木走日記

場末の時事評論

米国ハリケーン対策をそのまま放置してたら津波に飲まれた福島第一原発のお粗末

 11日付け朝日新聞夕刊スクープ記事から。

「地下に非常電源」米設計裏目に ハリケーン対策だった

 東京電力福島第一原発が40年前、竜巻やハリケーンに備えて非常用発電機を地下に置く「米国式設計」をそのまま採用したため、事故の被害が大きくなったことが関係者の証言でわかった。原発は10メートル以上の津波に襲われて水につかり、あっけなく全電源を失った。

 風速100メートルに達する暴風が原発に襲いかかる。周辺の大木が根こそぎ吹き飛ばされ、ミサイルのように建屋の壁を突き破り、非常用電源を破壊する――。1960年代初頭、米国ではこんな悪夢のシナリオを想定して原発の災害対策が練られた。非常用発電機は原子炉建屋ほど壁が厚くない隣のタービン建屋に置かれた。「木のミサイル」から守るためにより安全なのは地下だった、と東電関係者は解説する。米国ではハリケーンに男女の名前を交互に付ける。津波よりも身近な災害だ。

 東電初の原発だった福島第一の1号機は、ゼネラル・エレクトリック(GE)など米国企業が工事を仕切った。「東電は運転開始のキーをひねるだけ」という「フル・ターン・キー」と呼ばれる契約で、技術的課題は丸投げだったという。

 東芝や日立など国産メーカーの役割が増した2号機以降の設計も、ほぼ1号機を踏襲。津波など日米の自然災害の違いをふまえて見直す余裕はなかった。旧通産省の元幹部は「米側の仕様書通りに造らないと安全を保証しないと言われ、言われるままに造った」と振り返る。

http://www.asahi.com/national/update/0611/TKY201106110146.html

 竜巻やハリケーンに備えて非常用発電機を地下に置く「米国式設計」をそのまま採用した

 「米側の仕様書通りに造らないと安全を保証しないと言われ、言われるままに造った」(旧通産省の元幹部)

 つまり、福島第1原発が運転していた米ゼネラル・エレクトリック(GE)製の沸騰水型原子炉マーク1型は、ハリケーンや竜巻による「木のミサイル」から守るために地下に非常用発電機を設置するという「米側仕様」を地震国日本にそのまま継承していたということです、そして改善しなかった理由が「米側の仕様書通りに造らないと安全を保証しないと言われ」たからだというのです。

 原子炉本体を改良するわけではなく、中核技術ではない非常用発電機の設置場所などいくらでも変更可能だったはずで、それすら「仕様書通りに造らないと安全を保証」されないと言われてためらったとするならば、これが事実ならば日本の技術水準はアメリカ製原発を運用する資格などなかったわけで、まさに「フル・ターン・キー」、「運転開始のキーをひねるだけ」だったということになります。

 ・・・

 事実は異なります。

 日本では、GEと日立製作所が、両社の合弁会社を通じて原子力事業を行っています、日立GEニュークリア・エナジー(HGNE)が事業運営にあたっております。

 そもそも沸騰水型原子炉マーク1型は格納容器の構造が複雑で開発初期の頃から格納容器の強度不足や水素ガス爆発の危険性が議論されていた代物です。

 商用になって40年、世界で32基が運用されているマーク1型ですが、世界中でその国の仕様に応じて格納容器など改良が施されてきました。

 日本でも格納容器本体も含めていろいろな改良が行われてきました。

 それはすべて日本当局の基準に従ったものであり、そのことによりGEが「米側の仕様書通りに造らないと安全を保証しない」などと強弁した事実はありません。

 地震が発生した5日後の3月16日に日立GEニュークリア・エナジーは、サイトにて「福島第一原発のすべてのBWRマーク1型原子炉格納容器も同様に、日本の当局の基準に従って改良されたもの」と、日本当局の基準に従って改良してきた事実をプレスリリースしています。

2011年3月16日
沸騰水型原子炉(BWR)のマーク1型原子炉格納容器について
 
 災害による被害を受けた福島第一原子力発電所では次々と新たな事態が展開しています。GEは、日本の合弁企業のパートナーである日立製作所株式会社(以下、日立)を通して、東京電力株式会社(以下、東京電力)および米原子力規制委員会(NRC)への技術支援を続けております。NRCは同じく、日本政府への技術支援を行っています。GE日立ニュークリア・エナジーは、福島第一原子力発電所の原子炉に使用されているマーク1型原子炉格納容器について、以下のとおりご説明いたします。

マーク1型原子炉格納容器は40年以上にわたる稼動により、安全性と信頼性が実証されています。マーク1型原子炉格納容器を備える沸騰水型原子炉(BWR)は、現在、世界で32基が設計通りに運用されています。

この技術は40年前に商用化されましたが、その後も継続的に改良され進化してきました。マーク1型原子炉格納容器は、過去40年間、技術の発展と規制変更に合わせ、改良されてきました。

すべての改良は、当局の規制に従って実施されました。例えば、米国では、NRCが1980年に、それまで業界が独自に改修していたマーク1型原子炉格納容器について総括的な基準を示しました。

福島第一原発のすべてのBWRマーク1型原子炉格納容器も同様に、日本の当局の基準に従って改良されたものと理解しております。

(後略)

http://www.ge.com/jp/news/reports/BWR_march17_11.html

 例えばスイスではマーク1型に対し、格納容器を二重にするなど強度不足を補いました。

 当時その改良作業を担当した原子力工学専門家ブルーノ・ペロード氏(元IAEA事務次長)は、「東京電力は少なくとも20年前に電源や水源の多様化、原子炉格納容器と建屋の強化、水素爆発を防ぐための水素再結合器の設置などを助言されていた」事実を暴露、「福島原発事故は世界に目を向けなかった東電の尊大さが招いた東電型事故だ」と言い切ります。

IAEA元事務次長「防止策、東電20年間放置 人災だ」
2011.6.11 20:17

 【ロンドン=木村正人】1993〜99年に国際原子力機関IAEA)の事務次長を務めたスイスの原子力工学専門家ブルーノ・ペロード氏が産経新聞のインタビューに応じ、福島第1原子力発電所事故について「東京電力は少なくとも20年前に電源や水源の多様化、原子炉格納容器と建屋の強化、水素爆発を防ぐための水素再結合器の設置などを助言されていたのに耳を貸さなかった」と述べ、「天災というより東電が招いた人災だ」と批判した。

 日本政府は7日、事故に関する調査報告書をIAEAに提出、防止策の強化を列挙したが、氏の証言で主要な防止策は20年前に指摘されていたことが判明し、東電の不作為が改めて浮き彫りになった。

 氏は「事故後の対応より事故前に東電が対策を怠ってきたことが深刻だ」と述べ、福島第1原発が運転していた米ゼネラル・エレクトリック(GE)製の沸騰水型原子炉マーク1型については、1970年代から水素ガス爆発の危険性が議論されていたと指摘した。

 スイスの電力会社もマーク1型を採用したが、格納容器を二重にするなど強度不足を補ったという。当時スイスで原発コンサルティング会社を経営していた氏は改良作業を担当し、1992年ごろ、同じマーク1型を使用している東電に対して、格納容器や建屋の強化を助言した。

 このほか、水源や電源の多様化▽水素ガス爆発を防ぐため水素を酸素と結合させて水に戻す水素再結合器を建屋内に設置▽排気口に放射性物質を吸収するフィルターを設置−するよう提案した。しかし、東電は「GEは何も言ってこないので、マーク1型を改良する必要はない」と説明し、氏がIAEAの事務次長になってからもこうした対策を取らなかったという。

 一方、2007年のIAEA会合で、福島県内の原発について地震津波の被害が予想されるのに対策が十分でないと指摘した際、東電側は「自然災害対策を強化する」と約束した。

 しかし、東日本大震災で東電が送電線用の溝を設けるなど基本的な津波対策を怠っていたことが判明。氏は「臨時の送電線を敷いて原発への電力供給を回復するまでに1週間以上を要したことはとても理解できない」と指摘し、「チェルノブイリ原発事故はソ連型事故だったが、福島原発事故は世界に目を向けなかった東電の尊大さが招いた東電型事故だ」と言い切った。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/110611/erp11061120200006-n1.htm

 その危険性が初期の頃から指摘され世界中で改良を施されてきたのが、現在世界で32基稼働中のGE社の沸騰水型原子炉(BWR)マーク1型なのであります。

 福島でも原子炉中核となる格納容器などに少なからずの改良を日本の基準に従い施してきたのです。

 中核をなす格納容器でさえ何十年も改良を重ねてきた(日本当局の指示に従いながらです)事実があるのに、非常用発電機の設置場所などは立地条件により如何様にも変更可能だったはずです。

 現に震災後日本中の原発で政府の指示により非常用発電機の設置場所の見直しが行われて、高台に移すなど即座に対応ができています。

 非常用発電機の設置場所の移設などそれほど費用がかからないし、これによって原発の「安全が保証」されないことなど有り得ないのです。

 非常用発電機を地下に置く「米国式設計」をそのまま採用した理由を「米側の仕様書通りに造らないと安全を保証しないと言われ、言われるままに造った」(旧通産省の元幹部)というのは、事実なのでしょうか。

 自らの無策を外国メーカーのせいにする責任転嫁ではないのでしょうか。

 事実として、GE社の沸騰水型原子炉(BWR)マーク1型は世界中で立地にあわせて改良されてきており、当時の仕様書どおりに運用している炉などほとんどないでしょう。

 ・・・

 原発は初期投資は高いですがランニングコストは安価で、一度作ってしまえば電力会社にとって利益の生まれやすい発電手段であり、耐用年数を過ぎて発電を続けていた福島第一などは東電にとってはお金を生む「打ち出の小槌」だったのであります。 

 電力会社は莫大な広告費や原子力普及活動費や地元へのバラマキ金を投じています、しかるにハリケーン対策用に地下に非常電源を設置するアメリカ仕様をそのまま放置していました。

 稼働中の原発に本来必要な安全対策に掛けるお金を投じてこなかったということです。

 政府、東京電力は、いまさら責任を転嫁してはいけません。

 ブルーノ・ペロード氏の批判のとおりです。

 今回の原発事故は完全に人災なのだと考えます。

 米国ハリケーン対策をそのまま放置してたら津波に飲まれた福島第一原発なのであります。

 「お粗末」の一語に尽きます。



(木走まさみず)