汚染水浄化システムが試運転の後、17日から本番稼動を迎えたわけです。

 汚染水処理システムは順調に稼動すれば1日1200トンの汚染水を処理可能とのことであります。

 本システムは、(1)油分離装置(東芝)、(2)セシウム吸着装置(米キュリオン社)、(3)除染装置(アレバ社)、(4)淡水化装置(日立など)、の四つでサブシステムで構成されており、運転中は周囲が高線量になるため、遠隔操作で稼働するようになっています。

 今回高い放射線量を検出して停止したのは(2)セシウム吸着装置(米キュリオン社)においてであります。

 図で整理します。

 まず東芝製の油分離装置で油分を取り除き、米キュリオン社製のセシウム吸着装置、そして仏アレバ社製の除染装置と2段階で放射性物質を吸着・除去し、最後に日立などの淡水化装置で塩分を取り除き、いったん処理水タンクに入れた上で冷却水として再利用するという流れであります。

 セシウム吸着装置内のカートリッジには放射性物質を吸着する鉱物ゼオライトが入れられ、汚染水に含まれる放射性物質が徐々にたまっていきます。

 このため東電は1カ月に1度の交換を想定していました。

 今回の停止は、放射線の計測値が交換基準を超えたためでありましたが、わずか5時間で交換が必要なほど吸着したとみられる点が実に気になります。

 現在のところ原因は不明とありますが、想定より汚染濃度が深刻である可能性があります。

 本来1ヶ月で交換するはずのカートリッジがわずか5時間で毎時4ミリシーベルトという目安を越えてしまったわけです。

 このシステムは本来なら一日1200トンですから、1ヶ月を30日として、36000トンの汚染水を1月で処理するわけで、セシウム吸着装置内の放射性物質を吸着する鉱物ゼオライトが入れられたカートリッジは、予定では36000トンの汚染水を処理する分の放射性物質がたまったら交換するというはずでした。

 今回稼働時間は5時間ですから、一日1200トンということは毎時50トンの処理能力ですから、5時間*50トン、わずか250トンの汚染水の処理で想定一ヶ月分の放射性物質がたまってしまった計算になります。

 36000トンの汚染水に含まれる放射性物質をためるカートリッジがわずか250トンで満たされてしまったとするならば、単純に濃度が144倍、2桁違ってきます。

 あくまでも可能性としてですが、もしかするとメルトダウンおよびメルトスルーした核燃料の一部がこのシステムによって循環、セシウム吸着装置内に流れ込んでいるために異常値が検出されたのかも知れません。 

 5時間の稼動で停止した汚染水処理システムですが、そもそもこのような異なるメーカーのシステムを連結し、試験もそこそこに本番を実施することにはかなり無理があります。

 今後もトラブルは起こることが予想されますが、今回の停止もしっかり原因がつきとめられればいいですが、最悪の場合、予想以上に核燃料が格納器から漏れ出ていて想定以上の高濃度汚染が起きているかもしれません。

 そうだとすると、この頼みの綱のシステムも正常稼動が怪しくなってしまいます。

 東電は最悪のケースを想定しておく必要があります。

 冗談ではなく最悪の場合の汚染水の格納場所として、廃船覚悟で10万トンクラスの中古タンカーを用意すべきではないのか、
今後の展開が非常に気になります。

 極めて深刻な事態だと考えます。



(木走まさみず)