木走日記

場末の時事評論

少子高齢化で世界の先駆をなす日本〜「30年後の日本『人口激減時代』の衝撃」(文藝春秋記事)を徹底検証

 電車の中刷り広告でセンセーショナルな見出しを見て思わず今月号の文藝春秋を購入してしまいました。

市区町村別予測データを徹底分析

30年後の日本「人口激減時代」の衝撃
藻谷浩介+取材チーム2040

2100万人の日本人が消失する! 大都市全体が老人ホーム化する!
 1 リゾートマンションが姥捨て山に  新潟県湯沢町
 2 日本一人口が減る村  群馬県南牧村
 3 高齢化、財政圧迫 町を「縮める」決断  富山県富山市
 4 現役世代を維持する「奇跡の村」  長野県川上村

http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/797

 うむ、「2100万人の日本人が消失する!」だの「 大都市全体が老人ホーム化する!」だの煽動的なサブタイトルには苦笑せざるを得ませんですが、この18ページに及ぶ特集記事、たいへん興味深かったです、おもしろかった。

 興味のある読者は是非文春を購読いただくとして、当ブログとして今回はこの記事の示す結論についてネット上に公開されている資料から徹底検証をこころみます。

 ・・・

 ここに上記記事が参考にしている、3月27日にリリースされた国立社会保障・人口問題研究所のレポートが公開されています。

国立社会保障・人口問題研究所
『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp

 この168ページにおよぶレポートは、2010年を起点として30年後の2040年の日本の人口を推計していますので、正確には27年後を予測しているのですが、それはともかく、確かに日本の総人口はこの30年で2100万人ほど減少すると推計しています。

 各都道府県はどのように減少していくのか、2010年を100として、15年後(2025年)、30年後(2040年)の推移を表にまとめてみます。

■表1:都道府県別総人口指数(平成22年=100としての推移)

地域 平成22年(2010) 平成37年(2025) 平成52年(2040)
全国  100.0 94.2 83.8
北海道 100.0 90.1 76.1
青森県 100.0 84.6 67.9
岩手県 100.0 85.7 70.5
宮城県 100.0 94.1 84.0
秋田県 100.0 82.2 64.4
山形県 100.0 86.0 71.5
福島県 100.0 87.7 73.2
茨城県 100.0 93.1 81.6
栃木県 100.0 93.0 81.9
群馬県 100.0 92.5 81.2
埼玉県 100.0 97.2 87.6
千葉県 100.0 96.3 86.2
東京都 100.0 100.1 93.5
神奈川県 100.0 99.6 92.2
新潟県 100.0 89.0 75.4
富山県 100.0 90.2 77.0
石川県 100.0 93.7 83.3
福井県 100.0 90.7 78.5
山梨県 100.0 89.9 77.2
長野県 100.0 90.0 77.5
岐阜県 100.0 91.7 79.8
静岡県 100.0 92.4 80.6
愛知県 100.0 99.2 92.5
三重県 100.0 92.4 81.3
滋賀県 100.0 99.1 92.8
京都府 100.0 94.8 84.4
大阪府 100.0 94.9 84.1
兵庫県 100.0 94.3 83.6
奈良県 100.0 91.4 78.3
和歌山県 100.0 86.7 71.8
鳥取県 100.0 88.3 74.9
島根県 100.0 86.7 72.6
岡山県 100.0 93.1 82.8
広島県 100.0 94.0 83.6
山口県 100.0 87.9 73.7
徳島県 100.0 87.4 72.7
香川県 100.0 90.4 77.6
愛媛県 100.0 88.7 75.1
高知県 100.0 85.6 70.2
福岡県 100.0 95.7 86.3
佐賀県 100.0 91.2 80.0
長崎県 100.0 87.6 73.5
熊本県 100.0 91.7 80.7
大分県 100.0 91.4 79.8
宮崎県 100.0 91.1 79.3
鹿児島県 100.0 89.2 77.0
沖縄県 100.0 101.5 98.3

 うむ、都市と地方、太平洋側と日本海側、都道府県により減少のペースに大きな差があるようです。

 視覚的に理解しやすいように図にしてみます。

■図1:2010年都道府県別総人口指数(平成22年=100としての推移)

■図2:2025年都道府県別総人口指数(平成22年=100としての推移)

■図3:2040年都道府県別総人口指数(平成22年=100としての推移)

 30年後にはすべての都道府県が人口を減少させていますが、最も減少率が高いのが秋田県で2010年を100として2040年には64.4、逆に減少率が低いのが沖縄県で98.3と推計されています。

 次に高齢化がどのように進行していくか、やはり都道府県別に検証していきましょう。
 
 都道府県別に高齢者(65歳以上)が占める割合の30年の推移を表にまとめてみます。

■表2:都道府県別65歳以上人口の割合(%)

地域 平成22年(2010) 平成37年(2025) 平成52年(2040)
全国  23.0 30.3 36.1
北海道 24.7 34.6 40.7
青森県 25.8 35.8 41.5
岩手県 27.2 35.5 39.7
宮城県 22.3 30.7 36.2
秋田県 29.6 39.5 43.8
山形県 27.6 35.7 39.3
福島県 25.0 34.5 39.3
茨城県 22.5 31.2 36.4
栃木県 22.1 30.8 36.3
群馬県 23.6 31.3 36.6
埼玉県 20.4 28.4 34.9
千葉県 21.5 30.0 36.5
東京都 20.4 25.2 33.5
神奈川県 20.2 27.2 35.0
新潟県 26.3 34.3 38.7
富山県 26.2 33.6 38.4
石川県 23.7 31.2 36.0
福井県 25.2 32.8 37.5
山梨県 24.7 32.5 38.8
長野県 26.5 33.2 38.4
岐阜県 24.1 31.3 36.2
静岡県 23.8 31.6 37.0
愛知県 20.3 26.4 32.4
三重県 24.3 30.8 36.0
滋賀県 20.7 27.5 32.8
京都府 23.4 30.8 36.4
大阪府 22.4 29.2 36.0
兵庫県 23.1 30.4 36.4
奈良県 24.0 32.6 38.1
和歌山県 27.4 34.8 39.9
鳥取県 26.4 34.4 38.2
島根県 29.1 36.4 39.1
岡山県 25.2 31.3 34.8
広島県 24.0 31.4 36.1
山口県 28.0 35.4 38.3
徳島県 27.0 35.8 40.2
香川県 25.9 33.8 37.9
愛媛県 26.7 34.6 38.7
高知県 28.8 36.9 40.9
福岡県 22.3 30.5 35.3
佐賀県 24.6 32.4 35.5
長崎県 26.0 35.2 39.3
熊本県 25.7 33.3 36.4
大分県 26.6 34.1 36.7
宮崎県 25.8 34.3 37.0
鹿児島県 26.5 34.4 37.5
沖縄県 17.4 25.0 30.3


 同じく15年ごとの推移を図示します。
■図4:2010年都道府県別65歳以上人口の割合

■図5:2025年都道府県別65歳以上人口の割合

■図6:2040年都道府県別65歳以上人口の割合

 うむ、これから30年で高齢者(65歳以上)が占める割合はすべての都道府県で高まります。

 全国平均で23.0%から36.1%と、4人に一人から3人に一人と、日本の高齢者の割合が急速に高まることが推計されています。

 ・・・

 さてここまで記事の「2100万人の日本人が消失する!」というサブタイトルについて検証してきました。

 ここからは「 大都市全体が老人ホーム化する!」点について検証しておきましょう。

 まず最も人口減少が激しい秋田県の人口推移について表にしてみましょう。

■表3:秋田県人口推移(千人)

65才以上 15〜64才 14才以下
2010年 321 641 124
2025年 353 460 81
2040年 306 335 58

 ご覧のとおり、確かに人口減少は激しいですのですが、ここで注目していただきたいのは、65才以上の人口の増減です。

 2025年から2040年にかけて、実は高齢者の人数は35万3千人から30万6千人と減少が始まっています。

 グラフ化してみるとわかりやすいでしょう。
■図7:秋田県人口推移

 早くから人口減少した過疎部では後半の15年ではすでに高齢者の増加がおさまっていることが理解できます。



 一方、都市部を代表して東京都の人口推移について表にしてみましょう。
■表4:東京都人口推移(千人)

65才以上 15〜64才 14才以下
2010年 2,679 8,994 1,486
2025年 3,322 8,544 1,312
2040年 4,118 7,129 1,061

 うむ、東京都では高齢者人口が増え続けています、30年間で144万人も増加すると推計されています。
■図8:東京都人口推移

 今検証した推計をもって、文春記事は「 大都市全体が老人ホーム化する!」とセンセーショナルに見出しを付けたわけです。

 ・・・

 まとめです。

 いかがでしたでしょうか、国立社会保障・人口問題研究所のレポートを徹底検証したかぎり、「30年後の日本『人口激減時代』の衝撃」(文藝春秋記事)の内容は、見出しの表現はともかく、概ね推計に基づいていると言えるでしょう。

 しかし私は日本の未来は暗黒であると悲観的になる必要はないと考えます。

 確かにこのレポートにあるとおり、世界中でどこよりも先に少子高齢化社会に突入する日本でありますが、日本だけが少子高齢化社会に陥るとネガティブに考える必要性はありません、そうではなく、世界中のあらゆる国は成熟すれば少子高齢化社会に必ず突入するのです。

 日本は他国より20年進んでいる、つまり少子高齢化で世界の先駆をなしているのです。

 東アジアにおいても、中国、台湾、韓国、シンガポールなど、ほとんどの国の人口推計が将来日本より勢いを増して少子高齢化社会を迎えると予測されています。

 幸い日本ではここまで精度の高い人口推計が出ているのです。

 この30年で日本は、世界の手本となるべく、しっかりとした政策を施し、正しく少子高齢化社会を迎えるべきです。

 一部の学者などが「税収減」などを焦る余り、「移民大量受け入れ」政策などを唱えていますが、愚かだと言うしかありません。

 移民国家シンガポールの統計を見れば、この先いくら日本が移民を受け入れてもその移民たちも子供を産みません、高齢化が悪化するだけなのです。

 移民の存在は、空前の少子高齢化社会に日本が対応するためには、地域の治安維持や教育行政などで、逆に負担だけが増えてしまうことでしょう。

 日本は移民に頼らず少子高齢化で世界の先駆をなすべき、私は強くそう願っています。



(木走まさみず)