木走日記

場末の時事評論

「まんてらべくれる」〜最悪レベル7原発事故だけに使用される「怪物」級単位

 最初に用語を整理しておきます。

【テラ】
テラ(tera, 記号:T)は国際単位系 (SI) における接頭辞の1つで、基礎となる単位の10の12乗(=一兆)倍の量であることを示す。
1960年に定められたもので、ギリシャ語で「怪物」を意味するτέρας (teras) に由来する。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%A9

【ベクレル】
ベクレル(becquerel, 記号: Bq)とは、放射能の量を表す単位で、SI組立単位の1つである。単位記号は、[Bq]である。1 s間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量が1 Bqである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%AB

【国際原子力事象評価尺度(INES)】
国際原子力事象評価尺度(こくさいげんしりょくじしょうひょうかしゃくど、International Nuclear Event Scale)とは、原子力発電所の事故・故障の事象報告の標準化を行うため、国際原子力機関IAEA)と経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA) が策定した尺度である。1990年より試験的運用され、1992年に各国の正式採用を勧告した。同年に日本でも採用された。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E4%BA%8B%E8%B1%A1%E8%A9%95%E4%BE%A1%E5%B0%BA%E5%BA%A6

【レベル7(深刻な事故)】
放射性物質の重大な外部放出:ヨウ素131等価で数万テラベクレル以上の放射性物質の外部放出

 12日付け産経新聞記事から。

福島原発事故、最悪「レベル7」と発表 チェルノブイリ並み
2011.4.12 11:03

 東京電力の福島第1原子力発電所の事故で、原子力安全・保安院は12日、国際的な基準に基づく事故の評価を、最悪の「レベル7」に引き上げると発表した。これまで暫定的に「レベル5」としていたが、原子炉や使用済み燃料プールの冷却機能が失われ、広い範囲で人の健康や環境に影響を及ぼす大量の放射性物質が放出されていることを重視した。「レベル7」は、旧ソ連で1986年に起きたチェルノブイリ原発事故と同じ評価。

 福島第1原発から大気中に放出された放射性物質について、原子力安全・保安院は37万テラベクレル(1テラベクレル=1兆ベクレル)と推定。原子力安全委員会は63万テラベクレルとみており、数値は異なるが、いずれもレベル7の基準である数万テラベクレルを大きく上回る。

 原子力施設で起きた事故は、原子力安全・保安院が、原発事故の深刻度を示す「国際評価尺度(INES)」に基づいて、レベル0から7までの8段階で評価している。

 保安院は、福島第1原発の1号機から3号機について、先月18日、32年前の1979年にアメリカで起きたスリーマイル島原発での事故と同じレベル5になると暫定的に評価していた。ただ、これまでに放出された放射性物質の量がレベル7の基準に至ったため、評価を見直すことにした。
 
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110412/dst11041211040017-n1.htm

 うむ、原子力安全・保安院は37万テラベクレル、原子力安全委員会は63万テラベクレルと推定値が2倍近く違うのが気になりますが、福島第1原発から大気中に放出された放射性物質が、国際原子力事象評価尺度(INES)において最悪のレベル7、あのチェルノブイリに並んだというわけです。

 チェルノブイリ事故の放射性物質の実際の放出量は520万テラベクレルとされていますが、とすれば福島第一の現在の放出量はチェルノブイリの10分の1程度ということになります。

 ただ気になるのは、放出された推定値が原子力安全・保安院原子力安全委員会で大きな違いがあることと、チェルノブイリは過去の話ですが、福島第一は現在進行形の話であり、いまだに放射性物質の漏れが減少しているとはいえ続いていることであります。

 漏れが収まるまでに何ヶ月要するのかわかりませんが、その間にさらに累積されるわけですから、最終的にはチェルノブイリと同じ数百万テラベクレルの桁数に届く可能性も現段階ではゼロとは言えないわけです。

 一日も早くの終息を祈るばかりですが、レベル7だからといって福島第一を原子炉が爆発してしまったチェルノブイリと同一視する必要性はないでしょう。

 チェルノブイリでは半径300Kmに避難措置が取られましたが、福島第一から200Kmほどの東京・新宿での測定値でもここ半月ほど減少し続けており、ほぼ正常値に近づいております。

東京都(新宿区)の 環境放射能
http://atmc.jp/?n=13 

 原発事故現場では余震も続いており決して予断を許さない状況なのは確かですが、炉の冷却も続けられておりますし、チェルノブイリと違い現在の所は放射能物質の爆発的飛散は押さえられています。

 ・・・

 それにしても私たちは今歴史的な瞬間にいることは事実です。

 一時的とはいえ、毎時1「万テラベクレル」という日常感覚からはかけ離れた桁(けた)の線量が放出されていたわけで、このテラという単位はギリシャ語で「怪物」を意味するτέρας (teras) に由来するそうですが、まさに「怪物」級の線量が放出してしまったわけです。

 福島第一は残念ながら、人類史上チェルノブイリに続く2度目のレベル7原発事故、つまり放射性物質の重大な外部放出(ヨウ素131等価で数万テラベクレル以上)が起こってしまった【深刻な事故】となりました。

 「まんてらべくれる」ですか。

 「てら」も「べくれる」も3.11以前の私たちの日常生活ではまずは使われない単位でありましたが、毎日の報道で私たちはこの非日常単位にすっかり慣れてしまったぐらいです。

 ふう。

 それにしても3.11以前と以後で、私たちの原子力発電に対するイメージは一変してしまいました。

 3.11以前、国民は原発に対して「推進すべき」との意見が多数派でありました、リンクは切れていますが1年半前の産経記事を見てみましょう。 

原発世論調査 ようやく半数が「原子力発電はエコ」を認識

原子力発電は二酸化炭素を排出せず、地球温暖化対策に貢献する」と認識している人が、4年前の調査と比べて14・4ポイント増え、50・0%に達したことが26日、政府が公表した原子力に関する世論調査で分かった。今後の原発のあり方についても「推進していく」の回答が59・6%(前回比4・5ポイント増)と、「廃止」の16・2%(同0・8ポイント減)を大き く上回り、環境問題への関心が高まる中で原発の有用性が広まっている 実態を裏付けた。

世論調査内閣府が10月に実施し、1850人が回答した。原発の安全性については「安心」が平成17年12月の前回調査より17・0ポイント増えて41・8%だった。ただ、「不安」の回 答も53・9%と、前回よりも12・0ポイント減ったものの「安心」 を上回った。不安の理由は「事故が起きる可能性がある」が75・2% と最も高く、「地震が多い」(53・1%)、「国の安全規制が分から ない」(41・5%)と続いた。

調査は、原発のゴミとして出てくる高レベル放射性廃棄物の処分に関する意識についても実施した。処分地について「私たちの世代が責任をもって速やかに選定するべきだ」との設問に、「そう思 う」との回答が82・2%にのぼり、高い関心をうかがわせた。

一方で、「自分の居住地に設置計画がある場合」の対応については「反対」が79・6%で、いまだに国内で候補地すら決まっていない廃棄物処分地の選定の難しさを浮き彫りにした。温室効果ガスの25%削減を打ち出す鳩山由紀夫首相は、国会答弁で「低炭素型の社会の実現に向けて原子力政策は不可欠だ」と原発推進に積極的な姿勢を表明。原発の安全性を高めるための新組織「原子力安全規制委員会」の創設を検討する考えを示している。

http://sankei.jp.msn.com/life/environment/091126/env0911261829004-n1.htm

 記事のとおり「推進」が59・6%と、「廃止」の16・2%を大きく上回っていました。

 興味深いのは、原発の安全性については当時でも「安心」が41・8%なのに対し、「不安」が53・9%と上回っているのです。

 「原子力は危険だが資源のない日本ではそれに頼るのも仕方ない」といった消極的原発推進派が多かったのではないかと推測できます。

 「まんてらべくれる」という単位の最悪レベル7の原発事故に遭遇してしまった今、政府が同様の原子力に関する世論調査をしたら結果はどうなるのでしょうか。 

 もちろん政府はこの段階で原発世論調査などは絶対するつもりはないでしょう、しかし、結果は見るまでもないでしょう。

 線量の単位が「まんてらべくれる」に突入したことに象徴されますが、今回の膨大な量の放射性物質の飛散が、原発安全神話を完全に崩し去ったと言えましょう。

【まんてらべくれる】

最悪のレベル7の原発事故だけに使用される「怪物」級の単位。

(木走まさみず)