世界で一番「犯罪的」な日本の社会保障制度〜貧しい若者が金持ちの老人に搾取される不条理
日本の世代間格差はもはや世代間搾取と呼ぶにふさわしい「犯罪的」領域にあり、世界的に見ても日本ほど「老人」が優遇され若者が搾取され続けている国は類を見ません(後ほど具体的数値でしっかり検証します)。
野田政権は、国家公務員給与削減、国会議員定数削減、社会保障制度の見直しを口にしていますが、所得の少ない若年層や将来世代に負荷が大きい消費税増税に着手することが先決事項と覚悟を決めている節がありますが、これは本末転倒でしょう。
毎年1兆円づつ増加している日本のいびつで破綻している社会保障費に大きなメスを入れること無しに、消費税を10%上げたくらいでは財政バランスを保つことなどできません。
世代間搾取がいかに「犯罪的」か、下の表と図を見ていただければこの国の治世者の誰も言い訳はできないはずです。
■表1:世代別の受益・負担と所得(単位:千円)
2005年現在の年齢 | 生涯純負担 | 生涯所得 | 生涯純負担率 |
---|---|---|---|
将来世代 | 107947 | 210089 | 51.4 |
0 | 35108 | 210486 | 16.7 |
5 | 31969 | 212934 | 15.0 |
10 | 28976 | 216325 | 13.4 |
15 | 26018 | 220416 | 11.8 |
20 | 22290 | 225061 | 9.9 |
25 | 19347 | 231152 | 8.4 |
30 | 18623 | 239844 | 7.8 |
35 | 20124 | 251732 | 8.0 |
40 | 21230 | 265738 | 8.0 |
45 | 22827 | 283617 | 8.0 |
50 | 24326 | 304957 | 8.0 |
55 | 26501 | 322570 | 8.2 |
60 | 24596 | 328876 | 7.5 |
65 | 16938 | 341915 | 5.0 |
70 | 11708 | 340742 | 3.4 |
75 | 5650 | 339058 | 1.7 |
80 | -4977 | 326833 | -1.5 |
85 | -13770 | 304368 | -4.5 |
90 | -19889 | 284805 | -7.0 |
(データ出典)
世代別の受益と負担〜社会保障制度を反映した世代会計モデルによる分析〜
【本文】
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis220/e_dis217a.pdf
【図表】
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis220/e_dis217b.pdf
この試算は内閣府経済社会総合研究所の研究員論文として2年前に公表されたもので「世代会計」という手法に基いています。
世代会計とは、ある年を基準に、世代別にその人の生涯において政府に払うお金(税金、年金、社会保険等)と政府から貰うお金(年金・医療等)を計算して、世代別にそのプラマイ損得を明らかにするものであります。
負担から受益を引いたものを生涯純負担額(世代勘定)といいますが、当然ながら理想は各世代の生涯純負担がフラットであり負荷が平等であることです。
上の図表では、2005年を基準に、各世代の生涯純負担額、生涯所得、生涯純負担率(生涯所得に占める生涯純負担額の割合)を示しているのですが、注目いただきたいのは生涯純負担率です。
80歳以上の生涯純負担率がマイナス(政府への支出より政府からの支給のほうが金額が多い)なのが、世代が若くなるに連れその負担率は高まり、0歳児では16.7%という負担になっています。
この表の悲しい側面を指摘しますと、生涯所得なのですが65歳の3億4191万をピークに若年層にいくほど下がり、0歳では2億1048万とピークから40%以上収入が落ちているのに、負担だけが重くのしかかっているのです。
世代会計はこのように世代別に生涯純負担率を計算して比較するわけですが、全世代ですべての負担を分担しているわけではありません。
どの世代も負担していない、つまりまだ生まれていない将来の世代に押し付けている(先延ばしにしている)負担があります。
図表の先頭の「将来世代」が2005年当時まだ生まれていない将来の世代のことになります。
その生涯純負担率は実に51.4%です、所得の半分以上が国に取られてしまうということです。
この世代間格差を搾取と呼ばず何と表現すればいいでしょう。
「世代会計」概念の確立者であるKotlikoff (1993)は、世代政策原則(Generational Policy)と理想を唱えています。
政府は、将来世代も含めてすべての世代の生涯純負担率がフラットになるよう、負荷が平等になるように目指すべきである。
日本の世代間格差はいかに異様で犯罪的か、ここに国際比較できる表があります。
■表2:世代間不均衡の国際比較(1995年世代会計)
国名 | 世代間不均衡(%) | |
---|---|---|
日本 | 521.9 | |
イタリア | 131.8 | |
ドイツ | 92.0 | |
ブラジル | 88.8 | |
オランダ | 76.0 | |
ノルウェー | 63.2 | |
ポルトガル | 59.7 | |
アルゼンチン | 58.6 | |
ベルギー | 58.0 | |
アメリカ | 51.1 | |
フランス | 47.1 | |
カナダ | 0.0 | |
オーストラリア | 32.2 | |
デンマーク | 46.9 | |
ニュージーランド | -3.4 | |
スウェーデン | -22.2 | |
タイ | -88.0 |
(出典) Auerbach, Kotlikoff and Leibfritz Generational accounting around the world 1999 The University of Chicago Press
http://homepage3.nifty.com/~~shimasawa/generationalaccounting.htm
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若年世代、将来世代の生涯純負担率を抑制するには、方法は限られています。
ひとつはその世代の生涯所得が増加する方策を政府が取ることです。
しかし図表を見ても明らかなように生涯所得は減り続けています。
ならば、現役世代の負担を各世代の生涯純負担率がフラットになるように世代別で調整するしかありません。
負担率の低いあるいはもらい過ぎている世代は、社会保障費の支出に大ナタを振るい大幅に減額すべきです。
いまの犯罪的な社会保障費支出にいっさい手を入れず、所得の低い若年層に負荷が大きくなる消費税増税を行うならば、現段階でも「犯罪的」領域の世代間格差がさらに広がることになるでしょう。
日本の社会保障制度は世界で一番「犯罪的」であります。
いつまでも貧しい若者が金持ちの老人に搾取される不条理を認めていてはいけません。
野田首相は消費税増税の前に社会保障制度の世代政策原則(Generational Policy)、すなわち世代間の平等を今すぐに目指すべきです。
(木走まさみず)