最悪国アメリカの後を追うのか日本の子供貧困率〜ユニセフ子ども貧困率最新レポート徹底検証
10日付け朝日新聞記事から。
子どもの貧困率、日本ワースト9位 先進35カ国中で
日本の子ども(18歳未満)の貧困率は14.9%で、先進35カ国のうち悪い方から9番目の27位――。国連児童基金(ユニセフ)がこんな報告書をまとめた。今年発表の国際比較でも悪化傾向に歯止めがかからず、深刻な状況が改めて示された。
日本のデータは、2009年の所得を基にしている。これまでユニセフが同様の分析をした報告書によると、日本の子どもの貧困率は00年12.2%、05年と07年がいずれも14.3%。今回は15%に迫り、年を追うごとに上昇している。順位も23カ国中12位(00年)、26カ国中17位(05年)、24カ国中16位(07年)と、低迷が続いている。
今回、子どもの貧困率が最も高かったのはルーマニア(25.5%)で、米国(23.1%)が続く。金融不安に揺れるギリシャ(16.0%)はワースト6位、イタリア(15.9%)は同7位で、15.4%のリトアニアをはさんで日本が続く。貧困率が低いのはアイスランド(4.7%)、フィンランド(5.3%)など北欧諸国が目立つ。
http://www.asahi.com/national/update/0609/TKY201206090128.html
記事によれば、日本の子ども(18歳未満)の貧困率は14.9%で、先進35カ国のうちワースト9位であり、年を追うごとに上昇、順位も23カ国中12位(00年)、26カ国中17位(05年)、24カ国中16位(07年)、35カ国中27位(今回)と下げております。
ユニセフのサイトで今回のレポートが公開されています。
New league tables of child poverty
in the world’s rich countries
http://www.unicef-irc.org/publications/pdf/rc10_eng.pdf
40ページの小レポートですが、朝日が記事を起こしたのは3ページ目に掲載されている図1b(Figure 1b: A league table of relative child poverty| 35 economically advanced countries)ですね。
レポートではこの図をこう説明しています。
Figure 1b shows the percentage of children (aged 0 to 17) who are living in relative poverty| defined as living in a household in which disposable income| when adjusted for family size and composition| is less than 50% of the national median income.
つまりここで扱う「子供の貧困率」とは相対貧困率のことで、可処分所得が全世帯平均収入の50%未満である世帯に暮らしている子ども(0歳〜17歳)の割合を示しています。
ワースト2位のアメリカ、同6位のギリシャ、同9位の日本に注目しつつ、数値から図表をおこしておきます。
■表1:子供の貧困率(Child poverty rate)
(% of children living in households with equivalent income lower than 50% of national median)
国名 | 子供貧困率(%) |
---|---|
Romania | 25.5 |
USA | 23.1 |
Latvia | 18.8 |
Bulgaria | 17.8 |
Spain | 17.1 |
Greece | 16.0 |
Italy | 15.9 |
Lithuania | 15.4 |
Japan | 14.9 |
Portugal | 14.7 |
Poland | 14.5 |
Canada | 13.3 |
Luxembourg | 12.3 |
United Kingdom | 12.1 |
Estonia | 11.9 |
New Zealand | 11.7 |
Slovakia | 11.2 |
Australia | 10.9 |
Hungary | 10.3 |
Belgium | 10.2 |
Malta | 8.9 |
France | 8.8 |
Germany | 8.5 |
Ireland | 8.4 |
Switzerland | 8.1 |
Czech Republic | 7.4 |
Austria | 7.3 |
Sweden | 7.3 |
Denmark | 6.5 |
Slovenia | 6.3 |
Norway | 6.1 |
Netherlands | 6.1 |
Cyprus | 6.1 |
Finland | 5.3 |
Iceland | 4.7 |
■図1:子供の貧困率(Child poverty rate)
さて、このレポートをよく読むとたいへん興味深い分析がなされています。
12ページの図5(Fig. 5 Child poverty rates by different relative poverty lines)では、所得平均50%未満の子供の割合とともに、各国の40%未満という極貧層の割合を示しています。
■表2:子供の貧困率(Child poverty rate)その2
国名 | 子供貧困率(50%未満) | 子供貧困率(40%未満) |
---|---|---|
Romania | 25.5 | 17.8 |
USA | 23.1 | 16.6 |
Latvia | 18.8 | 12.8 |
Bulgaria | 17.8 | 12.2 |
Spain | 17.1 | 11.5 |
Italy | 15.9 | 9.7 |
Japan | 14.9 | 9.6 |
Portugal | 14.7 | 9.6 |
Lithuania | 15.4 | 8.8 |
Greece | 16.0 | 8.1 |
Poland | 14.5 | 7.5 |
Canada | 13.3 | 7.3 |
Slovakia | 11.2 | 6.6 |
Estonia | 11.9 | 6.1 |
United Kingdom | 12.1 | 5.6 |
Germany | 8.5 | 4.6 |
Australia | 10.9 | 4.3 |
Luxembourg | 12.3 | 4.2 |
Belgium | 10.2 | 4.1 |
Czech Republic | 7.4 | 3.8 |
France | 8.8 | 3.7 |
Sweden | 7.3 | 3.7 |
Denmark | 6.5 | 3.6 |
Ireland | 8.4 | 3.5 |
Austria | 7.3 | 3.2 |
Switzerland | 8.1 | 3.2 |
Norway | 6.1 | 3.1 |
Hungary | 10.3 | 3.0 |
Malta | 8.9 | 2.9 |
Slovenia | 6.3 | 2.9 |
Netherlands | 6.1 | 2.9 |
Iceland | 4.7 | 1.9 |
Cyprus | 6.1 | 1.8 |
Finland | 5.3 | 1.5 |
New Zealand | 11.7 | 0.0 |
■図2:子供の貧困率(Child poverty rate)その2
50%未満の貧困率では、ワースト2位のアメリカ、同6位のギリシャ、同9位の日本でしたが、この40%未満の極めて貧しい層の割合では、2位のアメリカは変わりませんが、7位日本10位ギリシャとギリシャと日本の順位が逆転しています。
これは50%未満の貧困層の中で、さらに40%未満の極めて貧困である層の割合がギリシャよりも日本のほうが高いことを示しています。
ここであらためて図2に注目すると、ワースト上位国には貧困層の極貧化が進んでいるように見受けられます。
そこで子供貧困率(50%未満)の中で子供貧困率(40%未満)が占める割合を子供極貧率と仮称して計算してみましたところ、興味深い順位が得られました。
■表3:子供の貧困率(Child poverty rate)その3
国名 | 子供貧困率(50%未満) | 子供貧困率(40%未満) | 子供貧困率(40%〜50%未満) | 子供極貧率 |
---|---|---|---|---|
USA | 23.1 | 16.6 | 6.5 | 71.9 |
Romania | 25.5 | 17.8 | 7.7 | 69.8 |
Bulgaria | 17.8 | 12.2 | 5.6 | 68.5 |
Latvia | 18.8 | 12.8 | 6 | 68.1 |
Spain | 17.1 | 11.5 | 5.6 | 67.3 |
Portugal | 14.7 | 9.6 | 5.1 | 65.3 |
Japan | 14.9 | 9.6 | 5.3 | 64.4 |
Italy | 15.9 | 9.7 | 6.2 | 61.0 |
Slovakia | 11.2 | 6.6 | 4.6 | 58.9 |
Lithuania | 15.4 | 8.8 | 6.6 | 57.1 |
Denmark | 6.5 | 3.6 | 2.9 | 55.4 |
Canada | 13.3 | 7.3 | 6 | 54.9 |
Germany | 8.5 | 4.6 | 3.9 | 54.1 |
Poland | 14.5 | 7.5 | 7 | 51.7 |
Czech Republic | 7.4 | 3.8 | 3.6 | 51.4 |
Estonia | 11.9 | 6.1 | 5.8 | 51.3 |
Norway | 6.1 | 3.1 | 3 | 50.8 |
Sweden | 7.3 | 3.7 | 3.6 | 50.7 |
Greece | 16.0 | 8.1 | 7.9 | 50.6 |
Netherlands | 6.1 | 2.9 | 3.2 | 47.5 |
United Kingdom | 12.1 | 5.6 | 6.5 | 46.3 |
Slovenia | 6.3 | 2.9 | 3.4 | 46.0 |
Austria | 7.3 | 3.2 | 4.1 | 43.8 |
France | 8.8 | 3.7 | 5.1 | 42.0 |
Ireland | 8.4 | 3.5 | 4.9 | 41.7 |
Iceland | 4.7 | 1.9 | 2.8 | 40.4 |
Belgium | 10.2 | 4.1 | 6.1 | 40.2 |
Switzerland | 8.1 | 3.2 | 4.9 | 39.5 |
Australia | 10.9 | 4.3 | 6.6 | 39.4 |
Luxembourg | 12.3 | 4.2 | 8.1 | 34.1 |
Malta | 8.9 | 2.9 | 6 | 32.6 |
Cyprus | 6.1 | 1.8 | 4.3 | 29.5 |
Hungary | 10.3 | 3 | 7.3 | 29.1 |
Finland | 5.3 | 1.5 | 3.8 | 28.3 |
New Zealand | 11.7 | 0 | 11.7 | 0.0 |
■図3:子供の貧困率(Child poverty rate)その3
アメリカがワースト1位、日本は7位、ギリシャは19位となります。
アメリカは貧困世帯の実に71.9%が平均世帯収入の40%未満の収入しかない極めて貧しい層を構成しており、経済破綻が言われているギリシャではその割合が50.6%にとどまっており、日本は64.4%とアメリカに近い深刻な数字になっています。
・・・
まとめです。
このユニセフのレポートが示す統計数値で検証する限り、日本の子供の相対貧困率は年々悪化しており、経済破綻国のギリシャより、極貧層が増えている点でその内容は悪化しており、数字の上では最悪国のアメリカに近づいてきていることが理解できます。
みなさんは、アメリカにおける社会的流動性の低下を「グレート・ギャツビー・カーブ」と呼ばれていることをごぞんじでしょうか。
2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンが今年の1月15日付けでニューヨークタイムズ紙(NYT)に興味深いコラムを載せています。
記事の図を紹介。
The Great Gatsby Curve
http://krugman.blogs.nytimes.com/2012/01/15/the-great-gatsby-curve/?smid=tw-NytimesKrugman&seid=auto
このグラフの横軸はジニ係数、社会における所得分配の不平等さを測る指標であり「不平等の尺度」で0から1の間の小数値になり、0ならば完全な所得平等を示し1に近づくほど格差が顕在している社会で、社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4であると言われています。
図で見る限りアメリカは近年急速に0.4に近づいていることが理解できます。
一方、縦軸には所得の世代間の弾力性の指標が使われています、これは父親の収入が1%上昇するとその子供の予想される収入にどの程度影響するかを示す指標で、この数値が高いほど格差が次世代に渡り固定化している、すなわち社会的流動性が低くなっていることを示します。
この縦軸においてもアメリカは近年急速に社会的流動性(social mobility)が失われつつあることが示されています。
近年、アメリカは急速に所得格差が拡大され、なおかつそれが固定化されつつあることをこの図は示しており、アラン・クルーガー大統領経済諮問委員会議長は、図中の赤いカーブで示されたこのアメリカにおける社会的流動性の低下を「グレート・ギャツビー・カーブ」と名付けています。
図で見るとアメリカのほかにもともと階級社会である英国も社会的流動性が低いことがわかりますが、近年日本も横軸のジニ係数においては英仏並にじりじりと係数を上げており、0.3を超えていることが見て取れます。
アメリカ合衆国では「アメリカの夢(アメリカン・ドリーム)」がまさに夢物語として過去のものになりつつあるということです。
低所得の家庭に生まれた子供が最も裕福なアメリカ人になる機会は100に1つしかありません。
反対に、豊かなアメリカ人の「後継者」の22%は豊かなままに留まることが可能です。
一方、中流階級の子供たちは、両親の生活水準よりも下の水準になる方が(39.5%)、収入段階が上昇する(36.5%)場合よりも多いということです。
・・・
今アメリカでは日本以上に中流家庭の崩壊が進んでおり、まさに「1%の勝者と99%の敗者」という構図に近づいているということでしょう。
アメリカにおいて格差の固定化が進行している原因のひとつは、市場原理主義の経済思想に基づき、低福祉、低負担、自己責任を基本として小さな政府を推進してきた「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策にあると指摘されています。
富裕層や大企業に対する行き過ぎた減税も、税と社会保障による富の再配分効果を決定的に弱めてしまい、また世界的規模のグローバル競争は企業に労働者の所得を押さえ込む「正当な理由」を提供してきました。
日本がアメリカの轍を踏まないためには、日本政府は国家の意思として二つの政策を断固打ち立てなければなりません。
ひとつは税と社会保障による富の再配分の確立と、もうひとつは幼年期少年期の教育・福祉等の徹底的な機会平等の実践です。
歴史を紐解けば、生まれながらに将来の可能性が固定される「不平等」な階級固定社会は、必ず衰退をしています。
社会全体を向上させるような活力が生まれないからです。
今アメリカの経済構造は瀕死の状態だといえます。
アメリカが主導してきた「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策はその限界性を明確に露呈し始めています。
格差を生みそれを固定化する「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策から決別すべきです。
日本は「グレート・ギャツビー・カーブ」に追従してはなりません。
アメリカの後を追うことは地獄への道です。
(木走まさみず)