木走日記

場末の時事評論

残念な朝日新聞「高齢者万引き」記事を統計的リテラシーしてみる

 27日付け朝日新聞記事から。

高齢者の万引き、2万7300人 20年連続で最多更新

2011年1月27日11時57分
  
 2010年に万引きの疑いで逮捕・書類送検された65歳以上の高齢者は2万7362人(速報値)で、前年より343人増えて20年連続で前年を上回り、過去最多となったことが27日、警察庁のまとめでわかった。万引きが多いとされる未成年者の摘発人数(2万8371人)と、ほぼ肩を並べた。

 警察庁によると、男性が前年より107人少ない1万4160人(51.8%)、女性が450人多い1万3202人(48.2%)。都道府県別では東京が3348人(前年比238人増)と最も多く、兵庫1545人(同260人減)▽千葉1255人(同208人減)▽埼玉1210人(同24人増)▽神奈川1153人(同362人増)の順だった。

 全年齢でみると、10年の万引き摘発者は10万4827人(前年比401人減)。このうち高齢者の占める割合は26.1%(同0.4ポイント増)だった。高齢層は、経済苦のほか、孤独感から人とかかわりをもちたくて万引きに及ぶケースが少なくないという。(五十嵐透)

http://www.asahi.com/national/update/0127/TKY201101270140.html

 うーん、統計数値を扱うのならばどうしてもうひとてま掛けないのかな、残念な朝日新聞記事なのです。

 「65歳以上の高齢者は2万7362人(速報値)で、前年より343人増えて20年連続で前年を上回り、過去最多となった」ことを報じるこの朝日記事ですが、どうなのかな、過去20年高齢者人口が増加しているのですから高齢者の万引きが20年連続増え続けることはある意味当たり前のことでしょう。

 単に実数だけならば、高齢者人口が増加しているのだから、高齢者の万引きだけでなく、高齢者の空き巣、高齢者の痴漢、高齢者の窃盗、高齢者の殺人、高齢者の失踪、高齢者の恋愛、高齢者のブログ(苦笑)、どれも過去最高件数のことでしょう。

 だって、以下の総務省統計局のサイトで見れば、この20年で65才以上の人口は1493万人から2747万人とほぼ倍増しているのですよ。

平成 2年 1億2361万人中 1493万人 12.1%
平成22年 1億2747万人中 2874万人 22.5%
高齢者人口の現状と将来
http://www.stat.go.jp/data/topics/topics051.htm

 数値比較するならば万引きの件数そのものではなく、高齢者10000人当たりの万引き検挙数を出さないと有意な数値とはいえないでしょう。

 ここに警視庁生活安全部がまとめた120頁ほどのレポート(PDFファイル)があります。

「万引きに関する調査研究報告書」
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/manbiki/manbiki_chosa.pdf

 その第4部付表の86ページ目に平成元年から平成20年までの万引きの発生件数とうち高齢者の件数がありますので、総務省統計局の資料と上記記事も参考に、過去22年の高齢者10000人当たりの万引き件数の推移を正確に割り出してみましょう。

【過去22年の高齢者1000人当たりの万引き件数の推移】

万引き件数 うち高齢者件数 高齢者人口 高齢者1万人当たり万引き件数
平成元年 97521 3987 1442万 2.8件
平成2年 77198 3675 1493万 2.5件
平成3年 71507 3979 1560万 2.6件
平成4年 59681 4147 1627万 2.7件
平成5年 69946 4948 1694万 2.9件
平成6年 76254 5816 1761万 3.3件
平成7年 79658 6289 1828万 3.4件
平成8年 85670 7241 1903万 3.8件
平成9年 102895 7921 1978万 4.0件
平成10年 109330 8651 2054万 4.2件
平成11年 96256 10077 2129万 4.7件
平成12年 95626 11651 2204万 5.2件
平成13年 100340 12840 2271万 5.6件
平成14年 109522 15174 2338万 6.5件
平成15年 114260 17456 2405万 7.3件
平成16年 121136 20667 2472万 8.4件
平成17年 121914 23252 2539万 9.2件
平成18年 113866 25060 2606万 9.6件
平成19年 108993 25854 2673万 9.7件
平成20年 108307 27015 2740万 9.9件
平成21年 105228 27019 2807万 9.6件
平成22年 104827 27362 2874万 9.5件

 うむ、過去22年間で65歳以上の高齢者1万人あたりの万引き検挙者数ですが、2.8件から9.5件と3.4倍増加していることがわかります。

 これはやはり朝日記事の分析にある「高齢層は、経済苦のほか、孤独感から人とかかわりをもちたくて万引きに及ぶケースが少なくない」などの理由があるのかもしれません。

 ただここ5年では高齢者10000人当たりの万引き件数では9.6件から9.9件の間を推移しており、実数ではなく10000人当たりの割合では増加傾向は高止まりしていることが見て取れます。

 つまり、65歳以上の高齢者の万引き件数は20年連続で過去最高の件数を記録していますが、1万人当たりの発生割合では過去15年で3倍以上増加してきましたが、ここ5年では高止まりしています。

 万引きと言う犯罪に手を染める高齢者の割合を抑制するための施策は重要ですが、状況を分析するには正確な数値に基くことが大切だと思いますです。



(木走まさみず)