木走日記

場末の時事評論

「放出」が続いている状況を「管理」という真反対の言葉で印象操作するのはずるいと思う

 12日付け地方紙・中国新聞記事から。

母乳から放射性物質 広島

 内部被曝(ひばく)防止に取り組む市民団体「繋(つな)がろう広島」は11日、広島県内在住の母親2人の母乳から微量の放射性物質が検出されたと発表した。東日本大震災後に東京から避難した1人と以前から県内に住む1人。測定に協力した広島大は「授乳には問題ない値」としている。

 検査は10月上旬、震災後に関東地方から広島県内に避難してきた4人と、震災前から同県内に住む2人の計6人を対象に実施。それぞれ100ccの母乳を採り、同大大学院工学研究院の静間清教授が検出器で調べた。

 その結果、いずれも30代の2人から微量の放射性セシウムを検出した。厚生労働省は、牛乳・乳製品の放射性セシウムの暫定規制値(1キログラム当たり200ベクレル)を母乳の指標とする。同団体は2人の意向で具体的数値を明らかにしていないが、厚労省の指標は大幅に下回っているという。

 静間教授は「以前から県内に住む1人は食材からの摂取の可能性がある」とみて継続検査する。

 同団体の三田拓代表は「行政には母乳や尿の検査態勢を整え、食品の放射線量の測定場所を設けるよう求めていく」としている。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201110120021.html

 母乳を提供し測定に協力した母親のその心情を察するに、自分のお乳から微量とはいえ放射性物質が検出されたことはとてもショックを受けたことでしょう、まことに心が痛む記事です。

 広島県内在住の母親2人の母乳から微量の放射性物質が検出されたのですが考えさせられるのが、「以前から県内に住む」母親の母乳からも放射性セシウムが検出されたことです。

 広島大大学院工学研究院の静間清教授の指摘とおり、「食材からの摂取の可能性がある」と考えるのが妥当でしょう。

 つまり放射性セシウムに汚染された食材による内部被曝と推測される数値が西日本在住の母親の母乳から検出されたわけです。

 これは福島第一原発事故による放射能汚染とその影響が、汚染された食材を通じて東日本だけでなく西日本にも拡散していることを示唆している、もしそうならば深刻な事態だと思われます。

 これから私たちは長期に渡りこの「内部被曝」を警戒していかなければなりません、特に放射性物質に影響を受けやすい妊婦や乳幼児の「食の安全」をしっかり確保する必要があります。

 食材による内部被曝は日本のどの場所でも可能性はあるわけで、政府は、全国規模で妊婦や乳児の母親の尿検査、母乳検査等、体制を整えるべきです。

 このニュース、「2人の意向で具体的数値を明らかにしていないが、厚労省の指標は大幅に下回っている」のが救いといえば救いなのですが、事故を起こした福島第一原発から遠く離れた広島在住の母親のお乳から放射性物質が検出された事実そのものが、とても重たいです。

 原発推進派の論客は二言目には「原発の経済性」を唱えますが、ひとたび原発事故を起こせば汚染された食材による「内部被曝」がこの国の次代を担っていただくはずの幼い子供たちやその母親たちを、このような形で危険に晒してしまうのです。

 この国の食の安全の危機、これひとつとってもプライスレス、値段のつけようの無い「汚染」であります。

 ・・・

 福島第一原発からは、事故から半年以上たった現時点でも東京電力・政府の公式見解で毎時1億から2億ベクレルの放射性物質の放出が止まっていません。

 毎時1億〜2億ベクレルとは大変な異常値のはずですが、慣れてしまったということでしょうか、億ベクレル単位で毎時放射性物質の垂れ流しが続いている、その事実をあえて取り上げて報道するメディアはほとんどありません。

 17日付け時事通信記事から。

冷温停止」年内目標に=工程表6回目改訂−福島第1原発

 東京電力福島第1原発事故で、政府と東電の統合対策室は17日、事故収束に向けた新たな工程表を発表した。工程表の改訂は6回目。新工程表では、1〜3号機全てで原子炉圧力容器底部の温度が100度未満になったことなどを受け、原子炉の冷温停止状態の達成について、年内を目標に目指すことを初めて明確に示した。(2011/10/17-16:42)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011101700545

 来年1月いっぱいのSTEP2の達成を年内に目指すことにしたそうです。

 東京電力では17日付けで「東京電力福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」を発表いたしました。

東京電力福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋 当面の取組
のロードマップ(改訂版)(PDF 197KB)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/111017l.pdf

 確かに「冷温停止」は目標の100度未満が達成したのかもしれません。

 しかしSTEP2の目標は「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」状況なはずです。

 毎時1億から2億ベクレルの放射性物質の放出が止まっていない現状が、どうして「放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」ことになるのか、私にはとても違和感がのこります。

 おそらく事故直後の30京〜60京ベクレルを放出したピークから比べれば1000万分の1に「大幅」に抑えられたといいたいのでしょうし、確実に放出量が少なくなっているのも事実です。

 がしかし、ものはいいようです、事故後半年以上過ぎても、毎時、億ベクレルの単位で放射性物質放出が止まらない状況を「管理され」ていると表現するのは、どうにもこうにもです。

 これは、事故による傷口からいっこうに血が止まらない患者に「出血は管理され大幅に抑えられた」と医者が発言するのと似ています。

 患者からしたら説明はいいからさっさと血をとめてよ、ということに尽きるわけです。

 現状で「止めることができない」のは、残念ながら現状では「管理できていない」からだと解釈するのが普通だと思うのです。

 食材の汚染による内部被曝の危険性が全国規模で拡大している可能性を示している母乳から放射性物質が検出された広島県の事例の持つ深刻さ。

 かたや毎時、億ベクレル単位の流出がいまだ止まらないにもかかわらず、「順調」に「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」とするSTEP2の工程を年内に前倒しで完了させるという東京電力の工程表改訂の虚しさ。

 「放出」が続いている状況を「管理」という真反対の言葉で印象操作するのはずるいと思います。
 


(木走まさみず)