木走日記

場末の時事評論

「白い積荷」(シルバー・カーゴ」)〜近未来空想寓話

 ※今回は時事を離れて与太話的寓話です、軽く読み流して下さい。

 さあ、この先は分かれ道だ、一度道を選択したら2度と後戻りはできない、運命の分岐点。

 左右どちらの道を選択するか。

 一本の道はすべて金で解決できる。あらゆることが金で決まるが徳はない。

 一本の道はすべて徳で解決できる。あらゆることが徳で決まるが金はない。

 さあ、諸君、選びたまえ。「金」の道か、「徳」の道か。

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 平成28年1月。

 米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本国債の格付けをBBに引き下げた。

 これにより遂に円は投げ売りされ、日本国債金利は暴騰、市場の信認喪失により日本の経済・財政は極度に悪化した。

 国債利払いの急増を受けて少子高齢化により膨らむ一方の社会保障費は平成29年度末についに財政破綻、時の政権は崩壊、総選挙の結果、新しく政権についた民自党のキバチリ党首は、老人を「輸出」するという「シルバービレッジ」構想を掲げた。

 選挙カーからのキバチリの演説(東京都練馬区役所前)。

 「優しく、敬老精神に富み、若年層の労働力の豊かな、インドネシアフィリッピンベトナム、マレーシアに相手国政府と協議の上、老人村を建設するのです。

 こう言った国では、年間、100万円程度で衣、食、住が賄え、日本よりも遥かに高い生活レベルが維持出来ます。

 そして、今後需要が増大する、原子力発電所と連携させます。 つまり、発電所に隣接する敷地に日本村を併せ建設し、日本の老人を受け入れて貰うのです。

 原子力発電所の建設費用を10年間の老人受け入れで返済して貰うのであります。

 原子力発電所の建設コストが5,000億円とすれば;5,000億円÷@100万円÷10年=5万人と成り、一機の原発を建設する事で日本の老人5万人を10年間面倒見て貰えるのです。

 100機の原発で500万人の老人を受け入れてもらえます。

 日本のメリットは、破綻した社会保障費が完璧に改善できます。

 100機50兆の原発予算を計上しても、今後未来永劫75才以上の高齢者の社会保障費負担が減少しますから、10年待たずに、お釣りが来ます。

 10年の間に天寿を全うされる方々も少なからずおられるでしょう、国内からのご老人の補充を繰り返せばいい、持続可能なシステムなのです。

 ご老人に取っても、日本に留まるより良い生活環境の実現ができます。

 相手国政府のメリットもたくさんあります、原子力発電所の建設と若者の雇用の創出にあります。

 3方WIN−WINの救国政策なのであります。」

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 平成33年3月、「後期高齢者社会保障の確保と維持に関する法律(通称「シルバービレッジ法案」)」が国会で成立した。

 この法律により後期高齢者(75才以上)は、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア各地で日本政府が現地政府との合意の上で設立した後期高齢者村「シルバービレッジ」に永久移民することとなった。

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 「お隣のサトウさんちのおばあちゃん、明日の船ですって、インドネシア行くの」

 「え、サトウさんちのおばあさんもう75才になったんだっけ」

 「ええ、3ヶ月前になったそうよ、で、先月、「白紙」(シルバービレッジ召集令状の通称)が届いたそうよ」

 「そうだったのか」

 「今日はおみうちで祝宴をされているんじゃないかしら」

 「祝宴ねえ・・・」

 政府の原発建造計画は予算の関係で年1〜2機程度の建設がせいぜいであり、「シルバービレッジ」建設も年に1、2村であったため、とてもすべての後期高齢者を最初から受け入れることはできず、初年度は5万人ほどで、入村者は乱数によりランダムに選ばれ、選ばれた老人には政府から通知(令状)が届くことになっていた。

 ・・・

 翌日、インドネシア船「ubasute38」号は定員一杯の427人の後期高齢者を乗せて、インドネシア国タンジュンプリオク港へ向けて横浜港を出航した。

 出航を見送る一人の男がささやいた。

 「なんだかこの光景は、昔の北朝鮮への帰還運動に似てないかね、自称「地上の楽園」へと厄介者の追い出しているような感覚がさ」

 隣の男が相づちを打つ。

 「ああ、たしかに厄介払いだな・・・。 かつて奴隷貿易盛んな頃、奴隷船で運ばれる奴隷達は「黒い積荷」(ブラック・カーゴ)と呼ばれていたそうだが、この光景は、二度と日本に戻らぬ「白い積荷」(シルバー・カーゴ)じゃないのかね」

 「二度と日本に戻らぬ「白い積荷」か、ふう」

 気付けば二人の男達は遠ざかる「ubasute38」号に合掌していた。

 ・・・(了)



<木走まさみず>



■参考記事
社会保障の維持と消費税増税
http://news.livedoor.com/article/detail/5271290/

■参考書籍
黒い積荷 (1976年)
土田 とも (著), ダニエル・P・マニックス (著)
http://www.amazon.co.jp/%E9%BB%92%E3%81%84%E7%A9%8D%E8%8D%B7-1976%E5%B9%B4-%E5%9C%9F%E7%94%B0-%E3%81%A8%E3%82%82/dp/B000J9NV12