木走日記

場末の時事評論

朝日新聞のイプシロン報道姿勢が特異な件

 12年ぶりに開発された新型の国産ロケット、イプシロンは、14日の午後、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ、予定の高度で搭載した衛星「ひさき」を切り離して打ち上げは無事に成功しました。

 日本にとって2020年東京オリンピック開催決定に続く素晴らしいニュースです。

 早速、翌日(15日)の新聞各紙はこの吉報を社説に取り上げています、なぜか朝日新聞を除いて(苦笑)ですが。

【読売社説】イプシロン成功 日本の宇宙開発に新時代を
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130914-OYT1T01148.htm
【毎日社説】イプシロン成功 宇宙近づける「革新」だ
http://mainichi.jp/opinion/news/20130915k0000m070103000c.html
【産経社説】イプシロン 宇宙開発の新時代開こう
http://sankei.jp.msn.com/science/news/130915/scn13091503140001-n2.htm
【日経社説】新型ロケットで世界市場開け
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59762260V10C13A9PE8000/

 今回のイプシロン成功の大きなトピックは、世界で需要が拡大している小型衛星の打ち上げ分野において、日本として革新的とも言える打ち上げ費用の圧縮を達成できたことでしょう、その当りをうまく説明している日経社説の当該箇所を抜粋。

 世界では小型の衛星に注目が集まっている。海や森林の環境調査や災害監視にこれまでは数百億円の大型衛星を使うのが普通だったが、技術の進歩で数億円の小さな衛星で足りるようになった。こうした小型衛星の需要が先進国だけでなく、経済発展が著しいアジアなどの途上国でも高まっている。

 イプシロンが狙うのはこの成長市場だ。既存技術の使い回しとコンピューターによる省力化などで徹底した低コスト化を目指した。打ち上げ費用は日本の主力ロケット「H2A」のおよそ3分の1の約38億円にとどめた。

 さて、イプシロンは日本の主力ロケット「H2A」などの液体燃料大型ロケットではなく、固体燃料を用いた中型ロケットであります。

 固体燃料を用いる技術であることから、弾道ミサイルに即軍事転用可能である、すなわちイプシロン打ち上げ成功は大陸間弾道ミサイルICBM)への転用も可能な技術を日本が確保したとする、キナ臭い論説が韓国・中国だけでなく一部国内メディアや論客などから聞こえてきます。

 イプシロンははたして軍事技術なのか、今回はこのナイーブな問題を、各報道や論説をトレースしながら、特に朝日新聞報道の特異ぶりを検証、取り上げておきたいです。

 ・・・

 さて、朝日新聞ですが社説に取り上げる代わりに詳細な記事を起こしています。

イプシロン、地平の先に 経費減、新技術フル活用 打ち上げ成功
http://digital.asahi.com/articles/TKY201309140669.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201309140669

 興味深いのは朝日新聞はこの記事の中でイプシロンICBMと共通の技術が使われ、積み荷を換えればミサイルに早変わりする」「潜在的な抑止力」であることや韓国紙の「イプシロンは短時間に発射できてICBMに使われる。日本の右傾化も発射の背景に対する憂慮を増幅させている」報道に触れている点です。

 ■使命 安保に「自律性」

 国が200億円以上かけてイプシロンを開発したのは、安全保障上の理由から、自前の固体燃料ロケットの技術を維持するためでもある。
 固体燃料は扱いが容易で、素早く発射できるのが特徴。有事の際に情報を収集する衛星などをすぐ打ち上げられる。イプシロンは今夏、H2Aと並んで国の「基幹ロケット」に指定された。必要な衛星を随時、宇宙に送ることで、わが国の安全保障上の「自律性」を支える使命が新たに課された。
 固体ロケットは、ICBMと共通の技術が使われ、積み荷を換えればミサイルに早変わりすることから、「潜在的な抑止力」とされる。日本は69年の国会決議に基づき、宇宙開発を平和目的に限るとしてきたが、08年に防衛利用を解禁した宇宙基本法が成立。今回は新法のもとで初の固体ロケットの打ち上げとなる。
 韓国の東亜日報は8月、「イプシロンは短時間に発射できてICBMに使われる。日本の右傾化も発射の背景に対する憂慮を増幅させている」と報じた。
 山本一太・宇宙政策担当相は13日の会見で、開発の理由について「宇宙基本法で打ち出した自律性の確保や宇宙利用の拡大だ。どうやって宇宙産業の競争力強化に結びつけるかを考えることに尽きる」と語り、ミサイルとは無関係であることを訴えた。
 宇宙政策に詳しい鈴木一人・北海道大学教授は「固体ロケットの抑止力は、軍事利用する政治の意図が伴わなければ、潜在的なままだが、その意図が変わりつつあると諸外国に認識されている」と指摘する。(波多野陽)

 このような朝日新聞によるイプシロンは軍事技術だという癖玉(くせだま)報道は、困ったことにすぐに日本の右傾化報道に利用されて行きます。
 ・・・

 さて、15日付けサーチナニュースでは、さっそく中国のネット掲示板で「イプシロン打ち上げ成功はわが国にとって脅威だ」というスレッドが立ち上がり、中国での関心の高さを報じています。

【中国BBS】イプシロン打ち上げ成功…わが国にとって脅威だ
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0915&f=national_0915_030.shtml

 日本の技術力は脅威とした意見から、

「日本は固体燃料ロケットエンジン技術では世界トップレベルになり、わが国を超えた」

「日本はとっくの昔にこれら技術は掌握しているさ。ロケット発射はミサイルよりずっと複雑で難しいのだから」

 このロケットは商業用のためだから脅威ではないとした冷静な意見もあります。

「このロケットは商業用のためのもので、もっとはっきり言えば金儲けのためのロケットだ。軍用するとかあまり考えていないよ。仮に日本がミサイル技術を掌握したとしても、短期間では発展できない」

 一方韓国のメディアの注目度は中国よりも上といえましょう。

 KBSニュースは打ち上げの動画を付けて速報しています。

日本、新型固体燃料ロケット "イプシロン"打ち上げ成功
http://news.kbs.co.kr/news/NewsView.do?SEARCH_NEWS_CODE=2724085&ref=S

 また、主要紙も大きく速報しています、記事タイトルに必ず「ICBM」が付いているのには苦笑するしかないですが。

中央日報】日本、固体燃料ロケット「イプシロン」打ち上げ成功…ICBM技術確保
http://japanese.joins.com/article/168/176168.html?servcode=A00§code=A00
朝鮮日報】打ち上げ成功「イプシロン」はICBM転用可能
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/09/16/2013091600579.html

 注目いただきたいのは上記【中央日報】記事です、さっそく朝日新聞の記事が利用されています。

固体燃料ロケット技術は大陸間弾道ミサイルICBM)に使用される技術と基本的に同じだ。このため固体ロケット打ち上げの経済性を高めたイプシロンの開発は安保・軍事戦略的にも意味が大きいと分析されている。

朝日新聞は「搭載物さえ変えればイプシロンはミサイルに速やかに転用可能」とし「韓国など周辺国はイプシロン打ち上げの背景に日本の右傾化があると懸念している」と報じた。また「日本は1969年の国会決議などを根拠に宇宙開発を平和的な目的にのみ限定してきたが、08年に防衛に活用できる宇宙基本法を制定した」とし「今回の打ち上げはこの法に基づく最初の固体ロケット打ち上げ」と伝えた。

 やれやれです。

 イプシロンの技術的評価に関しては、近々エントリーを改めてしっかり科学的に取り上げたいと思います。

 とりあえず、今回は朝日新聞の報道姿勢が特異で興味深かったので、韓国メディアに利用される特異な朝日新聞イプシロン報道姿勢を検証しておきました。

 全国紙で唯一、自国新ロケットの打ち上げ成功を社説ではまったく称えず、代わりにその軍事利用の可能性の詳細を記事に載せ、冷や水を浴びせ、日本の右傾化を報じる韓国メディアにエールを送り、さらに返礼として韓国メディアがその朝日記事を利用する・・・

 朝日新聞、実に興味深い日本のメディアなのであります。

 ・・・



(木走まさみず)