「フィッチ日本国債を1段階格下げシングルA」について徹底検証〜米英の格付け会社に投資判断を全面的にゆだねるべきではない
大手格付け会社フィッチ・レーティングスは27日、日本国債の格付けを「シングルAプラス」から1つ引き下げ、上から6番目の「シングルA」にしたと発表しました。
政府が2015年10月に予定していた消費増税を先送りし、それを穴埋めするだけの財政健全化策を打ち出せていないことが理由だとしています。
(参考記事)
フィッチ、日本国債を1段階格下げ 「シングルA」に
2015/4/27 20:30
http://www.nikkei.com/markets/features/12.aspx?g=DGXLASDF27H1E_27042015EE8000
これで日本の格付けは中国(シングルA+)より低い評価となり、フィッチは二週間前に米国債格付けを最高ランクの「トリプルA」で据え置きしていただけに、日本に対してだけに特に大変厳しい評価と言っていいでしょう。
(参考記事)
フィッチ、米国債格付け「トリプルA」で据え置き 見通し「安定的」
2015/4/14 6:44
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL14H0N_U5A410C1000000/
フィッチが日本国債を1段階格下げ 「シングルA」にした根拠は、記事にもある通り、日本政府の債務残高が1200兆円規模と最悪で、対GDP比で国際比較しても債務残高は231.9%と最悪であることにあります。
財務省サイトよりグラフ化しておきます。
債務残高の国際比較(対GDP比)- 財務省
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.htm
さて今回のフィッチの日本国債格下げですが、日本国民に財政健全化の必要性を迫る効果はありますでしょう、消費税増税をしたくて仕方ない財務省にとってはないて喜ぶような「朗報」ではあります。
さっそく、ネットでもこのニュースを受けて敏感に反応する評論も出てきています。
木村正人
2015年04月28日 03:49
アベノミクスも財政健全化に本腰を入れないと日本は危ない
http://blogos.com/article/111013/
今回はこのフィッチの日本国債1段階格下げについて、取り上げましょう。
そもそも論ですが、S&Pやムーディーズやフィッチ・レーティングスといった英米の大手格付け会社の「国債格付け」ですが、ひとつの意見に過ぎず、投資判断をそれに全面的にゆだねるべきではありません。
読者のみなさん、思い出して下さい、8年前のリーマンショック、サブプライムローン問題です。
あのとき、サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)に対して、フィッチ・レーティングスもS&Pもムーディーズも問題発生する時点まで、信用最高評価「トリプルA」を付けていたわけです。
トリプルAこれすなわちリスクゼロ評価です。
それがあの破綻が起こってしまったら、世間からの大批判に、各格付け会社は「俺らを信用するからいけない」とこう開き直ったわけです。
格付けというものは合衆国憲法が保護している「表現の自由」に基づく意見の表明であり、投資判断を全面的に委ねるべきものではない。
(参考記事)
サブプライム、責任転嫁合戦
自分の責任は棚に上げ非難の応酬、訴訟も勃発
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070816/132283/?P=1
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さて、米英大手格付け会社の各国国債に対する信用評価ですが、その国の政府の財政中でも負債残高に過剰に比重を置いているきらいが否めません。
その国の信用度を評価するうえで、政府負債残高も大切な指標(インデックス)であることは認めるものの、そのウエイトを大きくし過ぎると、今回のフィッチ・レーティングスのように日本国債の評価(シングルA)が中国(シングルA+)よりも「高いリスク判定」になってしまう、違和感たっぷりのおかしな評価になってしまうわけです。
それは日本国の特異性が評価に反映されていないからです。
国の本来の信用度を評価するには、「政府・企業・家計すべての金融資産の合計」と「政府・企業・家計すべての金融債務の合計」を比べないと意味がありません。
まず、外国とのお金の貸し借りを除いて、日本国内に限って見れば、「政府・企業・家計すべての資産」と「政府・企業・家計すべての負債」との金額はピッタリ一致するはずです。
誰かの「負債」は誰かの「資産」だからです。
例えば、政府に金を貸しているのは94%が国内の金融機関等ですから、つまり、政府の借金1000兆円は、金融機関から見れば約1000兆円の資産となります、日本国全体で見ればプラスマイナスゼロとなります。
従って肝心なのは海外とのお金の貸し借りです。
さて、昨年財務省が発表した日本の対外資産残高は前年末比20.4%増の797兆770億円、対外負債残高は前年末比29.1%増の472兆700億円、したがって対外純資産は、797兆770億円−472兆700億円で325兆70億円、過去最大を更新 23年連続で「世界一の債権国」なのであります。
(参考記事)
日本の対外純資産が過去最大を更新 23年連続で「世界一の債権国」
http://www.sankei.com/economy/news/140527/ecn1405270024-n1.html
2位の中国が207兆6101億円ですから、日本は中国の1.5倍以上の断トツブッチギリの「世界一の債権国」なのであります。
財務省の発表資料を確認しておきましょう。
為替相場の推移 主要国の対外純資産 - 財務省
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2013_g4.pdf
グラフ化してみます。
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まとめます。
日本政府が発行する国債はほぼ全て「円建て」です。
例えばギリシャなどはユーロ建てですから、返済期日にユーロがないと破たんしますが、日本政府の借金は「円」ですので、そういったことが起きません。
いざとなれば円を印刷すればいいわけです、日本はギリシャのような破たんはあり得ません。
そうはいっても国債の信用が落ちれば利率が上がってしまいますが、世界一の対外純債権国であることから、世界一金融資産に余裕があります。
結果、日本の毎月の経常収支は、貿易収支は赤字でも所得収支が大きく黒字なために、大きく赤字になることはありません。
(参考記事)
2月の経常収支、1兆4401億円の黒字 黒字は8カ月連続
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL06HIJ_W5A400C1000000/
米英の格付け会社は、どうも日本の国債の評価を政府債務残高のグロス額だけに注目しているきらいがあります。
結果、「世界一の債権国」である日本の信用が「シングルA」と中国よりも低評価になってしまうのであります。
英米の大手格付け会社の「国債格付け」ですが、彼ら自身がリーマンショック時に認めたように、ひとつの意見に過ぎず、投資判断をそれに全面的にゆだねるべきではありません。
(木走まさみず)