木走日記

場末の時事評論

地震国日本の立地を逆利用しよう〜ベース電源を原子力発電から地熱発電へ

 ついに、国の原子力安全委員会(班目春樹委員長)は23日午後、関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)のストレステスト(耐性調査)1次評価の結果を了承しました。

大飯原発の耐性調査結果、安全委が了承
再稼働、来週にも政治判断へ
2012/3/23 13:00 (2012/3/23 13:25更新)日本経済新聞 電子版http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819595E0E0E2E0EB8DE0E1E2E1E0E2E3E09F9FE2E2E2E2

 これを受け、野田佳彦首相は近く、関係閣僚会議を開き、大飯原発の「安全性」を宣言する予定であり、県や町への説得がスムーズに進めば、4月中に再稼働が実現する可能性がでてきました。

 関西電力の株主である大阪市橋下徹市長が、「本当に電気が足りないのか、いつまで再稼働が必要なのか。そういう情報開示なしに再稼働したら民主党政権はもたないと思う」(16日)と再稼動を急ぐ政府の動きを批判していましたが、政府としてはこうした反対の声を無視して原発再稼動を強行するようです。

現状のまま再稼働「民主党政権もたぬ」橋下氏、大飯原発めぐり牽制
2012.3.16 21:51
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120316/trd12031621510022-n1.htm

 本件に関しては当ブログは橋下徹市長を支持します。

 本当に電気が足りないのか、いつまで再稼働が必要なのか。そういう情報を具体的な数値で開示していただきたいです。

 当ブログでは数日を費やして、このたびの福島第一原発事故由来の放射性物質の汚染の東日本における広がり具合をまとめてきました。

2012-03-21 東日本1都21県セシウム汚染マップ(保存版)
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120321

 セシウムが1万ベクトル/平方メートル以上蓄積された汚染域は、東日本1都21県のうち1都15県に及び、市町村単位でまとめると1都15県1104市町村のうち429市町村(38,9%)に分布していました。

都県 市町村数 汚染市町村数 汚染市町村の割合
岩手県 59 10 16.9%
□長野県 120 4 3.3%
山梨県 64 1 1.6%
新潟県 112 15 13.4%
秋田県 69 3 4.3%
□東京都 62 10 16.1%
□神奈川県 37 4 10.8%
□埼玉県 92 22 23.9%
□千葉県 80 31 38.8%
群馬県 70 62 88.6%
山形県 44 18 40,9%
茨城県 85 76 89.4%
宮城県 71 71 100.0%
□栃木県 49 12 24.5%
福島県 90 90 100.0%
1104 429 38.9%

 汚染域は想像以上の広がりを見せており、特に汚染のひどい福島原発周辺は、人々が生活できるレベルに環境が復活するまでに100年スケールの時間が必要となるでしょう。

 その他の低レベル汚染域でも、放射性物質が正常値になるまでに、セシウム半減期からして数十年の月日が必要となることでしょう。

 除染に掛かる費用、損害賠償、廃炉費用、これから莫大なお金が必要になるわけですが、これらを原発コストととらえれば、地震国の日本では結果として原子力発電は高くついたのだ、と私は判断しています。

 原発推進派はよくリスク確率論で「福島原発事故ではだれも死んでいない」などと言いますが、たった一度の事故で環境的にも経済的にもこれほどのダメージをこの国に与えたわけです。

 原子力発電は実用化してからたかだか60年、その間、チェルノブイリ、スリーマイル、そして今回の福島、3度も事故を起こしています。

 確率論で考えても原子力発電は完成された技術とはとても言えない中で、1度の事故の影響が環境的経済的にここまで深刻な損失をもたらすことが分かった以上、すくなくとも地震国日本においては、原子力発電は経済的に見合わない、と私は考えます。

 もし第二の原発事故が西日本などで起こり今回のような広範囲の放射性物質飛散が発生してしまえば、日本および日本経済にどれほど深刻な影響を及ぼすことか、想像するに怖くなります。

 原発推進派はよく昨年日本が31年ぶりに貿易赤字になったのは原発停止のため4兆もの余分な化石燃料を輸入したためでこれは日本の国富を無駄にしているといいますが、では今回の福島原発事故でいったい何十兆の国富が失われたのか、あるいはこれから失われるのか、そのような試算には口をつぐむばかりです。

 原発再稼動反対ばかりで具体的対案を示せていない、日本のエネルギーの不足にどうそなえるのか対案を示してみろ、という批判も耳にタコができるほどよく聞きます。

 では、当ブログとして具体的に案を示したいと思います。

 原発は再稼動しない分、たしかに当面は火力発電で補うざるを得ません。

 その間、風力や太陽光など再生可能エネルギーの普及に努めつつ、原発に変わるこの国のベース電源として地熱発電を国を挙げて取り組むことを提案します。

 当ブログとしては一年前から地熱発電を推進するエントリーを挙げています。

2011-04-25 原発の代わりになる再生可能エネルギーはこの国の地下に眠っている
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20110425/1303719784

 日本で地熱発電をすすめるべきと考える主な理由は3つあります。

 一つ目は日本が世界3位の地熱資源大国であるからです、一年前のエントリーより当該箇所を抜粋。

■図1:環太平洋火山帯(ウィキペディアより)

 図に赤く示されたこの太平洋を囲む環状の火山帯では世界の過半数の活火山が集中しております。

 日本中いたるところに温泉がわき出ていますが、環太平洋火山帯に属する地域ではマグマ溜まり由来の膨大な地熱が発生しており、その地熱埋蔵量を資源と見なせれば、日本はなんと世界屈指(3位)の資源大国となるのです。
■表1:世界の地熱資源量

国名 活火山数 地熱資源量(万kW)
アメリカ合衆国 160 3000
インドネシア 146 2779
日本 119 2347
フィリピン 47 600
メキシコ 39 600
アイスランド 33 580
ニュージーランド 20 365
イタリア 13 327

■図2:世界の地熱資源量(グラフ)

※データ出自 (独)産業技術総合研究所資料より
http://staff.aist.go.jp/toshi-tosha/geothermal/gate_day/presentation/AIST3-Muraoka.pdf
 ご覧いただければ一目瞭然ですが、アメリカ、インドネシア、日本、フィリピン、メキシコと、地下資源量上位5国がすべて環太平洋火山帯に属しており、表にも示しましたが当然ながら地熱資源量と活火山数には強い相関が見られるわけです。

 原発を立地するには地震が多発する環太平洋火山帯に属する日本列島はリスクが高いわけですが、逆にこの地の利を利用できるのが地熱発電なのです。 

 この2347万キロワットという発電量は、最新の原発20基以上の発電量であり、これがウランや石油など資源の輸入無しに、自前で発電可能なのであります。

 エネルギー安全保障上も大きなメリットがあります。

 二つ目は地熱発電原発の代わりになる「ベース電源」として、他の風力や太陽光など再生可能エネルギーよりもふさわしいからです。

 地下深くにあるマグマが発するエネルギーを源泉とする地熱発電は1年を通じて出力にブレが少ないのです。

 太陽光や風力は天候に左右され出力が安定しないのが課題であり、資源エネルギー庁によると、設備稼働率はそれぞれ12%、20%にとどまります。

 それに対して地熱発電は約70%に達し、液化天然ガス(LNG)や石炭を燃料とする火力発電所原発と同様、ベース電源として活用できるのです。

 三番目に発電コストです。

 現状でも発電コストも太陽光の1キロワット時あたり30〜40円前後に対して大幅に安いのです。

 さらに今後地熱発電を国を挙げて開発していけば技術向上や量産効果からコスト軽減が見込まれています。

 実は、地熱発電プラントでは東芝三菱重工業富士電機の3社で世界市場の7割を握っています。

 国内で地熱発電プロジェクトが広がれば、プラント各社の技術開発が加速することにもなり、一つの有望な輸出産業ともなり得ます。
 ・・・

 このようにメリットが大きい地熱発電なのですが、日本では現在54万キロワットと全発電量の1.数%しか普及していません。

 理由は熱源の多くが国定公園や国立公園内にあり環境省による規制があり利用したくてもできなかったことが大きいのです。

 しかし、このたびの震災から環境省は大きく規制緩和をして地熱発電推進策へと舵を切ったようです。

 さっそく被災地福島で大型の地熱発電所の計画が立ち上がりました。

福島に最大の地熱発電原発4分の1基分 出光など
20年の稼働目指す
2012/3/23 2:00日本経済新聞 電子版
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819696E0E0E280978DE0E0E2E1E0E2E3E09F9FEAE2E2E2;at=DGXZZO0195165008122009000000

 地震国日本では原子力発電は高くつきました。

 ベース電源として地熱発電を推進していきましょう。

 地震国日本の地熱エネルギーは世界第三位の豊富な埋蔵量です。

 日本における地熱発電潜在的ポテンシャルは、もしかするとこの国のエネルギー事情を一変するほどの可能性を秘めているのです。



(木走まさみず)