木走日記

場末の時事評論

実に見苦しい読売グループの醜態

 昭和29(1954)年、読売新聞が原子力平和利用をテーマに「ついに太陽をとらえた」の連載を開始いたします。

 いまだ戦後9年ほどしか経過しておらず、国民の間では広島・長崎の惨禍の記憶も生々しく残り原子力に対するアレルギーが強くある中で原子力平和利用をテーマした連載は異色であり異彩を放つのですが、「大正力」こと「読売中興の祖」正力松太郎社長の強力なリーダーシップのもと、読売はグループを上げて日本の原発開発推進の報道に突き進みます。

 2年後の昭和31年(1956年)、正力松太郎は1月に原子力委員会初代委員長に就任、そして5月には初代科学技術庁長官に就任、日本初の原子力発電所建設に向けて強力に法整備や東海村建設などに動きます。

 この功績で正力は後に日本の「原子力の父」と称されるわけです。

 当時の正力は読売新聞社長という枠を越えてたいへん精力的に活動しています、やがて始まろうとするTV放送にもいち早く法整備の段階から参画し日本初の民放である日本テレビの初代社長に昭和27年(1952年)就任、翌年、昭和28年(1953年)8月 - 日本テレビ放送網の本放送が開始されます。

 また自身がオーナーを務める読売巨人軍の興行を活性化、やがて日本テレビによる巨人軍の試合のTV中継全国放送を通じてプロ野球を国民的人気のプロスポーツに育て上げます。

 これらの業績により正力は、「原子力の父」と並んで、日本の「プロ野球の父」、「テレビ放送の父」とも称されています。

 当時の正力の目的は発行部数トップであったライバル朝日新聞を打倒し読売新聞を発行部数日本一にすることにありました。

 日本テレビの巨人戦の高視聴率とともにライバル朝日新聞がTV放送進出に大きく出遅れたこともあり、読売は急速に発行部数を伸ばしていき、正力の悲願はかない昭和53(1978)年読売の発行部数ついに朝日を抜いて日本一となり、今日では発行部数1000万部を誇る世界一の新聞社となりました。

 TVに進出し、プロ野球を活性化し読売巨人軍を国民的人気チームにしあげ、それを利用しライバル朝日を発行部数で追い抜く、その戦略は見事でしたが、大正力は政界にまで進出して原子力の平和利用推進していますが、今日では正力がアメリカCIAの意向に従って行動していたことが明らかになっています。

 早稲田大学教授の有馬哲夫がアメリカ国立第二公文書館によって公開された外交機密文書を基に明らかにしたところによれば、A級戦犯として公職追放されていた正力は、戦犯不起訴で巣鴨プリズン出獄後、アメリカ中央情報局(CIA)の指示のもとで、日本へのテレビの導入と原子力発電の導入を推進します、彼はCIAからは"podam"、"pojacpot-1"というコードネームを与えられ、これらの件に関する大量のファイルがアメリカ国立第二公文書館に残っています。

原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書) [新書]
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 ・・・

 時は流れて現在、大震災による原子力発電所の事故による非常時に、読売新聞グループが醜態を晒しています。

 大震災を受けて政府は日本野球機構に対し、節電地域でのプロ野球ナイター「厳に慎むよう」要請いたします。

節電地域でのプロ野球ナイター「厳に慎むよう」 文科省

東日本大震災で節電が求められている事情を踏まえ、文部科学省は18日、社団法人日本野球機構に対し、所管官庁の立場から、東京電力東北電力の管内の外で試合を開催するよう「可能な限りの努力」を文書で求めた。とりわけ、照明で電力を使うナイター開催については、2社管内の地域では「厳に慎むようお願いします」と強く求めた。

http://www.asahi.com/sports/bb/TKY201103180396.html?ref=recc

 特に問題なのが大電力を消費する東京ドームなどのドーム球場です。

「ドームでの試合避けて」海江田経産相、電力不足で
http://www.asahi.com/politics/update/0318/TKY201103180290.html?ref=reca

 一番電力消費の大きい読売巨人軍のホームスタジアムである東京ドームでは、一試合で一般家庭の6千世帯分の電力を消費するという試算もあります。

東京ドーム消費電力、一般家庭の6千世帯分「対策検討」
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103190098.html

 3月25日開催予定だったプロ野球ですがこれを受け、いち早くパリーグでは、開幕戦を4月12日に延期、併せて4月中の東北・関東地区の試合においてナイターを全て中止することを決定いたします。

パ・リーグ:東京、東北電力管内で4月中のナイターなし
http://mainichi.jp/enta/sports/baseball/news/20110322spn00m050010000c.html

 一方読売巨人軍が属するセリーグは、開幕を3月29日に延期したものの4月のナイターは予定通り行うことを取り決めしています。

 セリーグのこの頑なな態度には、4月5、6,7日に東京ドームで行われるドル箱カードである巨人阪神三連戦のナイターを強行したい読売の意向があると言われています。

 20日付けスポニチ記事から。

いまだに巨人依存体質?「1対5」で「1」が通る
 【セ・リーグ開幕29日に延期】

 最終的にはむろん全会一致だが、関係者によると、セ・リーグの決定は巨人の姿勢が色濃く反映されていた。他5球団は程度の差こそあれ、さらに延期を提案していた。

 ヤクルトなどはパ・リーグと同じ4月12日か、それ以降まで遅らせるよう主張したと聞く。阪神も追随した。4月8日の折衷案もあった。結局、他5球団は折れた。「1対5」で「1」が通る。古くからの巨人依存体質が見えるようだ。

 ナイター削減や9回打ち切りなど工夫は評価できるが、延期は3連戦だけで、パとは2週間も差がある。2004年の再編騒動でプロ野球は2リーグ制を維持し、生まれ変わろうとしてきた。日本プロ野球組織(NPB)は「より強固な組織」を目指し、10年にはコミッショナーとセ・パの3事務局を統合。大リーグのように日程編成も含めて一元化すべきだが、セ・パ別個の運営は変わっていない。まだ古い体質のままである。

 国難のいまこそ、連帯である。セ・パも労使も超えたプロ野球全体の姿勢が問われている。(編集委員・内田 雅也)
[ 2011年3月20日 07:47 ]
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2011/03/20/kiji/K20110320000462490.html

 16日には、ナベツネこと巨人の渡辺恒雄球団会長(読売新聞グループ本社会長)は「開幕を延期するとか、俗説」だと吠えています。

東日本大震災プロ野球 巨人・渡辺会長、予定通り開幕に意欲

 財界人による巨人の応援団体「燦燦(さんさん)会」の激励会が16日、東京都内のホテルで開かれた。

 あいさつした巨人の渡辺恒雄球団会長(読売新聞グループ本社会長)は、「開幕を延期するとか、プロ野球をしばらくやめるとか俗説があったが、戦争に負けた後、3カ月で選手や監督から試合をやりたいという声があがって、プロ野球を始めた歴史がある」と過去の例を挙げ、予定通り25日に開幕することに強い意欲を示した。

 また、「明るい活力を大衆に示すことができるのはプロ野球選手。選手が命がけでいいプレーをすれば元気が出るし、生産性も上がる」と持論を展開した。【立松敏幸】

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110317ddm035050125000c.html

 うむ、終戦直後の話まで持ち出していますが世論を顧みない渡辺恒雄球団会長なのであります、アクの強さだけは大正力から譲り受けたのでしょうか、自他ともに認める「球界の盟主」お得意の強引な論法であります。

 セリーグのいや読売の頑なな態度に政府は再度苦言を呈します。

セ・リーグのナイター「4月5日以降も自粛を」 文科相

2011年3月22日11時0分

 プロ野球セ・リーグが4月5日からナイターを開催する方針を示したことをめぐり、高木義明文部科学相は22日午前の閣議後の記者会見で、東京電力東北電力の管内では4月5日以降も当面自粛すべきだとの考えを改めて示した。東日本大震災原発事故で計画停電が実施されていることを踏まえた。

 高木文科相は会見で、4月5日以降の東電、東北電管内でのナイター開催について、「プロ野球界が決めることだが」としつつ、「突発的な大停電で国民生活、経済活動が思わぬ事態にならないためにも計画停電はやむをえない。できればしばらくはそう(自粛)した方がいい」と述べた。高木氏によると、蓮舫・節電啓発担当相からも21日、文科省に対してナイター開催の自粛要請があったという。

http://www.asahi.com/politics/update/0322/TKY201103220109.html

 読売新聞以外のメディアもこの読売が主導するセリーグの頑固さには呆れており、産経新聞は社説に取り上げて批判しています。

プロ野球開幕 理解されぬナイター強行
http://sankei.jp.msn.com/sports/news/110321/bbl11032103270000-n1.htm

 産経新聞社説の結びから。

 だが、今後の被災地の復興とともに電力供給がますます逼迫(ひっぱく)するのは確実だ。大電力を消費する東電管内でのナイター興行は、明らかに復興の妨げとなる。

 労組プロ野球選手会は被災地を思いやり、一貫して開幕の延期を求めてきた。選手が自粛を申し合わせていることも、尊重すべきだろう。

 「大電力を消費する東電管内でのナイター興行は、明らかに復興の妨げとなる」と批判しています。

 ナベツネオーナーとは真逆に読売新聞は本件に関してほとんど報じません、沈黙を守っています。

 関連する記事といえば19日付けのこの報道ぐらい。

東京ドームの巨人戦は4割節電、照明最小限に

 セ・リーグが大規模な節電策を講じることを受け、巨人と東京ドームは19日、当面の節電策を以下のように決めた。

 主な節電策は〈1〉グラウンドやスタンドの照明を試合及び観戦に支障のないレベルまで落とす〈2〉ドーム内の冷暖房は当面使用しない〈3〉ドームの外灯を消す〈4〉コンコースや外周通路の照明を観客の安全確保が出来る最小限まで下げる〈5〉場内ショップの照明を最小限とする〈6〉大型スクリーン使用を可能な限り控える――など。

 東京ドームでは現在、巨人のナイター開催の際は練習が始まる午後1時ごろから試合終了の午後10時ごろまでの間に約4万キロ・ワット時の電力を使用している。グラウンドやスタンドの照明など、検証が必要なものもあるが、これらの節電策により、約40%減の2万3000〜2万4000キロ・ワット時まで減らせる見通しという。

 巨人と東京ドームでは、さらに削減が可能かどうか検討する。

(2011年3月19日22時24分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/sports/npb/news/20110319-OYT1T00783.htm

 「東京ドームの巨人戦は4割節電」しますよとのこと。

 ふう。

 どうやら読売グループには問題の本質が見えていないようです。

 ・・・

 「読売中興の祖」大正力がCIAの指示のもと育てたこの国の原子力発電が大震災で事故を起こし電力不足に陥ったまさに非常時に、やはり大正力が育てた日本プロ野球の盟主読売巨人軍が「計画停電」の中で東京ドームの「ナイター」に執着、世論から乖離してワガママを言っているわけです。

 実に見苦しいことです。

 正力松太郎は草葉の陰でこの「読売グループの醜態」をどう見ているのでしょう。 



(木走まさみず)